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http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090802/trd0908020802002-n1.htm
【仕事人】陸自特殊作戦群の初代群長・荒谷卓さん(49) 信念を貫き新たな戦場へ (1/3ページ)
2009.8.2 08:00
このニュースのトピックス:仕事人
自衛隊退職後、剣術を教える荒谷卓さん。道場では目つきが鋭くなる=東京都渋谷区の明治神宮武道場(三尾郁恵撮影)自衛隊退職後、剣術を教える荒谷卓さん。道場では目つきが鋭くなる=東京都渋谷区の明治神宮武道場(三尾郁恵撮影)
《習志野駐屯地(千葉県)に所在する陸上自衛隊唯一の特殊部隊で、ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処に任ずる部隊》
公開情報はこれだけで、「秘」のベールに包まれた特殊作戦群(特戦群)。隊員の家族にも所属を口外しないよう教育するほど情報管理は徹底している。その部隊を率いる初代群長を務めた。
国内外での偵察や破壊活動も想定するだけに隊員のレベルは高い。空挺・レンジャー資格者のうち知力、体力、精神力をチェックする過酷な選考を通過した隊員を、さらに1年間の訓練でふるいにかける。約15万人の陸自隊員のうち300人の狭き門だ。
平成16年3月の発足から5年余。実任務にも投入されている。16年から2年半に及んだイラク派遣で警備の要となる要人警護などにあたった。
「派遣前の訓練で度肝を抜かれた」。陸自幹部がそう振り返るのは、特戦群隊員が普通科(歩兵)部隊と合流したときのこと。生身の隊員を的の両わきに立たせ、特戦群隊員は10メートル以上離れた場所を移動しながら拳銃の弾を的に命中させた。一般部隊ではありえない訓練だ。指示を待たず、自ら考え、行動する判断力にも舌を巻いたという。
「的確に状況を判断してミスを犯さないプロフェッショナル集団であれば、政治的に低いハードルで運用でき、得られる効果も高い」。特戦群には自身の運用構想が投影されている。隊員の死傷者はゼロで、復興支援はイラク国民と多国籍軍から高く評価された。運用構想は正しかったと確信した。
防衛大学校ではなく東京理科大卒。自衛隊に関する予備知識もなかった。大手ゼネコンに就職が内定した大学4年夏。明治神宮武道場「至誠館」で出会い、武士道の教えを受けた師の一言が進路を変えた。「お前は軍人の顔をしている。自衛隊に入れ」
陸自に入隊すると、違和感があった。実任務に出ようという気構えが隊員になかったためだ。戦闘も格闘も訓練のための訓練で、殺気がまるで感じられない。「組織を変えてやる」。
2佐に昇任するころ、実任務を引き寄せる術(すべ)が見つかった。「国同士の大規模な軍事行動より、国際平和協力活動のような小規模な部隊運用が主流になる。現地で民心をつかみ、軍事作戦に民生安定化を絡めた活動は特殊部隊が主導すべき領域だ」
そこからは一気呵成(かせい)だった。平成7年にドイツ留学。独陸軍特殊部隊「KSK」の創設期で、部隊の立ち上げを学んだ。翌年帰国すると、特殊部隊の編成案が持ち上がっていた。陸上幕僚監部(陸幕)で部隊編成まで奔走し、陸自きっての特殊作戦の専門家との評も定着。米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」への留学生として白羽の矢が立ち、ノースカロライナ州の基地で1年間、作戦立案から戦技まで余すところなく吸収した。
帰国後の15年10月、特戦群の編成準備隊長に就く。編成まで残り半年ながら教育内容は手付かずで、陸幕に頼らず部隊で練った。自衛隊の教育は基準どおりを求め、基準以上のことをしても駄目というのが常識だった。「目標設定型ではなく、とことん伸びていく仕組みが必要。目をつぶって射撃できるなら、その方がいい。それが特殊部隊というものです」。幹部を説得して回った。
隊員をイラクに派遣したのも信念に基づいている。「さまざまな実任務をこなして初めて、あらゆる任務に対応できる精強な部隊になる」
群長を3年務め、手応えを感じた。隊員の研究意欲は予想以上の成果だった。休暇に自費で100万円を払い、米英の民間軍事会社(PMC)で研修を受ける隊員がざらにいる。イラクで軍の業務を肩代わりしているPMCに行けば、生の情報と最新技術に触れられるからだ。「任務こそ成長の源」との信念が息づいている証しだ。
逆に、乗り越えがたい壁も立ちふさがった。「特戦群は虎の子。最後の最後に投入すべきだ」。これが陸自幹部の大勢で、イラク派遣を経ても変わらない。実戦に即した訓練をすれば、保身をはかる幹部が飛んでくる。
「政治的にいつでも運用できる能力を備えても、それに見合った任務に使う気構えがない」。入隊時の違和感が頭をもたげた。「日本のために戦える場所ではない…」。群長離任から1年半後、制服を脱いだ。
退職後は、師と出合った至誠館の専任師範として、小学生から社会人までを対象に剣術を教える。
「軍事的戦闘に限定されない特殊作戦は、広い分野でニーズが出てくる」。心理戦で揺さぶって意志をくじくことを目的に、相手の奥深くに入り込んで情報を集め、作戦を立て実行する。そのノウハウは、たとえば国益をかけた外交で交渉力を高める武器になろう。「武道家」という自由な立場を得て、新たな戦場を視野に入れている。(半沢尚久)