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(回答先: 日本企業の生産性とイノベーション・システム:成長力強化に向けて 投稿者 tea 日時 2011 年 1 月 15 日 02:15:56)
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_1101b.pdf
発表日:2011年1月13日(木)
〜「需要面からの成長」は何を見間違ったか〜
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生(пF03-5221-5223)
医療・介護・福祉分野の成長は、社会保障関係費の膨張を背景にしており、財政の持続性と表裏一体の関係である。成長分野として開花するには、競争環境を整備して事業者の生産性上昇を促すことが不可欠である。今のところ、医療・介護・福祉の生産性は低く、単に労働力を集めるだけでは経済成長の足を引っ張る。高齢化に伴って高まる潜在ニーズに応えようとするならば、社会保障分野の生産性上昇こそ不可欠である。
2009年度の医療・福祉の業種別の労働生産性は、年報ベースで 2009 年度は 1 人当たり342万円、季報ベースでは粗付加価値(売上―売上原価)482万円(2010年7-9月674万円)となっている。
サービス業の中でも、飲食店の318万円に次いで際立って低くなっていた(図表3)
この数値は、なんと労働者派遣業の351万円よりも低い。
資本金 500 万円以下の中小・零細事業所の生産性が、258万円と著しく低く、そうした中小・零細事業者で働いている就業者が業種の48%を占めていた。この生産性の低さは、1人当たりの就業者が受け取る売上が他業種に比べて極端に低いことに起因する。介護・福祉などでは事業者が手間がかかっている割に、対価が少ない仕事をしている
成長分野にみえてしまう論拠
日本の経済戦略が語られるとき、(1)輸出などグローバル展開と(2)医療・介護・福祉分野の雇用創出の2つが挙げられる。グローバル化が成長の活路になることに全く異論はないが、医療・介護・福祉が成長分野という見方が正しいのだろうか。こうした点はもっと徹底して吟味されるべきだと考えられる。
まず、医療・介護・福祉分野が、なぜ成長分野に目されているのかを整理してみよう。一つ目は、今後とも高齢化が進んで、医療などのニーズが高まることが確実視されていることがある。二つ目は、それに関連して、現在に至るまで医療・介護・福祉分野が雇用の受け皿となっていることがある。両者は、「高齢化に伴って、医療・介護・福祉の雇用拡大が見込まれる」というストーリーで未来図のように語られることが多い。三番目は、医療などの技術進歩に強い期待感があることである。言うまでもなく、医学の進歩は、人類の寿命延長や健康増進に大きく寄与してきた。高齢化によって医療ニーズが強まると、需要に牽引されて医療の進歩が進むとみられている。
有効需要の原理
上記の@高齢化、A雇用拡大、B医学進歩の3つの要因のそれぞれが、医療・介護・福祉分野が未来の成長分野であるという揺るぎのない根拠にみえる。しかし、厳密に考えて、高齢化しているから需要が増えるという前提を素直に受け入れられない。ここで言う「需要」とは有効需要であることには注意しなくてはいけない。
有効需要とは、貨幣的な支出に裏付けられた需要のことであり、誰もが欲求として求めるニーズ=潜在需要とは区別される。ニーズの中には、消費者に購買力がなくて、値段が下がらなければ買えない財・サービスが含まれている。高齢化によって医療・介護・福祉の有効需要が生じることは間違いないが、それは潜在的ニーズとの間に強烈な食い違いをみせるはずだ。国民の間には、医療・介護・福祉を良質のサービスをもっと安い負担で受けたいという潜在的ニーズが強い。だか、それは有効需要とは異なるものであることを認識する必要がある。
医療・介護・福祉の需要は、高齢者自身の支出増によって自律的に発展しているというよりも、公的負担によって賄われている度合いが強い。公的介在は、本来、国が医療・介護の費用を国民が賄うために保険方式を採用した方が効率的だという判断から始まったものだと考えられる。それが徐々に税金による穴埋めに変容している流れがある。税金による国庫負担は、それが国債調達で賄われている限り、高齢者に負担の重みが理解されにくいところに問題がある。
