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(2010年7月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
根が崩れ始めてから丸3年経った。また、金融危機は景気下降が大混乱に転じる前兆ではないかと恐れ、心配性の人が地下室にボトル入りの水や缶詰の食品を蓄えてから1年余り経つ。では、この間に何が変わったのか? 答えは簡単だ。ほとんど何も変わっていない。市場(そしてバンカー)が今も支配しているのだ。
【威勢のいい発言が相次いだが・・・】
グローバルな金融システムが自滅の危機に瀕していた時に、政治指導者が口にした壮大な宣言を振り返ってみよう。いくつもの約束や誓いの言葉が左から右から、真ん中から発せられ、ゴードン・ブラウン英首相(当時)やバラク・オバマ米大統領、アンゲラ・メルケル独首相やニコラ・サルコジ仏大統領、各国中央銀行や国際通貨基金(IMF)が皆、誓いを口にした。
金融危機の直後に散々叩かれたバンカーだが、払った代償は小さくて済んだ(写真はウォール街)〔AFPBB News〕
金融を金ぴかの台座から引きずり下ろす、と彼らは言った。メーンストリート(実業界や一般社会)がウォールストリート(金融界)に対する優位を取り戻す。ワシントン・コンセンサスによる自由放任の資本主義の時代は終わった。世界の主要先進国は、金融工学ではなく、本物の工学の育成に注力する――。
確かに、1つか2つ、変わったことはある。経済学は宗教に基づく学問であることが露呈した。長年、合理的期待や効率的市場理論の奴隷だった経済学者たちは、原点に立ち返ってケインズを再発見した。
ゴールドマン・サックスの上層部はかつて、プライベートジェットだけでなく一定の名声も得ていた。神の仕事をするバンカーたちは今、輝かしい社会的地位を失った。
だが、このためにその他すべての人に降りかかった苦難を考えると、世間的な不名誉など、小さな代償のように思える。筆者が昔から知るあるバンカーは、スーツケースに詰め込んで家に持ち帰る現金は減るにせよ、それでも今年の稼ぎは過去最高になりそうだと話している。
【バンカーのツケを払う一般家庭】
言うまでもなく、1つ、本当に大きな変化もあった。かつて銀行の帳簿上にあった何千億ドルもの不良資産が、危機が引き起こした景気後退が生んだ財政赤字の山の上に積み上がった。一般の家庭が増税やお粗末になった公共サービス、失業者の増加を通じて、バンカーたちのツケを払っているのである。
政治的な決意は、恐怖に取って代わられている。自由市場の不公正についてサルコジ大統領ほど雄弁に語った人はいない。今こそ資本主義が欧州の社会市場のイメージに沿って作り直される時だ、と大統領は言った。
【格付け機関に怯える政治家】
だが、こうした発言はどれも、ギリシャのソブリン債の危機を受けてユーロ圏が攻撃を浴びる前の話だ。サルコジ大統領は今、フランスがトリプルAの信用格付けを失うのではないかと心配し、毎晩、眠れぬ夜を過ごしている。
心配しているのは、大統領独りではない。ほぼすべての西側諸国の政治家が巨額の財政赤字の削減と奮闘しており、グローバルな資本市場の奴隷になっている。
キャメロン英首相はイングランド銀行から、大幅な歳出削減をしないと格付け機関が納得しないと聞かされていた〔AFPBB News〕
デビッド・キャメロン英首相は、そう公言して憚らない。同首相が福祉国家の歳出を大幅にカットし、英国の国際的な役割を小さくするのは、そこまでしないと格付け機関が満足しないとイングランド銀行に言われたからだという。
格付け機関のことを読者は覚えておいでだろうか? 無価値の債務証券が最高級の金融証券に組み換えられたごまかしに、こうした格付け機関が深く共謀していたことを思い出す人もいるだろう。政治家が格付け機関の規模を縮小すると言ったことを、筆者ははっきりと覚えている。
実際、そんなことは起きなかった。格付け機関は悔い改めることはなかった。そして今再び、支配者の座に就いている。
今回の危機は当初から、皮肉に満ちていた。そもそも、あれほど巨額の資金が金融システムに溢れ返り、ローンを返済できない米国の住宅購入者にいつでも貸し出せる状態となっていた大きな理由の1つは、世界中の多くの新興国が西側の言葉を額面通りに受け止めたからだった。
【皮肉に満ちた危機】
アジアは1990年代後半の金融危機の後、慎重な財政運営というIMFの教えを丸のみした。その後アジア諸国が貯めこんだお金は、浪費癖のある西側諸国に再び還流して低利融資を支え、それが今度は世界にサブプライムローンと債務担保証券(CDO)をばら撒くことになった。
もちろん、欧州の大半の人は、抑制の利かない英米流資本主義に危機の責任があると考えた。だが結局、自国の機関も完全に共謀していたことに気づかされる羽目になる。メルケル首相は盛んにヘッジファンドやプライベートエクイティファンドを非難したが(実際には、こうしたファンドには危機の責任があまりなかった)、ふたを開けてみれば、ドイツの政府系地方銀行がカジノで最も熱心にプレーしていたのである。
だからと言って、政府と規制当局が危機の責任を免れるわけではない。英国の当時の労働党政権は、シティ(ロンドン金融街)が社会政策の原資となる税収を生み出し続けてくる限り、見て見ぬふりをした。ギリシャは、大方の人がアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の名前を知るずっと前から財政報告を粉飾していた。
米連邦準備理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン前議長とベン・バーナンキ現議長は、自分たちのプロパガンダを信じるというミスを犯した。
今、政策立案者たちは、こうしたミスを正すために対策を講じたと言うだろう。一部の政府は大手銀行に超過利潤税を課した。米国は規制体系を厳格化する法律を制定した。度を越えたボーナスの支払いには、わずかながらも成果連動部分が盛り込まれるようになった。
バーゼル銀行監督委員会は今より厳しい自己資本要件を課す予定だ。もっとも、実施は2018年だということを我々は理解しておかなければならない。
【経済を破滅させる資本市場の威力】
こうした対策は恐らく有意義なのだろうが、資本市場が経済を破滅させる威力と比べると、間に合わせの修繕のように見える。金融機関は今も、英金融サービス機構(FSA)のアデア・ターナー長官が「本質的に無益」と断じたトレーディング業務で多額の利益を稼いでいる。だが、ターナー長官は、抜本的な見直しを求めるほぼ唯一の存在だった。
ユーロ圏の危機は、資本市場の群集心理が一大陸全体を不安定にし得ることを示している。その結果、欧州諸国の政府は景気回復が確かなものになる前に、早計で危険な財政赤字削減レースに乗り出すことになった。
大手銀行は今、規制当局に助けられて、きちんとストレステスト(健全性審査)を受けたと宣言できるが、システム全体の不安定さは残っている。国際市場はどんどん先へ進み、政治指導者が市場を適切に監視する能力は言うまでもなく、それを理解する能力のはるか先を行っている。グローバルな経済統合に政治的な統治が後れを取っている状況は、今も2007年当時と変わらないくらい明白だ。
各国の政治家が相互依存のリスクや、特定の機関や金融商品の脆さについて理解を深めたとしても、グローバルな監視体制の責任をどう共有するかについては、コンセンサスに至るにはほど遠い状況にある。
というわけで、3年の月日が経っても、状況は当時とほとんど何も変わっていない――我々の大部分が3年前より貧しくなったという点を除けば。市場がすべてを支配している。お分かりだろうか?
By Philip Stephens
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