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インフレを広める米国 VS デフレを広める中国
二大国が演出する世界経済の「恐ろしいリスクシナリオ」【真壁昭夫 [信州大学教授]】
【インフレを世界に広める米国、デフレを世界に広める中国】
足許の世界経済は、景気低迷に苦しむ欧米などの先進国と、景気過熱気味の中国やブラジルなどの新興国の二極分化が、一段と鮮明化している。
そうした経済構造のなかで最も注目されるのは、インフレを世界に広めようとする米国と、デフレを海外に輸出している中国の動きだ。最近、通貨制度などを巡る両国の対立は先鋭化しており、今後の動向によっては、世界経済の波乱要因の1つになることが懸念される。
バブルの後始末で経済活動の低迷が続く米国は、金融政策を思い切り緩和して、大量のドル紙幣を市中に供給している。その結果、ドルが余剰となり、為替市場でドル安が進行している。
また、余ったドルの一部は商品市況や新興国に流れ込み、新興国の株式市場や物価水準を押し上げたりしている。言ってみれば、米国の経済政策は、世界的にインフレの動きを促進している。
一方中国は、依然過小評価されている人民元を背景に、安価な製品の輸出を続けている。安価な製品を輸入する側から見れば、中国からの製品の輸入は、消費者物価水準を押し下げてデフレ傾向を助長することにつながる。有体に言えば、中国がデフレを海外諸国に輸出している格好だ。
現在、米中両国が対照的な動きを示すなか、世界経済は微妙なバランスの上に成り立っている。
この微妙なバランスを保ちながら、世界経済が本格的な回復軌道に復帰できればよいのだが、予想外の事態の発生によって回復のプロセスが崩れるようだと、世界経済のリスク要因が一気に顕在化することも考えられる。
【世界経済の微妙なバランスを演出する米国の「バランスシート調整」】
世界経済の微妙なバランスの背景には、2つの大きな不均衡があると考えればわかりやすい。1つ目の不均衡は、バブルの後始末に追われる欧米諸国、特に米国の家計部門のバランスシート調整だ。
米国では、大規模な住宅バブルによって、家計部門が多額の借り入れで旺盛な消費活動を行なった。住宅バブルが破裂した今でも、米国の家計部門はそのツケを払い終っていない。
そのため、個人消費はなかなか盛り上がらない。国内の需要が盛り上がらない部分を、政府が財政政策で埋める格好になっている。その結果、財政赤字は拡大の一途を辿り、もうこれ以上の拡大が難しい状況になっている。
そこで米国の政策当局は、金融政策を思い切り緩和して、市中に大量のドル紙幣を供給することを選択した。ドル紙幣の供給を増やすことによって、ドルの価値を下落させ、輸出ドライブをかけることを狙ったのである。
また、供給されたドル紙片の一部は、より高い投資効率を求めて新興国へ流れ込み、株価を急上昇されたり、景気を一段と押し上げる効果をもたらすことになる。その結果、米国からの輸出が増加すれば、輸出の増加をテコにして、米国経済は回復過程を歩むことができるはずだ。
一方、ドル資金が流れ込む新興国にとって、資金流入には大きなデメリットがある。まず、実力以上に自国通貨が上昇するため、輸出産業には痛手が及ぶことになる。また、株価の高騰などによって、バブルが発生する可能性が高まる。それらは、いずれも新興国経済の阻害要因につながる。
【輸出依存から脱却できない中国経済が抱える重要な不均衡】
好調な展開を示す中国にも、重要な問題点がある。それは、中国経済の輸出依存度が高いことだ。有体に言えば、中国経済は今まで厳しい為替管理体制の下で、豊富で安価な労働力を背景にして、輸出に依存した高成長を維持してきたと言える。
安価な製品が流れ込む輸入国では、結果的に輸入物価が押し下げられ、デフレ傾向が加速することになった。それは、1990年台中盤以降、中国製品の流入によって「価格破壊」という現象に遭遇したわが国の例を見れば、明らかだ。
また、中国経済の成長に伴って、わが国をはじめとする主要先進国の生産拠点が中国へ進出したことによって、先進国における雇用機会減少を招くことになった。
そうした現象が鮮明化して、わが国などでは給与水準が低下する、いわゆる賃金デフレの現象が顕在化することになった。賃金デフレの顕在化は、国内景気の低迷を加速することになった。
世界経済全体の観点からすると、中国経済が抱える最も大きな問題は、輸出主導の経済構造から先進国並みの国内消費主導の経済構造に、転換することができるか否かだ。
2011年から始まる中国の新5ヵ年計画では、所得の増加を図り、国内の消費を拡大することで、経済構造のモデルチェンジを図ることが明記されている。その計画が有効にワークすれば、中国経済の輸出依存度が低下し、人民元の過小評価を修正しながら、貿易収支の不均衡を解消することができるはずだ。
ただし、それには時間がかかる。欧米諸国がバブルの後始末を完全に終えるまでには、いまだ1〜2年を要するだろう。その間に、中国の経済構造のモデルチェンジが進み、人民元の問題も少しずつ解消に向かうことを期待したい。
【米中が政策運営を誤ると、世界経済の恐ろしいリスクシナリオが?】
現在の世界経済は、いくつかの深刻なリスクシナリオを抱えている。その1つは、主要先進国の政策リスク。バブルの後始末が終了していない欧米諸国の政策当局が、自国の経済状況を誤認して、間違った政策運営を行なうリスクだ。
90年代後半、わが国の橋本政権が循環的な景気のピックアップを本格的な景気回復と見誤って、金融システム不安を招いたことは記憶に新しい。
欧州諸国は、財政状況の悪化に歯止めをかけるために、今後公務員の給与カットや年金給付金の減額などを実施すると見られる。財政支出の切り詰めが、どの程度経済活動にマイナスの影響を及ぼすかは、慎重にモニターすることが必要だ。
仮に、経済活動に大きな痛手が波及するようなら、柔軟な政策対応が求められる。財政状況が改善しても、経済状況が大きく落ち込んでしまっては元も子もなくなる。世界経済に与える影響も無視できない。
もう1つのリスクシナリオは、米国経済の回復が遅れて、金融市場が大規模な調整局面を迎えることだ。住宅価格や商業用不動産の価格動向をみると、バランスシート調整にはまだ時間がかかりそうだ。
米国経済の回復が予想以上に遅れて、米国株価の下落やドルの一段の下落があると、世界の金融市場にもマイナスの影響が及ぶことは間違いない。わが国の経済は無傷ではいられないだろう。
また、新興国の経済にも、通貨の高騰などの阻害要因が波及することが考えられる。その場合には、世界経済が再度下落傾向を辿る可能性は高い。
さらに恐ろしいシナリオは、中国経済が国内の政治基盤の脆弱化などによって失速することだ。可能性は低いかもしれないが、中国の共産党政権の基盤が弱体化して中国社会全体が混乱し、経済活動が失速する場合には、世界経済に大きな打撃が及ぶ。そんなシナリオは考えたくないものだ。
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