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中国バブルが終焉しても日本が生き残る道(大前研一)
http://www.asyura2.com/10/hasan69/msg/172.html
投稿者 Orion星人 日時 2010 年 7 月 10 日 14:00:45: ccPhv3kJVUPSc
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100707/235518/
【大前研一の「産業突然死」時代の人生論】
2010年7月7日

 2008年9月のリーマンショック以降、危機的な状態が続いていた世界経済を牽引していたのは間違いなく中国である。しかし、その中国の経済情勢に変化が訪れ、いよいよバブルの終焉を迎えようとしている。
この2年ほど高止まりしていた中国の人民元

 中国人民銀行は6月22日、人民元の取引基準となる中間値を前日終値に近い水準まで引き上げた。これは元相場をますます高い方向へ誘導することにほかならず、見方を変えれば中国が国際競争力を失っていくことを意味している。
 高い元相場への誘導は、26日から始まった20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)をにらんだパフォーマンスに過ぎないという意見もあるが、中国政府は元の価値を上方向に柔軟性を持たせようという思惑なのだろう。もっとも、私自身は「そう簡単にことは進まない」と見ている。
 これまでの元相場の推移を振り返ってみると、最近の元は非常に安定していたことがわかる。下のグラフの通り、以前の元はドルに比べて弱かった。だが、じりじりと強くなって高止まりし、この2年ほどはさほど変動してこなかった。もちろんこれは中国政府がこのレベルで止めようとした意志が働いたからに他ならない。


【元高になっても雇用は米国には戻らない】

 米国は人民元の安定(米国に言わせれば高止まり)を好ましく思っていなかった。米国の経済学者や政治家の中には、「人民元が不当に安いため、米国での雇用が奪われている」と信じている人がいる。オバマ大統領もその一人だ。彼らから見て正当なレート、つまりもっと元高になれば、中国の国際競争力は弱体化する。
 そして、人民元が安かったから米国企業が中国に工場を移していたわけだが、元高が維持できれば中国に逃げた雇用が米国に戻ってくる、と期待しているのだ。現にオバマ大統領はこうした“公平な”競争条件のもとでは200万人の雇用が米国に戻ってくる、と語っている。歴史も経済も知らないまったく間違った議論である。過去の日本円の歴史を見ればすぐにわかる。
 日本もかつて極端な円高ドル安に向かったことがある。1985年のプラザ合意のときは1ドル235円だったが、その後急速に円高が進み、90年代半ばには1ドル79円にまで達した。今は90円前後で推移しており、これだけ円高になっても米国企業は本国に戻ることはなかった。
 米国企業はどこへ行ったのか? 話は簡単で、より生産コストの安い中国やインドネシアに向かったのだ。だから今回も、中国に進出していた米国企業が国内に戻ることはない。中国よりもさらにコストの安い東南アジアの国々やインドに移動するだけのことである。
 米国で雇用が奪われている本当の理由は中国にはない。製造業を中心とする米国の労働環境そのものが、米国企業に嫌われているからである。多くの米国経営者は米国が生産に向いていない国である、と心から信じており、為替の問題で再び戻ってくる、という発想の人にはお目にかかったことがない。日本がダメなら韓国、台湾へ、そしてやがて中国へ、と流れていった経緯はまさにそのことを裏付けている。メキシコのマキラドーラに出ていった企業も最近では中国シフトをしているところが多い。
 米国企業の米国離れは為替だけでなく労働慣行や部品などの産業基盤全体の問題である。そのことを米国の政治家、経済学者は冷静に考えてもらいたい。そして、中国は仮に米国の要求に従ったとしても、事は米国の言う通りには運ばないと考えておいたほうがいいだろう。


