http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/540.html
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今のペースで増やしていけば、よほど奇跡的な経済成長が無い限り、破綻するのは間違いのないことだが、民主党政権下で現実に抑制に転じることはほとんど無理だろう
国内の生産力が、主に老人向けの社会保障に食われていき、国内投資は減少、輸出競争力も国力も低下していくことになる。
メインシナリオとしては、10年以内の強インフレによる実質的な財政&社会保障の破綻、
30年以内には新興国の経済成長と資源価格上昇により、実質生活水準は、今のマレーシア(一人当たりGDP7千$、個人あたり収入の中央値〜40万弱)レベルの、貧困社会になるか
転載
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/harada/10122901harada.html
2010 年12 月29 日 全 20 頁
経済社会研究班レポート – No.2 -
財政を維持するには社会保障の抑制が必要∗
鈴木 準(※2)
原田 泰(※3)
【サマリー】
◆社会保障以外の歳出について名目GDP比一定というルールを長期に適用したとしても、現役層の生産性向上並みに社会保障支出を拡大させれば、公債等残高 GDP比は発散的に上昇する。このケースで公債等残高GDP比を消費税増税によって安定化させようとすると、10%台後半、さらには20%台前半への消費税率引上げが必要になる。
◆高齢者1人当たりの社会保障支出を実質額で一定にする歳出抑制を超長期に続ければ、増税を避けつつ公債等残高 GDP比を安定化させ、さらに引下げることができる。ただし、公債等残高GDP比の上昇が止まるのは相当先のことになるため、実際には「節度ある財政」の実現とはいえず、歳出抑制と同時に一定の増税が必要と考えられる。また、1人当たり社会保障支出を超長期に一定とするのは極めて厳しく、そこまでの抑制ができなければ、その分の増税も上乗せされる。
◆名目成長率が実質成長率を下回るデフレの下では、長期の社会保障支出抑制を前提としても公債等残高GDP比が上昇し、財政は厳しい状況となっていく。本稿では、インフレによって財政問題を解決すべきと主張しているわけではなく、デフレによって名目成長率が低迷し続けることが財政に与える悪影響は大きいという点を強調したい。
◆長期に社会保障支出を抑制することを前提としたとしても、金利が成長率よりも高めに推移すれば、やはり財政は厳しい状況になる。金利上昇による利払いのための公債発行が財政赤字を拡大させ、それがさらなる金利上昇を招くという悪循環を、財政改革を着実に続けることによって回避する必要がある。なお、デフレであれば名目金利は名目成長率を上回ることになりやすい。この面からもデフレは望ましくない。
◆消費税増税で物価が上昇するとき、年金や医療など社会保障給付を物価スライドさせれば、税収が増える一方で歳出も増える。消費税増税分の物価スライドを実施したのでは、必要になる消費税率の引上げ幅がますます大きくなってしまう。社会保障の財源を確保し、また、全国民で社会保障制度を支えるために消費税増税が必要だとすれば、社会保障給付について消費税増税分の物価スライドを行わず、実質給付を引き下げる必要がある。
(※1)本稿は、原田・鈴木・長内[2007b]を、その後の状況変化を織り込んで大幅に加筆修正したものである。
(※2)大和総研主任研究員(経済調査部兼調査企画部)
(※3)大和総研専務理事チーフエコノミスト
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はじめに
日本経済はバブル崩壊後の長期低迷から脱して、2002 年以降2007 年まで景気回復
を続けた。その間の景気回復に伴う税収増、小泉純一郎内閣の歳出抑制によって、図
表1 にみるように、財政状況は改善していた。中央政府と地方政府を合わせた基礎的
財政収支(プライマリーバランス)のGDP 比は、1999 年度には▲6.0%だったが、2007
年度には▲1.2%まで改善した。
ところが、2008 年のいわゆるリーマンショックから始まった世界金融危機により、
日本も深刻な不況に陥った。その結果、経済低迷による税収減と不況対策としての財
政支出拡大により、2009 年度の基礎的財政収支はGDP 比▲7.8%まで急速に悪化した
(財政投融資特別会計から一般会計へ、7.3 兆円が単年度限りで繰入れられた要因を除
く)。2009 年秋以降、現時点でも、欧州のソブリンリスク問題が金融市場を混乱させ
ているが、財政健全化が先進各国の政策課題となっている中、悪化が際立っている日
本の財政にも再び衆目が集まっている。
基礎的財政収支が注目されるのは、それが政府債務残高のGDP 比率を節度ある姿
で推移させるための一条件だからである。基礎的財政収支とは純利払いを除く財政収
支のことであり、基礎的財政収支を均衡させれば財政赤字は金利負担分だけになって、
債務は金利分だけ増えていく。そのとき、GDP 成長率と国債金利が同一であれば、債
務残高GDP 比は安定化する。もし、成長率よりも金利の方が高ければ、それを考慮し
て基礎的財政収支をその分だけ黒字化させれば、やはり債務残高GDP 比は安定化する。
図表1 中央・地方政府の財政収支と債務残高
-30
-20
-10
0
10
20
70 75 80 85 90 95 00 05
(年度)
(GDP比、%)
0
50
100
150
200
(GDP比、%)
収入支出基礎的財政収支
財政収支債務残高(総、右軸) 債務残高(純、右軸)
(注)収入・支出・収支について、90、98、05、06、08、09の各年度は単年度限りの特殊要因の調整を行ってい
る。債務残高はSNAで定義されているもので、本論で中心となっている公債等残高よりも概念が広い。本稿
執筆時点で09年度末残高は未公表だが、純ベースのみ08年度末値に09年度の収支を加えて算出した。
(出所)内閣府「国民経済計算」等より大和総研作成
悪化が続く日本の財政に対して、民主党を中心とする現政権は「財政運営戦略」を
2010 年6 月に策定した。財政運営戦略とは、2011〜13 年度の歳入・歳出の骨格であ
る中期財政フレームを含む、中長期的な財政健全化のプランである。だが、12 月24
日に発表された2011 年度予算の政府案は、歳出規模が十分に縮小しているようにはみ
えず、国債発行額は依然として巨額である。現政権は、2010 年度にも規模の大きい補
2007年度まで財政は
大きく改善していた
金融経済危機で財政
は再び大幅に悪化
財政運営戦略と現政
権の財政運営
基礎的財政収支を目
標にする意味
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正予算を編成した。基礎的財政収支赤字のGDP 比を、2015 年度までに2010 年度か
ら半減させるといった財政健全化シナリオを、首尾よく実現していけるかは予断を許
さない。現実に、2009 年に民主党を中心とする政権が誕生して以降、選挙の際のマニ
フェストで掲げられた新規の政策を徐々に実行に移すにつれて、自公政権のとき以上
に政府債務を積み上げる状況となっている。事業仕分けなど評価すべき取組みも実施
されているものの、政権交代で公約された新規施策の財源を、従来の予算の削減や組
み換えだけで捻出する状況とはなっていない。
そこで、本稿では歳出と歳入について、できる限り合理的な仮定を置いた場合、日
本の財政がどんな道筋を辿ることになるのか試算を示したい。財政問題は長期的な問
題であることから、本稿では2050 年度まで(今後40 年間程度)を視野として財政の
将来を考える。そして、本稿の試算では特に社会保障支出に着目する。先進国で最も
