http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/545.html
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悪い要因は、空洞化続行、社会保障コスト増、政治要因、民度の劣化、海外インフレ懸念など、いろいろあるが
良い要因は、遅行指数である雇用の改善や海外需要の伸びが見込める程度であるが、どうも弱いらしい。
過剰な悲観は禁物だが基本的に弱気派が強いとなると日本の凋落も続行ということか
転載
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
◆編集長から
【Q:1144】
◇回答(寄稿順)
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
□水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
□北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□津田栄 :経済評論家
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■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:1144への回答、ありがとうございました。2010年はあっという間に終
わってしまい、新しい年がはじまったという実感がなかなか持てないでいます。ねじ
れ国会、小沢一朗を巡る政治の空白、尖閣諸島・朝鮮半島の緊張、欧州の財政危機、
ドル覇権の凋落など、面倒なことばかりが目につき、ポジティブな変化の予兆がほと
んど見当たらなかったことも一因かも知れません。
変化の必要性をアナウンスするのは、当然メディアと文化の役割です。大晦日、紅
白歌合戦を見ましたが、途中で「歌の力」という曲の合唱がありました。「歌の力」
という曲そのものは悪くないのですが、大衆のための歌が自律的な力を持っている時
代には「歌の力」というような歌は必要とされません。あのような歌が必要とされる
ということは、歌が力を失っている時代だという証ではないかと思いました。
これまで何度かエッセイなどで書きましたが、大衆的な歌は、国民的な悲しみがあ
るときに必要とされます。第2次大戦後、シャンソンやカンツォーネのすばらしい歌
がいくつも生まれました。また、「ブルー・ヴェルヴェット」に代表されるアメリカ
の50年代のポップスも輝いていました。その流れはビーチボーイズやビートルズと
いう偉大なグループまで続いたあと、「ポップス、ロック、ジャズの終焉」という形
で、80年代のどこかで終わってしまったとわたしは考えています。
NHKは、「紅白歌合戦」という旧態依然としたイベントを続けることで、「変化
など必要ない」というメッセージを毎年送り続けていることに気づいていないようで
す。高度成長のころ、紅白歌合戦は国民的な楽しみでした。高度成長の負の部分、つ
まり若くして故郷を離れる辛さ、開発によって変わっていく風景、ハードな労働など
ですが、当時の歌謡曲や演歌やフォークソングは、苦しみや悲しみを癒してくれたの
です。しかし、紅白歌合戦が持っていた役割は、もうとっくに消滅しています。
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■次回の質問【Q:1145】
就職状況は、超氷河期と言われています。厳しい就職活動を行っている大学、高校
生に対し、何か励ましの言葉、アドバイスがあれば、お聞きしたいと思います。
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村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
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■Q:1144
2011年が、2010年よりも、日本経済にとってよい年になるという指標、兆
候のようなものは、何かあるのでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
わが国の国内需要に関する指標をみると、景気回復を下支えする兆候を見ることが
できます。まず、目に付くのは労働市場に関する指標があります。大学新卒の内定率
などは依然、厳しい状況が続いていますが、家計を取り巻く所得・雇用環境は下げ止
まりの兆候が見られます。半期ベースの失業率は、2009年度上期の5.3%から
少しずつ改善しており、それに伴い、雇用者所得も2009年度のマイナス基調から、
2010年度にはプラス基調に戻ると予想されます。
一人あたりの所得も、2009年度の前年比減少に歯止めが掛かり、おそらく20
10年度は前年対比で水面上に浮上すると見られます。政府のエコポイントなどの経
済対策の影響や、雇用・所得環境の下げ止まり感が出ていることもあり、つい最近ま
で国内の個人消費は底堅い動向を示してきました。今後、雇用・所得環境の改善が進
むと、個人消費は景気の下支え役を果たしてくれると期待できるかもしれません。
また、家計部門では、住宅投資も底堅い動きを示しています。その背景には、金利
が低下して住宅ローンを組み易い状況になっていることに加えて、都市部の住宅地の
価格に下げ止まりの兆候が見えていることがあると考えます。住宅投資自体は、需要
項目の中でそれ程大きな比重を占めているわけではありませんが、住宅産業はすそ野
の広い産業分野であることを勘案すると、それなりの効果は期待できるはずです。
一方、企業セクターの経済活動を見ると、設備投資が底を打って緩やかながらも、