【労働者の相次ぐ自殺が発端となった中国の賃上げスト】

 むしろ中国政府は、現在国内で起こっているホンハイショック(中国企業ホンハイの深センにある子会社富士康をきっかけに各地で起こっている賃上げスト現象)を心配したほうがいい。ホンハイショックの発端は、富士康(フォックスコン)で労働者の自殺が続いたことだ。定められている地域の最低賃金しか支払われないことと軍隊式とも言われる厳しい勤務形態が原因だとされている。
 そこでホンハイは賃金を30%引き上げたが、労働者の自殺は止まらなかった。今度は賃金を2倍に引き上げることにしたところ、その情報を得たよその会社で賃上げストが起こった。労働者たちはストをすれば賃上げが期待できると考えたのである。共産主義の中国では労働者にスト権がない。今まで政府の決めた最低賃金を「やむを得ないもの」と思っていた労働者が初めて「賃金は交渉して稼ぐもの」という感覚を持ったのだ。これがインターネットなどで燎原の火のように中国全土に拡大しているのである。
 気の毒なのは、最低賃金より多く支払っていた企業だ。日系企業もそこに含まれるが、それなりの賃金を払っていたはずなのに賃上げストにさらされている。彼らは自分たちの賃金が2倍になるまで諦めないだろう。日本も1970年初頭には賃金が年39%も上がった年があった。しかしインフレでもない限り賃金が1年で2倍になるなんてあり得ないことなのだが、中国では「今までが低すぎた」と言って平然と賃上げを要求してくる。
 タイミングが悪いことに、この期に及んで中国政府は所得倍増計画を打ち出した。中国の労働者は、「今のうちに賃金を2倍にしておけば、所得倍増計画が実行されたら4倍になる」と考えた。日本でもそう言う時代はあったが、所得を上げる大前提は生産性の向上である。幸い日本の場合には企業が生産性の改善に取り組み、その結果として労働分配率を維持しながら賃上げできた。プラザ合意以降はイノベーションによって価格のとれる商品を出して円高ショックを乗り越えた。今の中国企業にはそうした経営力がないので、単純に労賃が上がってしまい、競争力を失う、という悪循環に陥る可能性が高い。

 このような状況だから、中国の安い人件費を求めて工場を移転してきた外国企業は大きな痛手を受けている。そして、今回の元高である。外国企業は中国から逃げ出さざるを得なくなる。これに対して中国政府は平然としている。米国帰りの学者が支配する中国の経済政策ブレーンたちは、労働集約型産業からソフト、クリーン、グリーンな産業への移行を志向している。人件費が上がって出ていくようなローテク企業はそのままにしておけばよい、という態度である。
 米国でも日本でも長い時間をかけてこのような産業の高度化が進んだわけだが、いくら中国と言えども今の経営者の実力を見れば、生産性の改善もイノベーションも望み薄である。高騰している不動産で稼ごうと皆がデベロッパーになるのではないか、と思われるほど、本業への執着心が薄くなっている。もちろん80年代後半の日本企業と同じで、危機感は微塵も感じられない。
中国バブル崩壊の直前を狙っているさや取り業者

 人民元の上昇はG20対策の一時的なものに過ぎなかったようで、また下がってきた。「マーケットとはそういうものだ」とも言えるが、しかし人民元の急上昇を虎視眈々と狙っているさや取り業者の存在を忘れてはいけない。彼らは人民元が高くなりきったところで、「実は中国経済には問題あり」という噂を流して元の急降下を誘導し、その差額で大儲けしようと企んでいる。中国政府もそういう輩がいることをしっかり認識した上で舵取りをすべきである。
 今のところ、この「弾力化政策」はドルに対しては強くなっているが、ユーロと円に対しては逆に弱くなっており、見かけ上はバスケット方式で操作しているように見える。米国は納得するが、中国としては交易国全体を見れば元高とはなっていない、という「名を捨てて実をとる」戦略とも言える。

