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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5131
中国で日々作られ使われる新語の中で今年ぽつぽつと見るようになった単語に「銀髪族」というのがある。
【ケチな中高年が消費に目覚めた】
中国の銀髪族は旅行にお金を使い始めた。日本は人気の国になっている
銀髪族とはその名の示す通り、60歳以上の老人を挿す言葉であり、老人絡みのトピックでは銀髪族のほかに「老年(人)消費」という単語が絡むニュースもよく見かける。
本国中国はおろか日本のあらゆる経済誌ですらも消費の中心が「80后(パーリンホウ)」と呼ばれる1980年代生まれであるという情報がありふれた情報となっている。
その中で、銀髪族が話題に上り始めたのは、彼らが消費し始めたことにほかならない。現在中国における60歳以上の老人の人口は日本の人口以上の1億6000万人で、この数字は全人口の12%に当たり、毎年800万人ほど銀髪族が増えている。
今年上海万博を契機に「誰もが」ではないが、「多くの」都市部の住民が上海万博を見に行った。
この時、上海および、南京や杭州観光をセットにした「華東地域ツアー」に多くの老人が参加し、また上海万博後についても平日の中国国内観光ツアーは時間に余裕のある老人ばかり。そうしたことから老人の団体を歓迎する旅行会社の広告は年々増えている。
【中国でも問題になってきた所得格差、年金格差】
中国の老人は金を持っている。現在の若者が就職難に直面しているのとは対照的に、中高年の若き頃は仕事が分配され、家も非常に安く購入できた(「中国にうっ積する「世代間格差」というマグマ」)。
当時、国営・公営企業のほか、準公務員的なポジションの「単位」と呼ばれる組織はゴマンとあり、そこで働いていた人々の一部が現在銀髪族になると、在職時のステータスによりその都市の一般的な月収から月収数カ月分の年金を毎月もらえるようになる。
当然、中国の掲示板やブログなどでは、所得格差と同様に年金問題に不満の声が多数確認できる。
また、数は少ないものの、過去に技術職として国の研究所などで働いていた老人が、研究機関などで技術顧問として再就職するケースもある。もちろん貴重な経験豊富な技術者には老人といえども金に糸目はつけない。
老人、もっと言うと中高年は物欲がなさそうに見える。新ジャンルの製品を欲しがらず、ITにより中国ではここ10年で飛躍的に便利になったというのに、周囲から強く推薦されない限りパソコンはおろか携帯電話すらも触れようともしない。
【昔のままの貧しい生活スタイルを好む中高年】
お年寄り向けのシンプル携帯電話機
高い買い物である車や家も買おうとせず、家はずっと居住している築20〜30年の集合住宅に住みたがる。
服は中国のアパレル企業がこぞって様々な年齢層に向けて製品をリリースするにもかかわらず、日本で言えばシャッター街寸前の商店街にある“ファッションショップ”のような店で安い服を購入したがる。
結婚披露宴などのパーティがあれば、そこで出された御飯の残りを発泡スチロールの弁当箱やビニール袋に入れて持って帰り、後日家族に残り物を振る舞う。
日本の地方に住む老人以上に頑固で保守的でケチなのである。
ところが、さきほど旅行の例を挙げたように、この人たちにあるスイッチを入れると、今までの吝嗇感覚で言えば、“狂ったように”消費するようになるのだ。
【文革の影響で知識欲まで減退した古い世代】
新しいモノや技術やトレンドに無関心な原因として、文化大革命が影響しているというのが中国では定説になっている。
知識を持つことを良しとしなかった風潮が長く続いたことから、文革後は知識にとどまらず知識欲までも減退してしまったようである。
インターネット利用者層を見ると、1970年代生まれ以降の世代でのインターネット利用率と、1960年代生まれ以前の世代でのインターネット利用率には大きな隔離がある。
中国におけるパソコンやインターネットの普及はもはやお金の問題ではなく、歴史に裏打ちされた「やる気」の問題となっている。米国風に言えば、明確なデジタルデバイドが生じているのである。
インターネットを利用するのは若者、利用しないのは中高年であるために、多くの若者はニュースをはじめとしたあらゆる情報をインターネットを介して知り、多くの中高年は新聞やテレビを介して知る。