少しずつ上昇傾向を辿りそうな兆候が見られます。その背景には、2008年の年央
以降、企業経営者が設備投資を大幅に絞った反動が出ていることと、海外、特に新興
国向けの輸出や事業展開が活発化していることがあると思います。
それは、設備投資の先行指数といわれる機械受注の動向をみると、すう勢として上
昇していることが見て取れます。また、民間部門の非居住の建築着工床面積を見ても、
上昇トレンドを形成しつつあるように見えます。企業が、工場を建てているか、建て
増していることを意味します。今後、そうしたトレンドが定着すると、経済を下から
支える要因になるはずです。
一方、足元の経済状況をもう少し掘り下げてみると、2011年も、不透明要因の
多い、一筋縄ではいかない年になりそうな気がします。個人消費は、つい最近まで底
堅い足取りを示してきたのですが、その主な理由である、政府の経済対策の効果がは
く落することを忘れてはならないでしょう。自動車の販売台数は既に、10月以降、
大きく落ち込んでいます。
これから、薄型テレビの販売台数は、エコポイントなどの効果の反動が出てくると
みられます。来年7月から開始される地上デジタル放送の効果も、かなりの部分、先
食いしている可能性があります。反動減が現実の問題になると、来年7月以降、テレ
ビの販売台数は落ち込むことになるでしょう。それは、経済にとって大きなマイナス
になる可能性があります。
もう一つ気になることがあります。それは、現在、堅調な展開を示している中国や
インドなどの主要新興国でインフレが台頭する懸念です。既に、中国は、不動産価格
や消費者物価の上昇に歯止めを掛けるために、金融政策を引き締め型に変更していま
す。他の主要新興国も同様な措置を取ると予想されます。金融を引き締めると経済に
ブレーキが掛かりますから、新興国の景気に減速感が出ることも考えられます。
そうなると、わが国からの新興国向け輸出が伸び悩むことになります。既に、一部
の新興国向け輸出には弱含みの兆候が見え始めており、そうした傾向が一段と顕著に
なってくると、輸出が伸び悩むだけではなく、雇用・所得環境、さらには設備投資意
欲にも悪影響が出ることが予想されます。やはり、来年も単純に回復に向かうシナリ
オは描きにくいと思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
2011年の日本経済が2010年より明るいといえるのは、米国経済と為替など
海外要因でしょう。米国経済は今年半ばに二番底懸念が高まりましたが、QE2(量
的金融緩和)やブッシュ減税の延長によって、急速に景気回復期待が高まり、足元の
クリスマス商戦も好調だったと報じられています。メリルリンチの米国エコノミスト
も、2011年の米国の実質GDP成長率予想を2.3%から2.8%へ引き上げま
した。需要項目別では、設備投資が最初の回復のリード役になり、住宅投資が続き、
最後に個人消費が回復に向かうという予想です。
米国が日本同様のデフレに陥るという懸念から、米国の10年国債利回りは10月
に2.4%まで低下しましたが、インフレ期待の高まりを背景に3.4%まで上昇し
てきました。2011年は米国10年国債利回りが4%程度へ上方する一方、日本の
10年国債利回りの上昇はせいぜい1.5%程度と予想されます。日本ではインフレ
期待が高まるとは予想されないうえ、国内機関投資家の押し目買いする傾向が強いた
めです。この結果、日米金利差の拡大、ひいては円安ドル高が予想されます。メリル
リンチの為替チームは、円の対ドルレートが2011年末に88まで下落すると予想
しています。日経平均は米国の10年国債利回りとの相関が高く、単純な回帰分析に
基づくと、米国10年国債利回りが4%であれば、日経平均は1万1800円まで上
昇することになります。米国景気の回復と円安ドル高は、日本の米国向け輸出や、日
本企業の米国売上を回復させるので、日本経済にポジティブです。
中国は12月25日に0.25%の利上げを行いました。インフレ懸念の高まりが、
利上げの理由ですが、内需の強さの現れでもあります。2011年は金融引き締めが
強められるでしょうが、2011年の中国の実質GDP成長率が8%を下回るという
予想はほとんどありません。中国以外のアジア各国も、インフレ懸念が強まり、金融
引き締め傾向で、資本規制も強化されていますが、2011年の日本を除くアジア太
平洋地域は、7%程度の高成長の継続が予想されます。日本の地域別の輸出比率は、
アジアが56%であるのに対して、米国は16%ですので、アジア経由の米国向け間
接輸出を考慮しても、日本にとって、アジア経済の好調は米国並みに重要です。
一方、2011年も日本の内需に明るい兆しはないといえましょう。3歳未満の子
供手当てが1万3000円から2万円に拡大されますが、ブッシュ減税が継続された
米国と異なり、日本では高額所得者は大きく増税されます。少子化が止まる兆しはな
く、社会保障不安も継続されますので、個人消費が拡大するとは予想されません。法
人実効税率が5%引き下げられますが、企業の設備投資は海外中心であり、国内投資
が下げ止まっても、増えるとは予想されません。企業の海外脱出が継続するでしょう。
海外経済の回復で、電子部品の在庫調整が2011年1?3月に終了すると予想され
ることはポジティブです。
日本の実質GDP成長率は、2010年の4%から2011年は1.6%への減速
が予想されます。高校卒で5割、大卒で6割といわれる就職内定率は、日本の構造問
題の象徴といえます。日本企業は、輸出企業のみならず、内需企業まで、停滞する内
需を避けて、海外事業を拡大する必要性が高まっています。しかし、日本は人的資源
の生産性が低下し、グローバル事業に必要な語学力や忍耐力を持つ人材が育っていま