【終焉を迎えつつある中国バブル】

 中国バブルの終焉は、米国でも認識されつつある。米ニューズウィーク誌6月28日&7月5日号は「The Post-China World」(中国後の世界)と題して、日本やイギリスの長い低迷を例に引きながら、中国の今後を展望していた。「リーマンショック後にひっくり返りそうだった世界経済を中国が支えてくれていたが、未曾有の中国バブルも終わろうとしている。その後はどうなるのか」――。
 実際、中国では不動産価格が落ち始めている。高級自動車の販売も低迷してきた。さらに影響が大きいのは、中国の銀行がいっせいに貸し出しを渋り始めたことである。中国政府は、「バブルを抑える程度に制限したい」という考えだろうが、中国の銀行にはそんな器用な微調整はできないだろう。政府が「少し貸し出しを抑えてくれ」と言えば、一気に蛇口を閉じてしまう。98年11月にはG20の要請で蛇口を開けたが、蛇口というよりは消火栓を全開にした感があった。どうも中国の今の動きを見ていると、蛇口を全開にするか閉じるかの二者択一しかできていない。微調整は相当に困難と思われる。
 これが行き過ぎて中国のバブルが本当に崩壊してしまったら、世界経済が大きな影響を受けるのは必至だ。中国の代わりに世界経済を牽引する国があるだろうか。欧州連合(EU)は、ギリシャ危機以降、積み木崩しのようになっているので、しばらくは頼りにならない。米国もリーマンショックの傷がまだ癒されていない。失業と商業不動産の問題に加えてメキシコ湾における石油流出事故が予想を上回る経済的なダメージとなっている。インドに期待したいところだが、中国と違って全体主義ではないので、政府のさじ加減ひとつで起爆剤となることは無理だろう。

【ECFAを締結した中国と台湾、800品目で関税引き下げへ】

 そうした中国をめぐり新しい動きがあった。中国と台湾は6月29日、関税撤廃を軸とした経済協力枠組み協定(ECFA)を締結した。関税引き下げについては800品目余りが対象とされ、ほかにも規制緩和などの進展が含まれる。

 私はこの動きを高く評価したい。なにしろ20年以上から私は台湾のアドバイザーとして中国との交易自由化を提案し続けてきたのだから。私の提案は、「大三通」(地域を限定しない中国との通商、通航、通信)はもとより、台湾にアジアオペレーションセンターを作って、その圏内では中国から人を呼んで共に仕事ができるようにする仕掛けだ。それがECFAでようやく実現に近づいたのである。
 しかし、当の台湾では最大野党の民進党が住民投票を求めた大規模なデモを行った。彼らは中国との緊密度が上がることで、台湾が中国に統一されることを懸念しているのだ。ほとんどの台湾の人々は中国と親しくなることを歓迎しているが、一部に反対派がいるのも事実である。
 中国と距離を置いたままでは台湾の将来はない。だから、このECFAを足がかりに次のステージに向かうべきである。以前は台湾の大多数が中国を敵視していたが、馬英九(マー・インチウ)政権になってからは中国と台湾の距離が縮まってきた。その結果、台湾の経済力は強くなり、恩恵を受けたのは中国よりむしろ台湾のほうだった。
 今後さらに親しくなったとしても、台湾が中国に飲み込まれると決まったわけではない。何しろ経営力や技術力では中国よりも台湾のほうが高いのだから。人材力を比べたら、正直言って、今の台湾やイスラエルにかなうところはない。いずれも「緊張」が生み出した成果である。
 今の経営力をもってすれば、台湾企業が中国に飛び込んでいけば必ず中国企業の上に立てる。中国企業も急速に力を付けているので5年後にはそう簡単にはいかないだろう。だから、むしろ一刻も早く台湾から中国に飛び込んだほうがいいのだ。交渉においては1万2000品目が検討されているが、今回の関税引き下げで対象となっているのは800品目程度だ。将来的には金融や農業まで対象を広げた文字通り自由貿易協定(FTA)となっていく可能性もある。


【日本企業は台湾、そして中国との取引強化に乗り出せ】

 ECFAの締結は、日本にとっても台湾進出の好機である。日本の本社を台湾に移しても良いだろうし、中国全土をにらんだ現地法人を設立するにも良いタイミングだ。なにしろこの6月以降、台湾から中国への直行便が週に370便にも増えている。2年前にはチャーター便とか週末限定便しかなかったのだ。急速な接近は航空ルートの便数にも表れている。台北から上海へは1日8往復で、しかも台湾側は松山空港、上海側は虹橋空港である。両者とも町中にあるので今まで香港経由で6時間もかかっていたところが80分の至近距離となった。
 また台湾では法人税が25%から17%に下がる。企業にとっては良いこと尽くめだ。日本政府は法人税を下げると言っても40%から25%あたりにする程度だ。台湾のレベルは香港(16%)といい勝負、という段階に入った。もちろん日本政府的には法人税が20%よりも低いところは「租税回避国」となり、台湾に本社を移せば国税ににらまれることになるかも知れない。
 台湾では日本語も英語も堪能なビジネスマンが多い。日本企業が台湾を足がかりに、あるいは台湾企業との協業で中国との取引を強化するにはとても良い環境だ。中国バブルも終焉に向かいつつあるとはいえ、近隣諸国との付き合い方を工夫することで日本企業が生き残る道はまだまだある。