高齢化する日本では、社会保障の取扱いが財政に決定的な影響を与えるからである。
2050 年の高齢化率(総人口に占める65 歳以上人口の割合)は39.6%と見込まれる(国
立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2006 年、中位推計)。高齢化率
のピークは2072 年の42.3%と見込まれるが、その差は2.7%ポイントであり、2050
年には高齢化の問題はほぼ出尽くしているといえるだろう。
なお、本稿では、国と地方を合わせた国民経済計算(SNA)ベースの財政を考える。
国の一般会計など、財政には様々な概念があるが、原田・鈴木・長内[2007a]が述
べているように、国は様々な形で地方財政に関与していることから国と地方は一体と
考えるべきだからである。また、SNA ではすべての歳出と歳入が統合され、意味のあ
る財政赤字が定義されている。さらに、過去の財政再建目標を示したいわゆる「骨太
方針」と同様、現在の指針である「財政運営戦略」もSNA ベースでの財政健全化を目
標としている。
また、制度会計である国の一般会計ベースの決算で支出済金額をみると、大規模な
補正予算が編成された2009 年度は2008 年度比19.2%増となっている。しかし、GDP
統計における政府消費と公共投資の合計額でみると、2009 年度は前年度比2.9%増に
過ぎない。同じように景気対策としての補正予算が組まれた2008 年度は、2007 年度
比でわずかだが減少すらしていた。この間の経済政策は、家計部門への財政移転を拡
大するタイプのもの(政府消費や公共投資には含まれないもの)が多かったから、そ
れらも含めたSNA ベースの中央政府・地方政府の2009 年度の歳出総額をみると、前
年比9.1%増である。それでも国の一般会計でみるほどには拡張的でなかったという事
実は、特別会計等を含めると、実際にはそれほど政府支出が拡大していないこと、国
が積極的に支出したとしても地方はそうではなかったことなどを示唆している。いず
れにせよ、国の制度会計ベースでの金額の議論は、マクロ経済という観点からはミス
リーディングとなる恐れがある。
本稿の構成は次の通りである。まず、1.では、名目GDP 成長率と金利の関係がどの
ように財政に影響を与えるかについて整理し、その点に関する私たちの理解を述べる。
次に2.では現在の税収の水準について評価を行い、今後の税収の見通しの方法につい
て議論する。3.では本稿の試算にあたっての歳出削減に関する想定や、歳出絞込みの
内容について述べる。そして4.では財政赤字の将来試算の結果を示す。仮定の組み合
わせは無数に考えられるが、試算のケースを無理に増やさず、かつ、理解しやすい仮
定の設定に努めた結果、重要だと思われる4 種類の試算について考察を行う。5.はま
とめである。
本論に先立って、試算によって明らかとなったポイントを述べると、高齢者1 人当
たりの社会保障支出を現役層の労働生産性の向上に伴って増加させるケース(現役層
社会保障支出に着目
し2050年度まで試算
SNAベースの中
央・地方政府を対象
結論要約
本稿の構成
制度会計とSNA財
政の違いに注意
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が生活水準を向上させていくのと同様の生活水準の向上を、財政が高齢者に保障する
賃金スライドのケース)では、公債等残高GDP 比は際限なく上昇してしまう。他方、
高齢者の生活水準を現状で固定するような社会保障に関する強力な歳出抑制を超長期
に続ければ、増税を避けつつ公債等残高GDP 比を安定化させ、さらには低下させるこ
とができる。ただし、このケースであっても公債等残高GDP 比は2038 年度まで上昇
を続けるため、国民や市場に信頼されるような財政再建プランの策定と実施が財政破
綻を回避するために不可欠である。また、このケースでは2050 年頃における引退層の
平均的な所得代替率を現在の3 割程度にまで引き下げる必要があり、どこまで社会保
障給付を抑制すべきか(できるか)について、国民的な議論と合意が必要である。モ
デル家計の新規裁定時における年金に限った代替率ではあるが、2009 年の公的年金に
関する財政検証では所得代替率が62.3%とされた。その3 割といえば19%である。
また、長期の社会保障支出抑制を前提としたとしても、現在のようなデフレが続け
ば財政はやはり厳しい状況となっていく。これは、インフレによって財政問題を解決
すべきということではなく、財政にとってデフレのリスクは非常に大きいという意味
である。さらに、長期に歳出削減を行っても、金利が成長率よりも高めに推移すれば、
やはり財政は悪化する。日本の財政再建は、長期に歳出削減をどれだけ続けられるか
がポイントであり、デフレと金利上昇がリスクである。なお、デフレであれば、金利
には下限があることから、金利が成長率を上回りやすい。デフレはこの面からもリス
クである。
1.名目GDPと名目長期金利の関係
(1)税収と金利
実質経済成長率の向上という長期的に最も重要な問題とは別に、デフレ脱却による
名目GDP の増大が財政にどのような影響を及ぼすかについて、大きく2 つの考え方
がある。
第1 には、名目GDP の上昇が税収の増大を通じて財政赤字を縮小させるという考
えである。GDP に対する税収の弾性値は少なくとも1 以上と考えられるから、長期に
はGDP の増加率以上に税収が増加する。第2 は、名目GDP の上昇が名目金利を上昇
させることを通じて国債の利払いを増大させ、かえって財政赤字を拡大させてしまう
という考えである。既存の債務残高がそれほど大きくなければ、第2 の考え方は問題
にならない。しかし、日本のように膨大な政府債務を積み上げている国では検討すべ
き重要な問題である。
財政状況を示す重要な指標は、債務残高の名目GDP 比率である。この比率が長期
に上昇していっても何も問題が起きないとは考えられない。名目GDP の増大は同比率
の低下要因だが、名目金利が上昇すれば債務残高に応じて金利支払が増加し、新規に
分子の債務を増やす。名目成長率の高まりによる税収と金利負担の関係の問に答える
ためには、両者の効果を数量的に把握しなければならない。
数量的にみた姿については、試算の一つとして後半で説明するが、ここで考え方を
整理すると、名目成長率が低ければ税収が伸びにくいこと、金利が継続的に上昇する
のでなければ金利負担は増え続けるわけではないこと、名目金利はゼロ以下にはなら
ないこと、などが重要な点だろう。名目GDP 成長率がゼロやマイナスであれば、ゼロ
以下にはなり得ない名目長期金利は名目GDP の成長率を上回り、基礎的財政収支が均
名目GDPと財政の
関係に2つの考え
名目GDPの増加は
税収と金利支払を増
やす
税収と金利負担はど
ちらが大きく増える
のか
名目成長率がゼロ以
下なら基礎的財政収
支が均衡しても財政
は確実に悪化
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衡していても財政は確実に悪化する。
また、日本の長期的な潜在成長率(実質成長率)が1%台とみられるところ、名目
成長率がそれ以下であるケースとは、デフレの状況であることを意味する。後半の試
算では、名目GDP 成長率が1%であれば、長期金利が現在のように1%前後と低い状
況だとしても、税収の伸びが低くなるため財政が悪化することを示す。潜在成長率を
1%台とするとき名目成長率が1%を下回るような状況が続くことは、金利と成長率の
関係と税収という2つの点から、財政にとって大きなリスクとなる。さらにストック
の観点からも、デフレ下では既存債務の実質的な残高が増加するという問題がある。
(2)成長率と金利の想定
では、本稿の具体的な試算において、名目GDP と金利の関係をどのように理解し、
それぞれをどのように想定すべきだろうか。
@名目成長率
