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日本の経常収支が赤字になるタイミング(KlugView)
2010/05/21 (金) 17:06
経済系の新聞・雑誌などで、簡単な特集として日本の経常収支が取り上げられることが増えてきたようです。内容は、どれもほぼ同じで、日本の経常収支が2010年代半ばに赤字になる、というものです。
日本の経常収支は、比較可能な1985年以降、一貫して黒字を続けています。このため、日本に住む多くの方は、日本=経常黒字国、というイメージをお持ちになっていると思います。その日本が、いずれ(2010年代半ばに)経常赤字国になる、という内容は、ある意味、衝撃的な印象を与えているのかもしれません。
日本の経常収支が赤字になる、というロジックの根底には、高齢化の進展を背景に日本の貯蓄率がマイナスになる可能性がある、という点にあります。
一般に、高齢者が増えると、過去の貯蓄を消費に回す動きが強まると言われていますので、貯蓄率は低下すると考えられます。過去のデータを見ると、1980年代には20%台だった日本の貯蓄率は、2008年には3.3%まで低下しています。今後も高齢化が進展するのであれば、日本の貯蓄率がさらに低下し、いずれマイナスになっても不思議ではありません。
貯蓄率がマイナスになると、なぜ経常赤字になるのか?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。これは、マクロ経済学の教科書に記載されている「貯蓄投資(IS)バランス」を使ったアイデアです。
貯蓄投資バランスは、国民総生産(Y)の定義から導き出されます。GDPは、消費(C)、投資(I)、経常収支(X)の3つから構成されます。つまり、
Y=C+I+X
となります。この式を以下のように変形します。
X=Y-C-I
ここで、Y-C(国民総生産から消費を差し引いた額)は、貯蓄(S)を意味します。つまり上の式は、
X=S-I
となります。この式を見れば分かるように、貯蓄(S)がマイナスになれば、経常収支(X)もマイナスになることが分かります。
高齢化が進展するから貯蓄率はマイナスになる、という説明は直感的で分かりやすいのですが、現実には、日本の貯蓄率が2010年代半ばまでにマイナスになるのか言い切れない部分があるように思えます。それは、日本の高齢者が、貯蓄を取り崩してまで消費をしない、ということではなく、たとえ日本の高齢者が、貯蓄を取り崩す形で消費を増やしたとしても、それをカバーするだけの所得が、海外で生ずる可能性があるからです。
経常収支は、主に、モノの輸出額から輸入額を差し引いた「貿易収支」、旅行や運輸と言ったサービスの輸出額から輸入額を差し引いた「サービス収支」、海外からの配当金・利子の受け払いの差額である「所得収支」で構成されます。日本の消費が増えれば、モノやサービスの輸入が増えますので、貿易収支やサービス収支が赤字になる可能性はあります。
一方、所得収支は、日本の消費動向ではなく、これまで蓄積してきた対外資産と、対外資産の運用利回りによって左右されます。日本の対外資産は、519兆円(2008年末)もあり、これから高齢化の進展によって貯蓄が取り崩されたとしても、今後10年程度は、日本の対外資産は高水準を維持すると思われます。また運用利回りも先進国を中心に金利が低水準にあるため、今後さらに金利が低下するよりも、(多少なりとも)金利が上昇すると考えた方が自然です。
こうした条件を考えると、日本の所得収支は、今後も大きく減ることはなく、経常収支を下支えすると思われます。あくまで目安でしかありませんが、円高と低金利が進んだ2009年ですら、日本の所得収支の黒字額は12.3兆円もありました。つまり、経常収支が赤字になるためには、貿易・サービス収支で10兆円以上の赤字を計上する必要があります。
世界的に不況色が強まった2009年の貿易・サービス収支は、2.1兆円の黒字でした。今後、世界経済が回復を続ければ、輸出の拡大を通じて貿易・サービス収支の黒字額も拡大する可能性が高まります。
つまり、高齢化の進展によって貯蓄率が低下し、経常収支が赤字化することは、いずれは生ずるとしても、2010年代半ばという短い期間では、ちょっと難しいように思われます。日本の経常収支が赤字化するのは、2020年に近いタイミングと考えた方が無難かもしれません。
村田雅志(むらた・まさし)
●●●●●●●●●●今日のクイズ●●●●●●●●●●
2009年の日本の所得収支はどれくらい?
●●●●●●●●●●クイズの答え●●●●●●●●●●
12.3兆円
http://www.gci-klug.jp/klugview/2010/05/21/009486.php
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