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所得を「逆分配」する国
池田信夫提供:池田信夫blog
2010年09月10日09時56分
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ニューズウィークで「日本の社会保障で所得はかえって不平等になる」と書いたら、「それは本当か」というコメントをもらったので、そのデータを示しておこう。次の表は太田清氏の論文から借りたものだ。
これはOECDの対日経済審査報告のデータを検証したものだが、たとえば全年齢のジニ係数(高いほうが不平等)でみると、日本は所得再分配前の「市場所得」では調査対象となった14ヶ国のうち11位と平等なほうから4番目だが、再分配後の「可処分所得」では5位と順位が上がっている。特に労働年齢層の悪化がひどく、再分配によってランクが7つ上がっている。
多くの場合は絶対的なジニ係数や貧困率が上がっているわけではなく、分配前と分配後でほとんど変わっていないだけだ。しかし子供のある家庭では、前の記事でも紹介したように、再分配によって貧困率が上がっている。こうしたゆがみの原因として、太田氏は次の2つをあげている:
労働年齢層(現役世代)への社会保障給付が小さいことのほか、税による再分配が小さいことも量的にはかなり寄与している。相対的貧困率との関係では、中間層と低所得者の税率の差が小さいこと、特に欧米との比較で中間層の税率が低いことが、日本の相対的貧困率を高くする方向に影響している。
労働年齢層(現役世代)への社会保障給付が少ない中、昨今、少子化対策として注目されている家族政策支出等が小さいことが、特に子供のいる世帯の相対的貧困率を多くの欧州諸国と比べて高めのものとしている可能性がある。
日本の社会保障は、その再分配の7割以上が老人福祉にあてられているため、所得の低い人に高い人の所得を再分配する機能をほとんど果たしていないのだ。高齢者の所得は低いが、家計貯蓄の7割近くを60歳以上がもっているため、これは貧しい勤労者から豊かな高齢者への逆分配になっている。
このゆがみは、団塊の世代が年金生活に入る2012年以降、急速に拡大する。特に日本の年金会計は3割が国庫負担になっているため、財政危機も悪化させる。また消費性向の高い勤労者から低い高齢者に所得を移転することは、成長率を低下させる。消費税が「逆進的だ」などと騒いでいる人がいるが、国民年金はサッチャー政権でさえできなかった人頭税である。
必要なのは無原則に金をばらまく「強い社会保障」ではなく、高所得者への年金支給額などをカットして所得に応じた分配にすることだ。根本的な解決策としては、負の所得税やベーシック・インカムのような一律の再分配に変更する必要がある。それは老人べったりの民主党政権では不可能だが、若者が団結して要求すれば遠い将来の政治的アジェンダにはなるかもしれない。
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