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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100709-00000301-cyzoz-soci
──近年、内部からの情報提供により、イタリア・マフィアの大物が立て続けに逮捕されているという。かつては鉄壁の絆を誇った世界最強の地下組織に、今、何が起こっているのだろうか? マフィアと政治・経済のつながりを歴史的にひも解き、その理由を探ってみたい。
イタリア・マフィアといえば、まず我々の頭に思い浮かぶのが『ゴッドファーザー』などの映画で描かれる凶暴性や"ファミリー"の絆だろう。非情な暴力と潤沢な資金で権勢を振るう一方、家族を大切にし、貸し借りを重んじ、仲間を守るために沈黙を押し通す──。
そんなイタリア・マフィアの状況が、ここ数年で変化しているという。それを端的に表しているのが、相次ぐ大物たちの逮捕だ。2006年4月には公的事業へ食い込み、43年間の逃亡生活を送った大ボス・ベルナルド・プロヴェンツァーノ、07年にはその後を継いだサルヴァトーレ・ロ・ピッコロ、09年には麻薬取引の帝王と呼ばれたサルヴァトーレ・ミチェリの身柄が拘束された。
ここまで立て続けにマフィアの大物が逮捕されるのは、1世紀半というマフィアの歴史上、初めてだという。イタリア・マフィアの近現代史に詳しい、イタリア研究家はこう語る。
「要因のひとつと考えられるのは、組織の弱体化です。特にイタリア南部シチリア島に出自を持つマフィアは、何より『オメルタ』という“沈黙を重んじる掟”が強く機能していた。ここまで逮捕者が続出する背景は、内部告発の可能性が高い。つまり、これまでにあったマフィアの強い組織力が弱まり、オメルタが破られているのでしょう」
鉄壁の組織力を誇り、麻薬取引、暗殺、密輸、密造、恐喝など、世界各国の政財界と癒着しながら裏で暗躍してきたマフィアだが、それについてもこう指摘する。
「その鍵を握るのは、オメルタという掟に支えられてきた、世界各国を結んでいる人的ネットワーク、信用を基盤としたいわゆる『無形の資本』です。近年、特に公共事業以外に大きな産業がない南イタリアでは、マフィアが労働力差配など人的ネットワークの面で強みを生かし、利権に食い込んでいた」
これこそが、マフィアが世界中の裏社会で暗躍できた最大の理由だが、この「無形の資本」は、社会学や経済学で「ソーシャル・キャピタル」の一種とされ、欧米ではさかんに研究がなされている。事実、前出のイタリア研究家は「彼らのソーシャル・キャピタルは、非常に優秀な構造を築き上げてきた」と評価している。では、そういったソーシャル・キャピタルを築き上げるにあたって、マフィアはどういった過程を踏んできたのか、その歴史をひも解いていきたい。
■公共事業への食い込みとアメリカへのネットワーク
そもそも、世間一般にイメージされている犯罪組織としてのマフィアは、19世紀半ば、イタリア南部シチリア島で誕生したとされている。当時、上流階級の土地を守る警備員的な存在だった彼らはやがて、土地所有者に代わって実質的な支配者となり、中・上流階層へと成り上がっていった。併せて家畜泥棒や所場代の搾取なども行っていたが、もともとは、マフィアとは上流階層の財産を「守る」という立場だったのだ。だが、イタリアでマフィアが必要とされたのは、そうした理由だけではなかった。
「19世紀後半のシチリアでは国家・警察権力が機能せず、一種の騒乱状態にありました。そこで政府は、シチリア統治の役割を実質的に支配していたマフィアに委ね、犯罪者の取り締まりに利用していたそうです」(同)
その後、シチリア島の町長や村長、また地方議会のポストを、多くのマフィアや彼らの息がかかった者で組織していくようになった。1869年にはアルバネーゼという警察署長が、山賊暗殺にマフィアの力を借りたとして起訴されたところ、なぜか司法省の介入により裁判は行われず、逆にアルバネーゼを起訴した検察官が辞任に追い込まれるという事件があったという。
この頃から、すでにマフィアは地方政治において無視できない統治機能を持つ存在となっていたが、第二次世界大戦を境に、敵国だった連合国への協力が布石となり、戦後確立した新中央政府との間にも癒着が見受けられるようになった。
第二次世界大戦でアメリカを中心とした連合国と敵対したイタリアは、1943年に降伏。その過程において、アメリカの秘密工作員と地元マフィアとの接触があったと、当時の文書等に記録されている。このようにマフィアは連合軍、特にアメリカとのつながりを持ち、大戦後、占領下のシチリアにおいて公的権力に食い込むようになったのだが、その後の国政選挙においても、マフィアは勢力を伸ばし、各地域で集票を操作したともいわれている。
さて、連合軍と共に政府とつながりを持った彼らは、工業・サービス業を中心とする戦後の経済・社会構造の変化に伴って、活動の場を本格的に農村から都市へと移動させた。
「まず、大きなキッカケとなったのは、50年代にイタリアで起こった建設ブームだとされています。彼らは公的権力とのつながりを利用し、入札や労働者の差配などの面で公共事業に食い込んでいった。人的ネットワークという点では、彼らはほかの商業団体に劣らない有利性があった。逆に政府の立場からすれば、円滑な経済発展において、マフィアたちの力は少なからず必要だったとも言えます」(同)
