★阿修羅♪ > 戦争b1 > 342.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
http://tanakanews.com/091021israel.htm
オバマのノーベル受賞とイスラエル
2009年10月21日
10月9日、米国のオバマ大統領にノーベル平和賞が与えられることが発表されたが、これについてイスラエルのハアレツ紙は10月14日に「ノーベル賞委員会は、オバマに授賞することで事実上、イランを空爆する戦略を米国にとらせないようにしたことになる。授賞はオバマの手を縛った」という分析記事を載せた。イランが米国を攻撃すると考えられない以上、米国がイランを空爆することは国際法で認められた自衛の範囲を超えており、ノーベル平和賞の受賞者がやって良いことではない。受賞者となったオバマはイランを攻撃できなくなったと同記事は分析している。 (COMMENT / Nobel for Obama rules out U.S. strike on Iran)
オバマ受賞に関するハアレツの分析はここまでだが、私はさらに考えた。もしオバマがイランを空爆する選択肢を残しておきたかったのなら、選考段階でオバマに打診があったときに断ったはずだ。オバマが受賞を受諾したこと自体、オバマにはイランを空爆する気がなかったことを示している。オバマ政権は、ブッシュ政権が掲げた単独覇権主義をまだ完全には破棄していないが、ノーベル受賞は、イランだけでなくあらゆる国に対する先制攻撃はやらないとオバマがすでに決めていることを示唆している。オバマ授賞は事実上、ノルウェーのノーベル賞選考委員会ではなく、ホワイトハウスが決めた話だと私は思う。
10月15日、スウェーデンの新聞は、5人のノーベル賞選考委員のうち3人はオバマへの授賞は時期尚早だとして反対したが、委員長のトルビョルン・ヤーグラン(元首相、EU評議会議長)が強くオバマを推したのでオバマに決まったと報じた。オバマ授賞はノルウェー政界各派の要人で構成されるノーベル賞委員会の内部からわいてきた話ではなく、外部からの強い国際政治力が働いて決定されたことが、この裏話からも感じられる。 (Majority of Nobel jury 'objected to Obama prize')
核開発への制裁を口実に、米国もしくはイスラエルがイランを空爆する構想をめぐっては、イスラエル右派と米国の軍産複合体が米イスラエル合同の空爆をやりたいと考えてきた半面、欧州勢(英独仏)はイラク戦争の二の舞になるので空爆を嫌っている。また米国の隠れ多極主義者は、イスラエル単独で空爆をやらせて自滅させたいと考えている。
こうした欧米イスラエル内の暗闘の図式に当てはめると、オバマがノーベル受賞によってイラン空爆できなくなったことは、欧州勢と米国の隠れ多極主義者(ホワイトハウス)が組んで選考委員長に圧力をかけ、授賞に持っていったと推測できる。今後、イラン空爆は全くやらないか、もしくはイスラエル単独でやることになる。イスラエルはまた一歩、不利な立場に追い込まれた。
▼オバマの世界核廃絶とイスラエル
オバマにノーベル賞が与えられた大きな理由の一つは、オバマが国連安保理の5大国を含む全世界の核兵器廃絶を提唱したためだ。多くの人は「これまで無数の指導者が核廃絶を提唱したが、一つも成功しなかった。オバマも成功しないだろう」と思っている。だが私は、オバマの核廃絶は従来の提唱より成功の可能性が高いと考える。 (オバマの核軍縮)
世界の5大国だけが核兵器保有を認められてきた従来の状態は、この5大国が国連安保理事会の常任理事国であることと密接につながっている。1940−50年代に米国は5大国制度を作るため、中ソに核兵器技術をこっそり渡して(もしくはソ連による核技術盗み出しを黙認して)核武装させた疑いがある(英国は、英米同盟による核独占を望んだが米国に拒否されたので、それを逆手にとって冷戦体制を構築し、米国の5大国多極戦略を潰した)。
だが今後は、G20がG8に取って代わったように、国連も多極型の新体制に移行していき、5大国制度は再編され、5大国だけが核保有を容認されていた体制も終わるだろう。隠れ多極主義の米中枢は、核廃絶を推進したいオバマの理想論を使って、今後の転換期に核兵器全廃を実現したいのだろう。核兵器は単独覇権型の世界支配の道具には使えるが、多極型の安定重視の世界には不必要だ。
