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(英エコノミスト誌 2010年8月7日号)
かつて日本は先進国への輸出で栄えた。今、活発な動きが見られるのは別の場所だ。
日本の経済産業省はこれを「新天地」と呼ぶ。日本企業はようやく、新興国が先進国よりもずっと速いスピードで成長していることを悟ったようだ。時流に乗り遅れた感はあるものの、日本勢は気の利いた動きを見せている。
金融情報を提供する日本経済新聞社によれば、日本の主要上場企業599社の経常利益は直近の四半期(4〜6月期)に前期比46%増加し、約3兆8000億円に達した。これは前年同期の5倍に相当し、主に新興国での売り上げ急増によるものだった。
【新興国での売り上げ増加が収益回復に大きく貢献】
2009年に赤字に陥った日本企業の多くは、新しい世界の中流層への販売攻勢によって命運を回復させた。トヨタ自動車は8月4日、第1四半期の営業利益が2120億円だったと発表した(前年同期には1950億円の損失を出している)。これにはアジアの力強い需要が寄与した。
ソニーは直近の四半期に790億円の利益を計上し、1年前の330億円の税引き前損失から黒字転換を果たした。新興国での売上高は40%増加した。ブラジルでの売上高は2倍近くに急増した。
ある試算によれば、北米および欧州以外の国々が、2000年から2050年にかけての世界経済の成長の8割を担うという。欧米の消費者は以前より倹しくなった。日本は20年間にわたって低迷を続けているうえ、人口も減少している。となると、日本の産業界が国外に目を向けるようになったのも何ら不思議ではない。
日本の従来の製品は新天地には適していない。その多くは高価かつ複雑で、韓国や台湾、中国のシンプルな製品に価格であっさり負けてしまう。日本企業は長い間、貧しい途上国を単なる生産拠点として利用し、そこで作った完成品を豊かな先進国へ輸出してきた。このモデルはもはや通用しない。
過去10年間で、日本の輸出全体に占める対米輸出のシェアは半減した。欧州向けの輸出は3割ほど低下した。
日本企業は現在、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や、サラリーマンがMINTSと呼ぶ地域(マレーシア、インドネシア、ナイジェリア、トルコ、サウジアラビア)、そしてベトナムとバルカン諸国向けの製品開発に取り組んでいる。
この10年で、対中輸出のシェアは3倍近くに高まった。また、景気後退期に落ち込むまでは、中東などの資源国向けの輸出シェアも2倍近くに伸びていた(図参照)。
消費財から専門部品に至るまで、新興国の消費需要は様々な産業で日本企業の追い風となってきた。日本の化粧品メーカー最大手の資生堂では、中国国内の売上高が過去5年間で倍増した。同社は今年に入って、バルカン諸国とモンゴルにも進出した。
また、台頭する中産階級が唇に輝きを求めるようになってきたベトナムにも工場をオープンさせた。資生堂では、2017年までに、現在4割の海外売上高比率が5割まで高まると見ている。
新天地で成功を収めるために、日本企業は現地に適応しなければならない。パナソニックは、製品と組織の抜本的な見直しを進めている。同社は現在、地域別に厳格な管理部門を設けるのではなく、気温や熱帯地域といった区分で製品ラインについて考えている。南米の幹部らはアイデアを交換し合うため、四半期ごとにマレーシアの同僚を訪問するという。
【現地の技術者を登用し、現地に適した商品を開発】
パナソニックは商品と組織を抜本的に見直している〔AFPBB News〕
商品を現地の嗜好に合わせて再設計するために、パナソニックは現地の技術者を登用するようになってきた。
「日本人技術者が作ったら、出来上がるのは日本の商品だ」。パナソニックで海外事業を統括する大月均氏はこう説明する。今では新興国で販売している商品のうち、日本人チームが開発したものは1〜2割にとどまる。以前はほぼすべてが日本人チームが開発したもので、こうした変化は「当社では実に画期的なことだ」と大月氏は言う。
パナソニックはインドネシアで、冷蔵庫に2リットルのボトルがたくさん収納できる大きめのスペースを作る必要があることを学んだ。インドネシア人は毎朝、浄化のために水を沸騰させ、その後、保冷のために冷蔵庫にしまうからだ。その一方で、彼らは野菜室をあまり必要としていない。野菜は買ったその日に使うことが多いからだ。
電力供給が不安定なインドでは、パナソニックは少ない電力で稼働するエアコンを開発中だ。また、インド人はエアコンをつけっ放しにすることが多いため、モーターは静かに稼働するよう設計されている。中国ではエアコンがステータスシンボルであるため、パナソニックのエアコンは近所の羨望の視線を捉えるよう、大型でカラフルな作りになっている。
直近の四半期にパナソニックが840億円もの利益を上げ、前年同期の520億円の赤字から脱却できたのは、新興国の売り上げが大きく貢献した。新興国での電子機器・家電製品の売上高は現在、全体の25%を占める。同社は2012年までに、この比率が31%に高まると予想している。
日本の自動車メーカーも健闘している。トヨタはインド向けに「エティオス」という専用モデルを開発し、1万ドルで販売している。日産自動車は小型車「マーチ」をインドとタイで生産しており、部品の87%を現地調達している。同社は今年中に中国でもマーチの生産を開始し、2011年にはメキシコでも生産を始める予定だ。
日産は最近、日本版マーチの生産を打ち切り、代わりにより安価なタイ版の輸入を始めた。そうした取り組みは日本ではまだ珍しいが、間もなくそうではなくなるだろう。「質素なイノベーション(frugal innovation)」は広く受け入れられるものだ。
【円高とグローバルな人材管理という難題】
依然、厄介な問題もある。円高(今年に入って14%上昇し、1ドル=86円に達した*1)は輸出を直撃する。だが、円高はその一方で、M&A(企業の合併・買収)を割安にする。調査会社ディーロジックによれば、日本企業は今年、途上国でのM&Aに110億ドル以上投じており、2009年通年の実績を既に上回っているという。
生産拠点を海外に移し、現地調達を行うことで、日本企業は今の円高を切り抜けることができるだろう。
もう1つの難点は、グローバル化した労働者の管理だ。今夏、トヨタとホンダは労働争議によって中国での生産休止に追い込まれた。日本国内の労働者が非常に従順なため、日本の経営陣はこうした揉め事に不慣れだ。このため日本企業は急ぎ外国人の採用に走っている。
経営者報酬が比較的低く、英語を話す社員が不足していることが外国人の採用を難しくするが、中には進歩を遂げている企業もある。来年、パナソニックが採用を予定している新卒者1390人のうち、日本人はわずか290人だ。
新興国向けに商品を再設計した今、日本企業は次に企業文化を刷新する必要に迫られるかもしれない。彼らは現地社員に少ない権限しか与えようとせず、日本人以外の社員が経営陣に抜擢されることも稀だ。
また、日本企業は、合意形成と本社との果てしないメモのやり取りを経て、時間をかけて意思決定を行う。新興国で生き抜くためには、日本の産業界は俊敏さを身につけなければならない。
*1=ご存じの通り、この記事が出た後、円は一時、1ドル=84円72銭まで上昇し、15年ぶりの高値をつけた
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