国の社会保障給付費の推移をみると、2008年度94.1兆円と大きく増大している(図表1)。その社会保障給付費の3割を賄っているのは公的負担であり、社会保険料が6割近くを占めている。公的負担で賄われる割合は上昇しており、そうした意味で医療・介護・福祉分野は、政府の所得再分配機能によって維持されているといって過言ではない。これが、医療・介護・福祉の産業拡大が必ずしも有効需要拡大に裏打ちされてはいると言えない理由である。
経済成長という定義には、持続性という条件が暗黙のうちに前提になっている。しかし、政府の財政運営を顧みて言えば、まさしく社会保障関係費の増大のせいで財源の確保が追い詰められている。今、医療・介護・福祉の雇用拡大は、高齢化に伴って進んでいる自然現象のように思われるかもしれないが、本当はそれは真の姿ではないかもしれないか。財政の持続性条件が担保されないと、同時に医療・介護・福祉の成長もおぼつかなくなる。雇用面の統計で、いくら医療・介護・福祉の雇用拡大が確認されたからと言って、その雇用拡大が永続する保証はどこにもない(図表2)。財政の膨張が今のところはどうにか許容されているから、医療・介護・福祉の雇用拡大が進むという前提を忘れてはいけない。
消費者が身銭を切って医療・介護・福祉に支出した場合でも、所得再分配を通じて医療・介護・福祉の支出を増やした場合であっても、医療・介護・福祉の分野での生産性が継続的に上昇するのであれば、サービスの対価の出所は関係ないと言える。良質なサービスは、負担者が誰かではなく、事業者が誰かで決まってくる。この理屈は、誰が需要を支えるかが経済発展の要点ではないことを気付かせてくれる。経済成長にとっては、どうすれば供給能力が高まるかが重要なポイントということである。 国民生活が豊かになるためには、勤労者が1単位の労働の対価として受け取る賃金で、どのくらいまで生産
の消費数量が増やせるに依存する。事業者が1単位の労働投入でより多くの生産物を生み出せるようになれば、豊かさは実現する。生産性上昇とは、豊かさの要(かなめ)になる概念なのだ。
本当に大切な医療進歩とは何か
最後に、「医療の進歩が経済成長に寄与する」という見解は、直感的に反論しにくい論点に感じられる。しかし、視点を経済成長の方向からみて医療産業のあり方を考えると、医療の進歩が必ずしも雇用創出や所得増加と直結してものではないことに気付く。
医療・介護・福祉の分野における就業者の構成について、やや古いデータであるが、総務省「事業所・企業統計調査」(2006年)を参照する。そこでは、事業所の従業員559万人のうち、59%を占める327万人が医療業(歯科・マッサージ・整体を含む)である一方、そのほかに保育所51万人、介護施設・事業者49万人、老人ホーム37万人となっていた(図表5)。雇用増加数では、ボリュームの大きい医療業よりも、保育所と老人ホームの増加の方が目立っていた。雇用面に注目して、医療・介護・福祉分野に吸収されていく労働力の労働生産性を高めるためには、増加ペースの大きい保育所や老人ホームなどの事業での効率性をどう高めていくかが課題になる。
医療の進歩が雇用創出とどう関係しているのかは、難しい問題である。医療業の従事者の半数以上が看護・准看護師(55%)であり、しかも2000〜2008年までの増加率で見ても、医師よりも看護師の方が伸びている。一見すると、医療の雇用吸収力は、看護師の増加に依存するようにも見えるが、必ずしもそうとは言い切れないデータもある。有効求人倍率でみると、医師・歯科医師・獣医・薬剤師ではパート、正社員(パート以外)の両方で5以上(求職に対して求人が5倍以上)になっている(図表6)。だから、医師などの雇用吸収力を軽視してはいけないという見方でもある。
おそらくは、高度医療が進むにつれて、そのニーズは世の中全体で高まって医師は相対的に不足する傾向は強まる。そうなると、ミスマッチはより拡大するだろう。究極的に、医師・看護師の供給制約を解消するには、医師・看護師の報酬をもっと上げなければ解決できない。そのことは、患者の自己負担もしくは公的負担は上昇していくことと表裏一体である。
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