12. 2010年10月26日 00:49:16: cqRnZH2CUM
スティグリッツらの指摘通り、 米国の潜在成長率も日本のように低下していくとするなら、 米国内での投資に振り向けられることは、あまりなく、 かっての日本同様、 緩和で市場に流れ込んだマネーは 新興国等に流れ込んでいくことになり、 (新興国バブルが破裂するまで) ドル安圧力が続くことになる。ドルが今後も長期的に下落するかどうかは、 今後の量的緩和等の効果が、どう出るか、 予想以上にインフレ期待が高まり、 FRBと政府の政策変更があるのか?等によるのだろう。 http://jp.wsj.com/layout/set/print/Economy/node_139186 【オピニオン】悪銭はなぜ身につかないか ジョゼフ・スティグリッツ
* 2010年 10月 25日 18:11 JST 米連邦準備理事会(FRB)はこれまで、現在の景気低迷の原因になる問題を創り出すため多くのことをしてきた。住宅バブルが崩壊した後でさえも、事態は沈静化するという過った考えを持った。さらに問題の深刻さを過小評価した。ここにきて、FRBは米国経済が日本型の景気停滞に陥らないよう貢献をしたいようだ。どのようにして? バーナンキFRB議長が先週表明したように米財務省証券の買い入れ、つまり量的緩和(QE)を通じてだ。 FRBが懸念するのは当然だ。 イメージ Reuters バーナンキFRB議長 高失業率が続けば、失業者が持っている技能が低下し、米国は人的資源を失うリスクに直面する。そうなれば、失業率を1990年代後半の水準近くに低下させることは一段と困難になる。高失業率と生産の縮小により、現在の議会予算局(CBO)と政府の行政管理予算局(OMB)の悲観的な財政見通しさえもバラ色のものに見えてくるだろう。 問題はこうだ。金利はすでにゼロ近辺にあり、FRBが経済立て直しのためにできる手立てがほとんどない状況で、間違ったことをすれば、経済が深刻な打撃を受けてしまう。2001年、(当時)金利は過去最低だったにもかかわらず、工場などへの設備投資は旺盛とはならなかった。しかし、低金利によって、ネットバブルが起こり、それよりも危険な住宅バブルも発生した。われわれは現在、不動産の余剰と家計の過剰借り入れという、不動産バブルの負の遺産処理に追われている。 FRBは現在、政府が支払う金利が中小企業の借り入れ条件に及ぼす影響にほとんど注意を払っていない。大企業は潤沢なキャッシュを保有し、長短にかかわらず、金利の小幅変化にはほとんど影響を受けない。銀行家は、大企業が融資を申し入れてくれば当然、金利について「それで問題ありますか」と聞くはずだ。 しかし、米国を含め多くの国で中小企業は、雇用の創出源だ。これらの企業は資金に飢えている。資金の調達金利は、大銀行、大企業、政府のそれよりも高い。これらの企業が融資を受ける小規模銀行・地銀は多くが経営が悪化しており、そのうち800社以上が、連邦預金保険公社(FDIC)の要注意リストに載っている。 これらの金融機関が中小企業に融資したとしても、通常は担保が必要となる。典型的な担保は不動産だが、その価値は30〜40%下落している。当然、信用の利用性は抑制される。しかし、財務省証券を買い入れるという形を取るQEは、信用の利用性拡大にはあまり効果を持たない。住宅ローン金利を下げる効果はある程度あり、同金利が下がれば、ポケットのお金がほんの少しだけ増えることになる。不動産価格が上昇すれば、中小企業も借り入れを増やせるかもしれない。しかし、これらの効果はポジティブではあるものの、効果は軽微で、米国の高失業率状況ではほとんど認知できないほど小さい。 QEがある程度ポジティブな効果をもたらす別の経路もある。株式がそれで、相場は上昇する可能性がある。しかし、投資に対してはあまり大きな効果がない可能性がある。債務と目減りした退職金口座を抱える米国人の大半が支出を大幅に増やす可能性は小さい。また、そうすべきでもない。そうすることは、持続可能な成長を進めるのであれば必要となるデレバレッッジング(債務圧縮)を遅らせるだけである。 別の下方リスクもある。QEを実施しても、金利をあまり大きくは引き下げられない可能性がある。過剰生産能力の度合いを考慮すれば、現在インフレ・リスクはほとんどない。しかし、インフレ警戒派が、将来インフレリスクは現実的と認識するに至れば、短期金利は上昇するとの見解を持つだろう。これはつまり、FRBの大規模な介入にもかかわらず、長期金利は現在でも実際に上昇するかもしれないことを意味する。長期金利は将来の短期金利の見通しに基づくためだ。 QEの3番目のリスク。ネットバブルと住宅バブルに続く債券市場のバブルが破裂すれば、明らかに経済にマイナスの影響を与える。そのことはそろそろ分かってもいい頃だ。 QEの賛同者は、QEには経済を強化する別の経路があると指摘する。金利が下がれば、ドル安となり、ドル安で輸出が促進される。金利を引き下げることによる通貨安競争は、21世紀の近隣窮乏化政策では好んで採用される形態だ。しかし、この政策は他国が対応しない場合のみ有効だ。他国は自由に各手段を駆使して対応するか、実際に対応している。これらの国は資本規制、課税、金融規制を講じることができるほか、直接、為替介入もできる。 金本位制度のもとでは自動的な調整メカニズムが働いたとされる。つまり、貿易収支黒字国には金(きん)が流入し、物価が上昇する。それに伴い、当該国通貨が自動的に上昇する。それは想定されたほどスムーズに行ったことは決してなかった。法定不換紙幣が流通する近代経済のなかでは、この調整過程をより簡便に短絡化できる。例えば中国。銀行システムと経済を十分なコントロール下においているため、黒字を創出しインフレを阻止する安定した為替レートを維持することができる。 このような政策は一定の代価を伴うかもしれないが、代替策よりも安価である可能性がある。つまり、米国が大量の流動性を供給するなか、破壊的な通貨高に伴う経営破たんと失業問題がもたらされることよりはましだ。この流動性は米国経済を再点火するはずのものであるが、実際には投資先として良好に稼働しているように見える経済国を求め、世界中を巡る。 QEの利点は限定的である。その資金が、必要とされるところに行くとは限らない。そして資産効果はあまりに小さい。欠点は世界的にボラティリティと通貨戦争が誘発されるほか、金融市場が一段と寸断され、歪むことである。米国が通貨安競争に勝ったとしても、それはピュロスの勝利(割に合わない勝利)ということになる。つまり、われわれの利益は多国の犠牲の上になりたっている。それにはわれわれの輸出先の国も含まれる。 (ジョゼフ・スティグリッツ氏はコロンビア大学教授で2001年のノーベル経済学賞受賞者) 記者: Joseph Stiglitz Copyright @ 2009 Wall Street Journal Japan KK. All Rights Reserved |