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米国の運命を握らされる中国(田中宇の国際ニュース解説) http://www.asyura2.com/10/hasan67/msg/270.html
アメリカは何故、最大の米国債保有国である中国を怒らせるのか? それは、アメリカを支配する金融資本家が、アメリカの「覇権を崩壊させ、中国に覇権の一部(アジアでの覇権)を押しつける隠れ多極主義」により、「大陸ごとに地域覇権勢力が並び立つ多極体制」を目指しているからに他ならない。 金融資本家たちは、凋落する米国から、中国を含む新興国へ、「軸足」を移そうとしているという話。
米国と中国の関係が、多方面で対立的になってきた。マスコミでは「世界一の経済発展を続ける中国が自信をつけ、米国を容赦しなくなった」とか「米政府の人々は、中国に抜かれることを恐れ、苛立っている」などと言われているが、私からみると、米国が意図的に中国を怒らせている。(Why Antagonize China?)(Why China is stoking war of words with US) 皮切りは今年1月後半、インターネット検索サイトのグーグルが、中国政府による(とグーグルが主張する)攻撃や規制に反対して自己規制を解除し、ネットをめぐる規制や検閲をめぐる米中摩擦に発展したことだ。しかし、グーグルに対する攻撃は内部犯行だった可能性がある。(グーグルと中国)(China says not involved in cyberattacks on Google) 続いて1月30日、米政府は、長らく延期していた台湾への64億ドル分の武器輸出について決定した。中国はこれを非難し、米中の軍事交流を凍結した。(Chinese News Service: Arms Sale Causes Severe Damage to Overall US Cooperation) オバマ政権が台湾に武器を売る決定をしたのは、中国と台湾が1月26日から中台の自由貿易圏(ECFA)について本格的な交渉を開始した直後だった。中台がECFAが締結されると、すでに台湾にとって最大の貿易相手になっている中国が、台湾にとって経済的にさらに重要な地域となり、台湾が中国から「独立」することは不可能になる。(China and Taiwan to start talks on trade deal) 中台がECFAを締結し、台湾が経済的に中国に取り込まれると、台湾は米国から武器を買いたがらなくなる。オバマ政権が台湾に武器を売る決定を下したのは、米国が台湾を中国から引き離す最後の機会に行われた。米中は高官協議を繰り返しており、米国は、中国が台湾とECFAを結ぶことを了承している。オバマは、昨年の訪中時に「もう中国を敵視しない」と宣言した。それなのに米国は今回、中国敵視を意味する台湾への武器売却を、中国が経済的に台湾を取り込もうと動き出したタイミングで決定した。(Taiwan's loss of independence a threat to US: expert) 中国は米国を非難し、台湾への武器輸出に関連した米企業を制裁するかもしれないと発表した。最も被害を受けそうなのは、中国を飛ぶ飛行機の半分を売ってきたボーイング社である。先進国の飛行機需要が伸び悩む中、中国は今後の最重要市場だ。ボーイングは中国に気を使い、同社が飛行機を組み立てる際に使う部品の3分の1を、中国の軍需産業に発注・製造させている。中国とボーイングは相互に依存しているので、中国はボーイングを制裁しにくいという見方がある。(Strained U.S.-Beijing Ties Could Cripple Boeing's China Strategy) しかし今後、中国の航空会社が新しい飛行機を買う際に、ボーイングより欧州のエアバスを好むようになるという、長期的かつ隠然とした制裁はあり得る。米国側が怒ってWTOなどに提訴しても、EUが中国を弁護してくれる。経済的合理性からなのか、政治的制裁なのかよくわからないうちに、中国側に買ってもらえなくなる外国企業は多い。(Airbus May Beat Boeing in China's Aviation Market) ▼チベット、イラン、貿易摩擦・・・ 中国は、オバマがチベットのダライラマと会談することにも怒っている。