 

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コメント
 
01. 2010年7月10日 14:52:58: ibwFfuuFfU
産業革命も産業資本主義も金融資本主義もなぁ〜んも経験したことがないくせに、(イチオー)共産主義からいきなり史上最大の株式・不動産バブルとなった中国がどんなことひどいになるか?歴史上誰も経験したことのない破滅的なバブル崩壊に見舞われる以外のシナリオがあるはずがない。これじょーしき

02. 2010年7月10日 16:03:37: cqRnZH2CUM
中国の不動産が、どこまで下落し、海外に影響するかは不明だ。
まず欧米の投資家や現地操業企業が当然、その影響を受けるが、
豪やブラジル、そして日本など、GDP比で中国貿易への依存度が高い国々はさらに大きなダメージを受ける。

ただし日本とは違い、経済の成長ピークはかなり先であり、しかも都市部を中心としたバブルなので、回復も早いと考えられる。

それよりも北村氏が指摘するような格差の是正や福祉の充実を行わないと、本当に地方の貧困層やマイノリティを中心とした暴動が頻発することになるだろう。


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貧富の格差は「危険レベル」に達したか?
世界の大国となるには、富の分配の適正化は避けて通れない

* 2010年7月9日 金曜日
* 北村 豊

中国  貧富の格差  暴動  ジニ係数  富の分配  デモ 

 中国国営通信社「新華社」傘下の新聞「経済参考報」は2010年5月21日付で、新華社世界問題研究センターの研究員2人(叢亜平と李長久)による長文の論文「中国における収入分配の不均衡による貧富の格差拡大」を掲載した。彼らは論文の中で、中国のジニ係数が既に慢性的暴動の危険がある「危険ライン」の0.5を超えていると述べた。

 ジニ係数とは1936年にイタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案されたもので、主として社会における所得分配の不平等さを測る指標である。ジニ係数は0から1の範囲で示され、数値が1に近づくほど所得格差が大きいということを意味する。係数が0なら全員が同じ所得を得ていることになるし、係数が 1なら1人が全所得を独占していることになる。

ジニ係数の目安は次の通りである:
0.1〜0.2:ほとんど格差のない社会
0.2〜0.3:格差の少なく安定した社会
0.3〜0.4:格差がある社会
0.4〜0.5:厳しい格差があり、社会を不安定にする要素がある
0.5〜0.6:格差が限度を超え、社会的な不満が激増
0.6〜0.7:社会的動乱がいつ発生してもおかしくない
0.7〜 :革命が起こる、あるいは動乱状態に突入する

 そこで、0.4〜0.5を「警戒ライン」、0.5以上を「危険ライン」と言うが、特に0.5以上は慢性的暴動が起こりやすいと考えられている。

 さて、当該論文は収入分配が不均衡な要因として次の4項目を挙げ、これらが中国の貧富格差を絶えず拡大させ、社会矛盾を際立ったものとさせているのだと述べている:
【1】 政府が蓄積する富の比重は増大を続け、個人の収入が占める比率は縮小している。
【2】 富がますます少数の人に集まり、一般大衆の収入は不公平に低い。
【3】 都市と農村の収入格差が絶え間なく拡大し、農民の消費は深刻に不足している。
【4】 権力資本(=権力と結びついた大手国有企業)の暴利が拡大しており、中小企業や一般大衆の利益空間は圧縮されている。

 その結果として、中国のジニ係数は現在既に0.5の危険ラインを超えているというのである。ちなみに、米国中央情報局(CIA)の “The World Factbook”によれば、中国のジニ係数は0.415(2007年データ準拠)で世界134カ国中の悪い方から51位、日本は0.381(2002年データ準拠)で74位となっている。一方、世界銀行の推計では、欧州や日本などの先進国のジニ係数が0.24〜0.36の間にあるのに対して、中国の 2009年のジニ係数は0.469で135カ国中36位となっている。

