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沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件のビデオ映像が流出したのは、インターネットの動画投稿サイトだった。かつて官僚らによる「内部告発」は新聞やテレビを通じるのが一般的だったが、今回流出させた公的機関側とみられる人物は既存メディアを軽々と飛び越え、ネットで直接「世界」へ訴え出た。こうした流れは民間の内部告発サイトの登場で数年前から世界的に広がっており、専門家は「時代が一つ変わってしまった」と話す。
■衝突画像編集
映像が動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」へ流出したのは今月4日午後9時ごろ。約11時間後の翌5日午前8時ごろまでに投稿者自身により削除された。
ところが閲覧した不特定多数のネットユーザーがオリジナル映像を自分のパソコンへ保存し、ユーチューブや他の投稿サイトへ次々と転載していった。中には衝突の瞬間だけを画像に編集したものもあった。
情報セキュリティー会社「ネットエージェント」(東京)の杉浦隆幸社長(35)は「こうなると完全なデータ消去は不可能。手遅れだ」。映像は検閲のためユーチューブを見られない中国でさえも駆け巡り、増殖を続けている。
■かつては新聞
学習院大学の藤竹暁名誉教授(77)=メディア論=は「かつて内部告発は新聞やテレビになされていた」と指摘し、1971年、米国防総省の元職員がベトナム戦争に関する大量の調査報告書をニューヨーク・タイムズ紙へ持ち込んだ「ペンタゴン・ペーパーズ事件」を挙げた。
翌72年、ニクソン大統領を退陣に追い込んだ「ウォーターゲート事件」でも「ディープ・スロート」と呼ばれた連邦捜査局(FBI)副長官はワシントン・ポスト紙の記者へ情報をリークしていた。
わが国でも、たとえば平成19年に起きた北海道の食肉加工販売会社「ミートホープ」の食肉偽装事件の発覚のきっかけは役員による新聞やテレビへの内部告発だった。
2006年、内部告発サイト「ウィキリークス」が現れ、米軍の機密文書や政治家のメールなどが次々とネットで公開されていった。先月22日にも、米軍の機密文書流出としては過去最大規模という約40万点のイラク駐留米軍文書が流出した。サイト創設者で1971年生まれのオーストラリア人、ジュリアン・アサーンジ氏は自宅を持たず世界の知人宅などを転々としているとされ、各国当局が手を焼いているのが実情だ。
ビデオジャーナリストの神保哲生さん(48)は「今回の流出事件は、こうした流れに位置づけられるもので、時代が一つ変わってしまった印象だ。これまでは情報を制御できる“情報強者”と“情報弱者”がいたが、その関係が対等になった」と指摘する。
■生情報を素早く
神保さんは「本格的な捜査により、投稿者のネット上の住所にあたる『IPアドレス』を追えばかなりの確率でパソコンを特定できる。ユーチューブでの匿名投稿は、実際には実名が割れるリスクが高い」とした上で、「今回の人物がそれでもユーチューブを選んだのは、テレビ局などに提供しても既得権益や権力との関係などに配慮し、黙殺されてしまうとの思いがあったのではないか」とみる。
情報セキュリティー会社の杉浦さんは「ネットは編集なしの生情報を素早く広く届けられるため、世の中へ伝えたいことがある場合に非常に便利だ。この流れは止まらないだろう」とし、「ネットでは偽の告発情報を流すことも可能であり、だからこそ既存メディアには情報の真偽の確認や価値判断を加えた報道が期待されている」と話す。
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