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http://www.bbc.co.uk/news/business-11867257
2010年11月30日最終更新12:15GMT
日本:債務、少子高齢化、デフレ
ヒュー・パイム
主任経済記者、BBCニュース、東京
日本の苦悩は3つの"D"に要約される。debt(債務)、demographics(人口動態)、deflation(デフレ)だ。
これらは新しい事象ではないが、融合して有毒な混合物となり、世界有数の経済大国の健康を脅かしている。
日本政府が抱える債務は、他の主要先進国をはるかに上回っている。
粗債務は国内総生産の200%に近く、米国・イギリス・ドイツを上回る。この3国は、いずれもこの割合は100%未満である。
アイルランド・ギリシャ・ポルトガルが、政府債務の程度が高いために、金融市場から手荒く扱われているこの時に、日本はどうやってこれだけたくさんの債務をまかなえるのだろうか?
その答えは日本の人口動態にあり、難問もそこにある。
長年、政府は何の問題もなく、国内の投資家に国債を売ってきた。
リスクを嫌う少額貯蓄者、年金基金、機関投資家は、日本国債(JGBとして知られている)を安心して保有できた。
発行済み国債の約90%は、こういった国内の投資家が保有している。そのため、政府は膨大な債務負担があることを海外市場に気づかれる心配をする必要がなかった。
高齢化する人口
しかし、この状況が数年以内に変わることはあり得るだろうか?
日本の人口は、数年前の1億2500万人をピークに減少しつつあり、2050年までには1億人程度になると、最近の予測データは示す。
同時に、21世紀中頃までに、65歳以上の人々の割合は40%近くにまで上昇することになる。この期間は、年金や医療・介護にかかる費用は増え続けるだろう。
みずほ総合研究所の試算によると、2025年までに、政府支出の約70%が、国債の償還と社会保障の支出に消える。
同総合研究所・シニアエコノミストの山本康雄氏は、「これはとても難しい状況だ。しかし、社会の全ての階層の間で、危機感が共有されていない」と考えている。
日本が転換点に近づいている感覚があるという声が、一般市民から広く上がっているわけではないが、有力な学者や一部の政治家からは聞かれる。
日本経済研究所・研究顧問の小島明氏は、このことについて、次のように述べている。「私たちはいま、分岐点の期間にいる。大きな決断の時だ。」
「私たちは危険な領域に入りつつある。戦後の団塊の世代は引退しつつある。この不均衡の問題を修正するのに、私たちには10年も残されていない。」
サトウ家の家族は、できる限り食事を一緒に楽しむようにしている。両親は引退生活に入っている。
20代の娘は、経営コンサルタントという、申し分のない職についている。
それでも、彼らはみな、数十年先のことや、医療や介護が必要になったときに誰がそのお金を出してくれるのか、心配している。
パイロットを引退した、サトウ・アキヒロ氏は語る。「私たちの未来はとても厳しい。心配なことがたくさんある。とくに年金のことだ。」
人口が減少する一方で、引退した人々の割合は大きくなると、日本政府の財政が問題となる。毎年出る赤字のために資金を供給してくれる十分な貯蓄者は、今後いるだろうか?
「人口の高齢化に伴い、年金受給者が築き上げた貯蓄を使うので、家計の貯蓄率はどんどん低下していくだろう」と、大和証券キャピタル・マーケッツ・ヨーロッパのグラント・ルイス経済研究部長は、結論づける。
「日本国債の市場は、かつてのように、国内貯蓄の堅調な流入に頼ることはできなくなっており、近年見られたよりも、非常に激しく変動する傾向にある。」
物価の下方スパイラル
ところで、日本にはデフレという持病がある。
この10年のうちのかなりの期間、日本は物価がじりじりと下がり続ける現象に耐えてきた。(食料品とエネルギーを除いた消費者物価のことだ。)(コアコアCPIとよばれるものです:投稿者注)
日本はデフレ的思考のワナに嵌ったという感覚がある。企業は常に価格を下げなければならないという圧迫を受けているので、投資に回せるような現金を準備することができない。
リスクをとって事業を拡大するよりも、借金を返済したい気持ちになる要因はどこにでもある。
2000年、日本は量的緩和(QE)として知られる、新たなお金を作り出す試みを初めて行った。
さまざまな結果が生じたが、批評家たちは、小さすぎるし遅すぎると論じた。
米国とイギリスの中央銀行は、デフレが根深くなると何が起こりうるか、という研究事例として、日本を見ていた。
彼らは、日本が起こした間違いを避けたいと願い、大胆な数量緩和政策を実施した。
しかし、野村総合研究所・主任エコノミストのリチャード・クー氏は、米英両政府に警告を発している。
同氏は、大規模な量的緩和を実施したとしても、両国もまた、日本が通ったデフレの道をたどることがあり得ると考えている。
「景気刺激策について米国やイギリスで現在もっぱら語られている、不良債権の整理、量的緩和、ゼロ金利というのは、日本が15年前に経験したことだ。」
「日本の経験から言えることだが、イギリスや米国で起きてきたことは、私たちが経験したことの再現に似ている。政策立案者たちが同じような混乱に陥ったのだ。」
「これが教科書にない、違う病気だったとは、私たちには思いもよらなかった。」
日本企業は十分に心配してこなかったようだが、円高の問題が存在している。
輸出業者は苦闘しており、その一部は通貨の問題のために生産を海外に移しつつある。
しかし、中小企業はそれができずに、輸出売上での利益幅に強い痛手をうけているのを、ただ眺めている。
「私たちは人々を集めて、新しい戦略を練り直すつもりだ。それが、私たちの生き残る道だ」と、食品産業にハイテク検査機器を供給している家族企業・アタゴの3代目社長・雨宮秀行氏は語る。
それでも、従業員を解雇する意思はあるか、との問いに、同氏は首を横に振る。
そんなことは考えられない。それが、従業員を大切にしたいという同氏の思いだ。
雇用機会
それでは、脱出方法はどこにあるだろうか?
