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山崎氏は、優れた特性のあるBIも政治的・行政的には、実現は絶望的であると予想している
子供手当てや法人税減税などのゴタゴタを見れば、そのような予想も当然か
転載
http://diamond.jp/articles/-/10608?page=4
【第162回】 2010年12月29日
著者・コラム紹介バックナンバー
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
ベーシックインカム、関心の高まり
近年、ベーシックインカムに対する関心が高まっている。タイトルないし、サブタイトルに「ベーシックインカム」と冠する書籍はネットの書店で検索すると十冊を超えるし、思想を扱う雑誌もしばしばベーシックインカムを特集する。
制度としてのベーシックインカムの導入を提唱する向きには、ワーキングプアの増加や格差の問題に対する解決策の一つとしてベーシックインカムを導入すべしと説く反貧困の社会運動側からの声もあれば、社会保障制度全般の改革・効率化を考えたときにベーシックインカムが優れていると見る市場主義・資本主義擁護の立場からの提言もある。ベーシックインカムは、特定の思想とだけ結びつく制度ではない。但し、論者の依拠する立場の違いによって、具体的に想定するベーシックインカムの内容が、かなり異なったものになることには留意が必要な場合もある。
さて、ベーシックインカムとは、国民の全てに無条件で一定額の現金を給付する制度だ。困窮者への生活保護、高齢者への年金、失業者への失業保険といった、受給のために詳細な条件や手続きがある社会保障制度ではない。
仮に、一人に月額5万円のベーシックインカムを給付するとすればどうなるか。
4人家族であれば月額20万円だから、家族が健康であれば、暮らす場所にもよるが、最低限の生活は可能だろう。もちろん、家族の誰かが働くなら、より豊かに暮らすことができるが、20万円の所得が最低限保障されていれば、失業による困窮のプレッシャーは大幅に軽減されるし、収入のため以外の理由から幅広い範囲の中で職業選択することが可能になる。また、現在の生活保護のように、受給を受けるためにさまざまな生活に対する介入を受けることもないし、いざ必要だというときに自治体の「水際作戦」(生活保護支給を何とか行わずに済ませようとする各種の努力)で弾かれて受給できないといった不確実性がない。
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国の予算は、新しい支出に対して厳しく「恒久的財源」を求めるが、財源の問題はどうか。一人月5万円のベーシックインカムだとすると、年間に必要な財源は約75兆円だ。これは、巨額に見えるかも知れないが、現在の社会保障給付は既に年間約90億円ある。年金、雇用保険などで既に負担している保険料も含めて税金に置き換えてベーシックインカムの財源とすることができれば、健康保険など医療関係の支出約30兆円を除外して、追加財源は15兆円程度で実施可能だ。消費税で賄うなら、5%程度の税率引き上げでいい。また、税金を払う人もベーシックインカムを受け取るので、お金の出入りに重複があり、見かけほど負担が増えるわけではないから、規模的には月5万円以上のベーシックインカムも実現可能だろう。
傾向として、社会運動としてベーシックインカムに取り組む方は一人に月10万円〜15万円くらいの大きめの額を提唱する傾向があり、市場経済を重視する論者は月5万円〜8万円くらいの金額を推すことが多いが、どちらの場合でもベーシックインカムは次に述べるような長所を持っている。
ベーシックインカムの長所
(1) 手続きが簡単で、先の生活が計算できる「シンプルさ」
たとえば、現在の年金制度は一般人が全貌を理解することが困難なほどに複雑であり、その複雑さが制度不信の一因でもある。また、生活保護は受給のための手続きが面倒であり、申請しても本当に貰えるかどうか心配だ。この点、ベーシックインカムは単純だ。
(2) 受益者に偏りが少ない「公平さ」
公共事業による富の再配分は、特定の地方、業界などにメリットが偏るが、ベーシックインカムは国民全体が均等にメリットを受ける。もちろん、納税額には差があるから、税制を公平なものにする必要があるが、支出面での公平さはベーシックインカムが突出している。
(3) 使い道や、資源配分に関して、政府の介入が少ない「自由さ」
生活保護だと、貯金が一定額以上持てなかったり、暮らし方にも条件が付いたりする。また、旧来の公共事業や補助金への公的支出は政府が資源配分に積極的に関わるので、必ずしも資源配分上効率的ではない。この点、ベーシックインカムは使途に制限がないので、個々の国民が真に必要だと思うものに支出できる。市場による資源配分がどのくらい有効に働くかという問題は残るが、ベーシックインカムは自由主義経済的だ。
