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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20101203-00000302-newsweek-bus_all
池田信夫(上武大学経営情報学部教授)
新聞もテレビもあまり報じない大きなニュースが、先週あった。総務省の「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」は、11月25日の会合で700MHz帯で次世代無線に100MHzを割り当てる骨子案をまとめたのだ。
100MHzといってもピンと来ないだろうが、これは現在、携帯電話の端末で使われている周波数のほぼ半分。日本の周波数は130億円/MHzと評価されているので、時価1兆3000億円の「埋蔵金」が開放されることを意味する。
総務省は今年の4月、いったん700MHz帯でアジアの標準とは異なる周波数を割り当てる方針を決めた。これだと国際周波数を使う次世代のiPhoneやiPadなどの端末が、日本だけ使えなくなるおそれが強い(iPhoneの最初のモデルは日本と韓国だけ使えなかった)。
これに対してソフトバンクの孫正義社長がツイッターで異議を唱え、それに答えて原口一博総務相(当時)が再検討を約束した。翌日の閣議後の記者会見で原口氏は、周波数を再検討する作業部会の設置を決めた。
いったん電波部が決めた割り当てを大臣がひっくり返すのは前代未聞の出来事で、総務省内は大混乱になったが、半年の検討をへて国際標準に合わせることが決まった。これは民主党政権の「政治主導」の成果であり、インターネットの力で官僚の決めた政策がくつがえされたのは初めてだ。
新たに設けられた作業部会では、テレビ局が「中継ができなくなる」と移転を拒否したが、彼らが免許をもっている帯域で中継が行なわれるのは、マラソンなどの移動中継だけで、首都圏では月にわずか3回というデータを見せられ、黙ってしまった。ワイヤレスマイクの業者が最後までねばっているが、わずか2万台のマイクのために1億1000万台の携帯端末を犠牲にすることは考えられない。
作業部会では周波数オークションの導入も検討されたが、今回は見送られる見通しだ。しかし900MHz帯と合わせて130MHzの帯域をすべてオークションで割り当てると、1兆7000億円が国庫に入る。事業仕分けの2回分を上回る財源をみすみす見逃すのはもったいない。
「オークションの落札額の高騰がユーザー負担の増加を引き起こす」という話がまだ出ているようだが、そんなことは起こりえない。オークションを実施した国としていない国を比べると、むしろ実施していない国のほうが料金が高い。これはオークションによって新規参入が起こり、競争が促進されるからだ。
「免許料が事業者の経営の負担になる」というのは当たり前だ。電波は一種の国有財産なので、払い下げるときは競売にかけるのが会計法の原則である。「国有地を競売にかけたら不動産会社の経営の負担になるので、無料で払い下げよう」というのは違法である。「今までは無料だったので、これから有料にすると不公平だ」というのもナンセンスで、不公平だと思う業者は応札しなければいい。
オークションを行なう最大の目的は国庫収入ではなく、競争促進である。今までの周波数割り当ては、ある帯域をドコモに割り当てたら次にあいた帯域はKDDIに、というように既存業者にたらい回しされていた。業者も電波をもらうために天下りを受け入れ、そのOBが官庁の後輩と密室で談合して割り当てを決めていた。
これでは実績のない業者が電波の割り当てを受けることはできない。事実、携帯電話が日本で始まってから20年近く、その業者は電話会社に限られていた。2006年に初めてアウトサイダーのソフトバンクがボーダフォンを買収して参入してから、携帯が一挙に活気づいたことは、利用者が一番よく知っているだろう。
今回は900MHz帯と合わせて130MHzの周波数があき、3〜4社が新規参入できる。これによって外資を含めてまったく新しい業者の参入する余地があり、「ガラパゴス」といわれる日本の通信業界の電波開国が実現する。日本が長期停滞を脱却する道は、競争によって企業の新陳代謝を促進するしかない。今回の電波開放は、民主党政権の数少ない実績として歴史に残るだろう。
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