9. 2015年10月11日 00:02:23
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2015年10月09日(金) 竹倉史人 「輪廻転生」と「前世の記憶」 〜日本人の4割が信じる「生まれ変わり」の神秘 【前書き公開】竹倉史人『輪廻転生』〔photo〕iStock 人は死んだらどうなるのか。なぜわれわれは死ななければならないのか。 「輪廻転生」という考え方は古来、世界各地にあった。現在でも、4割以上の日本人が「生まれ変わりはある」と考えている。海外には「前世の記憶」を検証する大学の研究所もあるし、「前世の記憶」を語る事例も後を絶たない……。 人類と「死」の関係という大テーマに挑んだ話題の新刊『輪廻転生』より、前書きを特別公開します! はじめに 日本人の42.6%が「輪廻転生」を信じている 輪廻転生──死んでまた新たな肉体に生まれ変わる──という観念の起源は古く、少なく見積もっても2500年はさかのぼることができます。古代より一度も途切れることなく、再生の観念はつねに人類とともにありました。 しかし何より興味深いことは、この生まれ変わりの物語が現代社会においてもなお、広く世界中の国々で支持され、信奉されているという事実です。それは生まれ変わりの教義をもつ仏教やヒンドゥー教の国々に限った話ではありません。 たとえば2005年から2013年にかけて米国のハリス社が行った世論調査によると、「神」「奇跡」「天国」といった宗教的観念への信仰率が軒並み減少しているなかで、アメリカ人の「輪廻転生」への信仰率はむしろ増加しています。 あるいは後に見るように、国際社会調査プログラム(ISSP)の2008年のデータによれば、イスラエル在住のユダヤ人のじつに53・8%が「輪廻転生はあると思う」と回答しています(ちなみに日本は42・6%でした)。 一部の人びとにとっては荒唐無稽なファンタジーにしか感じられない輪廻転生という考えが、なぜ現代においてもこれほどまでの支持を得ているのか。私はこの謎を解明すべく、大学院で生まれ変わりをテーマに据えた修士論文を執筆することにしました。 ところが研究を開始して早々、私は壁に突き当たることになります。というのも、個別的な思想や信仰を専門的に扱った論文は存在しているものの、生まれ変わりそのものを考察の対象とするような先行研究がほとんど存在していなかったからです。 そもそも輪廻転生とは何なのか、という根本的な疑問に答えてくれる論考は見つかりませんでした。 「輪廻転生」という言葉の用法をまずは整理した 原因はすぐに分かりました。ひとことに「輪廻転生」といっても、時代や地域によってそのヴァリエーションがあまりにも豊富なため、それらを俯瞰して包括的に論じることが非常に困難なのです。 そんなこともあり、これまでの個別研究は縦割りに断片化され、哲学/歴史学/人類学/宗教学/仏教学などがそれぞれ別々に生まれ変わりを扱うという事態になっていました。 そこでこうした状況を打破すべく、まずは錯綜している言葉の用法を整理することにしました。詳しくはプロローグで説明しますが、たとえば学術論文のなかでも恣意的に用いられている「輪廻」と「輪廻転生」という言葉を明確に区別しました。 あるいは、欧米社会から流入した特定の生まれ変わり思想を指す場合には「リインカネーション」という言葉を充て、やはりその他の再生の観念と区別しました。 さらに、生まれ変わりに対して3つの類型──〈再生型〉〈輪廻型〉〈リインカネーション型〉──を設定しました。これにより、日本のように異なる出自の再生観念が混在したり融合しているような場合でも、ある程度それらの因子を全体から分離して把握することができるようになりました。 こうして完成した修士論文をベースに、さらにその後の研究で得られた知見を盛り込み、増補したものが本書となります。また、輪廻転生と密接な関係にある「前世の記憶」というモチーフについても詳しく取り上げることにしました。 一般にはあまり知られていませんが、東西文明の源流に立つブッダとピタゴラスは、ともに「前世の記憶」を持っていたと伝えられています。また、現在アメリカには「前世の記憶」を研究する州立大学の医学部の研究機関も存在しています。 一見すると奇異な印象を与える「前世の記憶」というモチーフが、じつは人類にとってきわめて普遍性の高いものであることを本書で明らかにしていきます。 〈再生型〉、〈輪廻型〉、〈リインカネーション型〉 プロローグでは、2008年にISSPが行った世論調査の結果を参照し、世界中で生まれ変わりが支持されている現状を紹介します。また、生まれ変わり研究において不可欠な、いくつかの方法論的な手続きを行います。 第1章では〈再生型〉について解説します。これは世界中の民俗文化に見られるもので、歴史的にも古層にある再生観念です。それは「宗教信仰」というよりは「生活習俗」に近いもので、多くが祖霊祭祀や呪術の実践とともに保持されています。 第2章は、古代インドにおいて発明された転生思想で、「カルマの法則」とともに語られる〈輪廻型〉について見ていきます。戒律を遵守し、瞑想やヨーガを実践することによって輪廻からの「解脱」が目指されます。本書では宗教哲学書であるウパニシャッドと、仏教の開祖であるブッダの教説を中心に紹介します。 第3章では〈リインカネーション型〉を扱います。「リインカネーション」の思想は19世紀中葉のフランスを席巻した心霊主義の渦中で生み出されました。「霊魂の進歩」が強調され、来世を自分の意志で決定する、という自己決定主義の教説が説かれます。これは「近代版生まれ変わり思想」とも言うべきもので、現代のスピリチュアリティ文化にも深い影響を及ぼしています。 第4章は「前世の記憶」について、米国のヴァージニア大学医学部の付属機関DOPSで行われている研究を中心に考察します。これは子どもたちが語る「前世の記憶」が客観的事実と合致しているかどうかを検証するもので、実際に「偶然の一致」や「潜在記憶」といった概念ではうまく説明できない事例が数多く報告されています。こうした具体的な事例とともに、DOPSが設立されるまでの経緯についても紹介しました。 最終章の第5章では、前章までの議論を踏まえたうえで、日本人と生まれ変わりについて論じます。他国と比べてユニークな点は、日本には先ほど挙げた3類型のすべての因子が見られることです。 逆にいえば、それだけ生まれ変わりをめぐる言説が錯綜しているということですから、類型的なアプローチが最も効力を発揮する事例と言えるでしょう。これまで試みられることのなかった新しい方法で、日本における生まれ変わりの諸相を分析します。 ISSPの調査ではじつに4割以上の日本人が「輪廻転生があると思う」と答えています。とはいえ、これだけ多くの人たちが関心を抱いているわりには、これまで「輪廻転生」の内実はあまりよく知られてきませんでした。本書がひとりでも多くの人たちの興味や疑問に応えるものとなれば幸いです。 竹倉史人『輪廻転生』。目からウロコの知識が盛りだくさん! 竹倉史人(たけくら・ふみと) 1976年、東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科を卒業後、予備校講師などを経て、東京工業大学大学院修士課程に入学。現在、同大学院社会理工学研究科博士課程に在籍中。専門は宗教人類学。日本社会を中心に現代宗教やスピリチュアリティについて考察。とりわけ「輪廻転生」と呼ばれる死生観に注目している。 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45721
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