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シュワルツネッガーの7年 IOUで生存権の保証
http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/580.html
投稿者 tea 日時 2011 年 1 月 08 日 18:56:09: 1W1IXELjjF6i2
 

シュワも、結構、頑張っていた
自己責任のリバタリアニズムが米国の本質のように見えるが
現実は日本の夕張以上に、弱者の生存権を保障している
キャッシュフロー保障のには民主党の中国系出納係が活躍し
そして徹底的な情報公開が重要
というお話

確かに、橋本知事の支持を見ると、共通点はあるが
成果を出せないと、やはり厳しいというのも事実



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 ■ 『from 911/USAレポート』               第492回
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「シュワルツネッガーの7年は日本の参考になるのか?」

 カリフォルニア州では、年明けとともにジェリー・ブラウン新知事(民主)が就任
し、7年間知事を務めたアーノルド・シュワルツネッガー氏は退任しました。有名な
俳優から政治家への転身、特に前任のグレイ・デイビス氏をリコールによって引きず
り下ろし、出直し選挙で勝っての就任というドラマチックなスタートで始まった7年
でした。ですが、そもそもデイビス州政への「ノー」の原因となった破綻寸前の州財
政については、結果を出せなかった、多くの報道はそんなトーンになっています。と
にかく、このシュワルツネッガー氏の7年間については、大規模な山火事にあたって
陣頭指揮が好評だったという以外は、やはり辛口の評価が主となっています。

 結果が出なかったというのは、カリフォルニア州の債務を減らすどころか三倍に増
やしたということに尽きると思います。では、彼の州政は失敗だったのでしょうか? 
この点に関しては評価が非常に難しいところです。7年間で債務を三倍にしたという
のは、勿論全く褒められた話ではないのですが、このボロボロガタガタであったカリ
フォルニア州を、正にその中心地であった「サブプライム破綻」、そしてその連鎖と
しての「リーマンショック」という大波にも関わらず「破綻させずに7年間延命させ
た」というのは大変な手腕だということも言えなくもありません。

 彼は無策であったのではなく、逆に7年間ありとあらゆる手段を講じ続けてカリ
フォルニアを「死なない」ようにしたのです。それは、この人が俳優時代に演じてき
た「猛烈な破壊と混乱の中から正義を救い出すカタルシス」とは全く対極の行動でし
た。非常な困難の中で粘り強い調整を続けて、結果的に破綻を防いだのです。ではど
うやって破綻を防いだのかというと、徹底してキャッシュフローを守った、つまり
「資金ショート」に陥らないための政策を続けたということです。倒産寸前の会社が
資金繰りに奔走する、正にこれと一緒です。

 最大の危機は2009年6月でした。州のキャッシュは底をつき、7月から州政府
は対外的な支払いを「レジスタード・ワラント」で行う、そう発表したのです。この
「レジスタード・ワラント」というのは写真を見ると精巧なデザインが施してあった
り「小切手」や「公債の債券」に似ているのですが、実はそう簡単に換金できない、
いわば「借金の証文」です。この構想が発表されると、この「レジスタード・ワラン
ト」のことは「IOU(アイ・オウ・ユー)」というニックネームで呼ばれることに
なりました。“I owe you.”つまり「アンタには借りがある」というわけで、正に私
的な借金の証文というわけです。

 公務員への給与、州民への税還付、納入業者への支払いなどは全てIOUになると
されました。このIOUですが、州としては3ヶ月後に金利をつけて換金する一方で、
一部の銀行では即時換金が可能なはずだったのですが、その後「危険?」と見た多く
の大手銀行が換金業務を拒否したり、混乱のスタートとなりました。何と言っても州
財政の破綻イコール、このIOUは紙切れになる危険があるからです。ですが、州法
で「公債の発行限度」が決まっている中で、他に手段がないというわけで、以降は昨
年2010年までIOUの発行はズルズルと続いています。