せん。日本の大学新卒者や若手労働者は、中国や韓国の人材に、語学力、やる気、計
算力などで敵わなくなってきています。日本には優秀な人材しか、他国に誇れる生産
資源はないため、時間はかかるでしょうが、日本経済の持続的成長のためには人材力
の再強化が求められます。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
何一つ見当たりません、というと元も子もない答えですが、残念ながら、何一つ見
当たらないというしかありません。様々な観点で論ずることが出来るでしょうが、こ
こでは、あくまでクレジットの観点から見ていくこととします。
日本経済に影響を与える海外要因から見ていくと、まず欧州です。欧州の財政赤字
問題はいよいよ拍車をかけていくことが考えられます。格付け機関はマーケットが休
んでいる間にと、勢いをつけて、ソブリンの格下げをしていることが目に付きますが、
こうした傾向は2011年初から、リスクが顕在化する前兆とも言えます(格付けが
後付けとの解釈もできますが)。格付けが下がって、投資家がいなくなれば、欧州地
域の資金調達は、これまでどおりECB依存のままとなり、悪循環を断ち切ることが
出来ません。アイルランドが2月に総選挙をしますが、与党大敗による財政赤字問題
の再燃さえ予想されます。イタリアではベルルスコーニ首相が辛うじて内閣不信任案
を否決したものの、政権に勢いがないことは確かです。政権ががたつき、財政赤字の
肥大化に歯止めがかけられない。それが格下げを招き、資金調達難が続く、という構
造が長引けば、欧州経済の疲弊がユーロ問題に更に発展します。金融機関の問題が大
きくなれば、投資マネーに変調を来します。また、グローバル経済はユーロ安による
貿易上の悪影響を受けざるを得ません。日本の各企業もユーロ安による赤字が出てく
る可能性があります。
米国経済にも問題があります。米国には三つのアキレス腱があると私は考えていま
す。一つが米国の地方財政赤字です。カリフォルニア州が財政非常事態宣言をしてい
るのはその一例です。その割には、米国のマクロ統計が非常に強くなっていること、
足元のクリスマス商戦も良好との話なのですが、米国の地方景気は決してよくありま
せん。その煽りを受けているからこそ、地方銀行が12月28日現在161行(FD
ICによる)も破綻しているのだと言っていいと思います。にも関わらず、全体的な
統計は強い。これはいかにもおかしい。どちらかが間違っているのだと思います。二
つ目が、住宅ローン問題。今現在、サブプライム問題と同程度のローン残高を有して
いるオプションARMの借り換えのピークを迎えています。QE2の適用もそのため
ではないかと穿って見ているくらいですが、いずれにせよ、この問題からほころびが
出てくることも有り得ないシナリオではありません。三つ目は米国地銀の収益の低下
です。欧州だけの問題かと思っていた金融問題が実は米国にも、となったときの、マ
ーケットインパクトは大変なものがあるでしょう。
中国や新興国についても安心はできません。まだ2011年は大丈夫かもしれませ
んが、中国は日本以上に早く高齢化していく構造問題を抱えているわけですから、中
国経済の発展を中国当局がやや急いでいる節があります。そのためか、蓄えた外貨準
備を振りかざして世界中に権力を使おうとしているのではないかとの意図も見え隠れ
します。新興国については、他に行き場のなくなった投資マネーが、我先にと向かい
過ぎたため、既に吸収できない状況に陥りつつあります。
日本についても、暗澹たる思いがします。財政赤字問題がその最たるもの、です。
予算が何とか成立したものの、つぎはぎだらけのものとなりました。2011年4月
の統一地方選挙で、また、国民人気を考えた政策だけが横行していく可能性もありま
すし、民主党大敗による連立政権化により、財政赤字が更に肥大化する可能性すらあ
ります。こうしたことから、格付け機関が日本国債を格下げしないとも限りません。
また、2月以降は消費者金融問題にも注目が集まり、再び、リスクが高まることも予
想の範疇のことです。クレジットクランチが起きているのに、日本景気が強いなんて
いうことは有り得ない話です。
財政赤字の増大に対して、2010年中に歯止めをかけられなかったことは、20
11年もこうした問題が継続してしまうことを示唆しています。しかも、これは世界
的な傾向です。景況感が多少戻ったとしても、株価が多少上がったとしても、それは、
マネーの動きの中で、行き場がなくなったため、瞬間過熱しただけということに過ぎ
ません。もちろん、こうした見方を打破できるブレークスルーが何か出て来てくれる
ことを願ってはいますが、見てきたように、2011年は、2010年よりよくなる
兆候など何一つない、のです。本来は、日本経済の今ある閉塞感がより進行し、行き
詰まってしまう方が、むしろ解決は早い気がします。そうした行き詰まりがないとす
れば、逆に、2010年に入り込んだ、閉塞感を何となく感じる長い長いトンネルを
抜けなければならないのだと思います。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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■ 水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
ここのところ株価も上がり、消費も堅調ぶりが目立っています。「節約疲れ」と
いった説明がされていますが、数週間前に編集長も書いていたように、余裕がなけれ
ば節約に疲れることもできないので、実際は日本経済の堅調ぶりを物語っているもの
にほかなりません。事実、冬のボーナスなども今年は増えています。
消費の堅調ぶりはアメリカなどにも共通する世界的な傾向で、2008年の金融危
