http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/599.html
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この生産性の低さを何とかしないと一部の高収益農業に将来性は低そうだ
さらに輸出産業が崩壊し、高賃金の職場がなくなれば話は別だが
やはりカロリー自給率にこだわらず、補助金付きの外国で安く作ってもらって輸入するのが現時点ではベストか
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110106/217834/
日経ビジネス オンライントップ>政治・社会>守るべき弱者はどこにいる?
雇用を生み出せない農村に救いの手はあるか
農業に携わる30代男性のケース
2011年1月11日 火曜日 小林 美希
弱者 社会 正社員 農業 TPP 環太平洋戦略的経済連携協定 社会保険
「農業は好きだけど、会社という意識が低すぎる・・・」
首都圏出身の小玉祐樹さん(仮名、30代後半)は、フリーターから農業へと一念発起したが、前途多難だ。
30歳を過ぎた頃から機会を見つけては農業研修に参加しながら、農業の経験を積み重ねた。周囲に田畑しかないような地域での農業も体験した。30代半ばで農業大学校に入学。農業大学校は全国で47校あり、授業料は年間でも十数万円。他の経費を含めても30万円程度と負担が軽く、祐樹さんは入学を決めた。寮もあり、寮生活を送りながら1年制課程のコースで学んだ。
卒業後、ハローワークに通い首都圏での職を探した。最初はイタリアンレストラン向けの野菜を作る農家で働き始めた。月給20万円。「正式なスタッフ」とされたが、社会保険は未加入だった。朝6時頃から夜9時頃まで働いた。1日15時間労働という日々が続くが、「残業代」という概念はない。出荷が1年365日切れ目なく、日曜日も交代で勤務。休暇は月3日程度しか取れず、正月も元日しか休めなかった。
遊びに行く暇もなければ、自分で好きな農作物を作る余裕も全くない。「これでは、何のために働いているか分からない」。そんなジレンマを抱き始め、1年あまりで転職を決めた。
アルバイトが1日と持たない激務
祐樹さんは、「自分は、職業農業人になりたい。いつか自営で農業ができるようになった時、物流などで有利な首都圏を離れないほうがいいのではないか」と考え、再び職探しを始めた。人手不足の農業分野と言えども、「正社員」の求人や首都圏での募集はイメージするような引く手あまたというわけではなかった。
神奈川県で見つけた仕事は、アルバイトだと時給650円からのスタート。経験のある祐樹さんは時給800円で雇われたが、ほぼ家族経営の職場ではパワーハラスメントが横行していた。ボーナスも社長の気分次第で、出るか出ないかが決まる。数カ月で辞めた。
その後、何度もハローワークに足を運ぶと、いつも同じような法人や農家の求人がある。「前の職場もまた求人が出ている。いつも求人の出ているところは、何かしら経営者に問題がある」と悟った。そのうち、茨城県の農業法人に仕事が決まった。社長とその妻など家族3人のほか、スタッフが6人。うち3人は外国人研修生だった。
冬場はキャベツや白菜など露地野菜を中心に作っている。フルタイムの仕事だが、社会保険はない。時給制で時給1000円。月18万〜20万円になるが、雨がひどい日は休みとなるため、その分の賃金は出ない。朝7時30分頃から夕方暗くなるまでが勤務時間。1日に1000〜2000ケースは出荷する。祐樹さんは以前も大型農家でキャベツやレタスなどの収穫・出荷の経験があったが「その時はもっと多い人数で1日250ケースの出荷だった」と作業内容の厳しさを感じた。
繁忙期に臨時でアルバイトを雇っても、あまりの激務で1日と持たずに出勤しなくなる人が多いという。祐樹さん自身、働きすぎで腕が上がらなくなったり腰痛になったりもするが、それでも「前の会社に比べ、今度は勤務と勤務の間が12時間は空いているし、日曜日は必ず休めるからいい」と言う。
そうした激務について、農業を本格的に目指す以上は覚悟のうえだった祐樹さんだが、労働条件面で疑問を感じ始めた。祐樹さんは賃金の額面に不満を感じていたわけではない。ただ、入社当初は家賃補助が家賃の半分(2万3000円)支給されていたのに、ある月、何の前触れもなく2万円に減額されていた。社長に尋ねると「あ、今月から2万円になったから」と軽い一言。祐樹さんは「これでは信用して長く勤められない」と不安が募っている。
栃木県で独立した農業を目指す平林康弘さん(仮名、30代後半)は「農業だけで食べていくのは難しい」と痛感している。康弘さんも前述の祐樹さんと同様、就職氷河期の煽りを受けて“フリーター”生活を余儀なくされていたが、それにピリオドを打ち、農業で身を立てようと決意していた。
農業研修などを通して一通りの農作物を育てる技術を身につけ、農家や地方での人付き合いにも自然に溶け込めるようになった。ただ、就職先を探そうにも、「社会保険にきちんと加入しているような農業法人は滅多にない。農業法人に就職できても、同族経営で労働基準法なんてまるで無視の世界」と感じていた。