 極端に言えば、会社が倒産しそうになったが、手形も小切手も切れないし貸してく
れる銀行もないので、自分で勝手に「借金の証文」を印刷して、取引先への支払いや
従業員への給与はその「紙切れ」でやっているというわけです。キャッシュの足りな
い分は、とにかくそうした方法を取ってきたのです。このIOUの利用を考えだした
のは、中国系の「ステート・コントローラー(州の出納役)」のジョン・チャンとい
う人でした。大恐慌の時代に一回だけ前例があるというこの制度を「伝家の宝刀」と
いうよりも「恥を忍んで」持ち出したというわけです。出納役が公選というのもいか
にもカリフォルニアですが、選挙で勝って就任したチャン氏は民主党員で、基本的に
は「歳出カット」には反対のスタンスです。

 歳出が大幅カットできないなら「資金繰り」を工夫すればいいということからIO
Uが登場することになったのですが、このIOUというのは、要するに借金です、カ
リフォルニアの州法(アメリカの連邦や各州は同様の法律を持っています)は、財政
破綻を防止するために過剰な債務や公債発行にストップをかける規定があるのですが、
その州法の「スキ」をついたIOUという手段で要するに「借金を増やすこと」に成
功したというわけです。IOU以外にも、時には法改正をやりながらとにかく「カネ
を借りられるようにして」破綻を防いだ、それが「キャッシュフロー州政」というわ
けです。

 ちなみに、歳出カットも勿論進めています。話題になったのは、バークレー校やロ
サンゼルス校で有名な巨大な州立大学システムの「UC」での経費節減と、学費の大
幅アップでした。学生がストライキを打って当局と衝突するなど、まるで60年代に
タイムスリップしたような光景が現出したわけですが、反対を押し切ってでもこうし
たリストラが可能になった背景には、シュワルツネッガー前知事の特殊な立ち位置が
ありました。

 他でもありません。奥さんのマリア・シュライバーさんは故ジョン・ケネディ大統
領や、同じく故人となったテッド・ケネディ上院議員の姪に当たるわけで、マリアさ
ん自身が2008年の大統領選で公然とオバマを支持するなど、姻戚関係として巨大
な民主党人脈があるのです。非常に強いカリフォルニアの公務員組合や教員団体など
を敵に回しつつ、とにかく落とし所へ持って行けた背景には、こうした民主党との
チャネルが機能したという見方もあります。その意味で、チャン出納役が民主党とい
うのは象徴的です。

 では、こうした「シュワルツネッガーの7年」は、財政危機に苦しむ日本の中央政
府や地方公共団体に取っては何か参考になる点があるのでしょうか? カリフォルニ
アの危機も、例えば日本の中央政府や大阪の問題などは余りに深刻である一方で、複
雑な背景がそれぞれにあり、単純な比較は不可能です。ですが、少し問題を解きほぐ
して考えると、良い意味でも悪い意味でも参考にはなると思う点があります。

 一つ目は、制度的にはカリフォルニアの方がガラス張りだということです。日本の
地方の場合は交付金あり、中央政府のダイレクトな資金提供ありという中で、中央と
地方の権限や予算配分は入り組んでいます。地方債に対する中央政府の保証は、原則
論はともかく現在でも実質的には続いています。また中央には埋蔵金やら特別会計や
ら、様々なポケットもあります。更に言えば、国債にしても、地方債にしても完全に
閉鎖した「円」の世界で動いている(東京など一部を除く)ために、グローバルなマ
ーケットの洗礼は受けないまま国内で消化されており、異常な低金利で発行できてい
るという問題もあると思います。

 その意味で、今回のカリフォルニアの問題にあるような、地方が完全に独立採算と
いうシステムの中で、否が応でも財政を破綻しないように経営しなくてはいけない厳
しい状況というのは、日本にとって参考になると思います。また、ポピュリズムが混
入する副作用はあるものの、知事だけでなく、収入役から司法長官など主要な公職が
公選になっており、相互牽制作用が強力に働いて少なくとも法的な客観性は高いレベ
ルで確保されているというのも参考になります。

