02. 2010年12月03日 04:18:23: IOzibbQO0w
【第127回】 2010年11月30日 著者・コラム紹介バックナンバー 週刊ダイヤモンド編集部 * RSS最新記事 * twitter * 印刷向け表示 * 文字サイズ大きな文字小さな文字 * Social Bookmark,Share o Hatena::BookmarkHatena::Bookmark o mixi チェックmixi チェック o newsing it!newsing it! o Yahoo!ブックマークに登録Yahoo!ブックマーク o GooブックマークGooブックマーク o livedoor クリップlivedoor クリップ o Google ReaderGoogle Reader o DeliciousDelicious o Digg submitDigg submit o Stumble It!Stumble It! o FriendFeedで共有FriendFeedで共有 中小企業の破綻増加は必至! 銀行がはめた為替デリバティブの罠 1 2 3 4 nextpage みずほ銀行を中心として、大手銀行が売りまくった為替デリバティブ商品が、多くの中小企業を苦境に追いやっている。円高の進行で多額の損失が表面化、倒産の危機に瀕しているのだ。なかには販売方法に問題があるケースも散見され、経営者たちからは怨嗟の声が高まっている。 通貨オプションを契約した会社の元には、毎月200万〜300万円の支払いを求める書類が届く。今の円高基調が続けば、経営に行き詰る企業が増える可能性は高い 「これからは間違いなく円安が続きますよ」 電子機器の輸入販売会社を経営するAさんが、メインバンクであるみずほ銀行の担当者から、こう言われたのは2006年夏のことだった。 円安になれば輸入価格は上がる。そのリスクを回避する手段として提案されたのが「通貨オプション」という、聞きなれない商品だった。 Aさんは金融取引の知識がほとんどなく、商品の説明は難しい用語ばかりで理解できなかったが、とにかく円安の恐怖ばかりを植えつけられた。そして、銀行に言われるがままに契約を結んだ。 ところが、08年9月のリーマンショックを境に状況は急変する。円高が進むなか、銀行からは毎月200万〜300万円の支払いを求められ、約6年分の営業利益がわずか1年で吹き飛んだ。 契約期間は5年。みずほに解約を頼んだものの、違約金として約7000万円が必要と言われ諦めた。数千万円の個人資産をなげうって支払いを続けてきたが、ついに資産は払底。景気低迷の追い打ちで資金繰りに窮し、今夏には銀行への支払いができなくなった。 手数料ゼロに潜む大きな為替リスク 通貨オプションとは、為替デリバティブ商品の一種で、あらかじめ決めた価格で外貨を売買する権利のことだ。これを売買することで為替の変動リスクを回避できる。 契約時、銀行へ支払う手数料は大半の場合、無料だ。それどころか時には利益を得ることもできる。 次のページ>> うまい話には裏がある 右の図で説明しよう。実勢レートが1ドル=120円のときに、輸入企業X社が「1ドル当たり100円で毎月10万ドルを購入する権利」を取得すれば、実際は1200万円必要なのに、1000万円ですむ。つまり、毎月200万円の利益を得られるのだ。 だが、うまい話には裏がある。実勢レートが1ドル=80円と、行使価格を割り込んだときはどうか。X社は毎月600万円もの損失を被る契約になっている。詳しい説明は省略するが、X社は「銀行から10万ドル買う権利」を取得する見返りに、「X社に30万ドルを売る権利」を銀行へ渡しているのである。 本来、X社は円高になれば権利を行使せず、市場で売買することで円高のメリットを受けられる。ところが実際には、メリットどころか、多額の損失を被るハイリスク商品だ。 さらに「ギャップ」「ノックアウト」などと呼ばれる銀行側に有利な契約を結ばされるケースも多く、企業が受け取る利益は限定され、損失は拡大する。契約期間は5〜10年と長く、解約の際には、契約内容や為替レートにもよるが、おおむね数千万〜数億円もの違約金が必要となる。これが手数料ゼロのカラクリなのである。 一方、銀行は通貨オプション契約の反対売買を市場で行い、為替リスクを回避する。契約には取得コストにマージンを乗せた行使価格を設定することで、利益を先食いできる。 