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「保護者の年収が高い世帯ほど子どもの学力が高い」――。
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母子家庭にとって重い教育費負担/父子家庭の父が抱える悩み・母子家庭の母が抱える悩み
2008年度の「全国学力テスト」を受けた公立小学校の6年生について、文部科学省の専門家会議は09年8月、学力と経済力の調査結果を公表した。学力が高ければ本人の学歴にプラスに反映するのは自明の理。それを裏返せば、経済力のない家庭の子どもの学力は相対的に低く、学力の低さはそのまま低学歴につながることになる。参照の図のように母子家庭や父子家庭の親が抱える悩みの1位「教育・進学」が2位以下を圧しているのもそれを強く裏付けている。経済力のない親が子どもの教育や進学について自覚的に悩みを抱えているというのなら、まだ救いがあろうというものだ。
東京都江戸川区で福祉事務所のケースワーカーを中心とした区職員の有志が無料で週2回、中学3年生に勉強を教える「江戸川中3勉強会」。過去5年間の参加者は123人で、公立・私立の全日制に74人、定時制に44人、通信制の高校に5人を進学させている。特徴的なのは、参加者の48%の59人が生活保護受給者ということ。この勉強会の代表を務める徳澤健氏に話を聞いた。
「ここに来なかったらどうなってしまうかわからない子ばかりです。中卒で社会に出て挫折し、世帯主として生活保護に戻ってくる状況=貧困の再生産を止めるには少なくとも高校進学が必要なのではないか、という思いのもとで設立されました」
「江戸川中3勉強会」に参加している中学3年生の成績は5段階評価でオール2前後の子が多く、不登校の子もいる。高校を中退したり、中学卒業後に「やっぱり高校に行きたい」と参加する子も少なくない。掛け算の99やアルファベットも書けないような子も毎年数人おり、自分の住所が漢字で書けない子やカタカナが読めない子もいるという。
これらの生徒たちの家庭環境、そして親たちはどうか。
「母子家庭、父子家庭といったひとり親世帯の子が多く、親や兄弟が高校に進学していないか卒業していない、また非正規雇用やフリーターとして生計を成り立たせている親が多いために子どもと向き合う時間もなく、子どもは高校進学に意味を見出せなくなっています」(徳澤氏)
その揚げ句、「落ち着いて勉強する部屋はなく、幼い弟妹の世話をして1日が終わってしまう」「働いている母親に代わり、家庭の食事はすべて自分が作るかコンビニ弁当」「アルコール依存症の親が突然暴れだすので、家に帰れず公園で時間を過ごしている」「中学校には行ったけど、給食だけ食べて帰ってきた」と話す子どもがたくさんいるという。
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生徒たちの親はおおむね中卒か高校中退であり、子は勉強どころではなく高校進学を考える余裕すらない家庭環境に置かれている。さらに健康不安なども重なって将来への希望をまったく持てなくなった子が多い。徳澤氏はこう嘆く。
「経済的に余裕がないからか、学校に対するいい思い出がないからなのか、単に無自覚なのか、家事もやらず子を勉強に向かわせる気がない親が少なくないですね。また、離婚をしたことで精神疾患を抱えている母親もいる。家庭を訪問すると、部屋が片付けられていなかったり、流しが洗い物でいっぱい、という家庭もあれば、机がなく万年床の上だけが自分のスペースという子もいます。明日が子どもにとって大切な期末テストや中間テストだというのに、自分の買い物に平気で付き合わせる母親までいます」
子どもの進路に関わる担任の先生との三者面談に出向くことを拒絶した母親もいるという。その親は中卒だった。父母が離婚してどちらも家を出てしまい、祖父母に引き取られて生活保護を受けている子もいる。やはり、彼らを生むのは低学歴ゆえに子どもの教育に無自覚としかいいようのない親たちなのだ。
高校進学を経済的な事情で断念したり高校を中退した人に無料で勉強を教え、高校卒業程度認定試験(旧大検)の合格を目指している塾がある。元教員の行方正太郎氏が08年に設立した自主夜間学校「蛍雪義塾」だ。埼玉県川口市に教室があり現在は週2回、15人が通う。2年間でのべ100人が受講しているが、年齢は25から35歳と高めで7割が女性だ。受講生の大半がひとり親世帯で育ち、20歳までに結婚して離婚しているという。
「夫のDVで離婚し生活保護を受けながら17歳の娘を育てている35歳の女性は、母親がまったく人付き合いができない人だったといっていました。その人も母親も高校中退です。また、父母とも精神疾患を抱えている25歳の男性は、親戚に引き取られて育ちましたが高校を2度辞めています」(行方氏)
また、スタッフの中には父母が離婚してどちらも引き取らず、3人兄弟がそれぞれ別々の施設で高校卒業まで育った女性がいるという。父親は高卒、母親は中卒だ。
「蛍雪義塾」の代表、行方氏自身が貧しい父子家庭で育った人である。
行方氏は、小学校中学校と勉強が苦手で不登校の期間が長かった。小学校入学前に姿を消した母親は高卒と聞いているが、父親は地方の大学を中退しており警備員などの職を転々とする人だった。
「私は父から勉強しろといわれたことが一度もありません。自転車を盗んで補導されたときもひと言もなし。新設で誰でも入れる高校に入学しましたが、勉強についていけず1年生の夏に休学しました。入学したときはアルファベットも書けず、偏差値は35。専門学校に入ろうとしましたが、高卒でなければ入れないとわかって高校に入り直しました。休学中に自分の危うい状況がわかり、働いて生きていくには大学に行く必要があるとわかったんです」
その後は猛勉強して国立大学教育学部へ入学を果たした行方氏。だがこうした例は極めて稀なケースだ。
「かつての自分のように恵まれない子らを応援したいと蛍雪義塾を発足させました。格差を生み出すのが教育・学歴なら、格差を埋めるのも教育・学歴の役割です」
今回の取材で改めて明らかになった「親の貧困、経済格差→子どもの教育格差による低学力、低学歴」の構図。この“負の連鎖”は否定したくとも否定しきれるものではない。
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