 二つ目は、大きな政府論と小さな政府論の対決で論点が明確になっている点です。
知事だけでなく議会もこの両派のどちらかに属しているので、非常に単純化して言え
ば、民主党は「福祉を切るな」という観点から「まだ財源があるはずだ」とか、チャ
ン出納役などは「こんなウルトラCを使えば資金繰りのメドが立つぞ」ということを
ゴリゴリ押してくるわけです。一方で共和党の方も、事実と数字を根拠に「そんなこ
とをしたら本当に州が潰れる」という論陣を張る、勿論そこにはどの国の「政治」に
もつきものの寝技も力技も裏切りもあるのですが、とにかく論戦の中身が具体的にな
るという効果は大きいと思います。

 三つ目は、そうではあっても憲法上の生存権に絡む問題や治安維持など緊急性のあ
る問題は例外になるという原則は壊れていないという点です。例えば、日本の場合で
すと自治体が破綻すると、夕張の場合などは、一部の報道によれば救急や消防の体制
までリストラされているということのようです。ですが、カリフォルニアでもそうで
すが、安全に関わる問題、生存権に関わる問題については州の憲法に照らしてたとえ
公務員の給料が遅配になろうが(実際にIOUでそうなっています)、州政府が破綻
しようが保証しなくてはならない、アメリカでは原則としてそうした運用になってい
ます。

 日本では「いのちを守る」というのは国際社会を知らない空想的な既得権者が言っ
ているだけで、自由競争社会では餓死する人が出ても仕方がないというような理解が
一部にはありますが、「本家」のアメリカでは「餓死を見過ごす」ようなことは絶対
にありません。労働法制もそうですが「前近代の弱肉強食に戻すこと」を「アメリカ
発の新自由主義だ」などというのは歪められた議論だと思います。

 四つ目は、これは逆にダメな点ですが、住民投票制度による「バラマキはして欲し
いが、増税はイヤ。不況時は救済してほしい」という「民意のワガママ」がコントロ
ール不能になっていることです。カリフォルニアが他州とは違う深刻度に至っている
のはこの問題が大きいように思います。これも日本の議論ですが、「民主主義2.0」
などといってネット直接民主制を進める主張があるようです。こうした主張に関して
は、現在の日本の間接民主制が高齢者に有利になっている点を是正する効果という意
味では戦術の一つとして認めますが、その点を別にすれば直接民主制には欠陥がある
ということを忘れています。

 というのは、有権者の直接の利害や欲望をストレートに直接民主制に乗せてしまう
と「公共サービスは欲しいが税金は払いたくない」という矛盾を起こしてしまうから
です。この点に関して言えば、公約を掲げて当選した代議員の議会での投票行動を有
権者が継続監視するという間接民主制の方が機能的なのです。ただ日本の場合は、民
意を受けた議員が自身の選挙区民意に反してでも党議拘束に縛られてしまうことで、
民意と決定の間に「間接」どころか「分断」があるのです。直接民主制を言う前に、
とにかく首班指名以外の党議拘束を外すことが先決でしょう。

 五つ目は、カリフォルニアが大量の移民を抱え、更には不法移民も抱えて多様性を
持った社会を実現しているため、それぞれのグループの利害や権利を調整する中で財
政の身動きが取れなくなって行ったという問題です。これも良くない点ですが、ある
意味では宿命的なものだとも言えるでしょう。というわけで、カリフォルニアの財政
危機は日本の中央政府にとっても、各地方自治体にとっても全く人ごとではありませ
ん。ですが、この財政危機問題に関する日本の報道は全くピントが外れているようで
す。この点に関して特に気になるのは二点です。

 一つは財政再建というのは形式論ではないということです。具体的には単年度主義
ではダメだし、リターンのある投資は軽率にカットしてはダメだということです。今
の日本の民主党政権の「資金繰り」がダメなのは、公務員改革をやる気がないという
点はさておき、単年度で帳尻合わせができれば良いという方法論に乗せられているこ
と、そして「仕分け」に見られるように「産業活性化などリターンのある施策」を優
先するという発想がないことです。各地方の問題も同様に思います。