まず、名目GDP は「新成長戦略(基本方針)」(2009 年12 月30 日閣議決定)や「新
成長戦略」(2010 年6 月18 日閣議決定)にならって、年率3%で上昇する姿を標準
ケースとしよう1。現政権は、2020 年度までの平均で名目3%成長、実質2%成長を目
指すとしているので、GDPデフレータ上昇率をほぼ1%と考えていることになる。2020
年よりも先を含め、長期の潜在成長率を現時点で2%と考えることは、やや楽観的な
想定だが、潜在成長率が1%であっても、物価上昇で名目3%成長となることは起こり
うる仮定である(本稿の試算は2050 年度までという超長期を対象にしている)。その
場合にも、物価上昇率は2%程度であり、決してインフレ的という訳ではない。
他方、中央銀行が引締型の政策運営を行うことなどにより、名目値が増えないケー
スとして、名目成長率1%のリスクケースも想定する(以下、デフレケースという)。
既に述べたように、デフレ的な状況では税収が伸びにくい。
A長期金利
名目長期金利については、名目GDP との長期的な関係において様々な議論がある。
この点は、原田・鈴木・長内[2007b]でも議論されているが、金利の自由化が実質
的に進んだ後の先進国をみた場合には、デフレ状況にあった時期や国を除くと、名目
GDP 成長率と長期国債金利は均せばほぼ等しいと捉えるのが穏当である。財政再建プ
ランにおいて金利を成長率よりも高めに想定することがプルーデントであるという面
は確かにあるが、それは必要以上の増税等によって経済に悪影響を与えるリスクも内
包することになる。現実の財政再建では、実際の支払金利水準と成長率を比較しなが
ら政策を修正していくことも可能と考えられるので、本稿の長期試算では、名目GDP
成長率=長期金利を標準ケースとする(なお、デフレケースでは名目成長率の想定が
1%であるので、長期金利も1%とする)。
ただし、現在の長期金利は1.1〜1.2%程度である。2009 年度の中央・地方政府の支
1 なお、2009 年度までの名目成長率については、2010 年12 月9 日に支出項目について発表された国民経済計算確報で示さ
れた実績を、2010 年度については内閣府の年央試算(2010 年6 月)での成長率を適用し、試算の起点とする。
成長率は実質2%、名
目3%を仮定
デフレケースも想定
成長率=金利と想定
足元の金利の仮定
デフレ下では低金利
であっても財政が悪
化する
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払金利は12.0 兆円で、これを後述する公債等残高(2008 年度末)の値で除すと1.73%
となっている。そこで、今回の試算では、政府の金利支払に適用する金利を、2010 年
度1.73%、2011 年度2.15%、2012 年度2.58%、2013 年度以降3.00%と段階的な上
昇を仮定する(デフレケースを除く)。これでも十分に急激な金利上昇であるので、
金利負担については保守的に(財政にとって厳しく)考えているといえるだろう。
また、利払いは、前年度末の公債等残高に名目長期金利を乗じたものとする。すな
わち、既存の公債等残高は2012 年度末には全て3%の国債に借換えられると仮定する
ことになる。現実には、現在の公債残高はこれまでの金利低下期及び低金利期に発行
されているから、このような想定は政府の利払い負担を過大に(財政再建の視点から
は保守的に)みることになる。
さらに、近年の先進国で、デフレ的状況ではないとしても金利が成長率を上回る時
期があるのは事実である。政府債務残高が極端に大きい日本において、一時的であっ
ても金利上昇がもたらす財政への悪影響は大きい。名目GDP 成長率=長期金利が安定
的に維持されると想定することは、公債市場では長期にわたって大きな混乱は生じず、
金利上昇による利払いのための公債発行が財政赤字を拡大させ、それがさらなる金利
上昇を招くという悪循環をはじめから排除している(何かのショックで長期金利が上
昇しても、それは一時的で、財政や経済に影響を与えないように金利が低下すること
を前提している)ことになる。
そこで、標準ケースに対するリスクケースとして、3%の名目成長率に対して2013
年度以降の名目金利が4%の状態が続いた場合のケースの試算も行うことにする(以
下、高金利ケースという)。
2.税収の現状評価と増収の見込み
(1)税収の現状
景気の直近のピークだった2007 年度の国の一般会計税収は51.0 兆円だったが、
2008 年度には44.3 兆円、2009 年度には38.7 兆円と急減した。その後の税収も、2010
年度補正後予算で39.6 兆円、2011 年度当初予算で40.9 兆円と低水準である。SNA
ベースでの中央政府と地方政府の税収は、2007 年度でそれぞれ52.2 兆円、40.8 兆円、
2008 年度は45.1 兆円、40.1 兆円、2009 年度は39.6 兆円、35.7 兆円である。すなわ
ち、直接税の比率が高い中央政府で税収減が目立っている。不況期に税収が急激に減
少するということは、それだけ弾力性が高いということであり、景気回復期には税収
が急激に回復するということでもある。それは、特に法人税について顕著である。な
ぜなら、企業利益のGDP 弾性値が非常に高いからである。
図表2 は、税収と名目GDP の関係を示したものである。1980 年度から1991 年度
で測定した長期の税収弾性値は、国・地方合計のベースで1.25、国の一般会計のベー
スで1.35 である。これに対して、直近の景気回復期だけを捉えた2002〜2007 年度の
短期の弾性値を求めると、国・地方合計で3.64、国の一般会計で3.23 である。もちろ
ん、弾力性が高いということは、景気が悪化すれば税収は急減することを意味する。
未曽有の不況期だったといえる2007〜2009年度の弾性値を求めると、国・地方で2.48、
国の一般会計で3.25 である。好況期のものにしろ、不況期のものにしろ、短期の弾性
値を長期の試算に適用することはできない。また、100 年に一度といわれた不況期を
含む2000 年代の弾性値も超長期の試算で参考とすべきではないだろう。
金利は財政にとって
厳しい想定
金利と成長率の想定
の意味
高金利ケースも想定
税収動向
租税弾性値
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図表2 税収と名目GDP
10.6
10.7
10.8
10.9
11.0
11.1
11.2
11.3
11.4
11.5
11.6
12.3 12.4 12.5 12.6 12.7 12.8 12.9 13.0 13.1 13.2
ln(名目GDP)
ln(税収)
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
3.8
3.9
4.0
4.1
4.2
ln(税収)
国・地方税収(80〜91年度)
国・地方税収(92〜09年度)
国(一般会計)税収(80〜91年度、右軸)
国(一般会計)税収(92〜09年度、右軸)
(注)国・地方の税収は「国民経済計算」ベース(資産税を除く)である。
(出所)内閣府、財務省の統計より大和総研作成
国・地方(80〜91年度)の傾向線
y=1.253x-4.8432
R2=0.9957
国(80〜91年度)の傾向線
y=1.350x-13.485
R2=0.9877
07
08
09
08
07
09
(2)増収見込みの考え方
このように、景気動向に左右される税収が、今後どの程度増加するか見通すことは
簡単でない。ただ、長期の試算を行うにあたっては、日本経済の長期低迷やデフレか
ら脱却した後の正常化した税収レベルを、景気循環を均した上で見極める必要がある。
なぜなら、第一に、本稿で示す長期試算では、税収の弾性値だけでなく、試算の発
射台となる(財政改革を考える初期時点の)税収が重要な意味をもつ。発射台となる
