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日本の国家機密がウィキリークスでどんどん流れているが、情報を隠す権力者と暴く人民の間の戦いだけでなく、中国の超限戦トグーグルの軋轢について、興味深い記事が「ニューリーダー」の二月号に出ていたのを発見したので貼り付ける。
<貼り付け開始>
ウィキリークス事件は
何を示唆するのか
「秘匿と公開」
「知る権利と情報操作」
慧智研究センター所長 藤原肇
初代・日経ワシントン支局長 大原進
新聞記事の劣化とウェブ時代の情報
藤原 大原さんは日本経済新聞の外報部記者や『英文日経』の編集長、初代ワシントン支局長を歴任したアメリカ通です。
大原 実は、ケネディ大統領がダラスで暗殺された事件が起きた時に、朝毎読の三大紙はワシントン支局があって、ワシントン発の特派員記事を掲載できた。だが、当時の日経は貧乏会社でニューヨーク支局しかありませんでした。これでは体裁が悪いという次第で、誰かワシントンに送らなければということになり、当時の円城寺編集局長に飛べと言われて慌てて出発しました。
藤原 ケネディ暗殺事件のニュースの第一報は、日米衛星テレビ放送の初日の出来事でした。人工衛星を使った情報時代の幕開けに、アメリカに飛び立ったのは象徴的ですね。
大原 それにしても、昔の新聞記者は取材や分析に生き甲斐を感じ、死に物狂いで記事にした者が多かった。だが、最近は商社や銀行に行けなかったので、仕方なしに新聞社に入ったという人も多く、電話取材や記者クラブのお下げ渡しの情報ばかりです。
藤原 日本に来ている間は、私は新聞もテレビも見ないようにしています。
大原 実は私も、日本の新聞はせいぜい見出しを見るだけです。コンピュータで世界の新聞が読める時代ですから。
藤原 Google Newsを開けば、全世界の新聞のトップ記事が読める一方で、新聞社の経営は劣化し、アメリカでも『シカゴ・トリビューン』は潰れたし、『ウォールストリート・ジャーナル』も乗っ取り屋のルパート・マードックに買収され、『ニューヨーク・タイムス』も経営不振です。
大原 『NYタイムス』は民主党びいきでリベラルな姿勢が強く、ジャーナリズム精神に溢れていた。ベトナム戦争時代には、ダニエル・エルスバーグが国防省の機密文書を掲載した。同時に『NYタイムス』の特徴はニューヨーク的な多様性です。例えばニクソンのスピーチライターだったウィリアム・サファイアが、親イスラエルのコラムを書くなど、紙面の中に保守的な記事も共存していました。
藤原 ジェームズ・レストンという名物編集長も健筆を振るっていた。
大原 時にはワシントンの極秘情報を公表して、『NYタイムス』にレストンありと世界の読者を捻らせたものです。
藤原 それだけの伝統を持つ『NYタイムス』ですが、今回のウィキリークスの「外交電報流出事件」では、権力側に公開のお伺いを立てたミスを犯した。また、この事件で情報公開の性格がすっかり変わりました。つまりウェブ時代の情報の価値と役割が浮き彫りになった。一生を記者生活で過ごした大原さんにとって、この事件はどう映りましたか。
大原 権力の側は情報を独占して隠すのに対し、反権力の側が公開を暴露の形で行った。今回のウィキリークス事件の衝撃力は、二五万件の外交公電が暴露されたことであり、その量の多さに驚きました。
垣間見る重大情報の片鱗超限戦とコモンウェルス
藤原 二五万件は全体の数で、これまで公開されたのは千数百件に過ぎない。これから順繰りに公開するようですが、重要なのは、ウィキリークス単独の暴露ではなく、『ガーディアン』(英)、『NYタイムス』(米)、『ル・モンド』(仏)、『シュピーゲル」(独)、『エル・パイス』(西)といった世界の一流メディアによる共同発表だったことです。
ただ、情報の質の内訳をグーグルで調べたら、機密扱いされていない文書が一三万件、マル秘文書が約一〇万件、秘密文書が一万五〇〇〇件。トップ・シークレット(機密)となるとゼロです。果たして機密文書漏洩と大騒ぎできるかどうかは疑問です。
大原 マル秘は新聞の切り抜き記事のことで、秘密文書のほとんどは外部に出さない情報を指します。トップ・シークレットがないというのは面白いが、メディアが大騒ぎした。特にマードックのFOXテレビは視聴率を稼ぐ機会にしている。
藤原 情報の中味はそれほどではないにしても、この事件は二〇一〇年が「情報紀元の元年」なるほどのインパクトを残しました。