農業を自力で始めることは甘くはないと分かったうえで「次は、地域に根付いて自営で農業をやってみよう」と決意。康弘さんは、関東や東北地方を回って「終の棲家」となる地域を探した。栃木県を選び、貯金をはたいて家を600万円で購入した。中古の一軒家。購入時は無職だったため、ローンは組めず、現金で支払った。
「地域で顔つなぎができ、信頼を得れば高齢の農家から畑は借りることができる」と、康弘さんは近くのリゾートホテルでアルバイトをしながら生計を立てることにした。1日8時間働いて、月給は15万〜16万円、繁忙期は月23万円の収入となる。「最初から100%農業で生計は立てられない。スタートは農業以外の仕事もするというスタンスでいないと難しい」と話す。
新規就農者数は横ばいのまま
新規就農では、まず賃金の安さや土地や機械類の初期費用の高さなどがハードルとなっている。求人があっても月給16万円前後ということが多く、いわゆる正社員という雇用形態も決して多くはない。
全国でも農業の盛んな静岡県浜松市(2006年の市町村別農業産出額で全国4位)でも状況は同じだ。浜松市議会議員の鈴木恵氏は「時給が最低賃金に近く、1年を通じて安定した仕事はなかなかない。その賃金の安さは派遣会社もマージンをとれないために参入しないほど。国や自治体で対策事業を講じようとするが、単年度予算で考えるため、機能しづらい」と指摘。さらに「前近代的な農業法人も少なくないため、雇用問題も起きやすい。ただ、農業の近代化を目指して既存の流通システム以外で工夫する動きも出ている。1年を通じて農業収入が安定するよう経営のポートフォリオを組めるように多品目を扱う農業法人が増えれば、雇用も生まれるはず」と話す。
農林水産省によれば、農業就業人口は2010年の概数値で260万6000人(2009年実績は289万5000人)。2006年の320万5000人と比べ約60万人減少している。新規就農者数は2006年の81万人から2009年は66万8000人に減少している。直近の2008年と2009年を比べると6万8000人増加しているものの、全体の減少幅を補うには及んでいない。39歳以下の新規就農者数もここ数年、15万人前後で横ばい傾向だ。
例えば製造業やサービス業からの転職など就農希望者がいても、農業そのものとのミスマッチがあったり、教える側の農家にも余裕がないことが少なくなかったりする。繁忙期は深夜2〜3時に起床しての収穫作業もある。暴風雨や台風が来れば作物に被害が出るなど、農業の厳しさに直面して脱落する者もいる。農業を続けようという意思があっても、職場でのトラブルや農業分野のミスマッチもあり、定着するのは簡単ではなく課題は多い。
ただ、そうした中でも、祐樹さんや康弘さんのように農業に興味を持つ若者はおり、希望は残っている。だが、その芽を摘むかのように、現在、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加が議論されている。
TPPは、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールの4カ国で2006年に発効した。例外品目がなく、100%自由化を実現する包括的な自由貿易協定で、労働力の移動も起こる。2010年11月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、TPPなどの取り組みを発展させた形でアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を推進する「横浜ビジョン」を採択した。APECには21の国と地域が参加しており、経済規模は世界全体のGDP(国内総生産)の約5割を占める。実現した時の影響力が大きいことは言うまでもない。
2010年3月には米国、豪州、ベトナム、ペルーが参加の意向を示し、広域経済連携協定を目指すTPPの交渉が始まっている。10月にはマレーシアが新規に参加した。米国は2011年11月のAPEC首脳会議までの交渉妥結を目指しており、日本政府は「TPPに参加しなければ、日本抜きでアジア太平洋の貿易や投資のルール作りが進んでしまう」と焦りを見せ、6月をメドに結論を出す方針だ。
このTPPによる経済と雇用の影響は大きい。内閣府の試算では、TPP参加による効果は実質GDPで0.48〜0.65%(2兆4000億〜3兆2000億円)増となる一方で、日本がTPPなどを締結しなかった場合、実質GDPは0.13〜0.14%(6000億〜7000億円)減となると分析している。経済産業省は日本がTPPに参加しないケースで実質GDPが1.53%(10兆5000億円)の減少、雇用は81万2000人減少すると見ている。
一方で、農水省の試算では、米や麦など主要農産品19品目(林野・水産を含まない)について全世界を対象にただちに関税撤廃を行い、何の対策も講じない場合を前提に、毎年の生産は4兆1000億円の減少、食料自給率は供給熱量ベースで現在の40%から14%へ、農業の多面的機能の喪失額として、マイナス3兆7000億円と試算。また、農業および関連産業への影響として、実質GDPの1.6%に当たる7兆9000億円が減少し、就業機会は340万人程度減ると試算した。確かに、現在でも自立しにくい農業での就職がますます困難な状況になるだろう。
TPPは農業を変えるのか?
