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45歳で定年、56歳は盗賊という神話 雇用不安から若者中心に公務員試験が異常な競争に
* 2011年2月7日 月曜日
* 高安 雄一
韓国 通貨危機 定年 45定 リストラ 56盗 アジア 労働市場
「沙悟浄(サオジョン)」、「五六島(オリュクド)」。これは、韓国の労働市場を象徴する言葉として知られています。
沙悟浄は西遊記に登場し、三蔵法師や孫悟空とともにインドに経典を求め旅したことで有名です。五六島は日本ではほとんど知られていませんが、釜山の海岸からほど近い島のことです。もともと5つの島ですが、満潮になると島の1つが2つに分かれ、島が6つに見えることから、五六島と言われています。
この2つの言葉は、韓国語で同じ発音の「45定」、「56盗」とも書けます。「45定」とは定年が45歳、「56盗」とは56歳で職場に残っている人は盗賊という意味です。つまり冒頭の2つの言葉は、韓国の労働市場の特徴である、働き盛りで職場を追われる現象を掛詞(かけことば)で表現しているのです。
この言葉は日本でも紹介されており、韓国の労働市場は「弱肉強食」で激しい「椅子取りゲーム」が繰り広げられており、弱い者はすぐに市場から退出させられるというイメージを持っている人も少なくありません。
一方で、韓国の労働市場は硬直的であるというイメージも日本では一般的です。労働組合のデモの激しさをニュースなどで見て、韓国でのリストラは大変だと思った人も多いでしょう。この事実からは、韓国では労働市場から雇用者を退出させることは難しいという結論になります。
このように、韓国の労働市場については、「雇用者が市場から退出させられることが日常的」、「雇用者を市場から退出されることが難しい」という、2つの相反するイメージが混在しています。今回は「45定」、「56盗」が、韓国の労働市場で本当に一般的なのかについてデータをもとに考えていきたいと思います。
45歳で常用職男性は会社を“追われて”いるのか?
まず「45定」です。この言葉の妥当性を検証するため、まず2000年に40歳であった人について、常用職(※1)として雇用されている人の比率がどのように変化するか、1歳刻みで見ていきます(男性のみ。以下同様)。
常用職は原則として定年までの雇用が期待されます。もし多くの雇用者の定年が実質的に45歳であれば、45歳を境にこの比率が下落するはずです。その結果を示したのが図1です。
40歳で37.2%であった比率は、49歳でも37.5%と全く変化はありません。また常用職の中でもホワイトカラー(※2)に絞って見ると、40歳の9.7%から49歳には13.0%と若干高まっています。念のため前後の年代、すなわち2000年に39歳であった人、2000年に41歳であった人について見ても、同様な動きでした。
つまりこの数値からは雇用者の定年が実質45歳であるとの証拠を得ることはできません。ただし、この数値だけでは、45歳が実質定年であることを否定することもできません。45歳で肩を叩かれる人が多くても、すぐに他の会社に常用職として再就職できれば、常用職として雇用される人の比率は変わらないからです。
そこで次に一番長く勤めた職場(以下は単に「職場」とします)から何歳で退いたか、2010年に55歳であった人を対象にして見てみます(※3)。これによると8割は50代までは辞めておらず、45歳までに辞めた人は14%に過ぎません。もちろん45歳までに10%以上も辞めていたら「45定」は事実だと言えるという人もいるでしょう。では、45歳までに職場を退いた人についてその理由を見てみます。
※1 これは「経済活動人口調査」の常用職(「韓国は”非正規大国”って本当?」参照)。
※2 職業分類で事務職及び管理職をホワイトカラーとした。
※3 自営業も含まれた数字しかとれないので、雇用者の数値を正確には把握できなかったが、ある程度の感触はつかめる。なおこの分析は「経済活動人口調査:高齢者付加調査」(2010年5月調査)のマイクロデータを用いて行った。
一番多い理由が「職場がなくなったため、事業不振、操業中断」で32.5%を占めています。ただしこの理由は自営業が挙げるものであり雇用者とは関係がありません。次に多い理由は「職場の休業及び廃業」で13.8%、そして「名誉退職(韓国では勧奨退職をこのように呼びます)」が13.6%、「健康状態が良くないため」が8.1%と続きます。すなわち45歳までに職場から退いた人の中には、退職を迫られた人もいますが、多くは倒産や廃業によって会社が無くなってしまった人であることが分かります。