大原 サウジの国王がイランの核開発を恐れて、米国政府にイラン攻撃を要請したという情報は、ジャーナリストが注目する価値がありました。
見逃せないのはゴミ情報の中にも貴重なものが混じっていたことです。クリントン国務長官が各国のトップのクレジットカード番号や、個人情報を調べろと命じていた事実とか、イラクの米軍が大量の民間人を殺しただけでなく、BBCの記者を誤爆した映像は、強烈なインパクトを持っていた。
藤原 中国政府がグーグルのサーバーに侵入を指示していた情報は、この事件の背景に盗聴技術の問題があることを示し、グーグルの検索サービスの撤退の理由が、盗聴用の「バック・ドア」のせいだったと判明した。中国が戦略的に「超限戦」を準備しており、それがグーグル追放劇の背後にあった。
大原 その「超限戦」はどんな内容ですか。
藤原 北京政府が考えている新しい戦略構想で、中国の軍部が二一世紀の戦争を想定して生み出したソフトな国家総動員体制です。軍事力を使った武力戦争だけでなく、外交戦、金融戦、資源戦、情報戦、心理戦、文化戦などを組み合わせて、世界制覇を成し遂げようという覇権主義の思想です。
これは英国がかつて駆使した世界戦略で、英国ではウェーブとかコモンウェルスと呼んでいる。英語をベースに科学と技術を動員して金融や情報を戦力にする発想で、それが大英国帝国による覇権主義を確立させ、二〇世紀は米国がその代理人として行動しました。
大原 アメリカは英国の傀儡だったと。
藤原 アングロジュダサクソンだと考えたら良いでしょう。また、衆知の通り経済学は英国を故郷にしているし、コンピュータやジェットエンジンを始め、原子力の利用や空中写真も英国生まれで、その技術化と大量生産をアメリカが行った。それにミュージカルやハリウッドの映画界だって、英国人やユダヤ系の人材が米国で活躍して発展しました。目に見える形ではアメリカは独立したが、不可視な隠れた次元では英国の支配が続き、典型がローズ・スカラーシップの人材と英語です。
今度のウィキリークスの主役のジュリアン・アサンジュはオーストラリア人で、ハッカーとしての気ままな生活を送っているが、オーストラリアはコモンウェルスに属しており、盗聴システムのエシュロンの主要メンバーです。しかも、「象の檻」という名のアンテナの施設を受け持ち、世界中の交信情報を盗み取る環境の中で、レトロウィルスの役目を演じたのです。構造主義者である私の考えでは、文明は情報の蓄積で発達する概念ですが、風土の条件に従って個別化する文化の特性は、情報をどう活用するかのシステムにある。だから、IT時代の訪れで飛躍的に増加して溜まった情報の砦の壁が、ウィキリークスの衝撃によって崩壊し、情報の万里の長城がベルリンの壁のように崩れ、新しい地球型の文化を生みだす感じです。
大原 風穴が開いたのは分かりますが、果たしてこの壁が崩壊するでしょうか。
バック・ドアとNSAの巨大盗聴機能
藤原 今は衛星とインターネットのお陰で、全世界が一瞬のうちに結ばれるようになった。ある意味で夢のような情報環境が生まれた。だが、その反対給付として通信の傍受で盗聴が行われ、新幹線の改札□や飛行場のエスカレータには、監視カメラがいくつも並んでいるし、個人の行動までが密かに監視されています。しかも、クレジットカードの記録が分析され、好みや財産の動きも掌握され、プライバシーが大幅に失われる時代になった。
大原 一方で情報漏洩の防御のための施設については、権力機構や大組織ほど熱心に取り組んでいる。だから、一度組織を離れた私が日経の本社に行っても、社友室までしか立ち入ることが出来ない。
藤原 閉鎖性は情報のリークの警戒です。
大原 ウィキリークスの場合を見ても明白ですが、内部の人間によるリークが目立っている。それは尖閣列島のビデオの流出と同じで、組織がガードを固めて締め付けが強くなれば、信頼関係が崩れるのにそれが分かっていない。米軍の場合は正義のない侵略だから、組織のモラルが低下しているために、マル秘の情報がジャンジャン外に流れ出ています。
藤原 かつての英国の情報部とロシアのK GBの戦いは、頭脳ゲームの要素が強かったが、アメリカのCIAは西部劇の延長で、頭脳よりも腕力を直ぐに使うために、発想や布石が直線的で幼稚です。それで思い出すのは CIAの現場主任だったが、組織の宣僚主義に愛想をつかして辞めたロバート・ベアが、回顧録として書いた『CIAは何をしていた?』(新潮文庫)にある指摘です。この本の中ではコンピュータの「バック・ドア」を論じています。この秘密の扉が情報を盗む仕掛けの役目を果たしていると書いてあります。
