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http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100817/215812/?P=1
前回は、財政の基本的な仕組みと、財政の持続可能性について債務動学の考え方を示してお話しました。
財政赤字について考える場合、国の場合は国がずっと続くという前提で財政が持続するかを判断します。借金を全部を支払い切れるかどうかではなく、所得に対して安定するかどうかで見ることになる。これが債務動学の考え方でした。
今回は、日本の公債残高がどれくらいかのデータを見るところから始めましょう。
日本の公債残高は、2011年の段階で名目GDP比で200%にいきそうです。今、政府は2014年で180%にしていきますと言っています。このグラフは少し古いデータです。また、対象とする財政赤字の範囲が微妙に違います。OECDが推計したもので日本は少し過剰推計になっている感じになります。ただ、それにしても諸外国と比べて圧倒的に高い水準にきてしまっています。
よく日本の政府には資産があるから大丈夫という意見が聞かれますので、ネットで見たのが図表4です。日本の資産を資産分キャンセルアウトしてみたものです。
それでもイタリアを抜いて、諸先進国の中では最悪の状態に陥っているのが分かります。もう財政再建は急務の状態になっているのです。
最悪、政府が貨幣を発行して支払ってしまえばいいが…
では、破綻すると何が起こるのでしょう。政府が債務の不履行を起こす。その後は政府がお金を貸してくださいといっても誰も貸してくれなくなります。当然ですね。すると、政府の経済活動が全面的にストップします。金利は払えません、それから地方交付税は当然払えません。教育の費用負担もできません、年金も払えません――。こういうことになります。
とはいえ、日本の累積債務の問題は、諸外国のケースや日本の過去のケースと比べると性質が異なっています。今のところ日本国債の保有者がほとんど日本人であり、政府に対外資産が相当存在するからです。従って、名目上、政府自身が債務不履行に陥るリスクは非常に小さいと考えられます。最悪の場合は、政府自身が貨幣を発行して支払ってしまえばいいのです。
では、日本の財政は破綻しないのでしょうか? 日本においても、名目的にはともかく、実質的な財政破綻は十分発生しえます。名目上政府はお金を返せますが(日銀券の増発もしくは政府貨幣の発行を通じて)、その場合、激しいインフレが発生してしまい、返したお金の価値は大きく減少することになるからです。従って、いずれにせよ人々は国債、もしくは日銀券、政府貨幣を保有しようとは思わなくなり、結局、市中から資金調達できなくなるという問題は十分発生し得るのです。
実質的に市中から政府が資金を調達できなくなることの影響は甚大です。年金や医療、さらに地方交付税交付金の実質的価値が暴落することになります。公務員の給与も支払えなくなり、治安や教育にも影響は出ることになりますし、結果的には財政を極端に緊縮する羽目に陥ります。
金融市場の混乱は、企業活動にも悪影響を与えるでしょう。リスクプレミアムがつき、実質金利が高止まりする事態になれば、長期的な成長にも重大な影響を及ぼします。また、国債を直接、間接的に保有している多くの家計の資産価値が実質で見て激減することになります。現在ギリシャで発生している事態は、悪影響がどのようなものかを具体的に示してくれています。
―― 政府には貨幣発行権というのがあるのであれば、極端な話、通貨を発行してしまえば、多少のインフレになって財政赤字も消えるのではないでしょうか。
多少のインフレではなく、残念ながら先ほど申し上げたように激しいインフレ、ハイパーインフレになってしまうのが問題です。財政赤字とインフレとどういう関係があるのかを少しご説明しましょう。
インフレ―ションが発生する道筋
インフレーションというのは、同じお金でも買えるものの量が減っていく現象だと考えられます。貨幣の価値が下がっていくことです。長期的には、お金の量が物に対して多すぎるからインフレが発生すると考えられます。
ですから、皆さんが手に持っているお金の量が必要以上に多くなるとインフレが発生します。このため日本銀行はインフレを発生させないようにするのが仕事だといわれています。お金の量が必要以上に多くならないようにコントロールしているのです。
お金の量のコントロールの方法にはいろいろなテクニックがあります。まず日本銀行は現金を刷る。その現金を何かと交換して民間に出す。具体的には民間から債券を購入して、その代わりに現金をお渡しする、もしくは日銀当座預金といって、銀行が取引に使うところにお金を放り込むということをします。その量が増え過ぎないようにするのが日本銀行の仕事です。
政府は財政赤字が発生した場合、国債(地方債)という債券を発行し、それを販売することにより、穴埋めします(赤字公債)。銀行や個人が国債を購入する場合、対価として貨幣を相手に渡します。
このとき、日本銀行が民間銀行から国債を購入すると、貨幣市場に出回る現金の量は増えてしまいます。