つまりこれら数値からは、現実には「45定」という状況はないと言っていいことが分かります。
一般的な韓国の労働市場の状況を表してはいない
さらに先行研究の結果も「45定」が事実ではないことを裏付けています。アンジュヨプ(2004)は、「経済活動人口調査」のマイクロデータを使って、1998〜2002年における年齢別の失職率を推計しています。
これによると、2002年には45〜49歳の年齢層の失職率が2.05%と他の年齢層と比較して最も低かったことが示されています。そして「「56盗」(オリュクド)、「45定」(サオジョン)、38線(サンパルソン)(※4)といった新しい造語は妥当性がない』としています。
また三星経済研究所のテウォンユ博士が行った調査によると、定年制があるにもかかわらず53%の企業が名誉退職を実施しています。ただしこの調査は従業員1000名以上の大企業が66.7%、500名以上だと81.9%を占めており、大企業中心の結果と言えます。さらに韓国で労働経済を専門とする研究者の数名を対象に聞き取り調査を行った結果を見ても(※5)、「一部大企業のホワイトカラー管理職を対象に名誉退職が促されることはあるが、40歳代での早期退職は一般的ではない」との意見で一致していました。
大企業の代名詞とも言えるサムスングループにおいても、「社員を早期に退職させるわけではなく、昇進が遅れたからといって会社を辞める事例も少ないのが現状である」との話をサムスングループ関係者より聞きました。サムスングループの社員の中には、若いうちに起業をするため退職するケースが多いですが、勧奨退職とは違う次元の話です。
つまり、筆者の分析や、先行研究、聞き取り調査の結果を総合すると、「45定」は一般的な韓国の労働市場の状況を表すには適当でないと言えます。
常用職やホワイトカラーが一掃されるといった現象はない
次に「56盗」についてです。この言葉を検証するために、2000年に50歳であった人について、常用職(※6)として雇用されている人の比率が1歳刻みでどのように変化するか見ていきます。もしも56歳まで会社に残る人が盗賊扱いされるのであれば、55歳を境にこの比率が下落するはずです。結果を見ると50歳代において低下傾向が見られます(図2)。
常用職の人の比率は50歳では28.1%ですが59歳には22.1%にまで低下しています。またホワイトカラー比率も50歳の6.3%から59歳には 5.0%に低下しています。ただし、劇的な変化ではなく、55歳を過ぎても常用職、ホワイトカラーとして勤務している人も少なくありません(※7)。
次に一番長く勤めた職場(以下は単に「職場」とします)から何歳で退いたか、2010年に65歳であった人を対象にして見てみると、50歳代後半で職場から退いた人は2割程度でした。つまり職場から退く人がこの年齢層に集中しているわけではありません。
さらに55歳から59歳の間に職場を退いた人について辞めた理由を見ると、「定年退職」が37.7%を占めます。そして「名誉退職など」が17.3%であり、「職場がなくなったため、事業不振、操業中断」が15.8%、「健康状態が良くないため」が13.3%と続きます。つまり50歳代後半に退職する人は定年や肩たたきで辞める場合が多いのですが、この時期に常用職やホワイトカラーが一掃されるといった現象は見られません。
※4 38線とは、もともと韓国と北朝鮮を分断する38度線のことだが、38歳を超えると会社を出なければならないとの意味で使われている。
※5 韓国労働研究院のアンジュヨプ博士、労働社会研究院のキムユソン博士など。
※6 これは「経済活動人口調査」の常用職(「韓国は”非正規大国”って本当?」参照)。
※7 念のため2000年に49歳だった人、51歳だった人についても同じ分析をしたが、同じ結果が得られた。
ここで韓国の定年退職の制度について見ていきましょう。日本では高齢者雇用安定法によって、定年を導入する場合には60歳を下回る定年は禁止されています。しかし韓国にはこのような規定はありません。1999年に制定された高齢者雇用促進法では、定年を定める場合には60歳以上とするよう努力しなければならないとされています。
