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トリクルダウン理論が、アメリカ国内では所得格差拡大と貧困層の増大を招いたわけではなく、単に、世界的な工業労働者の供給過剰と再分配政策の不足が、低賃金と貧困を必然的に招いているだけなのだが
「中間選挙で敗北したオバマ政権は、富裕層への増税や、公共投資拡大といった失業者救済の政策を採れず、FRBによる量的緩和などに頼らざるを得ない」
ため
「FRBによる大々的な量的緩和はドルの価格を低下させ、同国の輸出競争力強化のみならず、原油などのコモディティバブルを発生させかねない」
というインフレリスクは間違いなく高まっている
転載
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2010/12/29/011539.php
三橋貴明
第82回 アメリカとトリクルダウン理論
2010/12/29 (水) 14:10
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アメリカのオバマ大統領は、12月6日に共和党に譲歩し、ブッシュ政権が導入した減税措置、いわゆる「ブッシュ減税」を、2年間延長する方針を示した。ブッシュ減税の対象は、中間層のみならず、富裕層も含んでいる。共和党との合意内容に、配当税やキャピタルゲイン税の減税延長が含まれているわけだ。
その後、12月16日にはアメリカの下院が、ブッシュ減税の二年間延長など、総計8580億ドル(約72兆円)規模の包括減税法案を賛成多数で可決した。すでに上院は同法案を可決していたため、オバマ大統領が求めていた「年内成立」が、何とか実現できたわけである。
当初、オバマ大統領は、富裕層向け減税について失効させる考えを表明していた。だが、中間選挙における敗北を受け、共和党の要望である「全所得層を対象とした減税延長」で妥協したわけである。とはいえ、民主党内では富裕層向け減税の延長への反発の声が、なお根強い。
『2010年12月26日 ブルームバーグ紙「米大統領:富裕層向け減税、12年打ち切り目指す−ジャレット上級顧問」
ジャレット米大統領上級顧問は、今月成立した減税延長法について、オバマ政権が今後2年間にわたり富裕層向け減税の打ち切りに取り組むことを明らかにした。
同法をめぐってオバマ大統領は、失業手当の給付延長とともに、年収25万ドル超の世帯向け減税の2年延長に同意。上院共和党に譲歩した。ジャレット上級顧問は、この問題が2012年の大統領選前に再び争点になるとの見通しを示した。
同上級顧問は、富裕層向け減税について「オバマ大統領は打ち切りに向けて戦いたいと考えている」と説明。「大統領は2年の延長期間の終了時に懸命に戦うことになる」と語った。(後略)』
そもそも、ブッシュ政権下で実施された富裕層向け減税は、1980年代以降、自由市場主義経済学において主流となった「トリクルダウン理論」に基づいている。トリクルダウン理論とは、ずばり「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透する」という考え方である。
国民経済において、富を創出するのは富裕層である。富裕層を優遇することで、投資が拡大する。投資拡大で長期的に国民経済のパイを広げることで、中間層、貧困層にも富が分配されることになる、というコンセプトに基づいているわけだ。
富裕層を優遇するとは、具体的には富裕層向け減税を行い、所得税の最高税率を引き下げ、福祉改革により社会保障制度を縮小してしまうことである。日本においても、小泉政権を中心に、トリクルダウン理論に基づいた様々な対策が取られたが、やはり主役はアメリカ、及びイギリスであった。何しろ、アメリカでは民主党政権(クリントン政権)までもがトリクルダウン理論を公然と支持し、実際に福祉改革を実施してしまった。また、イギリスでは、何とトニー・ブレア首相(当時)率いる労働党政権までもが、同理論に基づく政策を熱烈に推し進めたわけである。
結果、日本を含む先進富裕国において、国内の所得格差が拡大することになった。我が国でも確かに格差が拡大し(ジニ係数が上昇し)、社会問題にもなったが、本家本元であるアメリカのレベルは日本の比ではない。
何しろ、アメリカのシンクタンクEPIの調査によると、1979年から06年にかけて、同国の上位1%の所得が国民所得全体に占める比率は、10%から22.9%へと増えたのだ。上位1%の国民が得る所得シェアが、対国民所得比で二倍以上に拡大してしまったわけである。しかも、上位0.1%の所得の伸びはさらに凄まじい状況で、97年の対国民所得比3.5%から、06年には11.6%にまで増えた。
アメリカの人口は約3億人である。すなわち、わずか30万人の「大金持ち」だけで、06年時点で全国民所得の一割以上のシェアを得ている状況というわけだ。「大金持ち」の極端な所得拡大は、主に大手企業の幹部(CEOなど)の高額報酬や、あるいは金融産業の極端な所得に大きく依存していた。(結果、07年に始まる世界的な金融危機を迎えたわけだ。)
特に問題に思えるのは、トリクルダウン理論に基づいた「富裕層優遇」の政策が行われた結果、所得増加の大部分もまた、富裕層が獲得してしまったという点だ。たとえば、1989年から06年までの期間において、アメリカ国内で増加した国民所得のうち、上位一割の富裕層だけで91%を得ている。また、上位1%に絞れば、同期間に増加した国民所得の59%を獲得しているのだ。トリクルダウン政策により発生した「果実」を、結局富裕層がほぼ独り占め(?)してしまったというのが、アメリカの現実なのである。
