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真剣に考えた!日本全国安心して幸せに暮らせる町はどこ?
2012.01.30
現代ビジネス http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31623
この1年で住みたい町の基準が変わった人が多いはずだ。これまで想定していなかった「原発からの距離」「大地震の可能性」が、選定の際の大きな要素に浮上した。「安心」「安全」が何より優先される。
■原発リスクが低い町
「私の老後は原発によって破壊されました。今後、自分が『安心して幸せに暮らせる町』を探すにしても、原発リスクを考えなければ、『砂上の楼閣』となってしまうかもしれません」そう語るのはTBSの元社員で、日本人初の宇宙飛行士となった秋山豊寛氏(69歳)だ。
同局を'95年に早期退職した秋山氏は、福島県田村市に移住。無農薬農業に従事する第二の人生を送っていた。だが、福島第一原発の事故により、県外への避難を余儀なくされた。心ならずも「終の棲家」を追われたショックと怒りは、今も消えることはない。
「まるで、強盗にあって身ぐるみはがれたような気持ちです。国内に54基もの原発を抱えている日本のような国は世界でもまれでしょう。そう考えると、本当の意味で持続可能な幸福を保証する場所は、日本にはないのかもしれません」
秋山氏は今年4月から京都造形芸術大学教授に着任予定で、新たな生活基盤を手に入れることができたが、不安は尽きない。
「京都は、若狭湾にある原発から60~70kmしか離れておらず、ちょうど福島原発から郡山市や福島市までと同じ距離感覚です。私は、原発を拒否する住民が多いところが一番いい場所だと考えていますので、若狭湾の原発全廃のために市民が立ち上がれば、京都も幸せな町になるでしょう」
原発事故を機に、安心して幸せに暮らせる場所について真剣に考えるようになった人も多いのではないか。
「政府や東電の無反省ぶりを見る限り、原発は今後も危険。私なら、たとえ原発事故が起きても安全な場所に住みたい」というのは元内閣府原子力委員会の専門委員で、中部大学教授の武田邦彦氏(68歳)。
原発事故発生以来、原発批判を続けている武田氏は、住みたい場所を選ぶ際の注意点をこう述べる。
「事故に備えて原発からの距離を心配する方がいるかもしれません。しかし重視すべきは、距離ではなく、地形や山の高低、風向きなのです。私が住みたいと思っている富山市は、60km離れたところに志賀原発がありますが、事故が起きても放射性物質は風の影響で日本海を通過して新潟方面に抜けるので、大きな問題には発展しない可能性が高い。
周囲を山が囲む長野県松本市も、隣接県の新潟や静岡にある原発で事故が起きても、比較的安全です。これに対し、たとえば福井県内には14基の原発がありますが、2月や9月に事故が発生すれば、風によって放射性物質は100km以上離れた名古屋市まで飛散する可能性が高いのです」10月ならさらに遠くまで放射性物質の被害は及び、京都市、大阪市を通過して和歌山市まで広がっても不思議ではないという。
『原発列島を行く』の著者でノンフィクション作家の鎌田慧氏(73歳)は、瀬戸内地方に魅力を感じると話す。
「核を拒否する姿勢をはっきりとさせ、なおかつ温暖な気候の町、という条件を満たしている岡山県の倉敷市や瀬戸内市といった瀬戸内海沿岸に、私は住みたい。岡山県には人形峠というウラン鉱床があり、政府はここを核処理施設にすべく、県の自治体に計画実行を迫ってきた。
しかし、それを拒否する市民運動が盛んで、岡山県下の首長たちも、市民と連携してずっと受け入れを拒否し続けています。倉敷市などは、まさに僕の条件にピッタリな町です」
一方、地震リスクを踏まえて探しても、「日本に安心して住める場所はない」というのは、日本地震学会会長で京都大学大学院教授の平原和朗氏(59歳)である。
「私が今住んでいる京都府宇治市にも、活断層はあります。『地震の専門家がなぜそんなところに住んでいるのか』と問われるとつらいのですが、それぐらい、日本には地震リスクが少ないところはないのです。
ただ、強いて言うなら、私の故郷・広島県呉市は地震環境的には良さそうです。ここは安芸灘を震源地とする震度5未満の地震が60~100年周期で起きるのですが、直近の地震が'01年だったので、当分起きない可能性が高い。もっとも、安全なのは私の世代までの話ですが」
■岡山市はどうか
もちろん、あなたが日常生活で何を重要視するかによって、理想的な住まいとなる場所は異なってくる。『日本でいちばん幸せな県民』に掲載されている県民幸福度ランキングでは、福井、富山、石川の北陸3県がトップ3を独占している。
しかし、「先日届いた手紙には『私は1位の福井市に住んでいますが、ここほど住みにくいところはない』と書いてありました。いくら幸福度1位の福井でも、男女や世代によって感じる幸せは違う」(著者の法政大学教授の坂本光司氏)のだ。
