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デフレの脅威から目を逸らしてはいけない 早計かつ過度な緊縮財政のリスク JBpress(日本ビジネスプレス)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3700
Financial Times
デフレの脅威から目を逸らしてはいけない
早計かつ過度な緊縮財政のリスク
2010.06.10(Thu) Financial Times(2010年6月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)多額の財政赤字を出している国では、当局は財政政策を大幅に引き締めるべきだというコンセンサスが形成されつつある。だが、政策立案者たちはなぜ、緊縮財政を受けて企業と消費者が支出に動くと確信できるのだろうか? もし緊縮財政が経済を景気後退に陥らせ、デフレまで招いたらどうなるのか?
先週末の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明は、「深刻な財政問題を抱える国は再建のペースを加速する必要がある」と明記した。だが、世界経済は1つではなく、2つのリスクに直面している。1つ目は、確かに、先進国の多くがギリシャになるリスクだ。2つ目は、先進国の多くが日本になるリスクだ。
ギリシャになるリスクと日本になるリスクイングランド銀行の金融政策委員会の外部委員を務めるアダム・ポーゼン氏が最近のスピーチで指摘したように、日本では、なかなか解決されない銀行問題と不十分な金融緩和政策に財政収縮が重なったことが1997年の負のショックをもたらし、それがデフレを揺るぎないものにした*1。
多くの経済史学者は米国が1937年に似たような過ちを犯したと論じている。
では、世界は将来、現在計画されていることを振り返って、どう考えるだろうか? 驚くまでもないが、ドイツはユーロ圏全域での財政緊縮の徹底に大きく傾倒している。6月7日の英国首相の演説から判断すると、英国も同じ道を進んでいる。幸い、米国は(今のところ)まだ、こうしたコンセンサスに加わっていない。
日本はデフレにどっぷりはまり込んでいる。ドイツの直近の年間コアインフレ率は0.3%に過ぎず、米国のコアインフレ率は0.9%だ。もう1度経済のショックが起きたら、これらの経済国はデフレに陥りかねない。それに付随して、バブル後のデレバレッジング(負債圧縮)が進む中で金融政策の効果を出さねばならないという難題に見舞われる。
さらに、中央銀行の多大な努力にもかかわらず、主に金融政策の波及メカニズムが損なわれているために、広義の通貨総量の伸びは鈍い。直近12カ月間で、米国とユーロ圏のマネーストック「M2」は1.6%しか伸びていない。
マネタリストはインフレのリスクについて、あまり心配しなくていいはずだ。その代わり、中央銀行が民間部門に必要な流動性を与えていないことを懸念すべきである。
*1=The Realities and Relevance of Japan’s Great Recession, www.bankofengland.co.uk
こうした背景の下で、大幅な財政引き締めは何をもたらすだろうか? 金融政策による相殺効果が見込めないため、総需要は減退する、それも恐らく大幅に減退すると考えられる。一部のエコノミストは「リカードの等価定理」(民間支出が自動的に財政引き締めの影響を相殺するという概念)を信じている。だが、ポーゼン氏が日本について論じたように、「財政政策の影響に対するリカードの相殺効果を示す確かな証拠はない」。今の先進諸国では、財政赤字は明らかに危機後の民間部門の支出削減の結果であって、その反対ではない。
多くの人は、それはそれで結構だが、ギリシャ流のメルトダウン(炉心溶融)のリスクはどうなのか、と問うだろう。
筆者は1年前、ハーバード大学の歴史学者ニーアル・ファーガソン氏とノーベル賞を受賞した経済学者ポール・クルーグマン氏が公然と繰り広げた激しい論争に応え、「国債利回りの上昇は政策が機能している証拠」と題した記事(2009年6月3日付フィナンシャル・タイムズ紙)で、米国の長期金利の急上昇はパニック後の平時への回帰に過ぎないと主張した。
