【コラム】風前のともしびと化す、フランス革命の火http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Heard-on-the-Street/node_42151 フランスでは今、革命がほとんど始まらないうちに終わろうとしている。 「もっと稼ぐためにもっと働こう」というスローガンを掲げて大統領に選出されたニコラス・サルコジ氏。だが、その3年後、サルコジ大統領は自らが推進してきた改革を2011年に休止すると宣言した。その原因はもちろん、14日に行われたフランスの広域自治体「地域圏」議会選挙(2回投票制)の第1回投票で与党の国民運動連合(UMP)が大敗したことにある。改革の休止は、フランスとユーロ圏双方にとって痛手となる出来事だ。 サルコジ氏が政権を引き継いだ当時、フランスは、低成長や失業率の高止まり、産業競争力の低下、低い生産性による景気低迷が続いていた。その対策としてサルコジ大統領が打ち出したのが、労働市場・年金・教育の改革と憲法改正だった。いずれも物議をかもす厄介な改革ではあるが、サルコジ大統領は減税によって何とか時間を稼ぎ、実施に持ち込もうともくろんでいた。 だが金融危機が訪れる前から既に改革は崩壊の危機に瀕していた。フランス政府は、無理な税制改正や大学への大幅な自治権の委譲を実施したが、いずれも公的債務の増加を食い止めることはできなかった。さらに07年に金融危機が訪れ、景気回復に水を差すのを恐れて公共投資の削減に踏み切れなかったことで、改革はますます減速していった。 現在進行中の主な改革は、現行60歳の最低退職年齢の引き上げだ。このほか、社会保障の財源を企業から個人と輸入品に移行することを目的とした、社会付加価値税の導入案も打ち出されている。だが今や、これらの改革でさえ、サルコジ大統領による改革休止の一環として、中止の危機にひんしている。 サルコジ大統領は今、極めて難しい問題に直面している。金融危機によって、当初予定していた改革政策は、これまで以上に必要なことが明らかになった。 格付け会社フィッチ・レーティングスによると、フランス政府の債務総額は11年までに国内総生産(GDP)の90%と、米国や英国並みの高水準に達する見込みだ。さらに失業率は09年末時点で10%まで上昇している。また、ドイツ銀行によると、フランスの今年の予想経済成長率は、ドイツが2%であるのに対して、わずか1.1%にとどまっている。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均をはるかに上回る、高額な法人税や所得税も、雇用創出や新規事業の開拓、新規投資の妨げとなっている。 だがフランス政府は過去にも、選挙情勢の悪化による改革延期を何度も行ってきた。「経済ナショナリズム」という誤った政策に逃げ込んだ、サルコジ大統領の前任者、ジャック・シラク氏もしかりだ。サルコジ大統領が前任者の轍(てつ)を踏めば、フランスにとっても、欧州にとっても不本意な結果を招くことになりかねない。 [ハード・オン・ザ・ストリート(Heard on the Street)は1960年代から続く全米のビジネス・リーダー必読のWSJ定番コラム。2008年のリニューアルでアメリカ、ヨーロッパ、アジア各国に駐在する10人以上の記者が加わり、グローバルな取材力をさらに強化。刻々と変わる世界市場の動きをWSJ日本版でもスピーディーに紹介していく] |