総農家数は2010年概算値で253万戸、農業人口(農家の世帯員)は2009年で697万9000人。農村に人がいなくなり、農業が荒廃した影響は雇用全体にも影響する。かつては都市部の製造業で失業しても農村がその受け皿になっていたが、今はそれがなくなったため、失業者を吸収できずに貧困層に転落せざるを得ない現実がある。そうした、日本の農業が果たす役割を見つめ直す時期が来ており、TPPによって農業分野のデフレが加速すればますます競争力を失い、それこそ日本の社会が立ち直れなくなる。
2006年の農業産出額5位の茨城県鉾田市を地盤とする、民主党の石津政雄衆議院議員は「都市部から見れば、TPP参加は魅力的かもしれない。しかし、その代償に安価な農作物などが日本に流れ込み、地方の農業は壊滅する。農村の経済貢献はわずかかもしれないが、生業として農業を営む人が姿を消してしまえば、地方に人が住めなくなる。農業や林業は環境を守る役割も果たしていることを忘れてはいけない。TPP参加によって日本の四季の恵まで消えてしまい、都市部に人が集約すればこの国は滅びる」と警鐘を鳴らす。そして「これからの国づくりは農業をはじめとする第一次産業にこそ聖地の光を当て、生業として自立できるような産業に育てていかなければならない。地方のコミュニティが元気になってこそ、国の将来の展望が開ける」としている。
内需に期待しづらい経済界にとっては海外での展開は必至で、TPPは歓迎ムードだ。農業分野にはしがらみもあり、改革が強く望まれていることも参加の世論を後押ししているように見えるが、農業の改革や近代化とTPPは別として考えることも必要ではないか。
TPPの問題について「『農業』対『他産業』」という対立関係の構図で見ることや、農業を守るためのTPPの反対意見が既得権益として見るのは問題の本質をミスリードさせてしまう可能性がある。TPPは農業だけでなく金融や医療、労働などあらゆる分野で大変革をもたらす。それが本当に日本にとって有利な展開になるかは不透明だ。
こうした中で、政府は企業に対しては法人税率を5%減税し個人には増税路線を採るなど、旧自民党政権が行ってきた企業寄りの政治を進めている。一方で国の根幹を支える農業は外国頼み。若者の間に就農希望者がいるにもかかわらず、抜本的な対策を講じていないという大きな矛盾を抱えている。
民主党内部からも「もう党には愛想が尽きた。TPP参加を強行するなら離党も辞さない」という声が挙がっている。TPP賛成派の民主党議員は「規制緩和して開国を叫び、何か目新しいことをしないと国民の注意を引けない」というだけの理由でTPPを推し進め、その功罪についての罪の部分はまるで見ようとしていないのではないか。
規制緩和という言葉の持つ“魔力”に、政治家は安易な路線に傾倒している。改革の難しさは、どんな分野でも共通しているが、それをトップのリーダーが成し遂げようとする強い意思がなければ実現はしない。その努力もなしに規制緩和に身を任せるのでは、国家が崩壊してもおかしくはない。需要のある農業分野で雇用を創出できないという現実が、この国の実力を示している。
本コラムの筆者である小林美希氏の最新刊です。医療制度に翻弄され、ギリギリの人員で長時間の夜勤をこなす看護師たち。多発する流産やうつ、過労死、これら心身の疲弊から年間10万人以上が離職し続ける現場は、超高齢化社会となる日本を支え切れるのか? 医療崩壊が叫ばれる中、看護師問題は医師不足の陰で見過ごされてきました。その深刻な実態と今後の対策を徹底追求する、初めての警告の書です。
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