中国外務省は2月3日と4日、連続して会談するなと米国を非難した。オバマは2月17日ごろに会談を予定している。米側は、オバマがダライラマと会談することは前から中国に伝えてあり、歴代大統領もすべてダライラマに会っているので問題ないはずと言っている。しかしこれも、タイミングを見ると、なかなか絶妙である。(China Opposed to Obama-Dalai Lama Meeting) 中国政府は、台湾(Taiwan)、チベット(Tibet)、新彊ウイグル(East Turkistan)という「3つのT」の問題に対して「政治的な自由を与えない代わりに、経済的な繁栄を与えることで納得してもらう」という統一戦略で臨み、成功しつつある。台湾については前述のように中台ECFAの締結によって台湾の企業や農民を中国市場で儲けさせ、分離独立の動きを消沈させようしている。 チベットについては1月末、中国政府とダライラマ名代との間で1年半ぶりに交渉が持たれた。そこで中国側は「2020年までに、チベットを中国の他の地域と同じ生活水準まで向上させる」と約束し、チベット人の生活を向上させてやるから自治の要求を取り下げろと提案した。中国政府はすでに提案を実行しつつあり、鉄道が通り、道路も改善され、中国沿岸部の経済発展がチベットに浸透している。(Silence on Tibetan talks is golden) ダライラマ側は中国との交渉後、異例にも、中国の提案への反応を何も発表しなかったが、国際社会では中国が優勢に、ダライラマを応援してきた米欧が劣勢になっている。ダライラマはチベット人の生活向上を重視してきただけに、提案を受け入れる可能性が高い。このようにダライラマが中国に対して譲歩しそうなタイミングを見計らったように、オバマがダライラマに会う件が発表された。米政府は、意図的に中国を怒らせたいかのようだ。(New China-Tibet Talks Show Slight Policy Shift)(US-China faceoff over Taiwan arms deal) 米中では貿易摩擦もひどくなっている。中国は、米国からの鶏足(もみじ)など鶏肉製品の輸入に対し、超過関税を課すことにした。鶏足は、米国では食べないが、中国では飲茶の人気メニューだ。米企業は米国での20倍の価格で中国に鶏足を輸出しており、中国政府はこれを不公正だと主張した。今回の課税は、米国が昨秋、中国製の鋼管などに超過関税をかけたことに対する中国からの反攻である。この数カ月、様子見をしていた中国が、台湾問題などに関する米国のやり方に腹を立て、貿易面で反攻する気になったことがうかがえる。(China to impose duties on US chicken)(Chicken Feet: A Symbol of U.S.-China Tension) 米中は、イランの「核開発疑惑」をめぐっても対立を激化させている。クリントン国務長官は1月末の演説で「中国が国連でイラン制裁に協力しないと、イスラエルがイランの核施設を空爆して戦争になり、ホルムズ海峡が封鎖され、中国は原油を輸入できなくなる。それでもいいのか」と脅した。これに対し、中国の楊潔チ外相はミュンヘン安保会議の演説で、国際社会がイラン制裁した場合の方がむしろ制裁失敗から戦争につながると反論し、制裁せずに外交で解決していくしかないと主張した。(Iran caught up in China-US spat) 従来、イランの最大の貿易相手はドイツを中心とするEUだったが、最近、初めて中国がEUを抜いてイランの最大の貿易相手国となった。安保理常任理事国の中国が反対して国連のイラン制裁ができなければ、欧米は独自のイラン制裁強化を発動するだろうが、そうなると、制裁に参加しない中国がイランの石油ガス利権を欧米から奪う構図が進む。イランは核兵器を開発しておらず、核疑惑は米イスラエル主導の濡れ衣であり、中国やロシアはそのことを知っている。(China overtakes EU as Iran's top trade partner) ▼中国を引っ張りあげてから怒らす 中国政府は、時間をかけて台頭したいと考えている。中国は経済が急成長しているが、国家体制はまだ発展途上だ。国内地域間格差や、辺境の自治問題(3つのT)があり、諸制度の近代化も完成していない。