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オバマの評価が一連の立法化によって高まっているらしい
マイナスの反作用という面もあるだろうが、完全なレイムダック化は
何とか避けられる見通しということか
日本の首相に対する国民の信任低下、マスコミのバッシングとは
対照的なのは、再チャレンジを許す国民気質の違いもあるか
XXXXXXXXXXXXXX 引用 XXXXXXXXXXXXXX
『from 911/USAレポート』第490回
「中道オバマの新政策にある一貫した方針とは何なのか?」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』 第490回
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「中道オバマの新政策にある一貫した方針とは何なのか?」
11月の中間選挙で大敗して以来、精彩を欠く印象だったオバマ大統領は、このま
までは再選に黄信号というような雰囲気でした。ところが、年末ギリギリになって共
和党との「超党派合意」を連発、長い間懸案だった問題を一気に解決して政治的には
急浮上しています。それにしても(1)ブッシュ減税の延長、(2)軍における同性
愛カミングアウトの自由化、(3)対ロシア新核軍縮条約の批准、(4)911テロ
時の救急出動者への無償医療サービス立法、と合意の難しいと思われた懸案を4つも
片付けているのですから大したものです。
NBCのブライアン・ウィリアムスは、「議会にこんなに仕事をさせたのはジョン
ソン大統領時代以来」だと言っていましたし、オバマ大統領は22日の夕方4時過ぎ
には「勝利の記者会見」を行い「今日は最高の一日だ」とニッコリ笑って、そのまま
「エアフォースワン」に乗り込み、ハワイでの11日間の休暇に入りました。大統領
の支持率も、20日から22日にかけて行われたラスムーセンの調査で支持47%、
不支持51%と一時期の「不支持が10%以上も上回る」状況からは持ち直していま
す。年明けの調査では恐らくもっと良い数字になるでしょう。
先週のこの欄では「中道にシフトしたオバマ」について、(1)の減税延長で合意
に達しただけの時点で論じてみましたが、更にこれだけの合意を実現したとなると、
改めてその意味についてじっくり考える必要があると思います。それにしても、「ブ
ッシュ減税の全面延長」という点で大統領が共和党案を「丸呑み」したインパクトは
大きかったようです。これで共和党議員団はすっかり軟化することになりました。今
年の春、民主党サイドが医療保険改革案をかなり強引な通し方をした際に、「以降は
超党派合意には応じない」と態度を硬化していた共和党が、その前の状態に戻ったの
です。
以降はかなりスムーズに審議が進みました。(2)から(4)はどれも共和党の支
持母体の一角を担う「草の根保守」のイデオロギーとは相容れない政策ですが、結果
的に実務家による説得が通じたのです。軍の同性愛自由化については、ゲイツ国防長
官、マレン統合参謀本部議長以下が承認を求めましたし、ロシアとの新核軍縮に関し
てはそのゲイツ国防長官とヒラリー国務長官がサポートする中、議会の秘密会で国の
防衛戦略に根ざした説得が繰り広げられました。また911テロの際の出動者の救済
については、ニューヨークのブルームバーグ市長が共和党の説得に当たったのでした。
さて、こうした一連の「新政策」ですが、何か一貫した方針はあるのでしょうか?
その検討に入る前に、そもそも「11月の中間選挙で与党が大敗し、1月の新議会で
は共和党が下院を圧倒的多数でコントロールるする」という現状にも関わらず、どう
してこれだけの「超党派合意」ができたのかという点で、「ねじれ議会+与党内分裂」
で動きの取れない日本の政局とはどこが違ったのか、その点を確認しておきたいと思
います。
今回の「超党派合意」の背後には、確かに民選で強大な権力を与えられた大統領制
や、上下両院の性格付けや優越性に関する憲法上の規定が制度インフラとして存在し
ています。ですが、大統領制や両院の優越性の定義がなければこうした「ねじれの中
での超党派合意」は不可能かというと、そんなことはないと思います。この欄で再三
お話しているでのすが鍵は「党議拘束の解除」です。個々の議員が、大統領の説得を
受ける中で選挙区と相談して独自の判断を行う、その柔軟で独立したシステムが「ね
じれの中での決定」を可能にしているのです。
それはともかく、実際に今回決定した政策は、単に「超党派合意ができた結果」と
いう以上の意味を持っていると思います。表面的には「減税」は共和党寄りですし、
「同性愛の自由化」とか「核軍縮」というのは民主党的な政策に見えます。また
「911出動者の救済」について当初共和党が反対したというのは、彼等にとって
「911と戦った伝説」よりも「目先の医療保険改革つぶし」の方が優先事項であっ
たという時間感覚を感じさせて興味深いようにも思います。
ですが、そうした対立軸とか政争という構図の奥を見てゆくと、この四つの「政策」
には一つの共通したテーマがあることが分かります。それは「財政再建」という問題
です。まず軍の関係で(2)の同性愛自由化と(3)の核軍縮についてはどうでしょ
う? まず対ロシアの核軍縮ですが、一つには「欧州のミサイル防衛システムの仮想
敵を、ロシアからイランに一部変更」という戦略的な意味合いがあります。ですが、
それ以上に「膨大な核弾頭の維持管理コスト」にはもう耐えられないという財政上の
要請があるのです。対イラン戦略にしても、イラクとアフガンの延長に「対イラン抑
止力」を本格的に構築するのではなく、ミサイル防衛システムの「対象ずらし」で対
応するというのはコストダウンに他なりません。
軍における同性愛カミングアウトの自由化についても、社会価値観に関するイデオ
ロギー的な政策変更に見えますが、実際のところは「コスト削減」の問題が決め手に
なったという見方もあります。折角国費をかけて募兵をした、あるいは訓練を施した
兵士であっても、これまでは同性愛を告白した場合は即時除隊にしていたわけで、そ
の「ムダ」は相当な額になっていたというのです。共和党の反対派を説得するための