日本の閣僚と学者たちは、人口動態の変化を活用することを目標とした、成長戦略に望みをかける。
高齢者の介護は雇用機会を提供し、児童の保育は女性が労働力としての復帰を促進する。
グリーン・テクノロジーもまた、富と雇用を生み出す可能性があるものとして認識されている。
東京の街路では、商店主たちは十分安心しているようだ。
物価の下落は、耐え難いほど厳しい経済的な重荷ではないと感じる商店主もいるようだ。日本の低い犯罪率は、他の多くの国々よりも生活の質がよいことを窺わせる。平均寿命が長い理由の一つである、充実した医療制度も、高く評価されている。
それでも、債務・デフレ・人口動態という、日本が抱える問題に対して、政策立案者や有権者が立ち向かうことは必要であって、これをいつまでも無視してはいけない。
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(投稿者より)
イギリス・BBCのサイトに掲載された、日本経済の評論記事です。発言部分は原文から直接日本語に変えています。誤訳があるかも知れません。ご容赦ください。
記者がわざわざ「粗債務」と書いているので、「純債務」と両方を調べてみました。左が粗債務、右が純債務です。どちらも、2010年12月2日の"OECD Economic Outlook No. 88 Annex Tables"というデータの2010年の数字です。2010年はまだ終わっていないので、予測データでしょうか。
日本: 198.4 114.0
イタリア: 131.3 103.3
米国: 92.8 67.8
イギリス: 81.3 51.3
ドイツ: 79.9 50.5
フランス: 92.4 57.1
カナダ: 84.4 31.4
(OECD Economic Outlook No. 88 Annex Tables)
http://www.oecd.org/document/61/0,3343,en_2649_34573_2483901_1_1_1_1,00.html
ただ、とりあえず言えることは、政府が本当に返さなければならない、本当の意味での借金は、GDPの1年2ヶ月分です。2年分ではありません。騙されてはいけません。また、「(国債発行残高)×0.9=(国民貯蓄の一部分)」であることも忘れてはいけません。国債は、資産活用の一つの形であり、貯蓄の形で眠っている資金を回す仕組みでもあるのです。
日本経済が抱える構造的な問題は、政府債務、人口動態(つまりは、人口減少と少子高齢化)、デフレの3つ。国民はそれに立ち向かえ、とまでは書かれていますが、だからどうしろ、とは何も言っていません。
「雇用機会を増やせと言っている」。しかし、介護・保育・グリーンテクノロジーについての記者の言及は、単に政府発表の又聞きで、誰でも言っていることです。それでも、慎重に読むと、記者独自の視点は見えてきます。
この記事の隠れたキーワードとして、「安心」という言葉を記者は使っています。
日本の投資家は、国債を保有していれば、ひとまず安心でした。確かに、人口動態の変化は、家族の将来に不安を投げかけています。しかし、「従業員を大切にする心」「低い犯罪率」「充実した医療制度」という、日本社会が今まで大切にしてきたものはまだ残っています。
この10年来の新自由主義経済政策によって、日本社会のかなりの部分が浸食されていますが、それを、経済優先から、社会優先に変える。国民が安心して生活できるよう、日本社会が大切にしてきた価値を守る。その方向性で、経済政策を作り直す。
記者はそこまで言っていません。私の勝手な深読みかも知れません。しかし、私にはそう読めました。
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