 中国の貧困人口は飛躍的に減少したと言われているが、世界銀行の発表によれば、収入を1日1.25ドルとする国際的貧困基準に基づく貧困人口は4.74 億人で、依然とし貧困人口ではインドに次いで世界第2位に留まっている。総人口を13.35億人とすれば中国の貧困人口はなんと総人口の35.6%にも達しているのである。農村人口は7.13億人であるから貧困人口が全て農村にいるとすれば、その比率は66.5%になる。なお、国家統計局発表の「2009 年国民経済・社会発展統計公報」によれば、農村貧困標準ラインは年収1196元(約175ドル)で、2009年末の農村貧困人口は3597万人となっている。年収175ドルを日収に直すとわずか48セントに過ぎないのである。

 一方、これより先の5月10日付で同じ「経済参考報」が掲載した「我が国の貧富格差は警戒ラインに近づいている」という記事は中国のジニ係数について次のように述べている:

 中国のジニ係数については中国国内の各機構の認識が一致しておらず、学会では世界銀行の0.47という推定値が認められている。国家発展改革委員会のマクロ経済研究院の常修沢教授は、「我が国のジニ係数は10年前に0.4の警戒ラインを超え、その後も毎年上昇を続けており、貧富の格差は既に合理的な限界を突破している」と述べている。

 常教授は「合理的な限界」と述べるに止め、「危険ライン」と直接に言及していないが、その真意は「危険ライン突破」を意味していることは間違いない。同記事が各界の専門家から聴取した収入格差として挙げている例は次の通り:
【1】 都市住民と農村住民の収入格差は前者が後者の3.3倍で、国際的な警戒ラインである2倍を遥かに超えている。
【2】 業界間の従業員給与も格差が激しく、最高と最低には約 15倍の格差が存在する。
【3】 同じ業界内の収入格差も拡大が加速しており、株式上場の国有企業の高級管理職と生産ラインの工員の収入格差は約18倍、国有企業の高級管理職と社会平均の給与格差は128倍となっている。
【4】 収入の上位10%グループと下位10%グループの格差は、1988年は7.3倍であったが、2007年には23倍となった。

 さらに同記事は、中国国民の所得を白色、黒色、血色、金色、灰色の5色に分類している。白色は合法的な所得、黒色は権力を後ろ盾とした、あるいは犯罪を通じた非合法な所得、血色は奴隷労働などをさせて得た不当な所得、金色は株式や不動産取引により暴利を得た所得、灰色は正規の収入以外の来歴が不明で税金を納めない所得となっている。要するに、白色所得以外はすべて非合法な所得や不労所得であり、これらが貧富の格差を拡大しているのだと言う。

 2010年6月8日付の経済誌「財経国家週刊」は著名な経済学者で北京大学教授の夏業良の論文「中国における富の集中は米国を超え、1%の家庭が41%の富を掌握」を掲載した。

 論文の要旨は次の通りである:

 世界銀行の最新データによれば、米国では5%の人口が60%の富を独占しているという。しかし、中国では1%の家庭が全国の富の41.4%を独占し、富の集中度は米国を遥かに上回り、世界で貧富の2極分化が最も深刻な国家の1つとなっている。中国のジニ係数は改革開放政策が始まった1978〜79年当時は0.28であったが、2007年には0.48まで上昇し、その後も絶えず上昇を続けている。これは社会利益の共同享受システムに厳重な断裂が発生したことを示す明確なシグナルである。この10年来、中国の地域、都市・農村、業界、グループ間の収入格差は明らかに拡大し、収入分配構成はバランスを失い、社会の富は少数の利益集団に集中している。とりわけ官僚利益集団や市場を独占する利益集団への富の集中は多くの問題をもたらし、社会各界の注目を浴びている。