マイクロソフトのOSには二つの扉があり、いざという時には四枚の扉までが開くと言われています。スカイプなら電話だから扉があって当然だし、携帯電話は全てエシュロンにより盗聴されている。
大原 そうなると日本の国家機密など丸裸同然。
藤原 そうですよ。だから、中国ではマイクロソフトのOSを嫌って、独自のOSの開発に取り組んでいるし、グーグルの検索にも干渉しています。だが、日本では独自のOS のトロンを放棄してしまったし、検索も粗悪なヤフーの君臨状態です。しかも、日本では国会議員も会社の社長も国民のほとんどが、携帯で情報を交換して物事を決めているために、国家や企業の機密は盗聴されている上に、重要な通話は文章化までされている。
これが情報戦争の恐ろしいところです。しかも、エシュロンによる盗聴のスケールと威力は飛躍的に伸びています。人工衛星写真の精度はGoogle Earthで分かるように、家の中の写真まで撮影できるのです。
大原 監視されているのに気づかない。
藤原 世界の盗聴の総本部は米国のNSA (国家安全保障局)で、フォート・ミードの本部では三万人のスタッフが働いていて、エシュロンの運用と管理を行っている。エシュロンはCIAの三倍の予算を使う秘密組織ですが、一二年前に出版された『Digital Fortress』(日本語訳『パズル・パレス』角川文庫が参考になります。この本は『ダ・ヴィンチ・コード』でベストセラー作家になった、ダン・ブラウンの処女作だったもので、暗号解読と盗聴装置をめぐって展開する、プライバシーと国家の安全保障の対立小説で、ウィキリークス問題を考える時に下敷きに使えます。
情報操作と記者クラブの弊害
藤原 今回のウィキリークス事件の主人公だったアサンジュは放浪癖があり、情報への欲求が強い。漂泊民は情報の評価と判断力に従い移動する。だから、移動生活を営むタイプのユダヤ人は、情報に対しての嗅覚が発達している。やはりオーストラリア人で英国のメディアを支配し、アメリカに乗り込んだユダヤ系のマードックも、それで情報ビジネスの分野で成功したのです。
大原 仰るとおり、情報に対するユダヤ系の感覚は凄いものですね。
藤原 商売人の能力は情報の活用能力にありますが、それが政治権力と結ぶと情報操作になります。現在は金融操作と共に情報操作によって、国際化した経済と政治が動かされるし、それに取り込まれているのがメディア業界です。報道界がメディアになった段階で、報道に真実を期待できなくなるのは当然だし、それがスピン現象としての情報操作の蔓延になり、経済詐欺や大本営発表の洪水を生む。
大原 大本営発表は日本人の発明ですが、湾岸戦争の時の米軍による記者会見も、大本営発表に似て情報操作の臭いが濃厚で、とても信用できる代物ではなかった。だから、ホワイトハウスの記者会見室は皮肉をこめて、スピン・ルームと呼ばれています。
藤原 正直を誇りにしていたアメリカ人たちが、覇権主義に支配されて侵略戦争にのめり込み、ホワイトハウスまでがスピンの舞台になった。だが、その原点は日本の記者クラブにある。
大原 私は駆け出し記者時代、悪名高い外務省の霞クラブのメンバーでした。役人たちがこんな具合に書けというように、記事の見本みたいなものを配布した。あれは凄い情報操作だったと今なら分かります。
藤原 日本では情報公開の意味が正しく理解されないまま、記者クラブが情報操作の場になった。欧米では情報公開が未だ不十分だと考える者が、ハッカーの形で秘匿情報の暴露を試みており、その具体的な例がウィキリークスだと考えれば、今回の事件は未来の予兆かも知れません。
大原 官僚はいよいよ防御の壁を高くして、情報を隠そうと一生縣穴叩になるはずだし、情報操作のやり方も巧妙になるでしょう。
藤原 ただ、九・一一事件とリーマン・ショックに関する不正の存在を証明する情報が、次の段階でウィキリークスにより暴露されるなら、これは大変な衝撃を及ぼすでしょう。なにしろ、情報支配で世界帝国の覇者として君臨した、アングロジュダサクソン勢力の急所に相当するので、その辺に今回の事件の真相が潜んでいる。また、それが引き金になって中国のバブルが炸裂する……そんなシナリオが現れそうです。
大原 メディアが狂うと社会の頭脳が機能せず、それが文明社会を崩壊させる道筋でしょう
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