税収の名目GDP 比が高いほど、名目GDP が一単位増加したときの税収の増加額が大
きく、GDP 比でみた財政収支の改善効果が大きいからである(原田・鈴木・長内
[2007b]参照)。第二に、正常化した平均的な税収の水準が把握できなければ、仮に
増税が必要だとしてもその規模が求められないからである。
(3)歳入の仮定
以上の税収に関する現状評価を踏まえつつ、本稿の長期試算では、2009 年度以降の
税収を名目GDP の伸びに対する税収の伸びを意味する租税弾性値によって求める。租
税弾性値は1.1 とする。すでに示したように、国と地方を合わせた税収について、1980
年代の租税弾性値は1.25 程度であったが、1980 年代当時は直接税の比率が高かった
のに対し、現在の直接税と間接税の比率(直間比率)はほぼ1 対1 である。間接税の
租税弾性値は1 とみられるから、現在の長期の租税弾性値は1980 年代より低下して
いると考えられる(鈴木[2004])。
平準化した税収を知
る必要
試算の起点は平準的
な税収とすべき
租税弾性値は1.1
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また、先述したように、名目成長率と租税弾性値で税収を延伸する場合、発射台と
なる税収GDP 比によって将来の税収GDP 比が変わってくる。本稿のような長期の試
算では、景気循環を均した平均的な税収を発射台にする必要がある。発射台とすべき
税収を見極めるには、もう数年の税収データを得る必要があるが、ここではSNA の中
央・地方政府のベースで実績値が得られている2008 年度の税収を基準としたい。
税収は景気に遅行するため、おおまかに言って2008 年度の税収にはリーマンショ
ック後の不況の影響が半分程度織り込まれているだろう。直近値である2009 年度や
2010 年度の税収には歴史的な世界同時不況の影響が強く表れており、あまりに悲観的
である。反対に、2006 年度や2007 年度の税収は好況が長期に続いた後の税収である
から、楽観的に過ぎる。このような観点から、2008 年度の税収を起点とすることは自
然な想定といえよう。
なお、税収以外の歳入(受取利子及びその他の歳入)は、2009 年度も含めて2000
〜09 年度の平均的な名目GDP 比で将来も増加するものとする。
3.長期試算の考え方と歳出の仮定
(1)歳出の仮定
かつて、自公政権のときの財政再建目標(いわゆる「骨太方針2006」)では、おお
まかな支出項目ごとに国と地方を合わせた歳出の抑制額が示されていたが、現政権の
方針である財政運営戦略ではそのような数値的な目標は示されていない。財政運営戦
略に含まれている中期財政フレームにおいて、国の一般会計に限って2013 年度までの
基礎的財政収支対象経費に71 兆円という大枠が設定されているのみである。地方歳出
にいたっては、財政運営戦略において「地方の一般財源の総額については、2011 年度
から2013 年度の期間中、2010 年度の水準を下回らないよう
.......
実質的に同水準を確保す
る」旨が述べられている。
そこで、社会保障費と利払い以外の歳出は名目成長率を上回って増加させない(す
なわち対名目GDP 比で固定)することにする(社会保障費の想定は後述。利払いの想
定は前述した)。ただし、私たちは、歳出をGDP 比で固定することが可能であるとか、
妥当であると考えているわけではなく、固定した場合に、財政がどのような姿になる
のか、あるいは、どれだけの増税が必要かを明らかにするための試算と考えている。
固定しないとすれば、その分だけ必要な増税が増減することになるという意味で、議
論の出発点という理解である。
また、本稿の試算では歳出(利払いを除く)については2008 年度のSNA ベースの
金額(2009 年度確報における2008 年度確々報値)を基準に用いる。2009 年度の歳出
も実績値として得られているが2、2009 年度は大型の補正予算により歳出規模が相当
膨らんでいる。100 年に1 度の経済危機という認識にたった財政政策の結果を、長期
の試算の起点にしたのでは、財政は健全化しようがないだろう(経済危機の要因とほ
ぼ無縁である利払いについては2009 年度の実績値を用いる)。
逆にいうと、本稿の試算は、2008 年のいわゆるリーマンショックから始まった経済
危機に対応するための財政支出の上乗せを、平時に回帰するに伴って速やかに解消す
2 国民経済計算2009 年度確報(一部を除くフロー編の詳細)は、12 月24 日に公表された。
2008年度の税収を基
準にする
2008年度の税収は自
然体
税外収入の想定
財政運営戦略には歳
出削減の数量的目標
がない
歳出の基準も2008年
度の金額
リーマンショックで
上乗せした歳出は削
減されることを想定
社会保障支出以外の
歳出の想定
9 / 20
ることを前提にしている。振り返ってみれば、補正予算でかさ上げした公的需要を、
その後に十分に削減しないことが財政を悪化させてきたという面が確かにあったと思
われる。不況期に上乗せした歳出を不況が終わったときに削減することは何ら緊縮的
ではないはずだが、現実の政治過程では一度拡大させた歳出を縮減することは容易で
はない。本来、大型補正予算の編成は、その必要性をよほど吟味すべきものである。
そうした観点から2010 年度補正予算や2011 年度当初予算をみると、現時点の政府支
出は規模が拡大したままといえ、経済危機以前のレベルへ歳出をスリム化させること
が遅れれば、本稿の試算結果は楽観的なものになる。
(2)社会保障支出の仮定
本稿の目的は、財政がどんな道筋を辿ることになるのか、社会保障支出に着目した
試算を示すことである。社会保障支出(社会保障給付の財源のうち税負担の部分3)に
ついて、両極端と考えられる「社会保障拡張ケース」と「社会保障抑制ケース」につ
いて試算を行う。図表3 が、それぞれのケースでの税の会計における社会保障支出(名
目額)の推移である(なお、図表3 には示していないが、物価が下落するデフレケー
スでは実質値で同じでもそれだけ名目の金額は低くなる)。
社会保障拡張ケースでは、高齢者1 人当たりの社会保障支出が現役層の1 人当たり
実質GDP 成長率(労働生産性の向上)に伴って増加すると想定する。社会保障支出総
額は、生産年齢人口1 人当たりのGDP 成長率と高齢者人口増加率の合計の率によっ
て増加することになる。生産年齢人口1人当たりのGDP 成長率は、長期的には実質賃
金上昇率と物価上昇率の合計に近似させて考えることができる。
図表3 社会保障支出の2つのシナリオ
0
50
100
150
200
250
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(兆円)
社会保障拡張ケース
社会保障抑制ケース
(注)各ケースの意味は本文参照。公債等残高とは、普通国債、地方債、地方交付税特別会計借入金(07年度の一
般会計承継分を含む)の合計。シミュレーション上、マクロ経済は名目3%、実質2%を仮定。人口の先行きは国立社
会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(06年12月推計)における出生中位・死亡中位を利用。
(出所)各種統計より大和総研試算
3 本稿でいう社会保障支出は、中央政府及び地方政府から社会保障基金への経常的な資金移転と、社会扶助給付(生活保護
など)の合計額としている。
社会保障に着目した
試算
社会保障拡張ケース
10 / 20
これを分かりやすくいえば、現役層が労働生産性を高めて生活水準を向上させてい
くのと同様の生活水準の向上を、財政が高齢者に保障するということである。勤労世
代の生活水準の向上以上に非勤労世代の生活水準を高める政策が採られるとは考えに
くいので、勤労世代と同様に非勤労世代の生活水準を財政支出によって高めていくと