 市場を独占する利益集団とは、電力、電信、石油、金融、保険、水・電気・ガスの供給、タバコなどの国有業界を指すが、これらの業界の従業員数は全国の従業員総数の8%にも及ばないが、給与と給与外収入の総額は全国の従業員の給与総額の55%に相当する。彼らの平均給与はその他業界の従業員の2倍から3倍であり、もしこれに給与外収入と福利厚生を加えれば、実際の格差はもっと大きなものとなる。

 このように富が一部の集団に集中することは大多数の国民の発展と競争機会を奪うことになる。中国が今後も市場化を進めるのであれば、一切の権力を特定の境界内に限定して、一般の国民が平等な競争機会を持てるようにし、選択と発展の空間を持てるようにするべきである。そうすれば、収入分配の深刻な不公平を解決して、貧富格差に解決の糸口を見出すことが可能となる。

 上記の夏教授の論文は、6月8日に新華社のニュースサイト「新華網」に掲載されたが、同日夕方に削除されたという。削除の理由は定かではないが、別のインターネットサイトに転載された夏教授の論文は削除されないまま残っている。<注1>

<注1>6月17日付の広州紙「南方週末」によれば、夏教授の論文に「中国では1%の家庭が全国の富の41.4%を掌握」とあるのは引用の誤りで、正しく「10%の家庭が全国の富の41.4%を掌握」なのだという。

 さて、6月29日に北京で開催された「中日労働政策と法律討論会」に参加した北京師範大学「収入分配と貧困研究センター」主任の李実教授は、「中国のジニ係数は0.48であり、住民所得格差の拡大スピードは減速傾向にある」と述べて、ちまたで話題に上るジニ係数が0.5の危険ラインを超えたという話を打ち消した。李教授によれば、中国のジニ係数は1982年には0.3であったが、2002年には0.454となり、2007年には約0.47に達した。 2002年から2007年までの5年間のジニ係数の上昇は毎年0.004以下で、1982年から2002年までの20年間よりも、その上昇速度は減少している。こうした状況は農村内部でも発生しており、2002年から2007年まで農村内部のジニ係数は0.37ラインを上下し、大きな上昇はなかった。また、農業税の廃止により、2006年と2007年の農村のジニ係数は2005年よりやや低くなっていると述べた。<注2>

<注2>李教授の発言は6月30日付「中国網日本語版(チャイナネット)」から引用

 中国でジニ係数の論議が高まっている背景には、ジニ係数が0.5の危険ラインを超えたか否かに対する国民全体の関心の高さをうかがうことができる。中国では2008年7月1日に警官に対する怨念から上海市閘北公安分局に押し入って警察官6人を殺害、4人を負傷させた楊佳(当時27歳)の事件があり、社会に不満を持つ庶民は公安警察を襲撃して警官を死傷させた犯人の楊佳を英雄視する風潮が見られた。また、2010年3月以降は全国で「小学校・幼稚園無差別殺傷事件」<注3>が続発し、児童・園児の生命の安全が脅かされる状況が出現し、今なお小学校・幼稚園に対する警戒態勢は継続している。

<注3>2010年5月14日付本リポート『続発する「小学校無差別殺傷事件」』参照。

 2010年1月12日付の全国紙「法制晩報」は、デモや暴動など“群体性事件(集団抗議行動)”の発生件数が急増しているとして、中国政府が地方政府の対策管理者の養成に乗り出したと報じている。群体性事件は1993年に0.87万件、1999年に3.2万件、2003年に6万件、2004年に7.4万件、2005年に8.7万件と急激な増加を示したが、余りにも件数が増大したため2006年以降は正確な発生件数は公表されていない。中国国内の情勢から判断して2006年以降も群体性事件は爆発的な増加傾向にあることは疑いのないところである。

 こうした群体性事件の急増も、楊佳事件や「小学校・幼稚園無差別殺傷事件」も、つまるところは所得格差や貧富格差といった社会格差、役人や警官の汚職や職権濫用などに対する庶民の不満の表れと見てよいだろう。中国のジニ係数が0.5の危険ラインを超えたか否かは大きな問題ではない。上述したように、 0.5の危険ラインを超えたかのごとき現象が全国で普遍化しつつあり、中国政府は早急に富の分配の適正化を図ることが必要である。

