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http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/kouza/fp/02/20100928-OYT8T00830.htm
ファイナンシャル・プランナー 石原 敬子
先日、政府・日銀(日本銀行)が2004年3月以来である約6年半ぶりの円売り・ドル買いの為替市場介入を行いました。約15年ぶりの円高水準に歯止めをかけるためです。
急激な円高の進行は輸出産業の業績悪化を招くとして、経済界から政策による円高阻止が叫ばれることが多く、今回の為替介入は、その要望に背中を押された格好ともいえます。しかし、経済の専門家などの意見では慎重論も聞かれます。介入が及ぼす影響をおさえておけば、慎重派が介入をなぜ疑問視しているのかが理解できるのではないでしょうか。
ここでは、市場介入の是非はさておき、為替介入のしくみと、為替介入が経済に与える影響を説明します。
円高、輸出企業に不利
株式投資家の多くは、「円高・外貨安→輸出企業の業績悪化→輸出企業の株価下落」を想定し、円高を嫌います。また、輸出企業の業績悪化が従業員の収入低下を招いて消費低迷につながるなど、投資家でなくとも日本全体の景気後退を懸念して円高を嫌う人も多いでしょう。
特に、9月末は3月期決算企業の中間決算にあたり、9月末時点での業績を確定させるにあたって為替相場は重要です。輸出企業を中心に、業績下支えの要望は強いと思われます。
また、日本国内の金利が低いことから、外貨で資産運用をしている人も増えています。外貨預金や外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)、外国債券、外国株式、外国証券を組み入れている投資信託を保有している投資家にとっても、円高・外貨安は資産価値の目減りとなり、喜ばしいことではありません。為替で運用といっても、FX(外国為替証拠金取引)を行っている人は、取引内容によって損益がさまざまなので何ともいえません。
市場介入で為替相場が大きく揺れ動くことで大きな損失を抱える人もいれば、大きな利益を出せる人もいるでしょう。いずれにしても、値幅が大きくなりがちで相場から目が離せない時期で、生活に支障を来す人もいるかもしれません。
逆に円高を好ましく思う立場の人とは、輸入業者や輸入品を購入する消費者です。海外に出かけて買い物をする人も同様です。強い円で外国の製品やサービスを購入するので、円ベースでの支払額が少なくてすむからです。
財務省が指示して日銀が売る
では、そもそも、政府・日銀による為替介入とは、どのような行為を指すのでしょうか。
政府による為替市場への介入を決定するのは、財務省です。日銀は、その指示に従って為替の売買を実施します。財務省が外国の通貨を買うためには資金が必要なので、外国為替資金特別会計(為替の売買などを管理する財務省管轄の特別会計)が短期証券を発行して市場から円資金を集めます。その円資金を日銀が政府の代理人となって売り、民間の金融機関から外国通貨を買います。この時に保有することになった外貨は、政府が保有します。
このとき、マーケットの法則通りであれば、円を売ることで市場に出まわる円が増えるために円の価値が下がり、同時に外貨を買うことで外貨の価値が上がる、というインパクトを為替市場に与えることができます。効果が期待通りになるかどうかはその後の市場参加者の動きに左右されます。その後、思惑通りに円安に転じれば、企業業績悪化懸念は薄らぐというわけです。
政府の外貨保有残高はえる
ここまでの為替介入と政府の資金の関係を整理すると、次のようになります。
円売り・外貨買いの為替介入 → 短期国債発行残高増 → 財政悪化
円売り・外貨買いの為替介入 → 政府の外貨保有残高増加 → 財政資金における為替リスク
円売り介入のルートを単純に説明すると、「政府が借金をして資金を集め、外貨を買い、政府の外貨建て資産が増える」ということです。
日本の財政悪化が話題にのぼることが増え、景気対策などによる国債発行残高にも国民の関心が高まるようになってきました。円売り介入によって、政府の資金で為替リスクを抱える外貨の残高を増やすという面があることも知っておきたいものです。
世の中のお金増え、金利下がる