共産党の独裁自体が、改善余地の大きい発展途上の政治形態である。米国と張り合うのは10−20年早いと中国の高官自身が感じている。中国の方から米国との対立を激化するつもりはない。対立を扇動するのは米国の方だ。もともと米国は、中国の台頭を脅威と感じていたわけではない。「米中(G2)で世界を管理する」「中国を責任ある大国にする」などと言って、中国の地位を引っ張り上げてきたのは米国自身だ。 米国が中国との対立を扇動することは自滅的である。中国が米国債などのドル資産を買わなければ、米国は政府も民間も経済的にたちゆかない。米政府は以前から、中国に人民元の対ドルペッグ(為替固定)をやめさせ、為替を切り上げようとしてきたが、ドルの国際信用が失われている中で人民元が切り上がったら、中国がドルを見捨てたと世界の投資家が考え、米国債やドル建て資産からの大規模な資金逃避がおこりかねない。(China Rejects U.S. Complaints on Its Currency) 人民元のドルペッグを維持するため巨額のドル資産を持っている中国は、ドルの崩壊を望まないので、人民元を切り上げたくない。人民元を切り上げろと圧力をかける米政府に対し、中国政府は「圧力は間違いだ。切り上げはしない」と拒否している。米国の崩壊につながる人民元の切り上げを、米国が中国に要求し、中国が拒否するという、倒錯した構図になっている。米国は自滅したいが、中国はそれを避けたいという、奇妙な現状がある。(Currency Tensions spill over between Washington and Beijing) 中国が今後もずっと人民元を切り上げずにがんばれるとは思えない。米国は不況が続き、ドルは強い緩和策の中にある。対照的に、中国は不況を脱して高成長に入り、経済が過熱し、インフレがひどくなっている。中国政府は利上げや金融引き締めを進めねばならないが、通貨をドルに固定しているので、緩和策の米国と反対方向になる引き締め策を拡大すると、ペッグが維持できなくなる。利上げできない中国政府は、代わりに銀行が積むべき準備金の比率を上げて金融引き締めをやるが、これには限度があり、インフレを止められない。米連銀の理事は最近「中国がインフレを止めたければ、人民元を切り上げるしかない」と指摘している。(Yellen Says Flexible Yuan May Ease China Price Worry) 国際金融界では今、ドルよりユーロが危険視されている。財政難を嫌気した投資家の資金逃避がギリシャからポルトガルに広がり、スペインやアイルランドも危ないと報じられている。しかし実は、これらユーロ圏諸国の財政は大して危機でない。「ユーロ圏が危ない」という報道は、危機を米英(ドルとポンド)から遠ざけておくための、米英マスコミによる誇張の疑いがある。グローバリゼーションの研究者(運動家)ジェフリー・サックスは「欧州の国債危機は、政治力を持つ金融界による誇張だ。ギリシャやポルトガルは国債償還力がある。ユーロは堅実だ。パニックは数週間以内に終わる」と述べている。(Debt crisis in Europe exaggerated, says Sachs) サックスの予測通り、数週間でユーロ圏のパニックが終わると、その後は反動で「本当に財政が危ないのは米英の方だ」ということになり、ドルとポンドが売られかねない。中国の高成長が確定する中で、ドルの信用不安が加速すると、中国はインフレがひどくなり、人民元の切り上げが不可避になる。米財務長官のガイトナーは最近「近いうちに中国は人民元を切り上げるだろう」と、予測とも願望ともとれる彼らしいあやふやな発言をして、中国側の反発を受けたが、ガイトナーは意外と正しいかもしれない。(U.S. officials hopeful China will make concessions on currency) 中国は明示的に為替がドルにペッグしているが、韓国からシンガポールまでの他のアジア諸国の通貨も、隠然とドルにペッグしている。アジア諸国は不況後の回復過程にあるため、中国同様、アジア全域でインフレが起きている。人民元の切り上げは、アジア全体の通貨切り上げにつながり、ドルの信用下落に拍車をかけるおそれがある。