 そうした環境下で昨今の中国では外資系企業を主体に賃上げストライキが続発している。ストライキを組織している下層の労働者たちはまさに富の分配の適正化を要求しているのであり、この賃上げ要求は内資企業にも大きな影響を与えるものと思われる。ジニ係数の数値にこだわるよりも重要な事は上述した多数の矛盾点を早急に解決することだが、中国政府はこの問題にどのように対処していくのだろうか。中国に“長治久安(長期にわたって社会が安定すること)”という成語があるが、中国が“長治久安”を実現して真の世界の大国となるためには、富の分配の適正化は避けて通れない道なのである。

(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)

(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、住友商事株式会社 及び 株式会社 住友商事総合研究所の見解を示すものではありません。
このコラムについて
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

このコラムはニューヨーク、ロンドン、サンノゼ、香港、北京にある日経BP社の支局と協力しながら、米国や欧州はもちろんのこと、世界経済の成長点とも言えるブラジルやロシア、インド、中国のいわゆるBRICs、エネルギーや国際政治の鍵を握る中近東の情報を追っていきます。記者だけではなく、海外の主要都市で活躍しているエコノミスト、アナリストの方々にも「見て、聞いて、考えた」原稿を提供してもらいます。

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著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)
北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員
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03. 2010年7月10日 18:26:34: FqDvXxU8vI
大前研一の書く事なんて信じちゃいけないよ。
不動産バブルはむしろ、故意に政府が冷やしてる最中。
万博なんだから、其の辺りの事情は察しろよ!てか、日本人の癖に大阪万博の事を忘れ去ったのなら大前研一も認知の問題が生じ始めてる。
FOXCONNの自殺問題も、此れを機に西部大開発の大号令を実施しろ!と内陸部移転を促してるよ。
台湾企業のFOXCONNは、デルやアップルの受注側が価格圧縮させてた。
トヨタも内陸部に行けと言われてる筈だ。
ま、大前研一はそうなったらなったでまた別の本を書くだけだから、踊らされる奴が馬鹿を見るだけだ。

04. 2010年7月11日 01:15:45: 6i9UrJsHdU
金融や土地バブルが崩壊しても、中国の内需が伸びているので致命傷には
ならないでしょう。
日本も、高度経済成長期にも何度か景気の波はあったけど、サラリーマンや
農村の収入は安定して伸びていたので、旺盛な需要が経済を支えた。

結局は、経済は金融ではなくて実体市場の需要が決める。
21世紀の経済理論は金融をあまりに重視し過ぎて実体需要を疎かにしていた。
カネの流れよりも、モノの流れを中心に考える思考方式に戻すべきで。


05. 2010年7月11日 11:57:30: uN6j7NdzCA
数字をどこから引っ張り出してきたのかよく分からないが、説明そのものはまあ説得力があるように見えるよね。見えるけど大前氏の話はあまりにころころ変わるので、どうだかねw まあ中国にはそういう話もあるんだよ、という話として受け取るしかないのかな?

中国は王朝が24回交代したような独特の国だから、その文化を勘定に入れる必要があると思う。徳川幕府は250年ほど続いて滅亡、自民党は50年ほど続いて滅亡、と考えて時間の速さは5倍になったと単純に仮定する。清朝はほぼ300年続いたので、5で割って中共の寿命は60年、じゃあと10年ほどか。たった10年かw


06. 2010年7月11日 15:17:23: TcJwcmz5Jk
大陸は歴史と民族が断絶してきたのですよ。シナ人はバラバラの他民族帝国でしょう。人類の悪幣の人間のカス。   実際にシナ人と付き合ったことがあるのでしょうか、この人は。騙されて脅されてやられるだけの可能性が高いでしょうね、一般人はね。とにかくシナ人とは付き合わないことです。発狂さされますよ。

07. 2010年7月11日 16:42:26: rq20wy0pGs
>>03が正解。大前氏は、信用できないね。

20年前以上から、よく著作を読んだが、大したことない。

日本の常識は、世界の非常識の、竹村氏の、

この言葉のほうが、値千金です。役に立つ。


08. 2010年7月11日 17:25:53: 6i9UrJsHdU
中国市場そのものは今後も伸びしろは大きいだろうし、国際競争力を持つ
先進国のひとつである日本は、とうぜん中国市場でも市場競争に参入するのが
当たり前。とっくの昔に他国との競争は始まり、現在は熾烈なシェア争いが
中国大陸で繰り広げられている。

