http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/729.html
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中野剛志は
「完全雇用が達成されていない時は、保護主義で、内需を囲い込んで雇用(高い価格と売上)を守るのが合理的」
と主張することで関税による保護主義を擁護している。
この説自体は、現時点の(まだインフレが顕在化していない)デフレ不況の先進国(特に再分配の安全網整備が遅れ、しかも財政赤字で財政出動が難しい日本)では、説得力をもつだろう。
ただし、これは、本来、政府が行うべき財政支出(構造失業対策、安全網整備、都市インフラ整備、高齢者住宅整備、子育て施設充実・・)や規制緩和による産業構造改革を行っていないことによる。
つまり需給ギャップが存在し、完全雇用でない場合、将来的に必要な財政出動を行っても、全く問題はないのだが、過去の非効率な支出(ダム、堤防、道路、公民館、天下り施設・・)のトラウマため、政治的な理由で、行えなくなっている。
政治の機能不全が、皮肉にも、保護主義の根拠となっているわけだ。
ただインフレが顕在化してくれば、関税による割高い国内価格は、さらに高くなっていくことになる。特に海外の穀物や石油を消費する製品では顕著になる。
さらにコストプッシュインフレで国内生産が停滞するケースでは、過去のバターのように、価格高騰で庶民は困るが、天下り関税団体は暴利を貪るといった事態もありうる。
つまり、現実は関税維持がメリットばかり(TPPはデメリットばかり)というわけではない。
http://hakusanjin.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/514-2c51.html
中野氏の<保護主義の何が問題か?>を読んでみよう。少し長いから、時間をかけて書き写してみる。
<保護主義の台頭が問題になっている。保護主義とは、国内産業を守るため、関税などで輸入を制限することである。公共事業で使う鉄鋼を国産のみとする米国の「バイアメリカン」政策が、その典型だ。>
<保護主義は世界不況を悪化させると、誰もが心配している。経済学者は皆、保護主義を国家のエゴだと批判する。サミットはいつも保護主義阻止で合意する。しかし、実に奇妙なことなのだが、なぜ自由貿易が望ましいのかについては、根拠がはっきりしないのだ。>
<自由貿易は良いことだというのが、アダム・スミス以来の経済学の常識ではある。二つの国が相対的に得意とする製品に特化し、自由に貿易を行えば、両国にとってメリットがあるという「比較優位論」は、経済学の基本中の基本だ。>
<ところが、この比較優位論は、実は、いくつかの特殊な前提の上に成り立っている。その一つは、各国が完全雇用の状態にあるという前提だ。しかし、今は、どう考えても、世界中で失業者があふれ、完全雇用からはほど遠い。自由貿易を正当化する理論の前提が、今は崩れているのだ。>
<自由貿易のメリットを実証した研究は、あるのだろうか。それについては、両方あって、よく分からない。例えば、メリーランド大のロドリゲス氏とハーバード大のロドリック氏の「貿易政策と経済成長」(2000年)は、保護貿易が経済成長を妨げるとは言えないと結論する。>
<また、ケンブリッジ大のチャン氏による経済史研究『はしご外し』(2003年 未邦訳)によれば、英米は保護貿易によって発展し、大国になった。そして、自国が大国になると、他国には貿易自由化を強要し、自国の優位を確保した。自由貿易が経済発展をもたらすという理論は、歴史的には実証できないというのだ。>
<経済史の通説は、保護主義こそが1930年代の世界恐慌を悪化させたとしている。当時のアメリカは、自国の産業を保護するために「スムート・ホーレイ関税法」を定めた。他国も報復として自国の関税を引き上げ、自由貿易体制は崩壊した。その結果、世界経済が縮小し、恐慌は深刻化した。世界恐慌の教訓とは、保護主義の阻止に他ならない。これが通説だ。>
<ところが、この通説も盤石ではない。テミン氏の『大恐慌の教訓』(1994年 東洋経済新報社)、マサチューセッツ工科大のドーンブッシュ氏とフィッシャー氏の分析(1984年)、ハーバード大のアイケングリーン氏の論文等(2001年)は、保護主義の悪影響は、通説に反して限定的だったと主張している。保護関税は輸入を制限することで内需を拡大する効果があり、その効果により保護貿易のデメリットは減殺されるという。>
<このように、保護主義は、心配されているほど、危険なものではないのかもしれない。それどころか、世界不況の今、恐るべきなのは、むしろ自由貿易の方かもしれないのだ。>
<自由貿易は安価な外国製品の流入や競争の促進によって、物価を下げ、消費者にメリットを及ぼす。しかし、それは、裏を返せば、物価や賃金の下落(デフレ)の圧力がかかるということだ。現在、世界中がデフレを心配しているが、自由貿易は、このデフレを悪化させる恐れがあるのだ。>
<また、現在、世界各国が、内需拡大のため財政支出を拡大している。その財政支出の出所は、言うまでもなく税金だ。しかし、血税によって拡大した需要が、貿易を通じて外国企業にとられてしまうとしたら、政府は、納税者に対する説明責任を失ってしまう。だから、米国は、公共事業用の鉄鋼を国産に限ったのだ。「バイアメリカン」政策は、確かに貿易の自由主義には反するが、「国民の負担による利益は国民にもたらすべし」という民主主義には合致しているのだ。>
<保護主義は、貿易によるデフレ効果を減殺する。そして、デフレ対策として必要な財政出動の恩恵が、国外に流出するのを防ぐ。ならば、世界デフレ対策として、貿易の保護や管理を、ある程度認めてもよいという議論が、もう少しあってもよいはずだ。しかし、それが殆どない。>
<もちろん、過度な保護主義は、確かに危険だ。保護貿易の行きすぎや乱用を防ぐのは、ひとえに政治の思慮深さによる。問題は、現実の政治に思慮深さを期待できるかだ。>
<自由貿易論者の答えは「ノー」であろう。政治が信頼できないから、政治介入を一切排する自由貿易が良いとなる。多くの人が、証拠不十分でも自由貿易論を疑わないのは、それが、政治抜きでも秩序と繁栄は可能だと唱える「原理」だからだろう。自由貿易論は、政治不信に深く根を下ろしている。>
<しかし、自由貿易を推進するのもまた、政治だ。政治がいかに信頼できなくても、政治抜きの世界へは逃げられない。非現実的なパラダイスを夢想し、議論もせずに「原理」に固執するのを「原理主義」という。色々議論した上で、保護主義を否定するなら、すればよい。しかし、議論なき原理主義は、保護主義以上に危険だ。そこで本稿は、敢えてタブーに挑戦し、保護主義を積極的に論じてみたという次第である。>
一気に読める。痛快な内容である。ケンブリッジ大のチャン氏の説は説得力を持っているように見える。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本。先進諸国の論理はまだ罷り通るのだ。
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