04. 2010年11月16日 10:56:21: IOzibbQO0w
韓国の経済成長率が日本より高いのは 技術だけでなく、 積極的な内外からの投資流入が大きく 次に人口構成の差が効いているようだ 日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>知られざる韓国経済 韓国の経済成長率が日本より高いのはなぜ? グローバル企業の技術革新だけがその理由ではない
* 2010年11月15日 月曜日 * 高安 雄一 韓国 潜在成長率 技術進歩 成長率 高齢化 サムスン電子 労働投入 LG電子 貯蓄率 資本投入 グローバル企業がめざましく躍進し、高い経済成長率を誇る韓国。果敢に各国と自由貿易協定を結ぶなど、その経済政策は日本には“驚異”にも映ります。 一方、格差、非正規、雇用、農業保護政策、少子高齢化などの分野においては、韓国はさまざまな課題を抱えています。ただ、これらの問題は日本が直面している問題でもあり、韓国が日本に先んじて行った政策は、われわれにも参考になる部分がありそうです。 著者の高安雄一さんは、頻繁に韓国に足を運び、韓国の経済や農業などについてきめ細かい研究活動を続けています。経済学的な視点を軸に、データ分析と現地での取材を踏まえ、真の韓国経済の姿を描いていきます。 韓国は1997年に通貨危機に直面しましたが、その後は急回復を成し遂げ、直近の10年間の実質成長率の平均は4.4%です。一方で、同じ時期における日本の実質成長率は平均でマイナス0.5%であり、成長率の格差は5%にも達しています(図1)。 韓国といえばサムスン電子やLG電子といったグローバル企業の目覚ましい躍進ぶりが報道されており、携帯電話や半導体などIT分野を中心に日本企業を凌駕している状態です。このため、韓国の経済成長率が日本を大きく上回っていても、韓国企業が有するパワーや勢いから見て、全く不思議ではないと考えている人が多いのではないでしょうか。 しかし日本と韓国の経済成長率に差が生じている理由をきちんと見ると、企業による技術革新というよりは、人口増加率や高齢化率といった人口学的な変数の違いにより、両国の経済成長率に大きな差が生じていることが分かります。 成長率を労働投入、資本投入、技術進歩に分解する 経済成長率の長期的な趨勢は潜在成長率によって決まります。法政大学の小峰隆夫教授によると、潜在成長率とは「インフレを起こさずに現存する資本ストックや労働力をできるだけ活用した時達成できる成長率」であり、「景気循環をならした平均的な成長率は、ほぼ潜在成長率に一致」します。つまり潜在成長率が高くないと、実際の成長率もそれ相応の数値に落ち着くということが言えます。 そしてこの潜在成長率は成長会計の手法で、労働投入、資本投入、技術進歩の大きく3つの生産要素が寄与する部分、すなわち3つの要因に分解できます。潜在成長率の要因分解については、日韓両国の政府あるいは政府系研究機関の研究から直接的あるいは間接的に知ることができます。 まず韓国ですが、政府系の研究機関である韓国開発研究院による研究から要因を見ます。同研究院のハンジンヒ博士、シンソッカ博士の研究(注1)では、2001〜2005年における3つの生産要素の増加率を示しています。 韓国の潜在成長率は約5%、日本は約1% また韓国開発研究院が公表している総需要圧力から判断すると、この時期におけるGDPギャップはゼロに近く、実際の成長率=潜在成長率と考えられます。そしてこれらの情報を総合すると、2001〜2005年における潜在成長率は4.5%、労働投入の寄与は0.8%、資本投入による寄与は1.7%、技術進歩による寄与は2.0%と考えられます。 なお中央銀行である韓国銀行は(注2)、2001〜2004年の潜在成長率を4.8%、労働投入の寄与を0.9%、資本投入の寄与を2.3%、技術進歩の寄与を1.6%としており、韓国開発研究院の研究から得られる要因分解と近い数値となっています。 次に日本ですが、内閣府が「平成19年経済財政白書」で潜在成長率の推計とその要因分解を行っています。これを見ると、2000〜2006年における潜在成長率の平均値は1.0%であり、労働投入がマイナス0.3%、資本投入が0.4%、技術進歩が0.8%の寄与となっています。 また内閣府経済社会総合研究所が行った、「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策研究」において、当時主任研究官であった酒巻哲朗氏も潜在成長率の推計とその要因分解を行っています。これも見ると、2000〜2006年における潜在成長率の平均値は1.0%であり、労働投入がマイナス0.3%、資本投入が0.3%、技術進歩が0.9%の寄与です(図2)。 ここで生産要素の潜在成長率に対する寄与の日韓比較をしましょう。まず労働投入は1.1〜1.2%、資本投入は1.7〜2.0%、技術進歩は 0.7〜1.1%とそれぞれ日本より高くなっています。韓国の潜在成長率は日本より3.5〜3.8%も高いのですが、この差はまずは資本投入の差によって生じており、これに労働投入が続いています。 ただし、この時期の日本は需要不足によりデフレギャップが生じていました。よって日韓の成長率の差は潜在成長率の差に加えて1%以上引き離されています。 とはいっても、少なくとも2000年代前半における経済成長率の差の大勢は、資本投入、続いて労働投入の寄与の大きさに起因する、潜在成長率の差により生じたと言うことができるでしょう。 