しかしこれは努力義務に過ぎず、就業規則で低い年齢を定年とすることは理論上可能です。ただし社会通念上問題が生ずる可能性のある年齢を定年とすることは、労働組合の反発を招きますし、各地方に設置されている地方労働庁から改善勧告を受ける可能性があります。
このため、定年を設ける場合には55歳以上とする場合が多くなっています。労働部によると、300人以上を雇用している事業所2318カ所を対象として定年の実態を調査したところ、94.8%の事業所で定年を導入していました。平均定年は57.1歳で、55歳を定年とする事業所が39.8%、58歳が 21.8%、60歳が13.1%との結果でした。
なぜこのような早い時期に定年を設定するかについては、韓国企業の給与体系に年功賃金の部分が色濃く残っているからです。つまり高齢者は賃金が高く、企業にとってできる限り早く辞めてもらいたい対象だと考えられます。
ただし前述のように、60歳になっても相当数の常用職やホワイトカラーが職場に残っていることも事実であり、55歳を超えた人であっても、盗賊どころか、組織内で重宝されているケースも少なくないと考えることもできます。従って、「56盗」は年功賃金が採用されている場合が多い大企業の状況を反映していると考えられます。
通貨危機以降のリストラ時代の言葉が独り歩き
ではなぜ「45定」や「56盗」といった言葉が独り歩きしているのでしょうか。これらは通貨危機以降の構造改革期にマスコミが使い始めました。この時期は大企業を中心に大胆なリストラが進められ、ホワイトカラーが名誉退職を余儀なくされました。つまり通貨危機以前には珍しかったリストラが一部の大企業で大々的に行われたため、これがマスコミの注目を集め、報道が繰り返され、ついには韓国の労働市場を象徴する「神話」として定着したと考えられます。
マスコミの影響力は大きく、若年層を中心に「45定」が信じられています。韓国最大の就職ポータルサイトを運営しているインクルートが、20歳代から 50歳代までの1075名の会社員を対象に「現在の職場における予想定年」について聞いたところ(2009年実施)、20歳代は36.0歳、30歳代は 43.9歳と回答しています。若者は雇用の安定性に対する不安を抱いており、これが公務員人気に火をつけ、試験は日本のIII種に相当する9級では181 倍、II種に相当する7級では142倍との異常な競争(※8)になっています。
このように韓国でも、若年層を中心に「45定」や「56盗」との言葉が信じられていますが、「45定」は、一部大企業のホワイトカラーに限られた現象、それも通貨危機以降に企業のリストラが活発化した時期の現象であり、韓国の労働市場の現状を反映した言葉ではないと言えます。
「56盗」についても大企業中心の現象であり、一般的であると考えるには無理があります。つまり韓国の労働市場は、一部大企業のホワイトカラーを除けば、「弱肉強食」でも、「椅子取りゲーム」でもありません。「45定」、「56盗」との言葉のもととなった、沙悟浄や五六島もとんだとばっちりを受けたと言えるでしょう。
※8 2010年、行政職一般。最終合格者数に対する応募者の競争率。
<参考文献>
アンジュヨプ(2004)「労働力の状態異動と年齢別雇用構造」『毎月労働動向』2004年2月号 韓国労働研究院, pp.48〜61。
テウォンユ(2007)「人事担当者設問調査結果」。
このコラムについて
知られざる韓国経済
韓国経済の真の姿を、データと現地取材を通して書いていきます。グローバル企業がめざましく躍進し、高い経済成長率を誇る韓国。果敢に各国と自由貿易協定を結ぶなど、その経済政策は日本でも注目されています。一方、格差、非正規、雇用、農業保護政策、少子高齢化などの分野では、さまざまな課題を抱えてもいます。こういった問題は日本に先駆けている部分もあり、韓国の政策のあり方は、日本にとって参考にすべき点が多くありそうです。マクロとミクロの両方から視点から描きだす、本当の韓国経済の姿がここにあります。
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著者プロフィール
高安 雄一(たかやす・ゆういち)
大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。
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