http://www.asyura2.com/10/hasan69/msg/501.html
Tweet |
国内自動車販売を下支えしてきたエコカー補助金の打ち切りが決まった。政府が模索し始めた“出口戦略”には、「官製景気」の息切れリスクも。エコポイントの恩恵を享受してきた家電、住宅業界は身構え始めた。
自動車編
エコカー補助金終了 販売3割減を覚悟
宴はついに終わる。
国内の自動車販売を下支えするため2009年4月から導入されていた「エコカー補助金(環境対応車への買い替え・購入補助)」が、9月末をもって終了することが決まった。これは一定の環境基準を満たしたエコカーに買い替える際に、最大25万円が支給される制度だ。グラフにあるように、リーマンショック後の急激な販売低迷に悩んでいた自動車業界の“救世主”となった。
当初1年間の予定だったエコカー補助金は、追加経済対策の1つとして今年9月末まで延長された。その期限が迫る中、再延長を求める声が出ていたが、結局、政府は打ち切りを決定した。
1年半に及ぶ政府の援護射撃が終わることについて、業界は表向き冷静だ。「(補助金は)非常に大きな効果があった。半年延長してもらったので、これ以上多くを望むことはできない」と、マツダの尾崎清・専務執行役員は語る。
ただ、待ち受ける現実は厳しい。今年10月以降、自動車の国内販売の急減は避けられない情勢だ。「10〜12月は、かなり影響があるだろう。(前年同期比の受注は)3割くらいダウンすると考えている」。ホンダの近藤広一副社長はこんな見通しを口にする。
販売の現場でも不安が広がっている。「販売が3割以上落ちれば販社は赤字になる。その赤字幅をどうやって小さくするか」。トヨタ自動車系の有力販売会社の首脳は顔を曇らせる。
実際、2009年秋に自動車向け販売支援を打ち切ったドイツでは、反動減による販売の落ち込みが続く。「ドイツでは2〜3割減となっている。国内でも同じことが起きるかもしれない。大きなインパクトがあるという前提で、(下期の販売計画を)組んでいる」(日産自動車の田川丈二・執行役員)。
“厳冬”に備え、補助金がある間にできるだけ多くのクルマを売ろう──。そう考える販売店は、夏季休暇を返上して営業する。
“自腹補助金”準備のトヨタ
「今年はお盆も休まず営業します」。ハイブリッド車の「プリウス」を中心に販売が好調なトヨタ系販社の中には、休業日を減らす動きがある。ネッツトヨタ東京は約50店舗で、お盆も営業する。プリウスは補助金終了期限までの納車が間に合わない可能性があるものの、ほかの補助金対象車種で販売を伸ばせると考えているからだ。
ホンダも負けていない。直接出資する系列店の過半で、例年なら3日間のお盆休みを返上。さらに各エリアの店舗を2つのグループに分けて、定休日をずらすという異例の作戦を取る。「お客様がクルマを買いたいと思えば、常にオープンしている店がある状態にする」(ホンダで国内販売を担当する小林浩取締役)ためだ。ホンダカーズ東京中央では、特に販売台数が多い6店舗で、8月と9月にそれぞれ1日ずつしか休業しないことを決めた。
では政府の補助金が終わる10月以降はどうするか。
トヨタはメーカーが身銭を切る“自腹補助金”を用意する。販社がクルマを1台販売するごとに、5万円の販売奨励金を支給する見通しだ。最大25万円という現在の補助金に比べると額は小さいが、これを値引きの原資として、反動減のショックを和らげようというわけだ。ホンダは現時点で、特別な販売奨励金は予定していないが、販売店に対して人的な支援を提供する。本社の社員400人を全国の販売店に出向させ、販売をテコ入れする。
補助金終了は、クルマの売れ筋にも変化を与えそうだ。現在支給されているエコカー補助金はエンジン排気量が660ccを超える「登録車」を買う場合に手厚い。買い替えるクルマが軽自動車の場合、登録車への買い替えに比べて半額しか出ない。そのため、軽自動車の販売には不利に働いているとの指摘があった。この歪みがなくなることは、相対的には軽自動車に有利に働く。
「補助金の手厚さで軽から登録車に流れるお客様がいたが、10月以降はすべて逆に働く。市場全体への補助金切れのインパクトは大きいものの、軽の落ち込み幅は登録車の半分くらいではないか」(ダイハツ工業の執行役員)
国内販売に暗雲が漂う中で、足元では1ドル=86円台(8月2日時点)の円高が続く。その影響もあり、三菱自動車やマツダなどは、2010年4〜6月期の決算が大幅に改善したものの赤字となった。「輸出比率が高い自動車産業は、円高の打撃が大きい。補助金がなくなるのは仕方がないが、何らかの景気刺激策は必要だ」(マツダの役員)といった声も上がる。補助金終了を控え、自動車各社の底力が試されている。
家電編
「国内需要3分の1」 海外に活路探る
自動車と並んで、官製景気に支えられてきた家電業界はどうか。
「最大需要が見込まれる年末の国内市場で、映像商品のトップブランドを目指す」。7月28日に行われた液晶テレビの新製品発表会で、東芝ビジュアルプロダクツ社の大角正明社長は力を込めた。
電子情報技術産業協会(JEITA)のまとめでは、2009年度の薄型テレビの国内出荷台数は、前年度比57%増の1588万台と過去最高を記録した。今年度はそれを大きく上回り「2000万台に達する」との声が、電機業界では強くなっている。