機の傷が癒えつつあるという意味もあるようです。
日本に関して言えば、消費者物価指数の前年比マイナスが続いているものの、下落
幅は2009年の中ごろから傾向的に縮小しています。これは、日本経済の中国をは
じめとするアジア経済との一体化が進む一方で、中国の物価は労働賃金の急上昇など
を要因として急騰しつつあるためだと思います。デフレの最大の要因であった新興国
と日本との物価の格差が徐々に解消し、日本と新興国の労働力、土地などの生産要素
に、それぞれの生産性に見合った価格が対応するようになっているということです。
これまで外国のメディアなどでAsia excluding Japan(日本を除くアジア)という表
現がされてきましたが、ようやく日本経済も、発展するアジア経済の有機的な一部と
して本格的な発展軌道に乗る条件が整ってきたということだと思います。これは想像
以上に早い調整であり、来年はデフレ脱却に向けた正念場の年になる可能性もあると
思います。
話は変わりまずが、SBIネット銀行のアンケート調査によると、2011年のお
正月のお年玉額は2010年よりも平均して4000円も増えたそうです。もちろん
景気の影響が大きいと思いますが、子ども手当、高校の無償化などの影響もあるので
はないでしょうか。これらの政策に関してはいまだに「ばらまき」等の批判が根強い
のですが、そうした記事に、実際に子育てをしている人たちの声はほとんど出ていな
いように思います。少子化が進む中で実際に子育てをしている人たちは常に少数派に
ならざるを得ないのですが、その過重な負担を国民全体で負担するという政策の方向
は正しいものだと思います。
民主党政権に関しては現在、失望の声が高く、私も、腰の据わらない外交政策や混
迷する小沢・反小沢の内紛などにいささかうんざりしている者の一人ですが、子ども
手当、高校無償化の実現については、安心して子育てができる社会への第一歩であり、
2010年の大きな成果として率直に評価したいと思います。
日本語学校教師、評論家:水牛健太郎
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■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
三つあると思います。まずは、「賃金本」の流行です。「賃金本」とは、『デフレ
の正体』(藻谷浩介、角川ONEテーマ21)、『デフレ反転の成長戦略』(山田久、東
洋経済新報社)、『人口減少時代の大都市経済』(松谷明彦、東洋経済新報社)と
いったデフレ克服には、賃上げが重要だと主張する本のことです。私が、勝手にそう
呼んでおります。
これまでの「デフレ本」といえば、日銀の無策を責め、高橋是清は偉かったという
類の本が目に付きました。2010年は、こうしたリフレ派よりも前述の賃金派の主
張が支持を得始めた転換点であったと思います。「賃金本」は、要するに分配を変え
ろと言っているわけです。企業は、株主だけを満足させるのではなく、すべての関係
者を満足させねばならない。すなわち、利益ではなく付加価値の極大化を目標にすべ
きであり、そのためには賃金を上げねばならないと言っております。
過去10数年間、企業は利益をあげるために、手っ取り早く賃金などのコストを
削ってきました。この「合成の誤謬」の結果、日本経済が縮小してしまった。今度は、
「誤謬の合成」をやってみようよという話です。こうした「賃金本」の活躍は、19
90年代前半の「ROE本」の台頭の対極にある動きだとも言えるでしょう。
当時、バブルの生成および崩壊を反省した日本人は、米国型の資本主義に範を求め
ます。その中核が株主至上主義であったと言えるでしょう。ROE、すなわち株主資
本利益率が重要な経営指標として注目されるようになりました。『ROE革命』(渡
辺茂、東経)という本が話題になったのは1994年でした。企業が創造した付加価
値を株主に手厚く分配すべきというのが「ROE本」、いや労働者だというのが「賃
金本」です。「賃金本」の活躍は、この意味で時代を画する動きだと思います。
ところで、日本を苦しめているデフレの要因には構造的な要因と循環的な要因があ
ると思います。過去20年間の日米のインフレ率格差(米国?日本)は、ほぼ2.5
%で安定しております。一方、1990年代の米国のインフレ率の平均は3.2%、
2000年代は2.1%でした。前者では、日本のインフレ率はかろうじてプラスに
なりますが、後者ではマイナスに沈みます。この安定した2.5%の格差をもたらし
ているのが構造要因、米国のインフレ率の低下の背景にあるのが循環要因です。
「賃金本」は、構造要因の解決に向けての一歩として位置付けることが可能だと思い
ます。一方、二つ目の兆しとして取り上げたいのは、債券バブルの崩壊です。201
0年には、米国の日本化懸念から、米長期金利が2%台前半まで低下しました。私は、
こうした金利の低下(債券相場の上昇)を債券バブルだと考えております。それが、
いよいよはじけたのではないか、と思わせるのが年末にかけての金利上昇です。米長
期金利は3.5%近くまで上昇しました。
ここでの論点は、米国の経済成長率が日本のように下方屈折するのか、それとも一
時的に下振れているだけで、元の水準に戻るのかということです。リーマンショック
以降、ニューノーマル論という格好で、米国の成長率の下方屈折を唱える人が増えま
した。特に、日本人はそう考えがちであったと思います。実際、2010年5月から、
邦銀は大量に米国債を買いました。彼らは、資産バブルの崩壊→金融危機→経済の長
期低迷→デフレという日本が歩んできた道を米国も歩み始めたと考えたのでしょう。
ただ、詳しい話は省略しますが、日本の成長率の下方屈折は、単純にバブル崩壊だ
けで説明できるものではありません。週休二日への移行に伴う労働時間の急減も、成