【孫に使う以外はお金を貯金するだけ】
お年寄り向けの新聞広告。写真は旅行代理店のもの
若者のテレビ・新聞離れに比例して、広告もネット広告は若者向け、新聞広告は中高年向けのものばかりとなった。
また、そうした中高年の少し下の世代、文革の影響をもろに受けた1960年代生まれの人々も、中高年と同じような消費性向を持つ。
彼らは、研究開発(R&D)の戦力にはならなず、「断層(の世代)」とも呼ばれているが、やはり新しい物事を取り入れようとしない。
いわば老人予備軍なのである。つまり、何もしなければ、中国の市場にとっては期待できない存在ということになる。
物欲が薄く貯金が貯まるだけ貯まる老人は、せいぜい物欲のある新世代の子供や孫に言われるままにお金を出すくらいしか、貯金の利用用途がなかった。
【急速に人気が出てきた健康グッズ】
お年寄り向け健康グッズが新聞を賑わしている
こうした風潮にもかかわらず、銀髪族市場をメディアが紹介する背景には、彼らの心理に若干の変化が見られ始めたことがある。
この心理の変化の背景として、「近年、中国の社会保障制度が改善するというニュースが頻繁に流された結果、老人たちが貯蓄しなければならないという警戒心を少しずつ解き始めている」と分析する中国メディアもある。
そうした銀髪族の消費の行く先はどこへ向かうのか。
いくつかの調査結果を見比べても、「健康食品」に「健康グッズ」ばかり。「1に健康、2に健康」と、中国の老人たちは健康に対する関心が極めて高くなっている。
それに呼応するように、中国の新聞を広げれば老人向けの健康食品・健康グッズ・病院の広告がゴマンと載っている。
そうした商品の中には当然、ニセモノも多い。そこはやはり中国である。老人を敬う習慣のあるはずの国でも、各社が競って老人の弱みにつけこんだニセ健康商品を売りつける。
【中国の中高年に人気は日本の健康商品】
しかしその一方で、その類の広告を掲載する中国メディアは「ニセモノに注意」と警鐘を鳴らしている。
まさにマッチポンプだが、それだけ市場が拡大していることの証拠でもある。
健康商品で人気があるのが日本製品だ。
老人の中でも中国製品不信がじわりじわりと広がる中、老人や老人がいる家庭の中でオムロンをはじめとした日系健康機器メーカーの評判が口コミを通じてじわりじわりと上がっている。
健康機器だけではない。
昨年には老人コミュニティの口コミを通して話題が話題を呼び、ピップマグネループへの注目が急上昇し、成田・関空・中部などの空港の販売店で売られるようになり、さらに中国ではニセモノも登場した。
【医者も好んで使う日本の健康機器】
私にしても、「日本に一時帰国する」と言うと、必ず周囲からピップマグネループを5個単位で買ってくるよう依頼された。
個人で購入するだけではない。多くの病院で患者に対し安心安全の日系メーカーの健康機器を売りつけて、信頼を得つつ病院や担当医師の売り上げを上げている。
老人が集まりやすい場所での各社の老人向け製品の広告が活発になってきているらしく、最近日系メーカーの健康器具のチラシが老人のいる家庭に置かれているのをよく見かけるようになった。
「日本で人気の老人向け商品!」をアピールするニセモノの広告が近年見られ始めたことは日系メーカーへの信頼の裏返しだろう。
本来銀髪族のニーズはないが、デジカメやパソコンなど物欲旺盛な若者たちが新製品を購入する際、お古を両親に譲った結果、それらを所有し使い始めることもある。
【中国のお年寄りを狙え!】
お年寄り向けのシンプル携帯を宣伝する新聞広告
また「老年大学」と呼ばれる公営の老人向けカルチャースクールが中国全土の都市にできることで、パソコンなどハイテク機器に触り始めるケースも少数派だがある。
利用し始めた人たちの口コミにより、銀髪族の中で徐々に文革の悪影響が薄れていく可能性はあろう。その結果、ピップマグネループのような銀髪族限定の日本製品ブームが健康グッズ以外で起きるかもしれない。
中国市場というと、とかく団体旅行で日本に来て銀座・秋葉原・新宿などでまとめ買いをする現役世代の中国人ばかりが目立つが、中国人イコール青少年ではない。
やがて韓国人旅行客のように、日本に旅行で大挙して来るかもしれない年配の中国人観光客に備え、今のうちからこれらの世代にPRしていく投資は、選択肢として検討すべきではなかろうか。
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