高齢化は資本投入の伸び率の低下をもたらす 次に韓国が資本投入と労働投入の寄与で少なくとも1%以上は日本を上回っている理由はどこにあるのか見ていきましょう。 まず資本投入です。資本投入の伸びは投資に左右されます。資本蓄積は投資による増加部分から資本廃棄による減少を引いた分だけ変化しますが、資本が資本蓄積の一定比率で廃棄されるとすると、投資が多いほど資本蓄積の増加率、すなわち資本投入の増加率が高まります。 なお投資の趨勢は貯蓄率によって左右されます。投資は国内の貯蓄か海外からの借入等でまかなわれますが、中・長期的には投資率と貯蓄率には強い相関があることが知られているなど(ホリオカ・フェルドシュタインのパズル)、投資の源泉としては国内の貯蓄率が重要です。 さらに貯蓄率と高齢化率との間には負の相関関係があることが知られています。ライフサイクル仮説によれば人々は高齢期には貯蓄を取り崩しますので、高齢化が進むとマクロで見た貯蓄率が低下します。そして以上は、「高齢化の進展→貯蓄率低下→投資率低下→資本投入の伸び率低下」、といった流れに整理できます。つまり高齢化は資本投入の伸び率の低下をもたらします。 資本投入の寄与が日本を上回っている理由 ここで、日韓両国で高齢化がどの程度進展しているか見ます。日本の高齢化率は2000年には17.3%、2008年には22.1%です。一方韓国の高齢化率は2000年に7.2%、2008年には10.3%と日本に比べると高齢化が進んでいません(図3)。 そして高齢化率の差もあって、日本の総貯蓄率は2000年で27.5%、2007年で27.0%、韓国は2000年で32.9%、2007年は 30.8%と韓国の方が高くなっています。つまり韓国における資本投入の寄与が日本を上回っている理由としては、日本の方が韓国より高齢化が進んでいることを挙げることができます。 次は労働投入です。労働投入の寄与は労働力人口の伸び率によって決まります(労働時間の変化を加味する場合もあります)。日本における労働力人口の伸び率は2000年でマイナス0.2%、2008年はマイナス0.3%ですが、韓国では2000年で1.9%、2008年で0.6%であり、韓国の方が上回っています。 労働力人口の伸びは、進学率の変化、女性や高齢者の就業率の変化等により影響を受けますが、15歳以上人口増加率が重要な要素です。15歳以上人口の伸び率を見ると、日韓両国とも下落傾向にあります。しかし、2009年は日本はゼロですが、韓国は1.2%の伸びを保っているなど、韓国の伸び率が日本と比較して高い状態です。 つまり韓国における労働投入の寄与が日本を上回っている理由としては、15歳以上人口の伸び率が韓国の方が高いという点を挙げることができます。 経済成長率の格差は拡大しないだろう 以上で見てきたように、韓国の潜在成長率が日本より高い理由としては、日本と比較して(1)韓国の高齢化率が低い、(2)韓国の15歳以上人口増加率が高いといった、人口学的な変数の違いを挙げることができます。 もちろん潜在成長率と実際の成長率が一致するわけではありませんが、実際の成長率が長期間大きく潜在成長率から離れることは考えられませんので、実際の成長率の差についても、主に(1)(2)により説明できると言うことができます。ただし技術進歩の寄与も韓国の方が高いので、この部分にはサムスン電子や LG電子といったグローバル企業による技術革新が寄与している可能はあります。しかしながら日韓における経済成長率の差である5%の多くの部分は、人口増加率や高齢化率の違いによるものであることは、韓国経済の真の姿を見るためには押さえておく必要があります。 なお現在の韓国は、日本以上に少子化が進展しており、今後は日本以上のスピードで15歳以上人口増加率の低下、高齢化率の上昇が起こることが予想されています。 例えば、高齢化率が7%から14%になるまで日本では24年かかりましたが、韓国では18年しかかからないと推定されています。よって日韓両国の経済成長率の格差は、今後は縮小していくことが想定されます。日の出の勢いの韓国企業の活躍を見ると、日韓両国の経済成長率の格差が拡大していくようにも見えますが、実際にそのようなことになることはないでしょう。 (注1)ハンジンヒ・シンソッカ(2008)「経済危機以後における韓国経済の成長:成長会計及び成長回帰分析」『韓国開発研究』第30巻第1号 韓国開発研究院, pp.33〜70. (注2)ムンソジャン(2005)「韓国経済の成長潜在力が弱まった原因と今後の見通し」報道資料。 このコラムについて 知られざる韓国経済 韓国経済の真の姿を、データと現地取材を通して書いていきます。グローバル企業がめざましく躍進し、高い経済成長率を誇る韓国。果敢に各国と自由貿易協定を結ぶなど、その経済政策は日本でも注目されています。一方、格差、非正規、雇用、農業保護政策、少子高齢化などの分野では、さまざまな課題を抱えてもいます。こういった問題は日本に先駆けている部分もあり、韓国の政策のあり方は、日本にとって参考にすべき点が多くありそうです。マクロとミクロの両方から視点から描きだす、本当の韓国経済の姿がここにあります。 ⇒ 記事一覧 著者プロフィール 高安 雄一(たかやす・ゆういち) 大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。
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