みずほによれば、通貨オプションの販売のピークは04〜05年頃。07年以降は円高が進んだことで販売件数は減少し、特に08年秋のリーマンショック以降は大幅に減ったという。 販売のピーク時は、政府による「金融再生プログラム」で各銀行が不良債権処理に追われていた時期に当たる。融資が厳しいなかで、なんとか収入を上げようと通貨オプションに傾注したと見られる。 次のページ>> 通貨オプションの最大の問題は、みずほの売り方 週刊ダイヤモンドの取材で判明した販売件数は、07年に3113件、08年に1674件。販売件数が減少した時期でもこれだけの量を売りまくったのだから、累計では数万件以上に達していたと推測できる。そのほとんどが1ドル=100円台の契約と見られるため、中小企業の経営に与える影響はそうとうだろう。 通貨オプションの最大の問題は、みずほの売り方にある。 取引を望まない人に訪問や電話で契約を勧める「不招請勧誘」は、金融商品取引法で禁止されている。ところが、例外規定があり、外国貿易や外国為替取引を行う企業への勧誘は認められている。 みずほは、この「外国貿易」を拡大解釈したと見られる。たとえば、輸入木材を国内の小売り問屋からのみ購入しているある建設業者は、「円安時に輸入材価格の上昇を相殺できる保険的な商品」などといって売り込まれたという。 契約時に説明義務を十分に行っていないケースも多い。経営者たちから聞こえてくるのは、「円高になるとリスクが急増するなんて説明されていない」「解約時に多額の違約金が発生するなんて聞いていない」などの怒りの声である。 みずほは「商品を理解できない人には売っていない」と主張するが、前述のような経営者の声が小さくないのは事実である。 なかには明らかな問題事例もある。07年に契約したある輸出企業。社長はくも膜下出血を複数回、起こし、その後遺症で判断能力が低下していた。にもかかわらず、「円高による為替リスクを回避するため」という事実に反する名目で通貨オプションを販売した。 優越的地位の濫用の可能性を指摘する声もある。 通貨オプションを契約した中小企業の多くはみずほの融資先だ。ある経営者は「数千万円の融資を申し込んでいる時期に話を持ちかけられたので断れなかった」と嘆く。取引がない企業に対しても、融資や融資枠を持ちかけた後に、通貨オプションの契約をするケースが散見されている。 日本共産党の大門実紀史議員は「みずほの販売方法には法令違反と思われるケースがいくつもある。金融当局は行政処分も検討すべきだ」と指摘する。 次のページ>> 販売実態は他行も同様 企業破綻が急増の恐れ 販売実態は他行も同様 企業破綻が急増の恐れ 通貨オプションのトラブルは、みずほのケースが目立つものの、他行とて販売の実態は同じようだ。 西日本のある商社は、大手3行などから「営業マンがノーアポで毎日のようにやって来て、“手数料はゼロなんだから契約してくれ”と言われ、押し切られてしまった」と悔やむ。 悔やんでも悔やみ切れない企業も少なくない。今年6月に倒産した、キャラクター商品製造のアイ・ティ・ディ。本業は堅調だったが、「通貨オプションで巨額損失を被り、運転資金や借入金返済のメドがつかなくなった」(同社資料)。 販売したのは、三菱東京UFJ銀行、みずほ、りそな銀行、東京都民銀行、商工中金の5行である。取引銀行との関係を円滑に保つ必要から、勧められるままに契約したという。 契約企業の多くは本業が黒字の企業だ。だが、リーマンショック以降の景気低迷と円高の進行により、通貨オプションが原因の倒産が増え始めている。 帝国データバンクによれば、通貨オプションなどの為替デリバティブが原因の倒産は、08年は3件だったが、昨年は9件、今年はすでに15件に上る。さらに「潜在的には数百社が危機的な状況にあるのではないか」(藤森徹・帝国データバンク情報統括部長)という。 また、事情に詳しい本杉明義弁護士の元には、「今年に入って中小企業からの相談が急増し、すでに約100件に上っている」。 金融庁は今年4月、金融商品の契約などにかかわる監督指針を見直したが、遅きに失したと言わざるをえない。通貨オプションで苦境に喘いでいるのはいずれも過去に契約した企業だ。早急に、実態調査と対応に乗り出さなければ、今後、経営破綻が急増する可能性は高い。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹) |