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経済問題、社会問題、医療問題、個人の自己責任哲学などが絡んでおり
簡単に解決策を提示できるものではない
複合的で厄介な問題だ
転載
http://web.diamond.jp/rd/m1158342
「引きこもり」するオトナたち
【第50回】 2010年12月29日 池上正樹 [ジャーナリスト]
「部屋さえ貸してもらえない」のに、どう自立すべき?
社会と無縁化する“壮年引きこもり”の諦めと絶望
引きこもりとは直接関係ないかもしれないが、年末、衝撃的な出来事が報じられた。
12月26日付の毎日新聞朝刊によると、体調不良を訴えた統合失調症の44歳男性が救急車を呼びながら、13病院に受け入れてもらえず、約14時間後、自宅で腸閉塞によって死亡したというのである。
記事では、両親が「どうして心の病というだけで診てもらえなかったのか」と訴える。関係者にとっては、他人事とは思えなかったに違いない。
一生懸命、頑張ってきたのに、なかなか社会に受け入れてもらえない。そんな“社会に定着できない人たち”が、たくさんいる。
社会がどこか、いびつなものになってきているのではないか。どうやって人生を立て直していくかを考えてみたときに、親元から1人立ちして、経済的に自立した生活を送ることが、現実的に相当厳しくなってきているのである。
「40代無職」では部屋も借りられない
引きこもりの自立を許さない社会
今年、ある40代の「引きこもり」男性から、自らの置かれた状況を象徴するような話を聞いた。
男性は大学を卒業後、ようやく入った会社に勤務していた頃から、夜、眠れなくなる日々が続いた。
精神科でもらった睡眠剤を飲み始めると、昼間の職場で眠くなって、集中力が保てない。仕事中にウトウトすることが多くなり、上司から怒られた。
遊んでいるわけでもないのに、どうにもならない。そのことが次第にストレスになり、自ら会社を辞めた。
その後、正社員の仕事を探してきた。しかし、98年当時の不況の影響で、なかなか正社員の雇用がない。やっと仕事が見つかっても、長続きしなかった。
しばらく何もしない状態が続き、実家に戻って、家にいるようになった。
男性は、自分が「引きこもり」だと思ったことはない。しかし、世間では、自分のような存在がそう呼ばれているらしいことを最近になって知った。
ところが、そんな10年余りにわたった「引きこもり」期間も、終わらせなければいけないときがやって来る。
男性はこれまで、年老いた親の企業年金に頼る生活を続けてきた。しかし、生活費が少しずつ家計を圧迫。家族は家賃が支払えなくなり、年末には住み慣れた家を出て、アパートに引っ越さなければいけなくなったのだ。
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「このような状況になっても、親に依存している自分がつらい」
男性は、遠くにある家賃の安い地域で1人暮らしをしようと、アパートの部屋を探して回った。しかし、部屋を借りるための敷金などの初期費用は親が支払うといっても、不動産屋から断られる。「40代無職」がネックになって、部屋を貸してもらえないというのだ。
「これでは、結婚どころか、1人暮らしもできない」
そう男性は訴えかける。
生活保護を申請しても、窓口で「健康なのに」と説教されるという話も聞いた。「障害者でも断られた」という噂まで聞くと、萎縮するという。
「もうホームレスしかないのか」
男性は死にたいと思って、自殺未遂を何度も起こした。
2010年浮き彫りになった「所在不明高齢者問題」
地域などとの“無縁化”が背景に
自立したくても、それを許してくれない社会。「じゃあ、一体、どうすればいいのか?」と、彼らは疑問を投げかける。
とくに地方都市では、貧困世帯が多い。カツカツの親の年金に頼る人たちが、「引きこもり」のような生活を送っていて、皆、自立できずに、地域の中で孤立している。
「引きこもりは、裕福な家族に多い」という個々に責任を転嫁したような誤った神話は崩壊した。彼らの高年齢化は、生活保護や健康保険、年金などの問題とも密接にリンクしている。
親の死後、残された子どもが今後の生活に困って、親の死を隠したまま、そっと年金を受け取り続ける。そんな「所在不明高齢者」の問題も今年、浮き彫りになった。
東京都足立区で、111歳とされる男性が白骨化した遺体で見つかった家庭は、雨戸を閉め切った2階建て住宅に4人の中高年が生活。男性が生存しているように装い、900万円以上の遺族共済年金を受給していたとして、81歳の長女と53歳の孫が詐欺容疑で逮捕された。
9月、大阪市和泉市では、生存していれば91歳になる元銀行員男性の遺体が、死後5年ほど経って、民家の洋服ダンスから見つかっている。同居していた「無職」の長女は、その間も、180万円余りの厚生年金を受給していたとして逮捕された。
