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菅直人氏の「増税と公共事業」はマニフェストの正反対(山崎元のマルチスコープ) http://www.asyura2.com/10/hasan67/msg/891.html
菅直人氏の「増税と公共事業」はマニフェストの正反対(山崎元のマルチスコープ)
菅氏は、財務大臣就任時には、当面1年程度は増税の議論ではなく、歳出の削減に取り組む姿勢を示していたが、3月に消費税率の引き上げについて「議論するのはよい」と態度を軟化させ、最近は、増税しても、財政支出の使い途が正しければ、景気にプラスになると言い出した。 財務省は、単純化して言えば、たくさん税金を取って、たくさんの財政支出に関わることが出来れば、権限を大きく持つことが出来る官庁だ。但し、財政支出は今年1年だけ出来ればいいというのではない点が民間人の感覚からすると、少し分かりにくい。 特に天下りのコンテクストにおいては、「将来の支出に関わることが出来る」という継続性が権限の源泉だから、将来の支出のための財源を確保することが大切なのだ。従って、「選挙に落ちたらタダの人」である政治家よりも、財政の継続性には重きを置く。この点は、悪いことばかりではなく、いわば「当面の票をカネで買いたい」利害を持つ政治家に対して一定の歯止めを掛ける効果もある。 しかし、多少、回復傾向にあるとはいえ、金融危機を契機に大きく需要が落ち込み、しかも、デフレの状態にある日本の経済状況で、増税を行うことがいいのかと考えると、危うさを感じずにはいられない。 財務省の官僚が、積極的に不景気を望むということはないのだろう。しかし、彼らは雇用が法的に保証されているし、民間人が大いに稼ぐ好況時よりも不況時の方が相対的には待遇面で勝るようになるので、精神的には、民間ほど不況を嫌わない素地がある。 それでは、菅大臣のインセンティブは何なのか。普通に考えると、民主党としては増税を掲げて参院選を戦うと不利なのだから、増税を牽制するポーズを取る方が良さそうにも思えるが、どのみち首相を決めるのは衆院であると割り切り、鳩山由起夫首相は長持ちしまいと見切るならば、最強の官庁である財務省のバックアップを得る方が得だと考えても不思議はない。それが政治家というものだと決めつける気はないが、菅氏とて、一度は総理大臣になりたいと思っていても不思議はない。 それにしても、「正しい歳出増」というものがあるとして、これを実行した場合に、その財源分を丸々増税するのと、支出の増分の全部ないし一部を増税しないのとを較べると、後者の方が短期的な景気にはより大きくプラスに働きそうなものだ。
他の条件を一定とすれば、普通は、増税しない方が需要は拡大するのだが、どのような理屈で見出しのような主張になるのか、言葉を追ってみる。 小野氏は、「需要の拡大こそが本当の企業支援になる」と述べ、人が働く場を増やすことが重要だと仰っている。そして、その手段について「一つは政府が事業を興して仕事を増やす。もう一つは規制改革。環境規制などでお金をかけずに新たな市場を作ることができる」とも答えておられる。 規制改革は、よく言われるような規制を緩和するという意味の規制改革ではなく、環境などに関する規制を作りこれに対応することを「需要」とする意味なのかも知れない。これはこれで独自のアイデアだが、「お金をかけずに」と仰っているので、増税の必要性とは関係ない。しばし脇に置こう。 問題は、公共事業だ。 「必要な」「新しい」公共事業を考えるべきだと、小野氏は仰るのだが、これが難しかったから、更には、政府がそのような公共事業を企画し且つ効率的に実行できると信用できなかったから、前回総選挙で民主党が「税金のムダづかいと天下りを根絶します」とマニフェストのトップに掲げた公約が支持されたのではなかったか。 ところで、税金を取って、その分支出すると何が起こるのだろうか。 たとえば、税金の無い状態で、所得が消費と貯蓄に分かれたとき、貯蓄の分を税金で召し上げて、支出すると考えてみよう。消費性向が不変である限り短期的には総需要は少し増えるだろう。ただ、これは、経済の中で、民間が意思決定する支出が減って(可処分所得が減ると、消費も減るはずだ)、官僚が意思決定する支出が増えるという支出の比率の変化を意味する。 何れにせよ、「民の経済」が縮小して、「官の経済」が拡大する。これをどう見るかだが、小野氏は、失業している人が働くようになるならいいはずだ、と判断されているのだろう。「官の経済」を単純化して社会主義とまでは呼ぶのは不正確かも知れないが、政府は効率的にお金を使うことが出来るのか、という点には大きな疑問が残る。 インタビューの別の箇所で、小野氏は「国民が消費を増やして雇用が上向いたら、民間の邪魔をしないように減税して政府事業を減らすと確約すればよい」と述べておられるが、官僚がこんな確約をするとも思えないし(政治家はたぶん正確な文言すら作れないだろうし)、そうした確約が有効に守られるとも思えない。 仮に失業対策として増税と公共事業の拡大が有効であるとしても、それと引き替えに、大きな政府(=大きな「官の経済」)が残りそうだ、という問題は残る。