だが、戦後マフィアの"シノギ"は、何も公共事業だけではなかった。都市部進出とともに、マフィアの収入源の大半を占めるようになったのが麻薬だ。海外への密輸は"シノギ"の大部分を占めるまでに至ったが、ポイントになったのは、その流通ルートにほかならない。
「19世紀後半、イタリアからアメリカへの爆発的な移民が、ルート確保に一役買ったようです。経済不況のためアメリカへ大量の移民があふれ出て、その中には柑橘類などの密輸目的のマフィアも多く紛れ込んでいました。また『ゴッドファーザー PART2』で描かれたように、シチリア系移民の中にはアメリカで同郷人と結束し、マフィアに加担した者も少なくはなかった。ともあれ、すでにその時期からシチリア系マフィアはアメリカ本土とのネットワークを形成したとされ、戦後、彼らの子孫にあたるアメリカのシチリア系マフィアと、連合国とつながりを持った本土のシチリア・マフィアが強いコネクションで結ばれ、交流がさかんになり、ネットワークは拡大したそうです」(同)
■イタリアの政財界とマフィアの密接な関係
戦前からアメリカとのネットワークがつくられ、また戦後はアメリカとのつながりを軸にしながら、世界中に彼らのファミリーが分散し、勢力を広げていった。この“ネットワーク”こそが、彼らの最大の武器である「無形の資本」、いわゆるソーシャル・キャピタルそのものだったのである。
また彼らの「無形の資本」の成立に欠かせないものとして、マフィアに詳しいジャーナリストの吾妻博勝氏はこう語る。
「まずシチリアをはじめとするイタリア・マフィアの“口の堅さ”です。いわゆるオメルタの精神ですね。単純に、部下が口を割らなければ、逮捕されても大ボスは生き残り、各地に散らばったネットワークにも害が及ばない。ファミリーの絆を守りながら、単発的にではなく、何年も取引を続けていく上では、こうした精神が非常に重要な機能を果たすようになったわけです。まさにファミリーのつながりを重んじる『ゴッドファーザー』の世界ですよ」
だが、単純に“絆”といっても、盃などで結ばれる日本のヤクザとは大きく異なっている。
そもそもシチリアは紀元前から19世紀半ばに至るまで、スペインやフランスなど、さまざまな国から侵略を受けてきた歴史がある。シチリアでは仲間の秘密を守るためや反抗を示すために、沈黙を重んじ、崇高なものと見なす精神が、マフィアに限らず民衆レベルにまで深く浸透していた。
「国家あるいは法の権威に対するシチリア人の不信あるいは反抗の表明として、オメルタを理解しなければならない(中略)絶えずよそ者に支配されたシチリア人の固有の武器、掟、法がオメルタであった」(東京経済大学教授・藤澤房俊著『シチリア・マフィアの世界』講談社学術文庫)というように、オメルタは、イタリア・マフィアの関連書には必ず語られる重要な要素なのである。
逆に沈黙を破ると、ファミリーでなくとも、思わぬ結末を迎えることがある。
「イタリア・マフィアのほとんどはカトリックであったことから、バチカン市国とつながりを深め、同国の国立銀行を利用し、多額の資金を浄化(マネーロンダリング)してきたといわれています。1978年に即位したヨハネ・パウロ1世はマフィアとの決別を表明しましたが、裏を返せば、マフィアと関与していたことを認めたことになってしまった」(前出・吾妻氏)
ヨハネ・パウロ1世は、マフィアとの決別表明から約1カ月後に自室で遺体となって発見された。死亡時の状況が不可解だったことから、マフィアによる暗殺説が今なお根強く残っているが……。
ともあれ、そうして農村の共同体から生まれたマフィアは、政治や司法そして宗教界や財界とも結びつき、財産を増やしていった。イタリアの中小企業組合「コンフェセルチェンティ」が今年発表した報告書によると、イタリアの地下経済の規模は約1350億ユーロ(約16・9兆円)とされている。
「失業率8%強で失業者が200万人を超えるなど、不安定なイタリアにおいて、地下経済の発展は国内経済を蝕んでいるという見方もありますが、麻薬取引による外貨獲得という意味では、やはりある程度の貢献はある。ただ、マフィアについて最も重要な意味を持つのは、公共事業の労務管理において、彼らの人的ネットワークが非常に高いレベルを保ち、政府にとっても彼らの力が必要だったという点でしょう」(同)
だが、こうしてネットワークが広がりすぎたことがあだとなり、冒頭で述べたように、組織力の低下につながっていった。
「組織の広範化は、裏を返せば他民族が入り込むこともあるということ。そうなれば、シチリア島では通用したオメルタの道義が、ヨーロッパ各地やアメリカなどで効力が薄れることも。つまり、彼らの武器である『無形の資本』にヒビが入るわけです。そう考えると、近年相次いだ大物ボスの逮捕も、やはりネットワークの希薄化と無関係ではない。オメルタの掟が無視されたことは、彼らの生存にかかわる大きな痛手となるはずです」(前出・イタリア研究家)
現在は弱体化の傾向にあるが、戦後、さまざまな企業に先立ちグローバル化を推し進めてきたイタリア・マフィア。前述の通り、彼らが体現した結束力にもとづいた社会・経済活動は欧米で研究対象として評価されているが、その成果として、今後マフィアの組織力をお手本にした企業が出てくる可能性もなくはない──。
(取材・文/田中雅大)
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