尚、一定の税率で且つ所得が完全に補足される場合、ベーシックインカムは、ミルトン・フリードマンらが提唱した「負の所得税」と同じ所得配分効果を持つことが知られている(簡単に確認できる)。
次のページ>> 運営コストが安い「低コストな制度」
(4) 相対的低所得者にとって有利な「格差是正効果」
経済的に恵まれない人に対して公的な援助がある方がいい、という考え方には多くの人が賛成する。政治哲学的にこれをどう基礎づけるかについては、さまざまな議論があるが、この際理由に拘る必要はない。文明国にあって人には生存権があると考えてもいいし、文化その他を共通の遺産として相続しているからだと考えてもいいし(これはかなり面倒な考え方だと思うが)、共通に設定された社会的保険なのだと考えてもいいだろう。
筆者自身は保険の考え方を採りたいが、この点を議論して決着を付ける必要性は感じない。何れの考え方に立つとしても、ベーシックインカムは目的、手段共に明快な富の再配分システムだ。
(5) 運営コストが安い「低コストな制度」
ベーシックインカムは運営コストが安い。ベーシックインカムにあっては、年金のような保険料の徴収、支払いのための手続き、データの管理も必要ない。社会保険庁も不要になるし、年金不払い問題のようなミスが起こる可能性も小さい。行政の効率を改革するにあたって、ベーシックインカムは強力な武器だ。
これらの他にも、ベーシックインカムには、生活保護のように受給が恥ずかしくないことや、無条件且つ定額の給付であるために、労働のインセンティブを大きくは阻害しない(働けばより豊かに暮らせる、という関係は残る)といった長所がある。
筆者が思うに、ベーシックインカムで全てを解決しようと考える必要はない。富の再分配を公正にするためには税制を調整すればいいし、老後の備えが不安な国民が多ければ、自発的な貯蓄・運用を支援する仕組み(個人型の確定拠出年金がいいと思う)を追加すればいいし、医療保険をアメリカのようにはしたくないので、健康保険制度は現状の延長線上で維持すればいい。ベーシックインカムとこれらの制度を合わせて、「全体として最適化する」という考え方に立つべきだ。
たとえば、ベーシックインカムだけを見ると、「高額所得者にもお金を配るのは合理的でない」という考え方があろうが、高額所得者に対して所得なり消費なりの段階で厚く課税すれば、「全体として」負担と受給による富の再配分のバランスは保たれる。所得によって給付額が変化するような仕組みをベーシックインカムに付け加えると、制度のシンプルさが損なわれるし、行政上の手続きが増えてしまう。
次のページ>> しかしベーシックインカムは実現しないだろう
先入観を捨てて考えてみると、ベーシックインカムは富の再配分の仕組みとして、またいわゆるセーフティー・ネットとして理想に近い制度だと思える。日本でも是非実現したい。
しかし、率直に言って、ベーシックインカムは日本で実現しないだろう。
なぜか。それは、制度がシンプルすぎて官僚の仕事と権限が減るからだ。たとえば、社会保険庁も、公的な年金の運用も、雇用保険も不要だとなると、厚生労働省は大いに抵抗するだろう。生活保護のような自治体にとっては余計な荷物的な仕事であっても、これがなくなって、権限を手放すことになるとすれば抵抗があるかも知れない。
ただし、ベーシックインカムの考え方は政策を考え、制度を設計する上で生かすことができる。
政策を評価する際に、「シンプルさ」「公平さ」「自由さ」「格差是正効果」「低コストな制度」の五つの視点を持つことが有効だ。
たとえば、現在の公的年金制度は、複雑で、世代間の公平を欠いていて、受給したお金の使い方は自由だが、ここしばらくは相対的に豊かな高齢世代に富を移転し、運営コストが大変高いという意味で、上手くできている制度ではない。
逆に、官僚あるいは、官製情報に頼るメディアからの評判はすこぶる悪いが、子供手当は、仕組みが単純で、「子供を持っている人」という区別が不公平かも知れないが、使い道も自由で(借金を返してもいいし、パチンコに使ってもいいではないか!)、低所得者への再配分になっているし、運営コストは安いから、そう悪い制度ではない。「バラマキだ」という批判があるが、公共事業のように偏ったお金の使い方をするよりは、公平にばらまく方がずっといい。
ベーシックインカムについては、現金による給付であることや、労働など何らかの我慢の対価としてでなくお金を渡すことなどに「抵抗感」を持つ人がいるかも知れないが、よく考えてみて欲しい。そう悪いものではないはずだ。
筆者は、現在のもろもろの制度を「ベーシックインカム的」に徐々に変えていけばいいと思っている。
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