従来の核兵器を担保とした国際政治体制を作ったのは米英であり、中露は話に乗っただけだ。米英中心体制が崩れた後の多極型世界では、BRICや発展途上諸国の発言力が強くなるが、その多くは核兵器ではなく国連など国家間民主主義の場での「数の力」を武器としている。核兵器は国家間の対等関係を破壊するので、今後の多極型世界では禁止すべきものになる。従来の「建前は禁止だが本質は少し違う」というのではなく、本気で禁止されるものになるだろう。理想論からではなく、国際体制の転換の結果として、核廃絶が必要になっている。単独覇権主義のやりすぎによって多極化の流れを作ったのはオバマではなく米国の前政権だから、本当はノーベル平和賞もブッシュとチェイニーに与えるべきだろう(と書いて、糞真面目な読者を怒らせてみる)。
オバマは世界的な核兵器廃絶推進の一つとして、9月24日に国連で、米大統領自ら議長をつとめる前代未聞の安保理事会を開き、常任理事国の5大国の首脳たちを「全世界の核廃絶なんかできるわけないという後ろ向きの態度はやめるべきだ」と批判した。この会合は、核不拡散条約(NPT)の強化や米露核軍縮の推進などによって世界の完全な核廃絶を目指すことを決めた安保理決議1887を全会一致で採択した。 (U.N. Security Council Resolution 1887)
イランや北朝鮮の核問題が世界的に喧伝されているため、この安保理決議もイランや北朝鮮に核廃棄を求めたものと誤解されることが多いが、この決議は冒頭からNPTの体制(IAEAによる査察など)を強化することで世界的な核廃絶を目指す道筋を掲げており、まずすべての国がNPTに加盟することを目指している。NPTには、イランも北朝鮮も加盟している。北朝鮮はIAEAの監視カメラを撤去して核兵器開発を進めた問題児だが、イランは何度もIAEAの査察を受けて核兵器開発していないことを認められている優等生である。
この決議がまず問題視している国は、すでにNPTに入っているイランや北朝鮮ではなく、NPTに入らずに核開発している国、つまりインド、パキスタン、そしてイスラエルである(決議には国名は列挙されていない)。ここでも、オバマの隠れた標的はイスラエルである。米政府内の親イスラエル右派勢力は、この決議文の中に、NPTに入っているが隠れて核兵器開発している国としてイランを名指しで批判する文言を入れようとしたが、政権内で反対され、実現しなかった。 (It's Not Iran, Stupid)
今回の記事の冒頭で紹介したハアレツの記事は「オバマがノーベル受賞によってイランを空爆できなくなり、イランの核兵器開発が放置されるなら、対抗的にイスラエルは自国が核保有国であることを世界に公表し、米国に核保有を正式に認めさせて抑止力を維持すべきだ」と書いている。イスラエルも北朝鮮と同じ戦略を採れというわけだ。米欧マスコミの論調を操作しうるイスラエルが核保有を公言したら、米欧マスコミでは「イスラエルの自衛のための核保有は認められる」とする論調を強め、オバマの核廃絶戦略は阻害される。しかしその一方で、国連ではイスラム諸国など反イスラエル的な発展途上諸国の力が強まっており、イスラエルが核保有宣言したら、国際社会では逆にイスラエルに対する核廃棄の要求が高まり、墓穴掘りになる可能性もある。 (COMMENT / Nobel for Obama rules out U.S. strike on Iran)
▼親イスラエルがイスラエル批判に転じた国連報告書
国連では、ほかにもイスラエルを悪役にする動きが進んでいる。人権理事会が10月16日に採択した「ゴールドストーン報告書」である。報告書は、今年1月にパレスチナのガザにイスラエル軍が侵攻した「ガザ戦争」でのイスラエル軍による戦争犯罪行為について調査したもので、南アフリカの判事で国連戦争犯罪検察官もつとめたリチャード・ゴールドストーンが中心になってまとめた。報告書自体には、イスラエル軍の戦争犯罪だけでなく、ガザのパレスチナ人武装組織ハマス(事実上のガザ政府)がイスラエルにロケット砲を撃ち込んだことも戦争犯罪だと書いているが、人権理事会での決議ではイスラエルの戦争犯罪のみが問題にされた。 (Report of the United Nations Fact Finding Mission on the Gaza Conflict)
