http://www.asyura2.com/10/idletalk39/msg/434.html
Tweet |
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110624dde012040007000c.html
<この国はどこへ行こうとしているのか>
◇直ちに「脱原発」決断を−−経済学者・中谷巌さん(69)
「旧約聖書の『バベルの塔』をご存じですか?」
そう問われて、どきっとした。
中谷巌さんにとって、東京電力福島第1原子力発電所で発生した事故は、破滅への一里塚を予感させるという。
「人類は『文明の転換期』に入った。私たちは今、そう悟るべきだと思うんです」
東京・品川の高層オフィスビルの11階。「少なくとも『科学に頼れば何事も可能』といった近代西洋社会的な発想とは、決別する時期に来ていますね。東日本大震災は、日本人に、その哲学と思想を覆す覚悟を迫っているのではないでしょうか」
これまで日本は、効率的なエネルギーを求めて原発を積極的に推進してきた。原子力の平和利用こそ、豊かな生活を約束する合理的な選択だと多くの人が信じてきた。しかし今回、放射性物質の放出には歯止めがかからず、クリーンエネルギーどころか地球環境をも脅かし続けている。
「低コストで安心・安全と言いはやされた原発は、本当に素晴らしい未来を人間に約束していたのだろうか。単なる幻想ではなかったのか」
「バベルの塔」は、確か、神を恐れぬ人間が、天を突き上げるような塔を築き、神の怒りに触れる話だ。
「そこにあるのは、『科学の力で自然を征服する』という人類のうぬぼれと、高慢」。小さな声だが、語気は強い。
かつては、規制緩和や市場開放の熱心な旗振り役を務めていた。小渕恵三内閣の「経済戦略会議」議長代理として1999年に出した提言は、後に小泉純一郎政権の構造改革の一環となって実現する。米国流の市場原理主義や新自由主義経済を持ち込んだ「張本人」のひとりだった。
だが、リーマン・ショックと相前後して2008年に出版した「資本主義はなぜ自壊したのか」では、新自由主義に根本的な過ちがあったのではないか、と厳しく自戒してみせた。「金融規制を解除し、すべてを市場原理に委ねるグローバル金融資本主義が日本にもたらしたのは、社会の階層化と人々の間の信頼関係の崩壊でした」
この変節には、批判と称賛が相半ばした。
「誤りは誤り。それを素直に認めただけですよ……。原発も効率性が良いと宣伝されてはいるが、実は『禁断の果実』ではないか。皆がそうと薄々気づいている。なら廃炉にしたらいい!」。果たして真顔である。「廃炉」。中谷さんは再び言い切った。
原発を停止すれば電気料金が値上がりする、電力不足で工場の海外移転が進む−−財界からは反論が聞こえる。
「確かに自然エネルギーは供給能力が不安定だし、コストもかかると言われています。しかし、即刻は無理でも、30年以内には全廃する。政府は直ちに決断し、宣言すべき時。唯一の被爆国、日本には、脱原発を世界に浸透させる義務がある。理想論だと笑う人もいるだろうが、別に私は、空論を述べているわけじゃない。マスキー法の実績があるんです」
マスキー法−−。1970年に米国で制定された自動車排出ガス規制法。75年までに一酸化炭素と炭化水素の排出量を10分の1以下にすることを義務づけた。当時の自動車業界では実現不可能とみられていた厳しい規制だ。
しかし、これを機に日本の各メーカーは排ガスのクリーン化、低燃費に取り組み、世界トップの自動車産業の礎を築いていった。「規制の『撤廃』が企業を活性化したのではなく、規制『導入』こそ驚くべき技術革新を生み、企業競争力を高めたんです」。さらに中谷さんは戦後23年で世界第2位の経済大国に躍進した経緯を示し、日本企業は「進むべき方向」さえ定められれば、そこに向かって集中できると強調する。
「最初からあきらめることこそ愚か。だから今、あえて決断する、そうすれば日本はやがて自然エネルギー大国になる」
そもそも年々生活水準が向上するとの「進歩史観」が脱原発の障害だと話す。原発が止まれば、今の暮らしが崩れていくといった強迫観念。だが日本は物質的には十分、豊かになった。量的には拡大しないが、毎日の生活に豊かさを実感できる姿を目指すべきだと。
「グローバリズムに完全に目をそむけて日本が生きることはあり得ません。グローバル競争の現場で闘う優秀でしたたかな人材は、全人口の1割でいい。彼らに稼いでもらって、残りの9割は富を分配してもらい、日本型共同体社会の再構築にいそしむ。この二重構造が重要なんです」
グローバル資本主義は確かに世界経済を活性化させてきた。だがリーマン・ショックのようなバブル崩壊が不可避となり、そのつど市場は制御不能となって世界を不幸に陥れてしまう。中谷さんには、これが福島原発の姿と重なり合うという。
10年ほど前から、40代ビジネスマンを集め、歴史、哲学、宗教、日本文化などの専門家の講義を聞く「不識庵」を開校している。
「江戸期の絵師はあんどんの明かりで絵を描いていたんです。だからほのかな光の下で見ると立体的で、ものすごい迫力がある。そういう文明が存在していたんです」
ところがペリー来航以来、日本は西洋的な文明に執着する。「圧倒的な軍事力を見せ付けられ、嫌々組み込まれていった」。260年の平和な江戸期にはぐくまれた独自の文化や伝統は、黒船の前にひれ伏すしかなかったのだ。「しかし、近代西洋思想の根本は、前にも述べましたが自然の征服なんです。彼らもかつては自然へのおそれを抱いていましたが、『近代哲学の祖』とされるデカルトやベーコンが自然征服論を唱える。自然を単なる物質とみなし、収奪すべきだという哲学です」
そこに産業革命が重なった。中谷さんの目には、日本が西洋にならって自然を見下し続けてきた結果が「想定外」の原発事故に映る。
「明治維新から150年。進歩史観も科学絶対主義も、すでに飽和点に達しているんじゃないかと思うんですよ。こうこうたる電気の光で埋め尽くされ、それが豊かさだといった錯覚。文明の転換点だと私は改めて言いたい。日本人は、自然をおそれ、慈しむ古来の穏やかな自然観に立ち返るべきだと思うんです」>>
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。