 もう一つは、大阪の府市統合問題、名古屋の議員歳費カット、阿久根の市役所人件
費の問題などは、「個別の権力闘争」でもなければ「既得権者を叩いてスカっとした
い壊し屋の活躍」でも何でもないということです。それぞれの地方公共団体は財政破
綻に瀕しているのです。危機はカリフォルニアほど切迫してはいないかもしれません
が、深刻度は同じです。そのリストラの第一歩として、福祉カットではなく議員の人
件費などから手を付けようとしているだけです。名古屋は一見良さそうですが、累積
債務は大きいですし、「トヨタ・バブル」の遺産としての高コスト体質は重くのしか
かっているわけで、河村市長は「話を分かりやすくするために」減税と議員歳費の話
から始めているだけだと思います。

 ですから「劇場型」のドラマとして報道するのは間違っています。どのぐらい財政
が危機的なのか、どうすれば再生できるのか、合意形成の障害は何か、といったこと
を事実に基づいて冷静にそして現実を直視すべきなのです。その上で、選択肢を民意
に提示する責任がある、その責任を地方議員やメディアは放棄しているように見えま
す。橋本知事も、河村市長も、竹原前市長も、多少方法論は粗っぽいですが、要は問
題提起をしているだけです。彼等が主役であるわけではありません。主役は住民であ
り、このまま放置すれば住民の生活に大きなマイナスの影響が出てしまうのです。

 ちなみに東京都は事情が違います。日本の中央政府や他の地方公共団体、あるいは
先進諸国の国や地方と比較すると、財政状況が「ずっと良い」のです。この問題につ
いては(1)日本全体がダメになる中、東京が成功事例として他に良い影響を与える
よう牽引する役割を強化するのか、(2)例えば東京都と大阪都(?)を合併して財
政破綻を避けるとか、東京都にマイナスの交付税を課すなど東京の富は他に還元すべ
きとするのか、あるいは(3)東京は自助努力で地方交付税の不交付団体になってい
るのだから国税が払い損になっておりもっと優遇されるべきとするのか、三つの選択
肢があるように思います。

 今年の都知事選では、そうした問題が争点となるべきだと思います。例えば宮崎の
厳しい県政を経験した東国原氏が都知事を目指すのであれば(1)にするのか(2)
になるのか、いずれにしても大胆な政策を期待したいと思いますし、国政の仕分けに
苦労した蓮舫氏の場合なら東京の「財源」を国に差し出すような姿勢になるのか、逆
に都政も「仕分け」して将来に備えるなど、仮に出馬するのであれば財政に関する明
確な姿勢が求められます。一方で、都政があまり(3)に近くなるようだと地方が
怒って反乱を起すかもしれません。それはそれで地方分権は進むのではないかという
考えも可能ですが、東京都と地方が喧嘩している構図というのは、中央政府の問題解
決を更に先送りすることになり余り感心しません。

 カリフォルニアに話を戻すと、シュワルツネッガー氏は「大ナタ」を振るうことは
できませんでした。とにかく調整を続け、債務を増やしてでもキャッシュを調達して
州を延命しただけでした。公認のジェリー・ブラウン知事は70年代に二期8年ほど
同州の知事を務めた際には、大胆な浪費カットを成功させて黒字の会計年度を実現す
るなど、財政再建に大きな実績を上げています。勿論、現在の情勢は当時より悪化し
ていますが、ブラウン知事はシュワルツネッガー州政当時には州司法長官を務めてい
ますし、州財政と州法体系の実務に精通した人物のようです。もしかしたら、実務的
な改革を積み重ねて成果を出すかもしれません。これに加えて、今年、2011年の
アメリカ政界では、2012年の大統領選挙を意識しつつ、連邦政府の財政再建問題
が大きな課題になっていくことと思われます。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )
 

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