レトリックにも見えますが、この「コスト要因」というのは無視できない問題であっ
たようです。
ニューヨークの「911テロ出動者への医療サービス」という問題も、共和党にと
っては「医療保険改革を潰そう、あるいは骨抜きに」という「意欲」の延長で反対し
ていたように見えますが、これとても「小さな政府論」や「自己責任論」の延長にあ
る主張であり、「財政」の問題が色濃く影を落としています。結果的に可決されたと
はいえ、当初案よりも金額的には圧縮されているのです。
ところで、一連の「超党派合意」の決め手になった「ブッシュ減税の継続」はどう
でしょう? 2年間で総額8600億ドル(72兆円)という額は、減税である以上
はコストであり持ち出しになる金額です。とりわけ、年収25万ドル(約2千万円)
以上の富裕層に関しては、減税を終わらせることによる税収により「財政再建」を行
うとか「医療保険改革の財源」にするというようなことを、オバマ自身が大統領選を
通じて言い続けて来ましたし、民主党の周辺には今でもこの「増税」が実現できなか
ったことへの反発が渦巻いています。
ですが、今回議会が可決してオバマがサインした法案は、富裕層も含めた完全な
「減税の延長」なのです。これでは共和党案を丸呑みしただけでなく、オバマ政権と
しての節操はどこにあるのかという話になってしまいそうです。ですが、この判断自
体もオバマとしては一応筋を通しているのです。というのは、オバマの「再選戦略」
においては「財政再建」をキーワードにしそうな気配で、既に大統領の諮問委員会で
ある「財政規律委員会」などが動いているのですが、ここでは2020年までに累計
4トリオン弱(4兆ドル=340兆円)という巨額の赤字削減を目指すという方針が
出てきています。
そんな物凄い赤字削減に取り組むのであれば、まず2011年から2年間の860
0億ドルの減税をするというのは矛盾に見えます。ですが、オバマとしてはストーリ
ーはあるのです。この「2020年までに赤字削減を行う財政規律委員会の提言」の
行動計画には、次のような前提条件があるのです。それは「不安定な景気回復トレン
ドに負荷をかけない」という前提で、そのために具体的な財政赤字削減については
「2012年からゆっくりスタートし、本格的な歳入増+歳出減に取り組むのは20
14年から」というタイムテーブルになっているのです。
つまり2011年から2012年という時期に「景気回復の手段としての減税」を
行うことは「中長期の財政赤字削減計画」とは矛盾しないどころか、この減税が景気
回復に効果があるのであれば、却ってその後の税収増にもなるという計算もあるとい
うわけです。これは別に詭弁でも手品でもなく、単年度主義ではない国家経営を行う
という発想から自然に与野党で合意がされたのです。
そう考えると、今回の「オバマの譲歩」や「共和党の妥協」というように見える一
連の「超党派合意劇」は、実現可能な狭い政策選択の幅の中で、しっかりとその「実
現可能なゾーン」での意思決定がされたというだけのことのように思われるのです。
繰り返しになりますが、それは「財政再建」という一つのテーマに集約ができるもの
です。そして、この点に関しては実はトーンこそ違え、草の根保守の「ティーパーテ
ィー」が今年一年をかけて主張してきたテーマと見事に重なるのです。
もうすぐ2011年、年明けにはオバマの年頭予算教書演説(ステート・オブ・ユ
ニオン・アドレス)があります。大統領の今回のハワイでの静養は、この「中間選挙
敗北直後」の予算教書に何を盛り込むかを考えるためという解説もありますが、とに
かくこの演説は大事です。選挙に負けた直後でもありますが、再選を目指す大統領選
へのキックオフ宣言という位置づけもあるからです。そして、そのテーマは恐らくは
「財政再建」になるでしょう。具体的には「2020年までに4トリオン弱の赤字削
減」という巨大な数字も持ち出すでしょうし、今回の減税は景気回復のためであり、
赤字削減は2012年から、そして2014年以降に本格化するということも恐らく
口にするのではないかと思われます。
対する共和党の大統領候補レースは、今のところサラ・ペイリンを軸に回っていま
すが、アプローチこそ違え、こちらも主要な主張は「財政再建」です。例えばペイリ
ンの場合は、今回の「超党派合意劇」や「財政規律委員会」には批判的です。彼女の
立場からすれば、いかなる増税も認められないし、いかなる歳出増も認められないか
らです。ペイリンの推薦を受けて当選した「ティーパーティー系」新人議員が多数登
院する1月以降の新議会では、この点で対立が深まるという見方もあります。
そうした違いを持ちながら、民主党と共和党は恐らくこの「財政再建」をテーマに
大統領選を戦うことになる可能性が大きいと思います。仮の話ですが、同じ財政の問
題をテーマに選挙戦が戦われ、そこで様々な具体的な論点に関しての論争が行われ、
結果的に民意とのコミュニケーションがかなりできた中で、思い切った歳出カットを
国家の中長期計画として決定ができるようですと、アメリカの衰退は食い止められる
かもしれません。先週お話した「新しいストーリー」とはこうした意味だったのであ
り、この一週間、アメリカは2011年を先取りするように、その新しいストーリー
へと入っていったように思われます。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )
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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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JMM [Japan Mail Media] No.615 Saturday Edition
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】 ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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