さて次は、政府が円売り介入により外貨を買ったときに、売った円資金がどうなるかについて説明しましょう。
民間の金融機関は、日銀を通じて外貨と政府の円資金を交換したため、民間金融機関の円資金が増えます。この資金は民間金融機関が日銀に保有する当座預金に入ってくるので、日銀の当座預金残高が増えます。よって、マネタリーベースが増えます。
マネタリーベースとは、市場(世の中)に出回っているお金のことです。マネタリーベースが増加し、世の中にお金があふれている状態というのは、「お金を借りたい」需要と「お金を貸したい」供給の関係における、供給過剰の状態を意味します。つまり、お金の貸し手が「他の貸し手よりも低い金利で融資しますのでどうぞ借りて下さい」となる状態で、市場の金利を引き下げる圧力がかかります。
つまり、円売り介入で政府が売った円資金の分、市場の資金を増加させることになり、この状態を放っておくと、金利は低下する方向に動きます。市場の資金が増えてしまうこのことを、経済用語で「胎化(たいか)」といいます。
ここまでの為替介入と金利の関係を整理すると、次のようになります。
円売り・外貨買いの為替介入 → 日銀当座預金残高増加 → 金利低下
「非不胎化」は金利安定化の操作
このように、為替相場の安定を狙って行った介入の結果、予期せぬ金利低下を招くなど、金利市場が不安定になるというような副作用があっては困ります。金利低下を防ぐためには、今度は日銀が金利を抑えるための金融政策を実施しなければならなくなります。
具体的には、日銀が保有する国債などを市場で売却する「売りオペ(オペレーション)」を行います。売却代金として市場から資金を吸収し、市場の資金量を為替介入前の水準に戻すのです。売りオペを伴う円売り介入を「不胎化介入」といいます。
過去、円売り介入を実施する際には、多くの場合で売りオペを行って金利への影響を抑える「不胎化介入」が行われていました。しかし、2010年9月の今回の円売りドル買い介入では、日銀は売りオペをしない「非・不胎化介入」だったと報じられています。過去の例からすると異例のため、話題になっています。
しかし「非・不胎化介入」は、現状の経済・金融環境を考えると当然のことかもしれません。
理由は、日銀がゼロ金利政策や量的緩和政策を行って市場の資金量を増やしても、民間企業からの融資ニーズが乏しく、景気浮揚につながらなかったことを思い出していただければ理解しやすいのではないかと思います。現在の民間企業は、マクロ的に見て、資金の借り手ではなくなっています。経済成長期の民間企業は、資金を借りて設備投資を積極的に行っていました。しかし時代が変わり、いまでは民間企業は借金を返し、資金を貯める主体となっています。市場の資金量が増え、金利が低くなっても、資金を借りてまで投資を拡大させるという経済環境ではないため、売りオペ(すなわち不胎化)を行う必要性が薄れてきたのではないでしょうか。
長引く超低金利のもとで、これ以上金利を下げる余地がないこともあって、「非・不胎化」の介入となったのかもしれません。
また最近は、「物価水準を考慮して為替レートを見た場合、現在の円・ドル相場はそれほど円高ではない」という意見もよく見聞きします。物価を絡めた為替相場の見方については、次回に説明することにしましょう。
【私のつぶやき】
資産運用において、為替変動の影響は重要です。為替変動が直接的に資産価値を動かし、損失や利益を生む金融商品は当然ですが、為替相場が企業業績に影響すれば、株式投資や株式型投資信託への投資でも損益をもたらします。
また、消費者として支出面での影響、労働者として雇用環境やボーナスなどの変動の影響などが考えられ、ほとんど誰もが為替相場の影響を受けて暮らしています。
単に数字を追いかけるだけでなく、経済的な背景を踏まえた上で為替相場と向き合えるようになると良いと思います。
プロフィール
石原 敬子 (いしはら・けいこ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)。証券会社に勤務後、フリーに。自治体・大学公開講座でのセミナーと資産運用アドバイス相談で、お金と行動の両面からサポートをするファイナンシャル・プランナー&コーチ。
(2010年9月30日 読売新聞)
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