いうことは、社会保障支出が最も拡張的に推移するケースと考えることができる。
一方、社会保障抑制ケースでは、高齢者1 人当たりの社会保障支出がGDP デフレ
ータで測った実質値で一定となるように名目の歳出がコントロールされると想定する。
この場合の社会保障支出総額は、物価上昇率と高齢者人口増加率の合計の率で増加す
ることになる。分かりやすくいえば、高齢者の生活水準(年金や医療・介護)につい
て、現在のレベルは物価が上昇しても高齢者が増えても保証されるが、それ以上につ
いて国や地方の財政は保証しないということである。
試算上で経済は実質2%成長を長期に続けるから、引退層である高齢者1 人当たり
実質値で一定とは、社会保障支出が最も抑制されるケースと考えることができる。ま
た、ここでは主として、社会保障に対する税投入を扱っているから、裏側では社会保
障給付を抑制することにつながるような社会保障制度の効率化や医療関連産業の生産
性向上などの抜本的な改革が実施されていることを前提していることになる。
(3)公債等残高の定義
財政問題への処方箋においては、政府債務残高のGDP 比率が長期的にどんなトレ
ンドとなるかが評価を左右する。政府の債務残高には複数の定義があるが、小泉政権
での「構造改革と経済財政の中期展望」(いわゆる「改革と展望」)などと同様に、
現政権の「財政運営戦略」で定義された「公債等残高」を本稿の試算でもGDP 比率を
引下げるべき債務残高として採用する。具体的には、普通国債、地方債、交付税及び
譲与税配付金特別会計の借入金(2007 年度に一般会計へ承継された分を含む)の合計
を公債等残高とする。
なお、グロスの公債等残高は金融資産の積み増し等によって財政赤字以上に増加す
るため、その影響を考慮する必要がある。これまでも、前年度末の公債残高にネット
の残高増分に相当する財政赤字を加えた金額以上にグロスの公債等残高が増加するこ
とが多かった。本稿試算では、毎年の金融資産の積み増し分を名目GDPの1%とする。
4.財政赤字と公債等残高の将来試算
これまで述べてきた、成長率、金利、歳入、歳出の前提の下に、4 つのケースにつ
いて、試算結果を示し、考察する。試算の組合せは無数にあるが、私たちが重要と考
える次の4 つのケースについて述べる。
@ 社会保障拡張ケース:高齢者1 人当たりの社会保障支出が、生産年齢人口1 人当
たりGDP 成長率によって増加。名目GDP 成長率は3%、名目長期金利も3%。
A 社会保障抑制ケース:高齢者1 人当たりの社会保障支出を実質値で一定とする。
名目GDP 成長率は3%。名目長期金利も3%。
B デフレケース:歳出は社会保障抑制ケースと同じだが、名目GDP の成長率が1%、
長期金利も1%状況の場合。
C 高金利ケース:歳出は社会保障抑制ケースと同じだが、名目GDP 成長率が3%、長
期金利が4%の場合。
社会保障拡張ケース
は社会保障支出が最
も極端に拡大するケ
ース
社会保障抑制ケース
は社会保障支出が最
も極端に抑制される
ケース
政府債務残高の定義
は財政運営戦略と同
じ
債務残高と財政収支
の関係
シミュレーションは
4種類
社会保障抑制ケース
11 / 20
(1)社会保障拡張ケース
社会保障拡張ケースの結果は、図表4 に示されている。このケースでは、基礎的財
政収支の赤字幅が、年を追うごとに拡大していく。2005 年度に143%だった公債等残
高の名目GDP 比は、2036 年度に300%を、2048 年度に400%を突破する。社会保障
支出の拡大によって政府支出の名目GDP 比が、税収の対名目GDP 比より大きく上昇
し、かつその差が拡大するのだから当然である。そもそも、財政再建が必要だという
ときに、歳出が名目GDP のペース以上に増大し続ける政策が安易に許されると考える
こと自体がおかしいだろう。
社会保障拡張ケースの結果には、高齢者1 人当たりの社会保障給付を現役層の生産
性向上に合わせて増やしていく効果と、高齢者数が増えていく効果の両方が含まれて
いる。そこで、高齢者数の増加率をゼロとした試算を行ってみると、図表5 に示した
ように、高齢者が増加しないと仮定しても公債等残高GDP 比が大きく上昇する。利払
いと社会保障支出以外の歳出が名目GDP と同率で増えている下で、さらに社会保障支
出が現役賃金にスライドして増える結果、高齢者が増加しなくとも財政赤字が続くた
めである。実際には、そこに高齢者数が増えていく効果が上乗せされる。
図表4 社会保障拡張ケース(成長率名目3%、長期金利3%)
-400
-300
-200
-100
0
100
200
300
400
500
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(兆円)
歳出(利払・公債償還費除く)
歳入(利受・公債金除く)
財政収支
基礎的財政収支
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
50
100
150
200
250
300
350
400
450
(兆円)
公債等残高/名目GDP
公債等残高
(%)
(年度)
10
15
20
25
30
35
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
利払い以外の歳出/名目GDP
税収/名目GDP
(年度)
-25
-20
-15
-10
-5
0
5
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
基礎的財政収支/名目GDP
財政収支/名目GDP
(年度)
(出所)大和総研試算
公債等残高GDP比
は発散型
高齢者が増えなくて
も財政は悪化する
12 / 20
図表5 高齢者数増加要因による公債等残高GDP比の上昇(社会保障拡張ケース)
100
150
200
250
300
350
400
450
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(%)
社会保障拡張ケース(高齢者増効果含む)
社会保障拡張ケース(高齢者増加率ゼロ)
(注)各ケースの意味は本文参照。
(出所)各種統計より大和総研試算
高齢者増要因
図表6 社会保障拡張ケースで公債等残高GDP比を安定化させるための消費税率
0
5
10
15
20
25
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(%)
公債等残高GDP比横ばい
公債等残高GDP比毎年1%減
(注)2014年度以降の公債等残高GDP比を消費是率引き上げでコントロールしようとした場合の消費税率。
(出所)各種統計より大和総研試算
高齢化が進むのだから社会保障支出の拡大は当然で、財政が問題であるなら増税す
べきという意見もあるだろう。しかし、社会保障拡張ケースで生じる基礎的財政収支
の赤字を仮に2014 年度以降の消費税増税でコントロールしようとすれば、消費税率を
図表6 で示したように推移させる必要がある。すなわち、公債等残高GDP 比を横ば
いで推移させるには現在の消費税率に10%程度を上乗せし、2050 年度には22%程度
まで引き上げる必要がある。公債等残高GDP 比を引き下げるにはそれ以上の増税が必
要になるが、ターゲットにする公債等残高GDP 比を一定とすれば、できる限り早いタ
イミングで引き上げた方が引き上げ幅は小さく済む。(図表6 には、2014 年度以降の
公債等残高GDP 比を毎年1%pt ずつ引き下げるために必要な消費税率を例示してあ
る。)
消費税率を22%まで
引上げないと公債等
残高GDP比は安定
化しない
13 / 20
なお、ここでの試算上、消費税率引上げに伴って物価(デフレーター)が上昇し、
その分、名目の社会保障支出を増加させることは織り込んでいない。すなわち、仮に
消費税率引上げという制度要因による物価上昇分まで社会保障支出を増やすとすれば、