(China's Loan Growth, Inflation Probably Accelerated) ▼米国の生殺与奪を決める手綱を中国に握らす 中国は、米国を潰したいと思っていない。米経済が立ち直り、中国製品を旺盛に買う昔の状態に戻ってほしいと思っている。中国は、米国債やドル資産を買い支え、米国を延命させている。しかし米国自身は、自滅的な政策を重ねて経済危機の傷を深めたあげく、台湾やチベットなどの政治問題で、中国の米国敵視をあおる言動を繰り返し、中国が人民元の切り上げや米国債の放出など、米国を潰す一手をやるように仕向けている。米国は中国に、米国の生殺与奪を決める手綱を無理矢理に握らせている。 そんな状態なのに、米国のマスコミは「米中は相互依存が深いので、中国が米国を切ることはない」と楽観的な分析を載せ、米政界や米国民が米中関係を改善させたいと思わぬよう先手を打っている。自国の覇権を崩壊させ、中国に覇権の一部(アジアでの覇権)を押しつける隠れ多極主義的な意志が見え隠れしている。(U.S.-China Friction: Why Neither Side Can Afford a Split) 米国は、以前から中国に覇権の一部を譲渡しようとしてきた。米国は世界的な覇権国だが、冷戦やユーラシア包囲網といった、米国自身ではなく英国(一つ前の覇権国)が好む世界戦略をとらされ、英国のために覇権国をやっているようなものだ(ユーラシアと別の大陸にある米国には、大陸ごとに地域覇権勢力が並び立つ多極体制の方が良い)。 米国は1970年代以降、中国や欧州(EU)に覇権を分散しようと、米中国交正常化や冷戦終結・EU統合の促進などの画策を続けてきた。だが、中国もEUも、負担増をおそれ、米国からの委譲で地域覇権勢力となることを先延ばししたいと考え、覇権を押しつけようとする米国と、拒絶する中国やEUとの間で「覇権のババ抜き」が続いてきた。今回、中国が経済台頭してきたところで、米国が中国を怒らせ、覇権を押しつけようとしているのも、ババ抜きの一環である。(行き詰まる覇権のババ抜き)(アジアでも米中の覇権のババ抜き) 多極化をくい止めたい英国からは「米国は、中国を自国との2国間関係(G2)だけで動かそうとしたので失敗した。今後は、EU(英国主導)も入れたG3(もしくはG8+中国)に拡大し、多国間協調で中国に圧力をかける体制に転換すべきだ」という主張が出ている。英国が入れば、米国の隠れ多極主義的な面を抑止し、米国の自滅的な策を転換させられるが、米国は戦略転換などしないだろう。そもそも、ロバート・ゼーリックらブッシュ政権の高官が、EUを入れない米中G2の創設や、G7をやめてG20にすることにこだわったのは、英国を排除し、思う存分に事態を隠れ多極主義の方向に進めるためだった。(The US can no longer go it alone with China) オバマ政権の就任から1年がすぎ、オバマが米国を世界の健全な指導者に戻してくれると期待していた国際社会は、米国が大して変わらないのを見て失望している(日本はマスコミの影響でオバマを偏愛する人がまだ多いが)。反米感情がおさまらない世界の中で、最近の中国は非米的な勢力の代表として発展途上国から見られ、昨年末の地球温暖化対策のコペンハーゲンサミットなどで指導力を発揮した。 このような中、たとえば中東では、イスラエルとレバノン(ヒズボラ)が3年ぶりの戦争を再発しそうな一触即発の事態にある。イスラエルでもレバノンでもシリアでも「戦争は不可避だ」との指摘があふれている。米国は、イスラエルがイランやレバノンと戦争するように対立を扇動してきた。(U.S. official: Hezbollah arms flow may signal plans for war with Israel)(Another war with Lebanon is inevitable') レバノンが戦争になると、イランやシリアも巻き込まれ「米イスラエル対イスラム世界」の世界対立になり、イランやパキスタンとの結びつきを深める中国は、イスラム世界と結束する方向に押しやられる。中国は、軍事力では米国にかなわないが、経済戦略では、その気になれば米国を金融崩壊させられる状態になっている。世界は、大転換が起きうる状況になっている。 (転載終了)
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