一般論としては、金融政策が効果をもつ局面はある。伊藤隆敏氏も指摘するように、90年代末の金融危機のとき、日銀が現在のFRBのようにアグレッシブな流動性供給を行なっていれば「デフレの罠」に陥ることを防ぐことができたかもしれない。さらにさかのぼれば、90年代前半の不良債権処理の失敗によって企業のバランスシートが毀損した状態が長期化したことも大きい。しかしこれは結果論で、今いってどうなるものでもない。
「デフレ」といわれる現象のかなりの原因は新興国との競争による相対価格の低下だから、TPPよりもEPAで資本統合を進めることが重要だ。本社機能や高付加価値の事業を日本に残す一方、コモディタイズした製造業は新興国に移転して国際分業をはかる。古い企業は海外企業が買収して再生できるように対内直接投資を増やし、労働市場の調整機能を高めて人材の移動を促進することも重要だ。
こうした複雑で困難な改革に目を閉ざして、日銀が金をばらまけば景気がよくなるなどという幻想を振りまくのは、もはや犯罪的である。さらに厄介なのは、政府が問題の所在を認識せず、「労働者派遣法の改正など雇用や収入に不安を抱える非正規労働者の正社員化を進めます」などと真逆の方向に走っていることだ。多くの論者が指摘するように残された時間は少ないが、民主党政権では何もできないだろう。