公債等残高GDP 比を安定化させる消費税率は図表6 で示しただけでは足りない(こ
の点は、後出図表9 も同様)。1989 年に税率3%で消費税が導入されたときには、消
費税による物価上昇はインフレと同じとされ、物価の上昇に応じて年金の額を引上げ
る物価スライド条項が発動されて年金給付額が増えた。1997 年の消費税率5%への引
上げ時にも同じことが行われた。これでは、実質的に年金受給者は消費税を負担して
いないことになり、社会保障制度を国民全体で支えることにはならない。今後、公的
年金制度を維持するために消費税を上げるときには、消費税による物価上昇分につい
ては年金の物価スライド条項を発動しないと決めておかないと増税の目的は達成でき
ない。
しかも、ここでは社会保障制度の抜本改革が行われず給付全体が削減されていない
という想定なので、増税に加えて大規模な社会保険料の負担増が必要となる。2008 年
度における社会保障支出(社会保障給付の財源のうち税負担の部分)は33.0 兆円(GDP
比6.7%)4、社会保険料は54.1 兆円(GDP 比11.0%)である。両者の比と社会保障
拡張ケースにおける2050 年度の社会保障支出232.4 兆円(GDP 比14.8%)から求め
ると、2050 年度の社会保険料は381.3 兆円(GDP 比24.3%)となる。社会保険料の
GDP 比について2008 年度と2050 年度の差は13.3%ポイントであるが、これは消費
税率換算で26.5%に相当する負担増である。社会保障制度の効率化の努力なしに、収
支尻を合わせるだけのための負担増に賛成する国民は少数だろう。また、社会保障改
革を先送りするほど、債務の累増が進むことを忘れてはならない。
既述したように、名目GDP が増加すると税収が増えるが、金利の上昇を通じて国
債の利払いも増えるので、名目GDP が増大しないほうが財政収支は健全化するという
議論がある。名目成長率の上昇とともに金利が上昇するのは当然だが、しかし、金利
の累積的な上昇が、本稿の試算が想定するように起こらなければ(特別な財政プレミ
アムの発生などを避けることができれば)、その後はその上昇した金利が続くことに
なる。これに対して、税収のGDP に対する弾力性は1 以上であるため、長期的には
金利上昇が利払い負担を増大させる力よりも、経済成長が税収を増大させる力の方が
大きいと考えるのが正しい。利払いは等差級数的にしか増えないが、税収は等比級数
的に増えるので長期的には、税収が利払いを上回る。
(2)社会保障抑制ケース
図表7 が、社会保障抑制ケースの結果を示している。このケースでは、歳出の対名
目GDP 比と、税収の対名目GDP 比のかい離が徐々に縮小していき、公債等残高GDP
比の上昇幅も限界的に小さくなっていく。
ただし、このケースでも基礎的財政収支赤字の解消は2037 年度を待たねばならず、
公債等残高GDP 比も2038 年度まで上昇が続いてしまう。厳しい社会保障費の抑制を
行えば、超長期的には増税をしなくとも公債等残高が低下に向かっているとはいえ(こ
のケースの歳入は社会保障拡張ケースと全く同じである)、公債等務残高GDP 比の上
4 100 年に1 度の経済危機といわれた2009 年度の社会保障支出は、2008 年度から急増しており、37.2 兆円(GDP 比7.8%)
だった。
社会保障の効率化な
しに税と保険料の負
担増は受け入れられ
ないだろう
税収の増え方と金利
負担の増え方は違う
超長期には公債等残
高GDP比がピーク
を打つ
消費税率引上げに伴
って物価スライドを
発動しないと仮定し
ている理由
公債等残高GDP比
が安定化するのはあ
まりに先のこと
14 / 20
昇を止めた「節度ある財政」を常識的な時期までに実現しているとはいえない。
社会保障抑制ケースにも、高齢者数が増えていく効果が含まれている。そこで、高
齢者数の増加率をゼロとした試算を、このケースについても行ってみると、図表8 に
示したように、仮に高齢者数が増加しなかったとすれば、公債等残高GDP 比のピーク
は2029 年度と10 年程度前倒しになる。
このケースで、社会保障拡張ケースで述べたのと同様に2014 年度の消費税率引上
げで公債等残高GDP 比を機械的にコントロールしようとすれば、消費税率を図表9
の通り推移させることになる。社会保障拡張ケースより一定期間に負わなければなら
ない税負担は格段に小さくなる。なお、当初の段階で十分に消費税率を引き上げない
場合は、後になってからの引き上げ幅が大きくなる。また、図表9 では、いったん増
税した後、徐々に消費税率が低下しているが、公債等残高GDP 比一定の場合は2050
年度まで2014 年度と同じ173%が続き、毎年1%ポイントずつ引き下げても2050 年
度の債務残高は136%と高水準のままである。公債等残高GDP 比が高水準のまま減税
をすることは、実際にはできないだろう。
図表7 社会保障抑制ケース(成長率名目3%、長期金利3%)
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
50
100
150
200
250
300
350
400
450
(兆円)
公債等残高/GDP
公債等残高
(%)
(年度)
-400
-300
-200
-100
0
100
200
300
400
500
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(兆円)
歳出(利払・公債償還費除く)
歳入(利受・公債金除く)
財政収支
基礎的財政収支
(年度)
-25
-20
-15
-10
-5
0
5
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
基礎的財政収支/名目GDP
財政収支/名目GDP
(年度)
10
15
20
25
30
35
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
利払い以外の歳出/名目GDP
税収/名目GDP
(年度)
(出所)大和総研試算
高齢者の増加で公債
等残高GDP比のピ
ークが先に伸びる
長期的に負う必要の
ある税負担は大きく
縮小
15 / 20
図表8 高齢者数増加要因による公債等残高GDP比の上昇(社会保障抑制ケース)
100
150
200
250
300
350
400
450
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(%)
社会保障抑制ケース(高齢者増効果含む)
社会保障抑制ケース(高齢者増加率ゼロ)
(注)各ケースの意味は本文参照。
(出所)各種統計より大和総研試算
高齢者増要因
図表9 社会保障抑制ケースで公債等残高GDP比を安定化させるための消費税率
0
5
10
15
20
25
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(%)
公債等残高GDP比横ばい
公債等残高GDP比毎年1%減
(注)2014年度以降の公債等残高GDP比を消費是率引き上げでコントロールしようとした場合の消費税率。
(出所)各種統計より大和総研試算
社会保障抑制ケースは、社会保障拡張ケースと比較すれば財政状態は良好である。
ただし、前述した通り、このケースは長期にわたって社会保障支出を抑制し続ける前
提になっている。実は、これは相当厳しい削減である。社会保障拡張ケースと社会保
障抑制ケースでは、名目GDP や実質GDP は全く同じであるが、社会保障拡張ケース
で2050 年度に232 兆円になる社会保障支出(税負担分)は、社会保障抑制ケースで
は64 兆円である(既出図表3 参照)。
社会保障抑制ケースでは、高齢者の生活水準を左右する社会保障支出を実質値で1
人当たり一定と前提しているため、資産を無視してフローの所得だけで考えれば現役