長率の下方屈折を説明する要因として有力です。これは、1990年代の日本には起
こりましたが、欧米で同じことは起こりません。一方、米国でむしろバブルと呼べる
のは2000年に向けてのITバブルでしょう。今とは逆に、ニューエコノミーを多
くの人が信じておりました。米国の成長率は上方屈折したと。そのやりすぎの反動が、
2000年代の停滞「米国の失われた10年」であり、その陰の極が、2010年の
債券バブルでしょう。
債券バブルの崩壊は、ITバブル(ニューエコノミー)に始まり、債券バブル
(ニューノーマル)に至る、一つの時代の終焉を意味していると思います。この20
00年代に米国のインフレ率は、1990年代に比べて1%低下しました。この1%
が日本のインフレ率を水面下に押し下げました。今、米国のインフレ率は循環的な意
味で底を打ちつつあるように思います。それは、日本のデフレ脱却に向けてポジティ
ブな変化です。
三番目は、菅政権の支持率低下です。菅政権は、ギリシャ危機を受けてパニックに
なった偏差値エリートがつくった政権だと考えております。ギリシャの二の舞になら
ないように、とにかく消費税を上げる。日中戦争を終結させたかったのに、ナチスド
イツの快進撃をみて、「バスに乗り遅れるな」と太平洋戦争にのめり込んでいった戦
前の過ちを彷彿とさせるような出来事でした。
消費税の上げはパニックになって決めるようなものではないでしょう。参院選で菅
政権を否定した国民の方が落ち着いていたと言えます。もっとも、日本の財政運営が
このままで良いわけではなく、2011年は腰を据えて、社会保障と税制の一体改革
に取り組んで頂きたいと思います。「老後の不安を解消するためには、ある程度の負
担には応じる」というコンセンサスがあるように見受けられますが、これはもう一度
考え直した方が良いでしょう。現在の社会保障制度を前提にするなら、「ある程度」
の負担などで済むはずがないからです。社会保障制度の改革を先行せずに、安易に負
担で妥協すると、「子泣き爺」を背負うことになりますよ。背負ったら最後、その重
みで、将来世代が崩壊します。菅政権の支持率低下は、ある意味で朗報です。もう失
うものもないのですから、中高年齢層に既得権を手放すように説得して頂きたいもの
です。強い社会保障とは、世代内で自立できる社会保障だと再定義して頂きたいと思
います。その上で、それに見合った税制を考えてください。
以上、日本が良くなる三つの兆しは、(1)「賃金本」の活躍、(2)債券バブル
の崩壊、(3)菅政権の支持率低下、です。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
政治的な停滞による政府予算編成の行き詰まりや、対中国外交の失敗がありました。
エコカー減税は終わってしまいエコポイントも縮小されました。だれに聞いてもムー
ドは非常に悪いのですが、経済の実態はそのムードほどには悪くない様に思います。
12月に発表された日銀の短観は、企業のインタビューに基づくの経済の実体調査
で、日銀の政策決定の重要な要素を構成するものです。それによると、12月の業況
判断DIはなるほど悪化はしていましたが、予想されたほどは悪化していませんでし
た。もっぱら先行きを示す予想の数字が大きく下がって、ムードの悪さを象徴する結
果となりました。足下の数字よりは、先行きの懸念が広がっているのが特徴です。
ムードの悪さが先行するなか、大方のエコノミストが、来年の景気について楽観視
している要因の一つに、足下の企業収益の好調さがあります。今年度の業績について
は、12月の短観の時点でも上方修正が続いています。今年度の企業業績は、来年度
の賃金の大きな決定要素ですから、所得は底打ちが確認された状態にあり、2011
年の消費支出を下支えすることでしょう。
今年度の設備投資計画も、上方修正されて対前年でプラスになってきています。ア
ンケートで先の予想を聞かれると慎重に答えざるを得ませんが、足下の設備投資は順
調にこなして来ているとというのが実態です。
リーマンショック直後は急増が懸念された企業倒産件数は、ここに来て対前年での
減少をもう16ヶ月も続けています。金融緩和と政府の緊急保証制度や中小企業金融
円滑化法などの措置が奏功している様子が見て取れます。
これらの、楽観的な見方にはいくつかのポイントがあります。一つは、日銀の金融
緩和が続くということと、もう一つは中国が牽引するアジアへの経済が順調に回復す
るということが前提条件になっています。日銀が10月の包括的金融緩和で緩和競争
に参戦したことで、一方的な円高がとまったとするのなら、日本の輸出の50%以上
を占めているアジア輸出は、日本の景気を押し上げることでしょう。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
2011年は、日本経済における将来的な禍根を除去するのに役立つ議論が進むと
いう意味での兆候があると思います。その兆候とは、来るべき税制改革において消費
税増税は避けて通れないとの認識が与野党ともに一段と深まったことです。自民党は、
政権交代前から、「中期プログラム」で社会保障給付の安定財源として消費税増税を
(時期は明示しないとしても)意識し、昨年の参議院選挙のマニフェストでも明示し
ていました。他方、民主党は、昨年まで、消費税増税に賛同する議員もいながらも、
消費税増税の前に格差是正のために所得税や相続税の増税を優先すべきとする議員も
いて、一昨年の衆議院選挙のマニフェストで4年間は消費税率を引上げないとしてい
た手前、消費税増税に前向きとは必ずしもいえませんでした。
そんな中、昨年末には、平成23年度税制改正大綱で所得税と相続税の増税を盛り
込みました。そこで明確になったのは、所得税や相続税の増税では、兆円単位の財源