その後の事態の展開は、この説が正しかったことをはっきり裏づけている。
まだ低い国債利回り、デフォルトリスクはほぼゼロ米国の10年物国債の利回りはたった3.2%で、2009年6月10日時点の3.9%から低下している。ドイツの国債利回りは2.6%、フランスのそれは3%で、英国でさえたかだか3.4%だ。ドイツの今の国債利回りは、1997年初頭の日本の利回りと同じ水準だ。日本の国債利回りは1990年の7.9%から現在の1%強まで、長年下がり続けてきた。
では、デフォルト(債務不履行)リスクはどうか? 市場はそのリスクがゼロに近いと見なしているようだ。フランス、ドイツ、英国、米国では、物価連動債の金利は1%程度だ。
それを言えば、通常国債と物価連動債のスプレッド(利回り格差)はインフレ期待について何を物語っているのか? スプレッドが示すインフレ期待値は米国、ドイツ、フランスで約2%と、幸いなことに十分低く抑えられていると言える。英国では、それよりいくらか高い水準だ。
問題は、こうした信頼感が続くかどうかだ。筆者の推測(確信ではない)では、米国はギリシャのように市場から締め出されるよりは、日本のように長期にわたって借り入れができる可能性の方が高い。英国はその中間に位置すると考えられる。
借り手として、米国と英国には強みがある。第1に、米国と英国の民間部門の資金余剰は両国の財政赤字の大部分(米国がおよそ4分の3、英国が約90%)をカバーする。第2に、多くの民間投資家は、自国通貨建ての債務に見合う資産を必要としている。第3に、米英両国には積極的な中央銀行があるため、国債保有者は大きな流動性リスクに見舞われずに済む。第4に、両国は変動相場制を採用しており、おかげで信頼感の変化による緊張をいくらか和らげられる。
第5に、両国には政策の自主性があるため、短期的な経済成長を期待できる。そして最後に、米国は世界で最も信頼性の高い準備資産を提供している。米国政府は世界に対し、日本政府が日本人貯蓄家に対して保っているのと同じ立場に立てるわけだ。
批評家は、こうした議論は金融市場が「急停止」するリスクを軽視していると主張できるだろう。だが、リスクは両面で生じる。日本(あるいはカナダ、スウェーデン)が1990年代に財政を引き締めた時は、活気のある世界経済が国内供給の余剰を吸収できた。欧州と米国の経済が再び縮小したら、それを相殺できるほど大きな世界経済は存在しない。
協調的な財政引き締めが失敗する恐れ現状では、協調的な財政引き締めは失敗する恐れがある。各国経済が弱くなるにつれ循環的財政赤字が拡大し、構造的な財政引き締めの努力を帳消しにしかねないからだ。南欧諸国にとって、これは既に脅威となっている。世界の大部分の国が、次第に財政が逼迫していく米国に対して「近隣窮乏化」的な立場を取る結果になるかもしれない。
先のG20は、「財政の持続可能性を実現するために、各国は個々の国の状況に応じ、信頼に足る、成長に配慮した措置を導入する必要がある」と強調した。賢明な判断と言っていいだろう。政策立案者たちはこれを実践するうえで、デフレもまたリスクであり、財政政策の引き締めには、今の世界、特にユーロ圏では実現が難しい金融政策による有効な相殺効果が必要であることを認識しなければならない。
過去の経験は、早計な財政引き締めは、遅れた引き締めと同じくらい大きな脅威だと警告している。ここに確実なことは何もないが、世界経済(少なくとも先進諸国)は今なお、憂慮するほど脆弱だ。早計な引き締めがもたらす痛ましい結果を喜ぶのは、経済は道徳劇であり、自分たちが邪悪と見なす人々が罰を受けるべきだと考える人だけだろう。
By Martin Wolf(c) The Financial Times Limited 2010. All Rights Reserved. Please do not cut andpaste FT articles and redistribute by email or post to the web.
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