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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2036?page=1
前回に引き続き、2001年に英国防省が作成したとされる「防諜マニュアル」の内容をご紹介したい。同文書は中国とロシアの諜報活動の実態をリアルに描写するだけでなく、両国の諜報に対する考え方、さらには両国の国民性の違いまでも浮き彫りにしている。
【短期的成果より長期的利益を重視する中国】
新たなスパイ活動の形? 元KGB(国家保安委員会)の大物スパイが今年、英国の新聞社を買収した〔AFPBB News〕
中露スパイ活動に対する注意事項からの引用を続ける。まずは、両国諜報機関が篭絡(ろうらく)を試みる「ターゲット」に対するアプローチの違いから見てみよう。
(ロシア用注意事項から引用)
入国直後から、訪問者は政府職員、取引先、観光ガイド、ホテル従業員など多くの人々によりモニターされている。訪問者自身の意思で訪れた場所で、偶然英語を喋るロシアの一般人に運良く出会えたと思っても、それは決して偶然ではないかもしれない。
ロシア公安当局(FSB)は高性能の監視機器を駆使する。主要ホテルの一部の部屋では電話盗聴や赤外線カメラを含む写真撮影が可能だが、FSBは訪問者をその部屋に宿泊させることができる。また、必要に応じレストラン内や自動車内で盗聴を行うこともある。
(中国用注意事項から引用)
「中国の友人」というエージェントを獲得する手法は実に巧妙かつ長期的である。中国人は訪問者の中国の歴史と文化に対する興味と理解を利用することに熟達したお世辞のエキスパートであり、食事と酒の有効性を知り尽くしている。
訪問者には、会議や講演の名目で、経済的に有利な条件やビジネス機会などの便宜が与えられる。その見返りとして、訪問者は情報の提供やアクセスの便宜、それが無理でも少なくとも中国を擁護する発言を行うことなどが期待される。
中国の諜報機関によるホテルの電話やレストランでの会話の盗聴はよく知られている。また、特定の訪問者に対してはホテルの部屋の捜索などを行うこともある。
以上のように、諜報の定番であるホテルやレストランでの盗聴活動ついては中露とも大差なさそうだ。興味深いのは、英国の諜報機関が中国における「宴会」を諜報活動の一環と認識し、これを冷静に分析している点であろう。
【ターゲットの篭絡方法】
2008年、米海軍で働いてた中国系米国人のスパイ活動に対し禁固24年の判決が言い渡された〔AFPBB News〕
最後に中露諜報機関によるターゲットの篭絡方法について比較してみる。引用を続けよう。
(ロシア用注意事項から引用)
FSBが多用する手法は訪問者をトラブルに巻き込むことだ。現地通貨の闇レートでの両替や所持品の売却、現地人から外国の親族に手紙を託されること、美術品の持ち出し、飲酒運転、機微な場所での写真撮影、現地女性との性的関係などは法律違反となり得る。
法令を犯せば逮捕され、投獄や事実公表の可能性を仄めかされFSBのために働くよう脅迫されることがある。告白調書や協力同意文書に署名するよう強要されることもある。また、FSBはこうした証拠を将来別の機会に使用すべく保存しておく場合もある。
(中国用注意事項から引用)
中国で活動する外国企業の大半は中国の人材派遣公社が供給する現地スタッフを雇用する義務がある。これらの中国人は中国諜報機関から「入手可能な書類をすべて複写すべし」と指示されている可能性がある。この点は、多くの中国人一般学生やビジネスマンも同様である。
中国の諜報機関が訪問者を脅迫しエージェントとなるよう説得することはよく知られている。現地での性的接触はもちろんのこと、それ以外にも、闇市場での両替、古美術の購入、撮影禁止区域でのカメラ使用など違法と判断される行動はすべて避けるべきである。
以上から明らかなように、ターゲットに対する脅迫の手法そのものは中露で驚くほどよく似ている。ここで大きく異なる点は両国の諜報活動の「手法」ではなく、むしろその「原則」「哲学」であろう。
ロシアの諜報機関は古典的な「007」の世界だ。そこでは職業的な諜報専門集団が育成され、特定の情報とターゲットに的を絞ったうえで、比較的短期間で成果を挙げることが重視されているように見える。
これに対し、中国の諜報活動は、短期的な成果もさることながら、当面は可能な限り多くの中国シンパを増やして、長期的利益を最大化しようとする傾向がある。また、中国はプロの諜報部員だけでなく、素人の一般人にも危険な情報収集活動をさせるようだ。
【中国諜報機関が素人を多用する理由】
それでは中国の諜報機関が欧米向け秘密工作に「ジェームズ・ボンド」よりも「普通のおじさん、おばさん」を多用する傾向があるのはなぜだろうか。この種の情報が表に出る可能性はゼロに近いので勝手に推測するしかないが、4つほど理由が考えられる。
1.欧米向け工作員の不足
最大の理由は、中国には欧米社会で秘密工作員として通用する「欧米系言語を操る金髪系白人」が絶対的に不足していたことであろう。言語、容姿の点で現地の社会に溶け込んだ形での諜報活動が難しい以上、情報収集は広く、浅く、間接的とならざるを得ない。
このことは中国諜報機関のレベルが低いことを意味するものではない。同じ秘密工作でも、例えば、中国の台湾に対する諜報工作は極めてレベルが高く、また成果も大きいと言われるが、このことはあまり知られていないようだ。
2.経済的効率
一人前の工作員を養成するには長い時間と多くの資金が必要だ。しかし、欧米社会での秘密活動に大きな困難が伴うことは既に述べたとおりである。投入する人的、物的資源と具体的成果の費用対効果を考えれば、間接的諜報活動でも十分目的を達成できると考えたのではなかろうか。
3.リクルートが容易な一般中国人
国家組織が一般市民に対し圧倒的に強い立場にある中国のような一党独裁国家では、諜報機関が様々な利益、不利益をちらつかせながら一般中国人に情報収集を強要することは決して困難ではない。
また、文化大革命以降、少なからぬ中国人が歪んだ倫理観と拝金主義の中で生活してきたことを考えれば、彼らは自己の利益を守るため外国に対するスパイ活動に従事することに大きな抵抗感、罪悪感を感じていないのだろう。
4.長期的利益の重視
中国人特有の長期的利益を重視する視点は、中国諜報機関の行動原理にも大きな影響を与えているようだ。ロシア式諜報工作にも利点は多々あろうが、中国諜報がロシアと大きく異なるのは、その歴史観、人間観である。
限られた諜報を短期間にターゲットから直接獲得すべく努力する「狩猟型諜報」よりは、浅く、広く、間接的ながらも、数多くの中国シンパから末永く様々な情報を収集する「農耕型諜報」の方が最終的利益は大きいのかもしれない。
【気になる日本に対するスパイ活動】
それにしても、気になるのは中国の対日諜報活動である。今回ご紹介した文書の内容が正しいとすれば、「中国の友人」を自認する日本人の一部は、確たる意識もないままに、既に中国諜報機関の「潜在的」エージェントになっている、または、されてしまっているということだ。
日本政府でもこのような「マニュアル」を作成しているかどうかは知らないが、少なくともこの種の情報は日本の与野党政治家、中央・地方政府の公務員から、ビジネスマン、学者・学生に至るまで、広く共有されてしかるべきである。
この点を再認識するだけでも、今回の英国防省の「秘密文書」を読んだ甲斐はあったと思うのだが、読者の皆さんはどうお思いだろうか。