が容易には生み出せないということでした(学識者の間ではそんなことは以前から既
知のことでしたが)。確かに、所得税や相続税の増税は、格差是正のために象徴的な
税制改正にはなりましたが、高齢化に伴う社会保障給付の増大に対しては十分に対応
できません。
(衆参ねじれ状態の中で予算関連法案が国会で議決できるか否かは不透明ですが)所
得税や相続税の増税が税制改正大綱で盛り込まれた状況で2011年を迎え、消費税
はますます、税制改革で検討しなければならない中心的課題となりました。つまり、
消費税増税の前に所得税や相続税の増税が先だという言い訳で、消費税論議を先送り
することが意味を成さなくなったわけで、その点で消費税増税を避ける主因の一つが
除去されたといえます。
もちろん早期にデフレを解消する方が先ですが、消費税増税を先送りするわけには
いきません。消費税増税の短期的効果だけを捉えれば、景気への悪影響を懸念する向
きもあります。しかし、それは単に家計消費のタイミング(消費税増税の前の駆け込
み需要とその後の買い控え)への影響にすぎず、確実に景況を悪化させるわけではあ
りません。
むしろ、消費税増税を早期に行うことで、社会保障給付の財源を安定的に確保して、
国民が抱く老後の不安を払拭すること(ひいては予備的貯蓄を抑制し目下の消費を促
進すること)ができるとともに、未曾有の規模に達した我が国の政府債務累増を抑制
して、将来における不測の金利急騰や悪性インフレを抑制することが出来る点で、日
本経済にとって良い効果をもたらします。すなわち、消費税増税を妨げる政治的要因
が除去されるほど、日本経済にとって良い影響があると考えます。
ただ、政権が消費税増税を正面から取り上げる状況ではないですし、衆参ねじれ状
態が悪く作用すれば政策の意思決定が滞る恐れもありますから、日本経済にとって良
い影響があると断定するには、まだ予断を許さないところがあります。2011年は、
こうした懸念が杞憂に終わってくれることを願ってやみません。
慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
2011年の景気や株価のようなものに関して、私は、割合楽観的な見通しを持っ
ています。新興国の資産価格崩落や資源価格の高騰の可能性といった、日本経済にダ
メージを与えかねないリスク要因はありますが、大筋として現状は米国の金融緩和を
背景とした世界経済の回復過程にあって、日本経済もそのメリットを受けるでしょう。
しばらくの間は、経済対策の終了や縮小の悪影響があるとしても、新興国を中心とす
る世界の経済成長がもたらす需要の好影響は2011年の1年間を通じて悪影響を上
回るでしょう。
ただし、短期の景気の問題を離れると、日本経済の方向性に関しては現時点で好材
料は見当たらない思います。2010年を総括すると、政権交代があっても経済政策
はほぼ何も変えられないのだということが分かった一年でした。
2009年に、実現性には多少の問題があったとはいえ、旧来の自民党政権と大き
く異なる方針をマニフェストとして掲げた民主党が総選挙で勝利して、政権交代が起
こりました。その後、2009年の秋冬に作成された2010年度(平成22年度)
予算案は政権交代直後の民主党にとって準備不足・時間不足の中で作成した予算でし
たが、先月閣議決定された2011年度(平成23年度)予算案は民主党政権が最初
から最後まで作成に権限と責任を持つ「民主党政府の予算案」です。しかし、この予
算案に於いて、民主党政府は、マニフェストに掲げた政策目標の多くを(特に支出の
ムダの削減を)実現できず、結局、抜本的な見直しは行われませんでした。基本的に
前例踏襲的な官僚が作成した予算をほぼ政府案とする、率直に言って、旧自民党政権
と何ら変わりのない予算案が出来上がりました。
また、普天間基地問題で政治的に自殺したとも見えた鳩山首相の後をうけた菅直人
首相は、野党である自民党が提示した税率「10%」に追随した消費税率引き上げを
掲げて、昨年夏の参議院選挙に大敗しました。国民は、2009年総選挙のマニフェ
ストと大きく異なる菅首相の、消費税率引き上げ路線、もう一歩踏み込んで解釈する
と、官僚に対するあからさまな追随に一応は「ノー」を突きつけましたが、前年の総
選挙が、政策を選択する選挙になっていなかったことを思い知りました。
当面の経済政策としては、デフレ脱却のための政策が重要でしたが、日銀が打ち出
した「包括緩和」は、方向性は悪くないものの、時期が遅く規模が小さいことが難点
でした。加えて、政府が今の時点で財政再建にこだわって国債発行を昨年並み以下と
したこともあって、政府自身の来年の経済見通しでもGDPデフレーターはマイナス
です。民主党政権になっても、デフレ対策に於いて十分な変化があったとは言い難い
のがこれまでの推移です。
この他、天下り禁止を謳っていた民主党が、政権についてから、元大蔵次官の斉藤
次郎氏が日本郵政の社長に就任したことが象徴するように、すっかり天下り容認に転
じて、公務員の人事制度に関して旧自民党政権よりもむしろ甘くなっている(「出向」
も認めるようになった)ことも重要な事実です。
こうした民主党政権になってからの事態の推移を見ると、政治によって、政治家の
力によって、より正確には国民の投票行動によって、「政策」を大きく変えることは、
きわめて難しいことが分かりました。政権(政党)が変われば、社会が変えられるの
ではないかという期待は、建前はともかく、現実論として間違いでした。決めつけた
り、諦めたりする必要はありませんが、予想の問題として、政治家のレベルが急速に
は上げられない以上、現状が進歩することは難しいと考えるべきでしょう。政権政党
や勢力図が変わっても大差はありません。
日本の政策は、実質的な主体としては集団としての官僚機構が動かしていますが、