背景にあるのは、2つの「官製」要因だ。来年7月に地上デジタル放送への完全移行が予定されているうえ、今年12月末まではエコポイント制度による補助金がある。年末商戦に向けて駆け込み特需が発生することは間違いない。「テレビの購入を検討する人は増えている。このチャンスを生かさない手はない」と大手家電量販店幹部は鼻息が荒い。
前例はある。エコポイントの基準が今年4月に変更されるのを受け、3月、各電機メーカーは旧基準製品を売り切る動きを強めた。その結果、JEITAによると薄型テレビの出荷台数は前年同月の2倍強、221万台に達した。需要急増に対応しきれず、国内首位のシャープが一時的にシェアを落とす異変まで発生した。
年末商戦は、その3月の規模を大きく上回る見込みだ。「12月だけで340万台もの液晶テレビが売れる」(東芝)という予測すら業界にはある。
反動減でGDP1.6%押し下げ
予定通りならば年末にエコポイント制度は終了する。そこで薄型テレビの特需は一服するが、自動車と違うのは、来年春頃には再加速すると見られていること。来年7月の地デジ完全移行に向けて、ブラウン管テレビやアナログ対応の旧式薄型テレビからの買い替え需要が期待できるからだ。
総務省によると、地デジ対応受信機は今年3月時点で84%の世帯に普及した。ただしそれは「リビングに置かれるメーンのテレビに占める割合。各家庭の子供部屋には、未対応テレビが多く眠っている」(家電メーカー幹部)。各社が「最後のチャンス」とシェア拡大に前のめりになるのも無理はない。
だが、それも来年夏までの話。以降は市場の下支え役が消える。
「来年秋以降、薄型テレビの国内販売が年率換算で600万台程度、ピーク時の約3分の1にまで落ち込む。結果、実質GDP(国内総生産)を約1.6%押し下げる」。日本総合研究所マクロ経済研究センターの枩村(まつむら)秀樹・主任研究員はこう推計する。三菱電機の吉松裕規・常務執行役は、「地デジへの移行後に予想される需要の反動減は懸念材料だ」と、対応に頭を悩ませる。
山高ければ谷深し。国内販売拡大に注力すればするほど、来年夏以降、縮小する“国内戦線”の穴をどう埋めるかという問題に直面することになる。
シャープは、「海外の販売を増やしていく」(野村勝明取締役)と、外国に活路を見いだす計画だ。同社に限らず、各電機メーカーが力を入れているのが新興国での拡販である。
東芝は今年4月に「アジアヘッドクォーター」を設立し、ベトナムやインドネシアなど東南アジア市場攻略に本腰を入れ始めた。放送電波が不安定な地域でも使えるよう、高感度チューナーを搭載するなど現地のニーズを吸い上げ、今年度中に約10モデルを投入する計画だ。
「市場規模の大きい中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)地域で販売拠点を強化し、数量増大を狙う」と大角社長は語る。「官製特需」に沸く陰で各社はこうした対応を迫られている。
住宅編
新築、改築に効果 早くも制度延長要請
リーマンショック以降、低迷が続いた住宅販売。6月の新設住宅着工戸数は前年同月比0.6%増と2カ月ぶりにプラスとなるなど、底入れの兆しも見られる。後押し材料の1つが住宅版エコポイントだ。年末までに着工する省エネ住宅の購入やリフォームに対し、最大30万円分のポイントが発行される。
需要刺激効果が特に大きいのが、リフォーム業界だ。
その一例が既存の窓の内側に窓をつける「内窓」。樹脂サッシと複層ガラスで構成する窓を新たに設置することで、断熱性能や遮音性能が高まる。経済産業省の調査によると、今年3月の内窓の販売額は前年同月比225%増と大幅に伸びた。以降も好調に推移している。窓の大きさや種類によって異なるが、1枚当たり数万円の内窓であれば、1枚につき7000〜1万8000円分がエコポイントとして付与される。
住生活グループ傘下のトステムでは、今年度の内窓関連製品の売上高が100億円まで伸びそうだという。住宅サッシ統轄部の藤井文徳部長は、「内窓事業の成功をきっかけにリフォーム事業を強化できる」と期待をかける。証券市場も注目している。野村証券の広兼賢治アナリストは「会社全体の売上高への貢献はそれほどでもないが、内窓は利益率が高い」と指摘する。
エコポイントの効果は新築住宅でも表れている。
積水ハウスでは、今年6月までの戸建て住宅販売契約の7割が、エコポイント対象の太陽光発電などを備えた住宅だった。大和ハウス工業や積水化学工業など、他社もエコ関連の戸建て住宅販売はここ数カ月上向いている。「間違いなく消費刺激策として効いている」と住宅メーカーの担当者は言う。
住宅購入に対しては、金利を1%優遇する住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35S」、過去最大規模の住宅ローン減税、贈与税の非課税枠拡大など、ほかにも時限的な政府支援策がある。こうした政策を組み合わせて住宅販売を底上げしてきたわけだが、先行きについて業界に楽観論は少ない。
「(エコポイントの)期限延長を何とかお願いしたい」。7月上旬、ある大手住宅メーカー首脳は前原誠司・国土交通相に訴えた。景況感の改善が不十分なまま政府による支援策が切れることを恐れたためだ。一足先に「官」の支援が消える自動車市場がどうなるのか。注目しているのは自動車業界ばかりではない。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。