08. 2011年1月06日 21:54:23: cqRnZH2CUM
日経ビジネス オンライントップ>政治・社会>時事深層 2011年、民主党はこう変われ 日本浮揚へのマニフェスト改革 * 2011年1月4日 火曜日 * 細田 孝宏,蛯谷 敏,小瀧 麻理子 民主党 マニフェスト 菅直人政権 日本経済再生 日本 政策 日本経済再生に向け、菅直人政権が優先すべき政策は何か。民間エコノミスト、経済学者、政治学者らにアンケートを実施した。2011年のカギは「消費増税」「TPPへの参加推進」「人口減への対応」だ。 2011年、日本にとって待ったなしの政策は何か――。 政権交代から1年3カ月が過ぎた。民主党が掲げてきたマニフェスト(政権公約)には、その実現性に疑問符がつけられたままだ。2010年12月3日に閉会した臨時国会では、政府提出法案の成立率が37.8%と過去10年で最低を記録。依然として政策の実行能力に不安がぬぐえない。 もはや民主党がマニフェスト通りに政策を実施できると思う人は皆無だろう。新年を迎えるに当たり、「日経ビジネス」では、民間エコノミスト、経済学者、政治学者などの識者10人に「民主党政権の政策」についてアンケートを実施した。 消費増税、10人中9人が賛成 2011年、日本の重点政策と考えられているのは次の3つだった。「消費増税」「TPP(環太平洋経済連携協定)への参加推進」「人口減への対応」だ。 消費増税は、2010年7月の参院選の最中、菅直人首相が突如としてぶち上げ、その唐突さも一因となって参院過半数割れという大惨敗につながった。 菅首相はその後、消費税問題にすっかり口をつぐんだが、GDP(国内総生産)の2倍に迫る水準まで積み上がった政府債務の現実を踏まえると、もはや猶予はない。財務省の試算では、高齢化の進行によって社会保障関連費用は今後も毎年1兆円規模で膨らむ。アンケートでは回答者10人中9人までが「(増税を)実施すべき」と答えている。 当面は自民党も提案したように、税率を5%引き上げて10%にする案が軸になるが、個人消費を冷やし景気に悪影響を与える可能性もある。龍谷大学の竹中正治教授は「毎年度1%ずつ引き上げて、5年後に消費税10%にする方法も考えられる」と提唱する。 ただし、10%まで税率を上げれば財政問題が解決するとは限らない。「菅首相が掲げる『強い社会保障』を実現しようとするなら、消費税率は20%でも足りないだろう」と、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは指摘する。消費増税と社会保障充実の具体策を示したうえで、支持を得られるよう有権者を説得できるか。政権の力量が問われる。 その消費増税に影響を与えそうなのが、共通番号制の導入議論だ。国民全員に個別番号を割り当て、所得や税、社会保障情報を一元管理する制度。所得を捕捉しやすくすることで課税漏れを防ぎ、同時に社会保障のサービスを利用する際の手続きも簡素化できる。 消費増税は低所得者層の負担が重くなる「逆進性」を克服するため、低所得者に現金給付するといった逆進性の緩和策が同時に議論の俎上に載る可能性がある。こうした現金給付は所得を正確に把握できる共通番号制の導入が前提となる。 制度の導入には民主党政権も前向きな姿勢を見せているが、一方でプライバシー保護の観点から異論を挟む向きもある。実際に自民党政権時代には何度も導入に失敗した。ただ、今のところ「(導入議論に対して)これだけメディアが反対しないのは初めてのこと」(双日総合研究所の吉崎達彦・取締役副所長)との期待が出ている。 TPP、日本は蚊帳の外 消費増税と並んで重視されたのが「TPPへの参加推進」だ。アジア・太平洋地域の自由貿易圏構築に向けた動きで、参加には工業製品や農産物などの関税撤廃が原則とされる。日本では自動車など輸出産業には追い風となるため、経済界が参加を求める一方、安価な農産物が海外から押し寄せるとの懸念から農業団体などが反対している。 このTPPについて、菅首相は「平成の開国」として積極姿勢を示していた。にもかかわらず、農家などからの反対論を前に、2010年11月に横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議では、明確な参加表明ができずに終わった。 現在、参加予定の国々が枠組み作りを進めているが、参加表明を見送った日本は蚊帳の外に置かれたままだ。