正確には御本人に聞いてみないと分からないが、失業を減らすという目的から考えると、小野氏がこれに近い方法を主張しないのは少し不思議だ。 朝日のインタビューは、質問者側が「−−それでも、財源は足りそうにありません」と財源が足りないという前提で質問しているから、小野氏が「それなら増税すべきだ」と答えるのは、上記の事情から(tax and spendでも少しは需要が増えるから)怪しむにはあたらないが、問題は、財源が本当に足りないのかと、現在増税することが適当なのかだ。 確かに、フローで税収は落ち込み、ストックを見ても国債残高は多いが、前者には例外的な経済の落ち込み、後者には、それでも国民の金融資産が大きく、政府に大きな資産があり、何より国債の94%程度が国内で保有されているという、ギリシアとは異なる点として強調されるような諸状況もある。長期金利の水準も低い。また、デフレとは、国家の債務(通貨も、国債も)の実質価値が高まっているということでもある。 当面の状況を見ると、日本政府には、まだ債務を作る余裕があるのではないか。あるいは、そうでないかも知れない。だが、失業対策が大事だというなら、増税しない選択肢をなぜ採用しないのか、説明が欲しいところだ。 小野氏でなくてもいいのだが、日本の最適な債務残高、許容できる債務残高がどのように決まるのか、そして、今すぐに増税することが適切なのかどうかについて、聞いてみないと、前提として増税ありき、という議論には賛成しかねる(朝日新聞の記者にも訊きたいところだ)。
「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズに表れているように、総選挙前の民主党の経済政策は、明らかにこの方向性だった。 「民間の邪魔をしないように」、あらかじめ「減らすと確約」するような政府事業なら、はじめからやらない方がいいのではないか。 また、小野氏は「子ども手当には所得制限をかけるべきだ」、「高校の授業料無償化も所得制限がいる」と仰っている。だが、これらの給付の条件に所得制限を付けると、制限の内容によっては、所得を調節して手当てを貰おうとするようなインセンティブの歪みを起こしかねないし、資産はあるが所得が少ない人と資産はないが所得の多い人の不公平が生じるし、所得の把握(少なくとも毎年必要だ)、申請手続き、手当の計算など、事務手続きが増える。手続きの煩雑化は、官僚にとっては、それこそ有効需要の創出かもしれないし、複雑化が進むと、税理士も仕事が増えそうだが、これを喜ぶわけには行くまい。 確かに、小野氏の言うように(子ども手当を)「中間層以上が貰えば、その分自分への税負担となるだけ」ということなのだが、給付金と課税が合計で合理的に設計されていて、効率的にお金が動けば、何も問題はない。そもそも、それが給付金のようにはっきり見えないだけで、現在も中間層は政府から受けるメリット分の税負担をしているはずだ。 給付金と税金の差し引きで見て、なるべくシンプル且つ合理的に設計すればいいものを、「子ども手当」といった一つの制度だけに焦点を当てて、そこだけでバランスを取る必要はない。小野氏ほどの人が(学位は経済学博士だ)このような理屈が分からないはずはない(と思う)。余程のご事情があるのだろう。 実は、官僚、特に財務官僚のインセンティブを考えると、子ども手当のような支出の条件が単純で裁量の余地のない給付金は、せっかく集めたお金を権限の強化に使うことなく支出してしまうことになる「もったいない支出」だと、推察される。だから、「単なる『ばらまき』」とのレッテルを貼ろうと必死になるのだろう。 たとえば「子ども手当」は、使途が自由な給付金で、継続的に受け取ることが出来る。どのくらい消費されて、どのくらい貯蓄に回るか、という点はしばらく時間を掛けないと分からないが、増税せずに支給すれば(一時的かも知れないが)当面の需要追加になるし、将来、民主党の公約のように財政支出のムダを削って給付するなら「官の経済」を「民の経済」にシフトさせると共に、子供を持とうというインセンティブに働きかけるかも知れない政策だ。 資源配分(の効率性)に視点を置いて「大きな政府」を定義するなら、財政赤字の大きさや給付的支出も含む財政支出全体の大きさではなく、「官の経済」を大きくすることだと定義すべきだろう。 この点では、民主党のもともとのマニフェスト公約通りに子ども手当や高校無償化を実施するのか、これらを縮小して(しかも、増税した上で)政府の事業を増やすのかは、小さな政府を選択するか、大きな政府を選択するかの、大きな路線選択の問題だ。
菅財務大臣の考えが、小野氏のインタビュー記事と同じとは限らないが、仮にそうなのだとすると、菅氏は、たとえば民主党を離党して民主党と対立する経済政策を公約として掲げる政党を立ち上げるべきだろう。 少なくとも、経済政策に関してこの路線を掲げたまま首相の地位が転がり込んでくるのを待っているのだとすると、有権者に対してあまりに不誠実だ。
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