ゴールドストーン報告書の経緯は、親イスラエルがいつの間にか反イスラエルになる展開の典型だ。ガザ戦争が起きたのはブッシュ政権末期で、米政府はイスラエルを抑止せず、好きなように戦争をやらせた。「米国はゴールドストーン報告書を使ってイスラエルを懲罰している」と題する、前出とは別のハアレツの記事は「ガザ戦争でイスラエル軍は犠牲も少なく、当時は素晴らしい戦争(A wonderful war)と考えられていた。しかしイスラエルは、米国がオバマ政権になってゲームの規則がひそかに変わったことに気づかなかった」と書いている。 (ANALYSIS / U.S. using Goldstone report to punish Netanyahu)
ガザ戦争では、ガザにある国連施設(女学校)がおそらく故意にイスラエル軍に空爆され、施設に避難していた約千人の市民のうち50人が殺された。イスラエル軍の傍若無人に怒った国連は、人権理事会でガザ戦争の犯罪性について調べることにしたが、米国が了承した調査委員会の人事は、シオニストのユダヤ人だと自他ともに認めるゴールドストーンをトップに据えることだった。ゴールドストーンは、調査委員長を引き受けるに際して「イスラエル軍の戦争犯罪だけでなく、ハマスの戦争犯罪も平等に調査する」と宣言した。これは「ハマスの方が戦争犯罪を犯している」というイスラエルの言い分に沿っていた。 (Richard Goldstone From Wikipedia) (ガザ戦争で逆転する善悪)
しかし今春以降、実際に調査が始まってみると様相が変わった。6月にガザを訪問したゴールドストーンは、イスラエル軍が破壊したガザのあまりの惨状にショックを受けたと語り、イスラエル軍は少し注意するだけで一般市民の犠牲者をずっと減らせたはずなのにそれを怠り、一般市民が戦火を逃れて避難している場所だと屋根に記されている建物をいくつも空爆したと批判するようになった。 (UN investigator 'shocked' by scale of destruction in Gaza) (Justice in Gaza By RICHARD GOLDSTONE)
イスラエルは、国連によるガザ調査に協力しない態度を今年4月に表明し、やがてゴールドストーンを「反イスラエル主義者」と非難するようになった。こうした展開は、国連の調査報告書をさらにイスラエルに厳しい内容にする結果となった。 (Israel Will Not Cooperate With UN Gaza Inquiry)
ゴールドストーンはCNNのインタビューに答えて「(第二次大戦などの戦争犯罪の犠牲者にされてきた)ユダヤ人だからこそ、私は戦争犯罪をきちんと捜査すべきだと思っている。ユダヤ人だからイスラエルを捜査してはいけないという考えは間違っている」と語っている。また彼の娘はイスラエルのラジオの取材に答えて「父が調査委員会の先導役でなかったら、報告書はもっと厳しいものになっていたはずです」と語っている。 (Goldstone: As a Jew, It's My Duty to Probe War Crimes) (Goldstone's daughter: My father's participation softened UN Gaza report)
▼傀儡のアッバスを操作したはずが裏目に
ゴールドストーン報告書は9月15日に国連人権理事会に提出されたが、理事会はなかなかこの件について審議をしなかった。パレスチナ自治政府のアッバス大統領が「イスラエルとの和平交渉に差し障るので、審議は来年3月まで延期してほしい」と申し入れたからだった。申し入れの裏には、米イスラエルがいた。イスラエルは、パレスチナの西岸とガザにおける携帯電話事業の認可権を握っており、イスラエルが電波を割り当てないと携帯電話事業が成立しない。パレスチナでは従来からの「ジャワル」に加えて2社目の携帯電話会社「ワタニヤ」が事業を始めようとしているが、米イスラエルはアッバスに「ゴールドストーン報告書の審議を遅らせるよう人権理事会に申し入れなければ、ワタニヤに電波を割り当てない」と圧力をかけた。援助漬けのパレスチナ自治政府に金を出している米国も、援助金を出さなくなることをちらつかせた。アッバスは渋々応じた。 (Unrest Rising Over Goldstone Report)