層と引退層の生活水準格差が拡大していく。実質2%の成長だとすると、2050 年度に
社会保障抑制ケース
の社会保障支出への
インパクト
社会保障抑制ケース
は所得代替率を現在
の3割まで引き下げる
ことに相当
16 / 20
おける生産年齢人口1 人当たりの実質GDP は、2011 年度の3.56 倍になり、現役層の
生活水準はそれだけ高まることになる。すなわち、社会保障抑制ケースは、2050 年度
における高齢者1 人当たり社会保障支出の現役層所得に対する比率(いわゆる代替
率)を、2011 年度の状況の3割程度(=1/3.56)にまで引下げることに相当する5。
ここで述べている代替率とは年金や医療・介護を含めた概念だが、公的年金に限って
いえば、2009 年の公的年金に関する財政検証では所得代替率が62.3%とされた。この
代替率も、現役時代に平均的所得を得ていたモデル家計の新規裁定時における特殊な
代替率に過ぎないが、その3 割といえば19%と極めて低水準である。
厳しい歳出削減を行っても財政が十分には健全化しないことを言い換えれば、高齢
化に伴う社会保障支出の増大圧力はそれほどまでに強いということである。こうした
社会保障の抑制について国民の合意が得られず、あるいは、政治的に実施されようが
ないとすれば、その分だけ図表9 で示した増税に上乗せした増税が必要になる。
(3)デフレケース
名目成長率が低いときには、ゼロ以下とはならない金利は名目成長率を上回ること
が多くなる。名目成長率が1%、名目長期金利が1%であるとした場合の歳入、歳出、
公債等残高GDP 比は図表10 のようになる。既に述べたように、実質2%の経済成長
を見込む下で、名目1%とはデフレの状況であることを意味する。
図表10 をみると、歳出について社会保障抑制を実施するにもかかわらず、基礎的財
政収支は2048 年度まで黒字化しない。デフレ下では名目成長率が低いために、税収が
増える力が働きにくいからである。
社会保障については、デフレケースでも社会保障抑制ケースと考え方は同じである
が、デフレであるため名目の社会保障支出は増えない(実質ベースでは同じ)。また、
長期金利は社会保障抑制ケースの3%と違って1%と低い。そのため、デフレケースの
財政収支GDP 比は社会保障抑制ケースよりもむしろ良好に推移する。
ところが、公債等残高GDP 比は社会保障抑制ケースよりも高い水準で推移するこ
とになる。デフレ下では、物価下落を考慮した実質的な既存債務が累積的に増えると
いう問題が大きいのである。デフレケースでの2050 年度における公債等残高の名目金
額は1798 兆円で、社会保障拡張ケース6581 兆円の約3割、社会保障抑制ケース3288
兆円の約半分であるが、GDP 比では251%に達する(社会保障拡張ケースは419%、
社会保障抑制ケースは209%)。
ここでは、成長率=金利として試算したが、インフレ率が低いときに金利が名目
GDP よりも高くなることは、十分にありうる。その場合はここで示す以上に財政は悪
化する。また、長期のデフレが実質金利の上昇、実質賃金の上昇などの経路を通じて
実体経済を悪化させるのは明らかである。本稿の試算では成長率を機械的に前提して
いるが、そもそもはデフレ下で2%成長が可能と考えることに無理があるとも考えら
れる。デフレ的な金融政策を採用する危険は冒すべきではない。
5 しかも、ここで物価はGDP デフレータを用いているため、生活水準を決める物価が消費者物価であることを踏まえると、
現実にはより厳しい歳出削減を想定していることになる。消費者物価指数で見たインフレは、GDP デフレータで見たインフ
レより率が一般に高い傾向があるからである。
社会保障支出の増大
圧力はすさまじい
デフレ下では名目成
長率が低迷
名目成長率が低いと
税収が増えにくい
財政収支GDP比は
社会保障抑制ケース
よりも良好に推移
しかし、公債等残高G
DP比がデフレ要因
で高くなる
デフレは本質的な悪
影響が多く、ぜひとも
回避すべき
17 / 20
図表10 デフレケース(成長率名目1%、長期金利1%)
-400
-300
-200
-100
0
100
200
300
400
500
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(兆円)
歳出(利払・公債償還費除く)
歳入(利受・公債金除く)
基礎的財政収支財政収支
(年度)
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
50
100
150
200
250
300
350
400
450
(兆円)
公債等残高/名目GDP
公債等残高
(%)
(年度)
10
15
20
25
30
35
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
利払い以外の歳出/名目GDP
税収/名目GDP
(年度)
-25
-20
-15
-10
-5
0
5
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
基礎的財政収支/名目GDP
財政収支/名目GDP
(年度)
(出所)大和総研試算
(4)高金利ケース
長期に均して名目GDP 成長率=長期金利であると考えることは、それほど無理の
ない仮定である。ただし、金利上昇がもたらす財政への負の影響は、公債等残高が巨
額であるだけに大きい。3%の名目成長率が実現し、積極的な歳出削減が実施されたと
しても、金利の影響がどの程度であるかを理解しておくことは、リスクシナリオとし
て必要である。
社会保障抑制ケースと同様の社会保障改革と名目成長率3%を想定するが、名目長
期金利がやや高めの4%で推移する状況が仮に生じた場合の試算結果は図表11 のよう
になる。このケースでは、名目GDP が伸びているためデフレケースとは違って税収が
増え、基礎的財政収支が社会保障抑制ケースと同じように黒字化する。
しかし、金利が高めで推移することにより利払い負担が大きくなり、財政収支はあ
まり改善しない(図表11 右下図の基礎的財政収支と財政収支の差分が利払い負担の
GDP 比率である)。言い換えれば、社会保障抑制ケースと同じだけ実現できている基
礎的財政収支黒字のGDP 比では、公債等残高GDP 比の上昇を抑えられなくなる。
金利が成長率を上回
るリスクを考えてお
くことは必要
基礎的財政収支は社
会保障抑制ケースと
同じ
金利負担を含む財政
収支が悪化し、公債等
残高GDP比が上昇
する
18 / 20
図表11 高金利ケース(成長率名目3%、長期金利4%)
-400
-300
-200
-100
0
100
200
300
400
500
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(兆円)
歳出(利払・公債償還費除く)
歳入(利受・公債金除く)
財政収支
基礎的財政収支
(年度)
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
50
100
150
200
250
300
350
400
450
(兆円)
公債等残高/名目GDP
公債等残高
(%)
(年度)
10
15
20
25
30
35
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
利払い以外の歳出/名目GDP
税収/名目GDP
(年度)
-25
-20
-15
-10
-5
0
5
00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50
(%)
基礎的財政収支/名目GDP
財政収支/名目GDP
(年度)
(出所)大和総研試算
高金利ケースの結果から、金利上昇がデフレと並んで財政にとっての大きなリスク
であることが理解できる。公債市場での財政に対する信頼が揺らぐなどして、一時的