自由貿易圏構築に出遅れることに対して、アンケートでも強い危機感がうかがえる。消費増税同様、10人中9人が「(TPPに)参加すべき」と答えた。 「参加しなければ、米国や欧州とFTA(自由貿易協定)を締結するなどした韓国との競争でも不利になる。円高で厳しい環境に置かれているのに、さらに差をつけられる」と、日本総合研究所の湯元健治理事は懸念する。 TPPへの参加について、政府は2011年6月までに結論を出す方針で、行方を左右するのが国内農業の保護策だ。既にコメ農家への戸別所得補償を実施しているが、対象がさらに拡大すれば財政の重荷となる可能性がある。 人口減という中期的な課題に対して手を打つべきだという声も出ている。 「子供、観光客、移民という日本に滞在する人口の増加が見込めるような政策が必要。高齢化社会の本格化に備え、移民による看護人材が欠かせなくなるが、現在は要件が厳しすぎる」。みずほ証券の上野氏はこう訴える。 少子化対策に効果があるとの期待で導入した子ども手当については、「将来世代の利益に配慮した点で重要。効果的な制度にして活用すべき」(東京工業大学大学院の谷口尚子准教授)と評価する声もあるが、財源の手当てを巡る迷走は止まっていない。 混迷が続く理由は、政策によっては何のためにやるのか、目的がはっきりしないものが目立つからだ。本アンケートでもそうした指摘があった。子ども手当はその一例だろう。 不明確な政策目標がブレ生む 「少子化対策ならフランスのように2人目以降の子供に手厚く支給するような制度設計をすべき。景気対策なら、(その財源として)扶養控除や配偶者控除などの廃止が議論されるのはおかしい。格差是正が狙いならなぜ支給対象者の所得制限をしないのか」(日本総研の湯元理事)。アンケートでも子ども手当については修正や撤回を求める回答が多い。 同じ疑問は高速道路無料化にも当てはまる。「環境への配慮ということで環境税も含めた様々な対策を打ち出す一方で、二酸化炭素の排出を増やす高速道路無料化をやっている」。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは首をかしげる。 政策目標がはっきりしていないと何が起きるか。軸足が定まっていないからブレる。前原誠司・前国土交通相が事業中止を明言した八ツ場ダムは、菅政権の馬淵澄夫・国交相が中止方針を撤回した。 もっとも、菅首相は自らの目指すべき方向は示している。「強い経済、強い財政、強い社会保障」あるいは「第3の道」とアピールしていたのは記憶に新しい。 欠けているのは優先順位づけだ。「何をやりたいかよりも、やりやすいものからとりあえずやっている。結果、重要政策にはほとんど手がつけられていない」。JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストはこんな印象を持っている。 もう1つの「ねじれ」表面化へ 財源が限られる中、政策の優先順位づけに必要なのは首相のリーダーシップだ。その点、2011年はさらに厳しい現実が待ち構えている。政権の実行力の足を引っ張っている「ねじれ国会」に加え、もう1つのねじれが予想されているからだ。 「2011年度の予算関連法を審議する過程で、『農業保護派対TPP推進派』という民主党内のねじれが表面化するだろう」。バークレイズ・キャピタル証券の森田京平チーフエコノミストはこう予想する。 TPPを巡る混乱は民主党の内実を明らかにした。都市部を基盤に勢力を伸ばしてきたはずの民主党が、農村部を中核基盤とする自民党と本質的に同じ構造だったことを露呈し、賛否を巡って党内が真っ二つに割れた。いわば「第2自民党」化したのだ。 TPPへの参加を前提に、政府は2011年6月に農業強化策の基本方針をまとめることになっている。だが、こうした党内事情を考えると、議論の先行きは不透明だと言わざるを得ない。そうした閉塞感を打破するために、政界再編を求める声もある。「TPPを軸に自民党の推進派と組むべきだ」。龍谷大学の竹中教授はこう主張する。 民主・自民の大連立構想については「国民が政権を選べなくなる」(東京工大の谷口准教授)との見方もあるが、このまま無為に時が流れれば、日本の地位は低下するばかりだ。 (写真左端:大槻純一) (写真左から4番目:朝日新聞社、右端:的野弘路) このコラムについて 時事深層 日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。 ⇒ 記事一覧
|