日本という国にとって、中国は膨大なビジネスチャンスを生み出すわけだから、
中国嫌いなどと訳のわからん事を言っている場合ではないです。
もちろん、そんなアホなのはネット世論のごく一部だけで、企業も自治体も
中国とのビジネスに積極的に動いている訳ですが。


09. 2010年7月11日 22:52:25: 33z5Hqpb7s
これは中国だけでなくて東南アジアも同じだと感じるんですが、人間に奴隷根性がしみこんでいる。日本がしつこく批判されるのも、欧米を批判できないから自尊心を維持するために日本を生贄にしてる。本当に心底そう思います。

だから中国人も東南アジア人にも、下手に出たら駄目なんだよね。こっちがモノを教えてやる、指導してやるから、お前ら言うとおりにしろと、そういう上から目線で言わないと話が成立しない。それが彼らの幸せにもつながる。

綺麗ごと抜きに、本当にそう思うわ。


10. 2010年7月12日 19:39:59: jlhWZs0m2Q
経営コンサルタントとして大前研一さんは日本で最も優秀な人だよ
(過去の実績で証明されている)
100%の人間は居ないので間違うことも有るだろうけど

大前研一さん、邱永漢さん、副島隆彦さんの経済予測は
大外れって余りないように思う

(経済予測が大外れする人は経営コンサルタントにも成れないし
客が居なくなる。)

上記の3人は現地調査を良くやり、情報を多く集め
情報分析が上手くて、予測が当たる事が多いと感じる。

例を上げると
大前研一さん
1990年代から始まった不良債権処理は日本政府のやり方では
上手く行かないと予測していた。
その予測通りに、日本は失われた20年間に突入した。
副島隆彦さん
2008年頃からアメリカ経済が落ちていくと予測(2006年頃に読んでいた)
当たりました
邱永漢さん
中国経済ブームが来る前に中国経済が上がると読んでいた。

経済関係で追加すると
田中宇さん、ベンジャミン・フルフォードさんのリポートは
かなり参考になる。
(ただしベンジャミン・フルフォードさんのリポートで政治的な部分は
外れが多い:白龍会の色が出すぎている。
田中宇さんの現状分析は参考に成る事が多いけど
自説の隠れ多極主義者説に拘りすぎている点)


11. 2010年7月13日 01:55:20: uYR1K68pcM
 中国では消費税17.5%が貧富の差の拡大に大きく働いてる。
相続税がない。
所得税の累進率が弱い。
今はとにかく豊かになれ、早くなれ、って感じ。
今後税を通じた所得の再配分に向いていくだろう。
でも7,8年後だろうなって思う。

12. 2010年7月13日 22:24:07: EezBBpvnEI
03 さんに賛成。

10 さんへ。 田中宇は面白い。 彼が言う”隠れ多極主義者”は
  要は、中国の台頭を積極的の推し進める人たちのことですが、
  中国を太らせてからいただくロスチャイルドのことを暗に言ってる
  ように思うのですが。 如何?
  
  それと、副島は中国の台頭を確信しているようですが、大前と比べて
  どうでしょう?  副島の方が正しいような。


13. 2010年7月14日 07:35:13: bL13nvwyEE
>>12
短期的(1年,2年?)にはバブル崩壊は有ると大前研一さんは読んでいるのじゃ?
中期的(10年後くらい?)に中国がアメリカ経済を追い抜くと言う副島さんの
読みかな

長期的(20年後?)には中国は資源問題と高齢化問題で停滞期に入るのでは(これ私の意見)

隠れ多極主義者はどちらかと言えばロックフェラー系と私はみているのですが
BRICsからNEXTで儲けるとか
イスラエルを見捨てて、アメリカ一極体制を止めてアメリカの負担を減らす。


14. 2010年7月14日 07:38:05: bL13nvwyEE
ブッシュ派は単独主義(新たな冷戦構築の戦争屋)
元来はアメリカ一極主義
(財政難で中国と取引して2Gを狙ったが失敗)


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