誰か個人が権力を持って動かしているというのではなく、なるべく現状を維持しよう
とするルールと、実務を握る官僚集団の利害に大きく影響されつつ漂うように動いて
います。政治家は、建前の上で権限的に強力でも、政策を作成し実行する実務能力を
欠いているので、実質的には非力です。非力な政治家は、権限を持っても(たとえば、
大臣になっても、首相になっても)、官僚が持つ「実務的資源」によって簡単に買収
され、実質的にコントロール下に入ってしまいます。
ご質問に戻って、2011年に関して、2010年よりも「よい!」かも知れない
一つの兆候は、多くの国民の間で日本の政治及び政府に対する「見切り」が得られた
ことではないでしょうか。今や、日本政府が、適切なタイミングと規模のデフレ対策
を行ったり、成長を高める規制緩和(特に雇用に関する規制緩和)を推進したり、T
PP参加を早期表明したりといった「よい兆候」が、広義の政府から出てくることを
期待する人はごく少数でしょう。当面の政治報道を見ても、民主党内の田舎芝居的な
対立が政策論抜きで延々と報じられるだけで、これは、酒癖の悪い役者の喧嘩と同次
元くらいにつまらないニュースです(政策にも生活にも関係ないストーリーで、登場
する役者が劣るから)。
しかし、敢えて言うと、このだらしがない政治と政府の状況は、個人や企業が、現
実に立脚した意思決定を推進する上で大変いいことだろうと思います。
経済に関する議論はしばしば「どのような政策が望ましいか」に関する結論が出る
ことで終わりになる傾向ありますが、現実にその望ましい政策が実現することは殆ど
ありません。個人や企業にとって実際に大切なのは、現実の政策がどのようなものに
なるかに関して、なるべく偏りのない予想を前提として、適切な行動を選択すること
です。政治や政府に対して無関心であることは不適切ですが、これらに現時点で大き
な期待をかけることは非現実的です。
幸い、こと経済行動に関して、日本は相当に自由です。企業が需要を海外に求めて
国内の新卒採用を減らして外国人の採用を増やすことも自由ですし、個人が行う投資
の内容も制限されているわけではありません。また、十分に知られていないことかも
知れませんが、判例の上では、サラリーマンである個人が副業を行うことも概ね自由
です(就業規則に「禁止」とあってもです)。加えて、これから世界的には、人口の
大きな国々が成長期を迎えており、日本は相対的に地盤沈下するとしても、日本にい
る個人や企業は、「絶対的には」そのメリットを受けます。
個人や企業が、政治・政府が何かよいことをしてくれるという可能性を「見切る」
ことができた2010年の後の年である2011年は、経済的自立をこれまで以上に
真剣に考え始める個人や企業が増えるという意味で、2010年よりも「よい年」な
のではないでしょうか。世直しに関してやるきのある個人は、政治に働きかけるより
も、ビジネスなり人生なりで他の国民のモデルになる成功例を作って見せることが効
果的でしょう。多くの国民が成功を真似し終える頃に、政治や政府が追いついてくる
のではないでしょうか(かつての「IT」とか「eナントカ」のブームがそうでし
た)。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )
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■ 津田栄 :経済評論家
今回の質問は、答えに窮します。身近な指標において日本経済が2011年がよい
年になるような兆候が見られますが、それが本物なのかと言えば、先行き不透明から
極めて不確かなもので、そのように予測するのは難しいといえるからです。経済界や
証券業界、あるいはエコノミストなどでは2011年には景気が回復するのではとい
う楽観論が多くを占めていますが、得てして多数の人が予想する方向とは逆の動きを
するのが経済ですから、気をつけたほうがいいのではないでしょうか。
個人的には、少し悲観的すぎるかもしれませんが、多くの人が期待しているような、
2011年が日本経済にとってよい年になることはないのではと思っています。今の
指標は見せかけとは言いませんが、政府のエコカー補助金やエコポイント付与などに
よる景気刺激策と新興国を中心とした堅調な経済に支えられたものであって、いい面
を先取りした一時的なものと見ています。今や、政府の刺激策が終了し、新興国経済
がインフレ懸念による金融引き締め策で減速することが予想されるなかでは、逆に、
2011年の経済にこの良い兆しが続くのか怪しいのではと思っています。加えて、
円高が終わらず、為替関係者の間では円が最高値をつけるという見方も少なからずあ
ります。
確かに、鉱工業生産を見ると、昨年と比較して今年は改善しているように見えます
が、その勢いは、2010年12月、2011年1月の予測では季節調整済前月比3
%台と力強さを欠き、弱含みの動きとなっています。これは、海外の需要による輸出
が伸びると見るものの、やはり国内ではエコカー補助金の終了、家電エコポイントの
半減などが影響し、生産活動は鈍くなると見ているからだということでしょう。また、
企業の設備投資について、2011年度は、2010年度より積極的な姿勢を示す経
営者が多くなっていますが、それが全体に示す割合はそんなに多くなく、経済状況い
かんでは、消極姿勢に変わるかもしれません。もちろん、設備が老朽化していますの
で、いずれ設備更新のための投資が行われますし、その動きは中小企業に表れていて、
場合によっては大企業にも波及するかもしれません。ただし、弱い内需が今年も続く
と予想されるために設備増強にまで進むことは考えられず、積極投資ではないだけに、
設備投資の回復と言っても小幅にとどまるのではと見ています。その分、海外需要に
よっては中国、アジアなど海外での設備投資が増えることもありましょう(それも新