であっても名目成長率を上回るような金利上昇が生じると、その後のパスが変ってく
る可能性は十分にある。基礎的財政収支は利払いを除外した概念であるが、利払いも
れっきとした財政赤字である。金利上昇が利払い負担を増加させ、それによる財政赤
字の拡大がさらなる金利上昇を招くという事態の発生を回避するために、財政再建の
手を緩めてはならないだろう。
5.まとめ
今後、日本は高齢者比率約4 割という、世界にも例を見ない超高齢社会になってい
く。超高齢社会を乗り越えるためには、可能な限りの社会保障の効率化と給付水準の
抑制を含む改革が必要だが、その上での増税も視野に入れる必要がある。ここで、試
算の結果明らかとなったことをまとめよう。改めて4 つのケースにおける公債等残高
GDP 比の推移を一覧比較できるよう、図表12 を掲載した。
超高齢日本では社会
保障の抑制と増税が
不可避
金利上昇と利払い負
担増加の悪循環を回
避する必要
19 / 20
図表12 公債等残高GDP比のシミュレーション結果(まとめ)
150
200
250
300
350
400
450
10 15 20 25 30 35 40 45 50
(年度)
(%)
社会保障拡張ケース
社会保障抑制ケース
デフレケース
高金利ケース
(注)各ケースの意味は本文参照。
(出所)各種統計より大和総研試算
第一に、公共投資や公務員人件費など社会保障以外の歳出について、名目GDP 比
一定というルールを長期に適用したとしても、現役層の生産性向上並みの拡大を社会
保障支出で認めれば、公債等残高のGDP 比は発散的に上昇していく。このケースで公
債等残高GDP 比を2014 年度以降の消費税増税によって安定化させようとすれば、現
在5%である消費税率を10%台後半、さらには20%台前半への引上げていく必要があ
る。しかも、この増税分には当然ながら社会保険料の上昇分は含まれておらず、増税
に加えてGDP 比13.3%分の社会保険料の引上げが必要となる。
第二に、社会保障支出について高齢者1 人当たりの実質額を一定にするような歳出
抑制を長期に続ければ、増税を避けつつ公債等残高のGDP 比を安定化させ、さらに引
下げることができる。ただし、この場合でも、公債等残高GDP 比の上昇を食い止める
までにかなりの年数を必要とするため、現実的には「節度ある財政」の実現とはいえ
ない。このケースで公債等残高GDP 比を2014 年度の消費税増税によって安定化させ
ようとすれば、10%台前半程度への税率引上げが必要になるが、一定の期間でみれば
負うべき税負担はかなり小さくなる。もっとも、社会保障抑制ケースの社会保障支出
削減は極めて厳しいものであり、そこまでの削減ができないとすれば、その分の増税
も上乗せされる。
第三に、日本の長期的な潜在成長率が実質2%程度であるとして、名目成長率がそ
れ以下となるデフレの下では、長期の社会保障支出抑制を前提としても公債等残高
GDP 比が上昇し、財政はやはり厳しい状況となっていく。本稿は、インフレによって
財政問題を解決すべきだと主張しているのではなく、デフレによって名目成長率が低
迷した場合の財政のリスクは大きいということを強調するものである。
第四に、経済成長率と金利の関係について論争があるが、長期に社会保障支出を抑
制することを前提としたとしても、金利が成長率よりも高めに推移すれば、やはり財
政は厳しい状況になる。金利上昇による利払いのための公債発行が財政赤字を拡大さ
せ、それがさらなる金利上昇を招くという悪循環を、財政改革を継続することによっ
て回避する必要がある。
社会保障拡張ケース
社会保障抑制ケース
デフレケース
高金利ケース
20 / 20
最後に、消費税増税を実施した場合の給付の物価スライドをどうするかという大き
な論点について述べておきたい。消費税増税で物価が上昇するとき、年金や医療など
の社会保障給付も物価スライドさせるとすれば、税収が増える一方で歳出も増やすこ
とになる。この点、本稿の試算では給付の物価スライドはまったく考慮していない。
つまり、社会保障拡張ケースにしろ、社会保障抑制ケースにしろ、仮に消費税増税分
の物価スライドを実施するのであれば、公債等残高GDP 比をコントロールするために
必要となる消費税率は、本稿で示したものよりも大きなものとなる。どのくらい高く
なるか、近似的には、物価スライドしない場合の税率を(1−高齢化率)で除したもの
と考えることができるだろう。高齢化率は2030 年には0.318、2050 年には0.396 と
なる見込みである。すなわち、本稿で示した消費税率引き上げ幅を2030 年時点では
1.47 倍(=1÷(1−0.318))、2050 年時点では1.66 倍(=1÷(1−0.396))にす
ることが必要である。
社会保障の財源を確保し、また、全国民で社会保障制度を支えるために消費税増税
が必要だとすれば、社会保障給付について消費税増税分の物価スライドを行わず、実
質給付を引き下げることが必要だろう。2011 年度の予算編成過程では、実質給付を引
き下げるどころか、法律通りの物価スライド(デフレであるので名目額をマイナスス
ライドして実質給付を維持すること)を回避し、実質給付を引上げることが検討され
たという。これまでデフレが続いたにもかかわらず名目の年金水準が十分に引き下げ
られてこなかったため、そもそも現在の水準は本来水準と比べてかなり高くなってい
る。2011 年度に法律通りのスライドが行われる見込みとなったが、本来水準よりもか
なり高い給付水準である状態は依然として続く。デフレによって保険料や税収の課税
ベースが縮小している一方で、社会保障給付を実質で増やしていては財政が悪化する
のも当然である。そうした非合理的かつ鷹揚なことを続けていては、財政の維持可能
性は確保できそうもないといわざるを得ない。
【参考文献】
・ 鈴木準[2004]「財政構造改革の進展を見極めていく」『DIR Market Bulletin』 2004 年
Vol.1
・ 土居丈朗[2006]「政府債務の持続可能性を担保する今後の財政運営のあり方に関するシ
ミュレーション分析―Broda and Weinstein 論文の再検証―」RIETI Discussion Paper
Series 06-J-032
・ 原田泰・鈴木準・長内智[2007a]「日本の財政収支はなぜ悪化し、また改善しているの
か」DIR エコノミスト情報、2007 年10 月10 日
・ 原田泰・鈴木準・長内智[2007b]「基礎的収支の赤字脱却後も社会保障の抑制か増税が
必要」DIR エコノミスト情報、2007 年10 月25 日
・ 原田泰・取越達哉[2006a]「DIR エコノミスト情報 名目GDP の上昇は財政問題を解決す
るか」、2006 年3 月24 日
・ 原田泰・取越達哉[2006b]「地方財政はなぜ改善したのか」DIR エコノミスト情報、2006
年5 月30 日
・ 原田泰・取越達哉[2006c]「地方財政は2012 年度に黒字化する」『エコノミスト』2006
年7 月4 日号
・ 原田泰・取越達哉[2006d]『日本の財政の最悪期は終わった」DIR エコノミスト情報、2006
年8 月15 日
・ 原田泰・取越達哉[2007a]『2035 年までの財政収支を試算 『増税なき財政再建』が可
能な根拠」『ダイヤモンド』2007 年1 月20 日号
・ 原田泰・取越達哉[2007b]『増税なき財政再建は可能」『経済セミナー』2007 年6 月号
【経済社会研究班レポート】
・ No.1 神田慶司・鈴木準「「実質実効為替レートなら円安」の意味―コスト削減の企業努
力は円高・内需低迷・デフレを生んだ」2010 年11 月10 日
物価スライドすれば
増税はますます大き
くなる
物価スライドしては
いけないし、実際の政
策は物価スライド以
上に増やす傾向すら
ある
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