しかも理論上、日本銀行は無限大に国債を購入できます。中央銀行は、自分自身で銀行券を発券しているため、物価が変わらなければ、文字通り、宙から国債の購入費を得ることが出来るのです。貨幣を発券することにより得ることが出来る権利(そして利益)を貨幣発行権といいます。宙から利益を得るわけですから、とても魅力的です。
日銀が国債を買って民間にお金を渡しているということは、日本国政府が国債を発行して直接日銀に買い取ってもらって現金をもらうということと同じです。間にワンクッションはいるだけです。国債を発行して得た現金は、政府の手元に残りますが、そのお金はもちろん使います。すなわち、政府支出を通じて貨幣市場にお金が出回るからです。民間に現金が大量に流れていき、お金の量が物の量より増えるとインフレが発生します。
これが財政赤字がインフレにつながる道筋です。ひどい場合は、もらったお金は2〜3日で価値が下がっていく。そんなお金を手元に置いておく人はいません。とにかく物に変えようとする。するとさらに市中にお金があふれかえる。これがハイパーインフレです。こうなるともう手が付けられなくなります。その瞬間がどのタイミングで来るかですね。
こうなると、普通は外貨を使い始めます。日本国内で円を持っていてもどんどん価値が下がっているのだから、受け付けるのはドルとかユーロだけですということが起こる。そうなると円の価値はなくなります。このポイントがある時点で来てしまう。下手をすると、一瞬で起こることもあり得るのです。
このように、貨幣の発行は、そのまま財政の収入にすることができるため、財政の規律を弱め、インフレを引き起こすものとして、日本では本来、財政法という法律で日本銀行の国債の直接引き受けは禁止されています。しかし、貨幣供給量をコントロールするためには、国債の売買をせざるを得ないため、間接的には可能であり、結果的には、直接引き受けと同じことができるメカニズムが存在するのです。
公債の負担はいつ誰がするのか?
では、公債残高が将来にどんな禍根を残すかについて考えてみましょう。これについては、古くから経済学ではいろいろな議論がありました。それをご紹介したいと思います。
公債の負担には2つ側面があります。1つは経済全体の生産性にかかわる面です。税金より公債で政府の支出をファイナンスした方がいいかどうか、下手をすると経済の効率性が失われるという考え方。もう1つは負担を誰がするかという問題です。
アダム・スミスは、公債を発行して政府の支出をファイナンスするのは、将来において租税が増加することを意味するのだから、将来の世代の負担になると考えました。経済の効率性はともかく、負担する人間に着目したのです。
リカードという19世紀の経済学者は、このアダム・スミスの議論を踏まえつつも、政府の支出の財源は何でも同じであると説明をしました。政府の支出の財源が公債だろうが租税だろうが、まったく経済には影響を与えないという主張で、これはリカードの中立命題と呼ばれています。
彼の主張の根幹は、将来の増税を見越せば、人々は貯蓄を増やし、その貯蓄が結局公債に回っているだけなので、将来税金を取るか、現在税金を取るかという時点の違いでしかなく、現在の世代が十分負担しているというものです。すなわち、経済の効率性や規模に影響はなく、かつ、負担者も同じ国民なので一致しているという考えです
この話は、1970年になって改めて注目されました。有名なバローという米国の経済学者が、合理的期待形成という最新の経済学の考え方を用いて、リカードの説が成立することを証明しました。
ただ、重要なポイントは、今と将来、同じ人間であると仮定しているところなんです。同じ人間なら若いときに払うか、将来払うか別に関係ないでしょう。でも同じ人間が100年、200年生きるわけはありません。そう考えると当然、おかしな話になってきます。
ブキャナンという財政学者が米国にいましたが、彼は公債で負担する場合、人々は公債を自分の資産運用として任意で買っている。一方、将来税金で払わされる人たちは、強制的に払わされる。そうすると効率に問題が起こっているし、所得再分配上も問題が起こっているはずであるという議論をしました。
それから、ボーエン=デービス=コップという3者が連名で書いた論文があります。現在の世代は公債を購入したとしても、死ぬまでに次世代に売却すれば、生涯消費は変わらないわけだから、将来世代が税金増で負担を負うとしました。
最近の議論は、人々がすべて合理的で、自分の将来の増税を見越して貯蓄するということはないとされています。さらに民間部門からお金を借りて政府部門で使っているので、そこに非効率性が出てくる可能性があるとも言えます。やはり公債を発行して財政赤字をファイナンスすることは、あまりよろしくないというエコノミストが主流になっています。
増税というのはものすごく労力のいる行為なんですよ。ですから、それを省いて財政赤字で取りあえずやっていこうというのは、政府部門に対するディシプリンがかからなくなる、ここから問題が起こると考える人が主流派になっているのです。
―― 財政赤字がそれほどひどい状況であれば、この際、何もかも全部、売れるものは売ってしまえばいいと私は思うのです。
霞が関の資産をすべて売ってしまえばいい?