映画監督の大森一樹氏(59歳)は、「地域ブランド調査」(ブランド総合研究所)で例年トップ争いを演じている北海道函館市やベスト10以内常連の石川県金沢市ではなく、岡山市を挙げた。
「映画のロケで日本全国を訪れています。『テイク・イット・イージー』を撮影した函館市は情緒たっぷりでいい町でしたが、実は私は寒いところが苦手なんです。『恋する女たち』のロケをした金沢市も雪に埋もれていて寒さが身にしみました。昨年公開の『津軽百年食堂』を撮った青森県津軽市は、撮影期間がちょうど桜の季節にあたり、非常にきれいでしたが、長い冬のことを考えると尻込みしてしまいます。
一方、気候が温暖だと、ゆったり時間が流れ、人の性格もギスギスしていないように感じる。ただ、鹿児島県でもロケをしたことがあるのですが、桜島の灰が絶えず降ってくるし、沖縄県のような年中、暑い場所だと季節の移り変わりがあまり感じられず、物足りなさが残る。となると、岡山市のように温暖で四季がはっきりとしていて、ゆったりと時間が流れている感じのするところが、何とも言えず心地いいんです」
10月ならさらに遠くまで放射性物質の被害は及び、京都市、大阪市を通過して和歌山市まで広がっても不思議ではないという。
「原発事故で、多くの人たちが住み慣れた場所から強制的に退去させられ、仕事や仲間を奪われました。その一方で、ごく少数ですが、断固として退去命令に従わず、以前と同じように汚染地域に住み続けていた人たちがいたのです。サマショーロ(わがままな人)、と言われていましたが、その後の調査で思いがけないことが判明しました。
放射能の少ない都市に退去した人が案外早死にし、住み慣れた汚染地帯に居続けた人の方が長生きしているという例がいくつも見つかったのです」
鎌田氏は、退去した人たちの中に早死にする人が多かったのは、慣れぬ場所での暮らしになじめず、孤独な生活に強いストレスを受けていたためではないかと推測する。
「私は、人間の健康は仕事や収入、生活と密接に関係し、家族やパートナーの存在が大事だと思っています。つまり、人と人の絆を感じられる場所が、もっとも幸せに暮らせる場所なのでしょう」。そう語る鎌田氏が挙げた理想の町は、長野県茅野市だった。
「私は東京生まれですが、茅野市で地域医療を始めてから37年になり、子供たちもここで育っています。地元の人たちとの絆も生まれ、自然が豊かな割にはインフラも整っていて、ほどほどの文化生活もできる。今の私にとって、幸せになれる町は茅野市しか考えられません」
■鶴岡、熊本、札幌、長崎
もっとも、ベストセラー『女性の品格』の著者で昭和女子大学学長の坂東眞理子氏(65歳)は、幸せを第一に考えるなら、必ずしも故郷や住み慣れた町にこだわる必要はないと話す。「人は、豊かな自然と温かい人情に触れて『幸せ』を感じるものなんです。
つまり、幸福度を感じる一番の要素は人と人とのつながりにある。人々が孤立する無縁社会ではなく、人々が志やお互いを支え合う『しえん(志縁・支縁)社会』を実現できるような町なら、幸せに暮らすことができるはずなんです」。そんな人と人がつながる温かいコミュニティのある町として、坂東氏が気に入っているのは山形県鶴岡市と熊本市だという。
「鶴岡は作家・藤沢周平さんの出身地で、藤沢作品の舞台としておなじみの海坂藩のモデルであるといわれています。何度か鶴岡を訪れたことがあるのですが、よそから来た私を温かく迎えてくれる、地元の方たちの人柄の良さに打たれました。伝統文化が根付いていて、食用菊のおひたしや草餅がおいしいことも魅力のひとつです」
超整理法シリーズで知られる経済学者で、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏(71歳)は、北海道札幌市と長崎県長崎市という日本列島の両極にあるふたつの都市を挙げた。
「日本の地方都市は、旅行するには非常に魅力的なのですが、外部から移住してくる人間をよそ者扱いする傾向がある。その点、北海道は新しく開拓された土地なので、よそ者という概念が地元の人たちになく住みやすい。特に札幌市は町並みもきれいだし、夏は快適で、物価もさほど高くない。真剣に家探しを考えてもよいくらいです。
一方、数年前、梅の咲く季節に長崎市を訪れて朝方寺町散歩をした際、拝観料を箱に投げ込んだら、その物音に気付いたお寺の方が出てきて、四方山話に花が咲いた、楽しい思い出があります。しかも長崎市は周囲を山に囲まれて外の世界と切り離されているため、江戸時代から背後の日本とは異なる文化を形成してきました。こうした町は他にありません」
日本に住んでいる以上、原発や地震のリスクから完全に逃れることは難しい。だが、あなたにとっての「幸せに暮らせる町」は、どこかに必ずあるはずだ。
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