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無論、アメリカの国内経済が順調に拡大し、失業率が低下しているのであれば、トリクルダウン理論に基づく富裕層優遇も、それなりに正当化されるかも知れない。しかし、現実には、同国の失業率は金融危機後に一気に悪化し、2010年11月まで9.5%を下回ることができない状況が続いている。(2010年11月は9.8%)
アメリカの場合、失業とはそのまま「貧困への道」であるため、10%近い失業率が政権に与えるプレッシャーは日本の比ではない。日本や欧州などに比べ、アメリカの失業保険の適用範囲は決して広くなく、失業手当の受取期間も短い。さらに、失業すると「健康保険」を失ってしまうケースが少なくなく、病気になった際に病院に通うことさえ不可能になってしまうのだ。
もちろん、企業の健康保険の対象外となっても、民間の保険に加入することはできる。とはいえ、アメリカの民間保険会社の質は決して高くなく、しかも保険料が異様に高い。家族四人で日本の国民保険並みの保険に申し込むと、月額10万円を超える保険料を設定されるケースが普通である。とてもではないが、失業者に払える額ではない。
元々、アメリカは世界大恐慌のトラウマから、失業率の上昇に神経過敏になりがちであった。さらに、1980年以降のトリクルダウン政策により、それまで以上に「失業」の重みが増してしまったわけだ。
本来であれば、オバマ政権はトリクルダウン政策を転換し、失業者や貧困層を優遇する景気対策を採りたいところである。とはいえ、11月の中間選挙の敗北により、それが不可能になってしまったわけだ。
失業者や貧困層の優遇とは、具体的には1930年代のアメリカのように、大規模公共投資を中心とした財政出動を実施することだ。あるいは、オバマ政権下で一度、実際にやったように、公務員増員による雇用創出でもいい。政府が直接的に支出を拡大し、雇用を創出するわけである。
ところが、中間選挙で敗北したオバマ政権は、大々的に財政出動を拡大する道を封じられてしまった。何しろ、中間選挙では「小さな政府」を標榜する茶会党の候補者たちが、共和党候補として続々と当選を果たしたのである。結果、オバマ政権は景気対策として減税の延長や、あるいは量的緩和の拡大に頼らざるを得ない状況に追い込まれてしまったわけだ。
アメリカの個人消費は、GDPの七割を占める。確かに減税延長は同国の景気回復に好影響を与える可能性が強いが、量的緩和の方はどうだろうか。
【図83−1 アメリカのマネーストック、マネタリーベース(いずれも左軸、単位:百万ドル)、貨幣乗数(右軸、単位:倍)】
20101229_02.png
出典:マネーストック Money Stock Measures
マネタリーベース Aggregate Reserves of Depository Insitutions and the Monetary Base
リーマンショック以降、アメリカの貨幣乗数(=マネーストック÷マネタリーベース)は、それまでの半分以下にまで落ちてしまった。すなわち、信用創造の機能が一気に弱まってしまったわけである。この状況でFRBが長期米国債を買い取り、市場に流動性を供給したところで、果たしてマネーストックが順調に拡大するかどうか。
(3/3に続く)
2010年11月のアメリカにおけるCPI(消費者物価指数)を見ると、総合指数が対前月比で0.1%上昇。食品・エネルギーを除くコアCPIは、やはり対前月比で0.1%上昇となった。
少なくとも、11月時点では、アメリカの量的緩和はインフレ率の上昇をもたらしていない。逆の言い方をすると、現在のアメリカにおいては、それだけデフレ圧力が強いということでもある。今後のFRBは、予定通り大規模な国債買い入れを継続していくだろう。FRBの量的緩和第二弾(QE2)開始以降、アメリカの株式市場は、そこそこ堅調に推移している。
とはいえ、アメリカの量的緩和は、最終的には国内経済の失業率緩和に大きく貢献しない可能性も否定できないのだ。すなわち、FRBから「じゃぶじゃぶ」と吐き出されたドルが、新興国への投資やコモディティへの投資に流れてしまう可能性があるわけだ。
【図83−2 WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格(単位:ドル)】
20101230_03.png
出典:NYMEX
FRBのQE2開始以降、原油先物価格であるWTIは明確に、上昇傾向を取り始め、12月24日には、2008年10月上旬以来、約2年2カ月ぶりに90ドルを突破した。すでに、アメリカ国内におけるガソリン価格は上昇を始めているが、これもまた、同国の失業者や貧困層の生活に直接的な打撃を与えることになる。何しろ、ご存じのとおり、アメリカでは自動車なしで生活することは、非常に難しい。
1980年以降に世界で広まったトリクルダウン理論は、少なくともアメリカ国内では所得格差拡大と貧困層の増大を招いてしまった。それにも関わらず、中間選挙で敗北したオバマ政権は、富裕層への増税や、公共投資拡大といった失業者救済の政策を採れず、FRBによる量的緩和などに頼らざるを得ないわけだ。
そして、FRBによる大々的な量的緩和はドルの価格を低下させ、同国の輸出競争力強化のみならず、原油などのコモディティバブルを発生させかねないのだ。
当然の話として、コモディティバブルの再来は、アメリカの貧困層や失業者をも直撃することになるわけだ。
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