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近隣住民を取材すると、長女は、道端で会っても腕で顔を覆い隠す。夜になると、庭の掃き掃除を始め、住民がゴミを出しに行くと、家の中に走り去っていく。
「対人恐怖症なのではないか」
住民は、長女のことをそう思っていたという。
共通しているのは、誰に相談すればいいのかわからず、黙っていれば誰も助けてくれない中で、個々が地域から孤立していく「無縁化」の実態である。
11月、秋田県で50歳の「無職」の長男が78歳の父親に殴殺された事件を当連載でも紹介した。家族は母親と3人暮らし。長男は大学時代に体調を 崩し、就職しないまま、事件が起きるまでの間、実家で約30年にわたって引きこもっていた。しかし、その引きこもる長男の存在は、近隣にも民生委員にも知られることはなかった。
秋田県では8月にも、66歳の母親が、38歳の「無職」の息子を道連れに自殺する事件が起きている。
息子は、約10年前に体調を崩して仕事を辞めて以来、実家で生活していた。しかし、やはり近隣住民は、数年前から姿を見かけなくなったという。このケースでも事件後、「息子を残して死ねない」などという母親の将来を悲観したようなメモが、自宅から見つかった。
見えなかったものが、あるとき突然、噴出したりする。
「まるで、地獄の底が開くようだ」
これらの問題を取材している、そんな新聞記者の表現が印象に残る1年でもあった。
引きこもり問題は「パンドラの箱」?
“消えた壮年者”が自立できる日は来るか
内閣府は7月、全国の15歳から39歳までの「引きこもり」の心性を持つ人の数は、予備軍も含めると225万人に上ると推計した。もちろん、国が「引きこもり」の人たちの把握に努めようとしたという意味では、大きな前進だったといっていい。
しかし、このように年老いた親の年金に頼って生活している高年齢化した「壮年者」の実態は、いまもよくわかっていない。国がなかなか触れようとしないのも、「パンドラの箱」を開けたくないからなのではないか、と勘繰りたくもなる。
先日、「高年齢化」問題の取材に来た某大手紙の記者にそんな話をしたら、総務省のレポートの存在を教えてもらった。
次のページ>> 「将来のことなど考えたくない」という想いを抱える当事者たち
昨年8月26日付の総務省の「無就業・無就学の壮年者の最近の状況」によると、これまで調査対象だった15〜34歳より「年長の壮年 者」(35〜44歳)にも焦点を当てている。こうした壮年者は、08年9月に38万人だったが、その後も増加傾向にあり、09年6月には41万人と過去最高になったと報告している。ただ、このレポートにしても、44歳までの限定的な層の把握であり、全容を把握しているわけではない。
某大手紙の記者は、ふと「これは“消えた壮年者”ですね」と、ネーミングしていた。そう、いま本当に何とかしなければいけないのは、国の調査対象からも支援対象からも外されて、社会からすっかり置き去りにされた“消えた壮年者”たちが自立していくための環境整備である。
元当事者で、引きこもり支援の居場所「京都ARU」(京都市、メール:kyotoaru@gmail.com TEL:075-661-2088)のスタッフを務める梅林秀行さんによると、40代を超えた人たちは、社会に参加する動機が失われている人が多いとい う。つまり、自分自身の期待や希望、家の外の人たちにつながりたいという動機自体が薄まっているのだ。
「今日の時間が、明日も続けばいい」
諦めと絶望。裏を返せば、一種の「安定した思い」を親子で共有している。
そんな社会参加に向けた葛藤が生じていない人たちに、どうアプローチしていけばいいのか。
2011年1月10日(月・祝)の午後2時05分から午後3時55分まで、NHKラジオ第1では、「引きこもっちゃダメですか? 〜次の一歩を踏み出すために〜」という特番を組む。
ある40代の当事者男性に、筆者が番組への出演を打診してみたところ、こんなメールが返ってきた。
「現状を打破できないのは、社会のせいでも親のせいでもない。何を言っても説得力がないし、言い訳としか見られない」
多くの当事者たちは、「将来のことなど考えたくない」などといった様々な思いや悩みを秘めつつ、いまも生活を続けている。
発売中の拙著『ドキュメント ひきこもり〜「長期化」と「高年齢化」の実態〜』(宝島社新書)では、このように、いまの日本という国が、膨大な数の「引きこもり」を輩出し続ける根源的な問いを追い求め、当事者や家族らの語る“壮絶な現場”をリポートしています。ぜひご一読ください。
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