例えば官公庁の建物が霞が関の一等地にある必要はあるのでしょうか。すべて売れば税収も増えますよね、固定資産税だって、法人税だって民間会社から出る。メンテナンス費用だけで十分で、政府の必要経費は少なくなる。それをやった後でさらに社会保障費が必要だとするならば、それはそれでまた別に考えるべきでしょう。
霞が関の資産の売却は、実は見えない形でやっています。例えば文部科学省のビルは半分、民間に使ってもらっています。ただ、バブルのころと今では資産価値が全然違っています。最大の問題は今、売っても意味がないということです。
結局、資産の売却の問題は、日本政府の赤字が減ってうれしいという反対側で、必ず損をしている人がいるんです。
―― 確かに、株を買った個人がすごい損をさせられている…。
―― 霞が関のビルを売ったとしても、一時の収入にはなるでしょうが、今度は賃貸料を払わなきゃならないですよね。
そうなんです、賃貸料を払わないといけないという問題も出てくるのです。
―― 何と言っても消費税ですよね。消費税増税は、やっぱり政府側はこういうビジョンでやるんだというのを示してくれないと。社会保障はどうしても年々、1兆円ぐらいずつ増えていく、こういう現状においては、私は4年先とか、3年先ではなくて、次の国会から順次説明していくべきだと思います。
1回で10%に上げるのも大変ですから、段階的に3%になり、5%になり、その次に10%になってくるという形でしょう。国民一般も社会保障はこのままでいったら大変だ、もう消費税しかないな、というのが大半の意見だと思うんですよ、内心ではね。
ただ、税金というのは取られるのは誰でも反対です。反対だけどやっぱり本当に国の将来を考えたら、早く手を打たないといけないところに来ているんじゃないですかね。私はそう思います。
逆に消費税ではない方が望ましいと考えていらっしゃる方はいらっしゃいますか?
―― 私が言いたいのは、高所得者からまず取って欲しいということです。所得者が非常に増えている。企業の社会的な責任の取り方も変わってきているのではないでしょうか。それなのに、いきなり消費税増税を持ってくるということには賛成できないし、消費税に賛成の人が多いとマスコミで言って煽っている感じもあります。もっときちんとした判断が必要ではないかと私は思います。
そうですね、ありがとうございます。
財政赤字と増税については、国民一人ひとりの生活に大きな影響を与える問題です。みなさんにぜひ、ご意見をお聞かせいただきたいと思い、アンケートを取らせていただきました。大変興味深い結果でしたので、その結果を次回のコラムで公表させていただきます。
(次回につづく)
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大規模な財政出動が必要だと考える人は多いが、現在が深刻なデフレの状況下であることに注意が向いていない。デフレ状況下で大規模な財政出動を行なってもデフレから脱却することができないことは過去の経験から実証済みだ。デフレから脱却するためには、広く国民の将来不安を払拭することにできる将来ビジョンを提示することが必須だが、菅氏も小沢氏もそのような将来ビジョンを提示できていない。
さらに「新成長分野」を創出する必要があるが、これも不明なままだ。環境分野は最終的には経済成長にブレーキをかける方向に働く。医療分野は多額の財政支出は必要とするが、経済成長を促すものにはならない。飛躍的な経済成長をもたらすものこそが「新成長分野」といえる。彼らに「新成長分野」を創出する力量があるようには思えない。だれが首相になってもこればかりは無い物ねだりだ。
こうした状況で大規模な財政出動を繰り返しても持続不可能な事態に追い込まれること明らかだ。最終的には預金封鎖、デノミ宣言も視野に入ってくることになる。そうなれば最悪の事態ということになる。
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- Re: ・・ 財政の仕組みと財政赤字の考え方・・ (2) <− 現時点の解決策を語っていません 健奘 2010/8/28 12:54:45
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