米イスラエルはうまくやったかに見えた。しかしアッバスが国連に審議延期を申し入れたのを見て、ガザを支配するライバルのハマスは「アッバスは米イスラエルの傀儡だ。イスラエルの戦争犯罪をきちんと認めた報告書の審議を止めるな」と呼びかけ、パレスチナの世論はアッバス非難で騒然となった。ハマスは当初、自分たちの戦争犯罪も非難されているゴールドストーン報告書に反対していたが、アッバスが審議延長を申し入れたのを見て態度を翻し、報告書支持に回ってアッバスを非難し始めた。10月7日にはアッバスが側近に「欧州歴訪から西岸に戻ったら命を狙われるので戻らない方が良い」と忠告される状況まで事態が悪化した。 (Informed sources: Abbas advised not to return to Ramallah)
アッバスは、パレスチナ自治政府大統領の任期が今年1月ですでに切れているのに、ハマスとの分裂状態を理由に選挙を先延ばしにしている。しかもアッバスはガザ戦争の際に「ガザからハマスを追い出してくれるならイスラエル軍の侵攻は歓迎だ」という態度をとってガザ市民が殺されるのを容認した。パレスチナ人の多くはアッバスを嫌っており、それが一気に噴出した。 (The Slippery Slope)
国連では、総会の議長国の一つであるリビアのカダフィが、ゴールドストーン報告書を総会で審議する提案を行い、アラブの世論は報告書支持の勢いを強めた(カダフィは、アラファト時代からパレスチナ自治政府を嫌っている)。取り残されたアッバスは慌てて方向転換し、人権理事会に申し入れた審議延期を撤回し、すぐに審議してほしいと申し入れた。数日後の10月16日、報告書は採択された。 (Libya's Request For Emergency UN Session Over Gaza Report:Granted)
報告書はイスラエルとハマスの戦争犯罪について断定するものではなく、イスラエルとハマスは6カ月間の猶予を得て、自らの戦争犯罪行為の有無について調査し、国連に報告することになっている。厳しく対立するイスラエルとハマスは、自らを不利にする調査を行わない可能性が高い。調査が行われない場合、問題は決定権の強い安保理事会に回され、そこから国際刑事裁判所に調査と判断が付託される予定だ。 (Goldstone as a touchstone for Obama)
報告書が採択されたことにより、イスラエルはパレスチナ人との関係における優勢を失った。これまでイスラエルは、パレスチナ人よりも優位に立っていたので、和平交渉をやってもいいと言っていたが、優位性が失われたため、イスラエルは「報告書が撤回されない限り、もう和平交渉はしない」と言い出した。米国による和平推進も、イスラエルを有利にするのが暗黙の前提だったので、イスラエルが不利になる今後は、米国の中東和平努力もおそらく下火になる。和平によってイスラエル国家を存続させる選択肢は失われつつある。 (US reaches impasse of Mideast peace)
▼イスラエル敵視に転じて人気取りするトルコ
国際法の手続きとしてはまだイスラエルの戦犯性は確定していないが、国際政治的にはゴールドストーン報告書を機に、イスラエルの立場は一気に悪化した。これは、イランが国際社会から核兵器開発していないことを認められているのと対照的で、イスラエルとイランの立場は善悪が逆転しつつある。
ゴールドストーン報告書は、かつて日本の満州支配を調査して国際社会で日本を孤立に向かわせた「リットン調査団報告書」と似た効果を、イスラエルにもたらしている(リットン報告書は反日主義でなく、ゴールドストーン報告書も反イスラエル主義でないが、結果として反日や反イスラエルの流れが誘導される)。
これまでイスラム諸国の中でイスラエルと最も親しい関係にあったトルコは、態度を完全に転換した。トルコのエルドアン首相は9月末、国内紙の取材に答えて「欧米はイランの核兵器開発疑惑ばかりを批判しているが、イスラエルの核兵器開発をもっと問題にすべきだ。イランは核兵器など開発していない」と語った。 (Erdogan:Focus on Israeli nukes not Iran N energy program)