興国などが順調に景気拡大すればの話ですが)。
個人消費は、エコカー補助金や家電エコポイントによる駆け込み需要もあって、家
計調査による消費支出は、前年比でプラスになる局面もありましたが、全体的には引
き続き伸び悩み傾向といえます。もちろん、その家計調査によれば、勤労者世帯の所
得はいくらか改善していますし、厚生労働省の毎月勤労統計調査でも現金給与総額が
総じて増加していますから、個人消費の落ち込みは避けられる一方、エコカー補助金
やエコポイントによる駆け込みで消費が全体として増加してはいますが、その反動は
これから表面化してくると見られます。しかも、こうした統計は正社員中心ですから、
契約・派遣社員などの非正規雇用の所得の伸びは、正社員ほどではないはずですので、
個人消費は相対的に弱いと見たほうがいいのではないでしょうか。
また、雇用環境は、改善しているという見方もできますが、完全失業率が低下して
いるといっても、最悪の09年7月の5.6%から0.5%ポイント程度の改善で
あって、依然5%台と高止まりしています。あるいは、そのことは、良くなっている
と言いながら、0.5倍台にとどまっている有効求人倍率にも表れています。むしろ、
問題は、失業が長期化したことで、再就職をあきらめた失業者が増え、あるいは非正
規社員として長期化したりして、それが根雪のようになっていないかということです。
そのことは、最近の生活保護世帯の増加の要因になっているように思います。こうし
たことがさらに財政を圧迫し、財政の硬直化を招き、景気への悪影響につながります。
しかも、過去最悪の大学・高校の新卒採用状況では、知人の大学生などから、正社員
になる就職をあきらめ、労働市場に参加できず、先行き不安を抱えているのを聞くと、
思ったよりも実態はもっと厳しいと感じました。その彼らも雇用において根雪のよう
な深刻な問題になるのではないでしょうか。
こうした国内において、明るい面が見られず、政策でもつぎはぎで成長戦略がなく、
財源も場あたりではデフレからの脱却が難しい状況にあります。そこで、唯一期待さ
れるのは、海外、特に中国、ブラジル、インドなどの新興国や、高成長のアジア諸国
などの外需です。企業経営者やエコノミストが2011年の経済を強気にみるのも、
こうした外需に合わせて生産、輸出が伸びると見ているからですが、果たして予想通
りいくのか、いささか疑問を持っています。中国は、昨年12月25日に、不動産価
格の上昇に対して歯止めを掛けるとともに食品を中心に急上昇する物価を抑制するた
めに0.25%利上げしました。しかし、中国のインフレ懸念の要因には海外からの
資金流入の加速があり、それが利上げで海外との金利差拡大で投機資金の流入加速、
人民元高につながるのですが、それを介入で抑えようとすると、介入資金の国内還流
で資金がだぶつき一段と物価上昇を招く恐れがあり、結果としてこうした追加利上げ
は、一旦始めると、景気が鈍化するまであと数回行われることになると予想されます。
こうしたことは、インドやブラジルでも起きており、資本流入規制をすれば、新興国、
その周辺国の経済が鈍化、失速すらあり得るかもしれません。
一方、アメリカの経済も、思ったように回復しているとは言えません。確かに、年
末のクリスマス商戦は予想外に好調であったようですが、アメリカ経済の低迷の要因
になっている住宅市場では価格の下落、販売不振、在庫の高水準が続き、依然として、
好転する兆しが見られません。しかも、景気回復を先取りしすぎて金利が急上昇した
ことが、住宅投資、および住宅ローンには重い負担になりつつあり、再び景気への悪
影響が心配されます。また、アメリカの地方の景況感の改善が鈍く、地銀の倒産が続
き、一方、地方政府の財政が厳しいことから、金利上昇がさらに地方を圧迫し、景気
回復を遅らせるのではないかと危惧されます。それが再び景気回復期待の後退、金利
低下となってドル安につながる可能性もあります。こうしたことは、先日会談したア
メリカのジャーナリスト数人が、日本が思っているよりもアメリカ経済を深刻に見て
いたことから、実際ありえるのではないかと思ってしまいます。
また一方の先進国EUについても、楽観できない状況にあると見ています。これま
でギリシャ、アイルランドが財政危機でEUの支援を受けましたが、今後、ポルトガ
ルもその仲間に入ることは既定路線になりつつあります。問題は、市場がその先のス
ペイン、イタリアを射程に入れるかです(もちろん、フランスも入るのではというの
は行きすぎですが)。ただ、格付け機関がギリシャ、アイルランドの格付けを引き下
げたことにより、そうした国の国債を保有したり、融資したりしているEU諸国の金
融機関の財務が悪化し、信用不安がくすぶっており、昨年春実施されたストレステス
ト結果への不信につながれば、そして EU諸国の財政悪化を懸念するようになれば、
ユーロ安が進み、EU経済の一段の伸び悩み、冷え込みも加わって、輸出先として厳
しいものになる可能性があります。
こうして新興国、アメリカ、EUの経済状況から見ると、状況次第では、今後輸出
で稼ごうという考えは、絵にかいた餅になりかねません。しかも、一段の円高が加わ
れば、なおさらです。したがって、目先の経済指標をいいとしても、先行きについて、
日本経済にとって、国内だけでなく、海外でも心もとない状況から、楽観してみるの
は難しいといえます。それ以上に、日本の政治が、現場感覚がないために日本経済の
抱えている問題を理解できず、与党が身内争いに走り、野党は与党非難するだけに
あっては、経済の足を引っ張るだけでなく、先行き問題を深刻化させ、一段の経済低
迷を招くかもしれないのではと恐れています。
経済評論家:津田栄
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