次いでトルコ政府は10月11日、米国などNATO諸国やイスラエルと行う予定だった自国の空軍基地を舞台にした合同軍事演習について、ガザ戦争で使った軍用機を派遣してきそうなイスラエルは来ないでほしいと拒否した。表向き親イスラエルの立場を貫かされている米国は、すぐに演習そのものをキャンセルした。イスラエルは「トルコとの友好関係は揺るがない」と平静を装った。 (US scraps military drill after Turkey withdrawal) (Turkey bans Israel from international air force drill)
トルコはイスラエルの神経を逆撫でするように、イスラエルとの軍事演習を拒否した後、すぐにシリアに軍事演習をしようと持ち掛けた。シリアとトルコはすでに今春、初の合同軍事演習をやっている。トルコ政府の行動は、米イスラエルとの同盟関係を解消して周辺イスラム諸国との関係を強化しようとする国家戦略の大転換を内外に意識的に示そうとするものと感じられる。 (After snubbing Israel, Turkey to hold defense drills with Syria)
イスラエルのマスコミは「軍事演習を潰したトルコはNATO内で信頼されなくなり、いずれ後悔する」と書いた。だが実際には、NATOはアフガニスタン占領の失敗によって解体に向かっている。米英中心体制の象徴であるNATOが衰退する一方で、アラブ産油国やイランは多極化の中で台頭している。トルコは、イスラエルやNATOとの関係を疎遠にして、国父アタチュルク以来の反イスラムの世俗主義(欧米化)もやめて、周辺イスラム諸国との関係を改善し、100年ぶりにイスラム世界の大国に戻ろうとしている。これは、世界の流れに合致したすぐれた国家戦略である。イスラム勢力を邪険にしたことを後悔しつつあるのはイスラエルの方である。 (Is the Obama effect turning the world against Israel?)
▼国連で多極型の世界操作を目指す英国
さらにトルコでは、イスラエルの侵攻を受けるガザを舞台にした恋愛ドラマをテレビ放映したが、その中にイスラエル軍がパレスチナ人の子供に発砲している場面が含まれていた。イスラエル政府は「悪意に満ちた作り話」としてトルコ政府に抗議した。だがトルコは放映を止めなかった。 (Portrayal of Israeli brutality provokes fury)
国連人権理事会でゴールドストーン報告書が採択されたとき、英国とフランスは議場外に出て採択を欠席した。親イスラエル勢力が採択に反対票を投じなかった英仏を非難したため、英仏政府はあわてて連名でイスラエル政府に書簡を送り「イスラエルの自衛権を支持する」と表明した。英仏は、書簡によってイスラエルのご機嫌とりをしたものの、ゴールドストーン報告書と人権理事会決議を正面から非難することは避けており、イスラエルが戦犯にされることを黙認している。これは米国も同じだ。 (Goldstone as a touchstone for Obama)
英国のジョン・ソワーズ国連大使は、報告書の内容を支持したのでイスラエルに非難された。彼は来月、諜報機関MI6の長官になることが決まっている。この人事は私から見ると、多極化の中でG20と並んで世界の中心的な意志決定機関になりつつある国連を操作する諜報作戦を、英国が今後の国家戦略の中心に据えようとしていることの表れに見える。これからの世界は、米国やG7を操作しても動かない。MI6が操作すべき対象は、BRICや途上国が発言権を増している国連やG20である。だからソワーズは、国連大使を経験した後にMI6長官になるのだろう。 (Israeli officials: U.K. support for Goldstone report may backfire)
(ソワーズは外交官で、中東での経験が長く、イラクやイランと交渉したこともある。その意味では、英国の伝統的な外交戦略に沿った人選でもある)
従来の米英中心体制下では、英国は、米政界で強い力を持つイスラエルを支持する必要があったが、今後はイスラエルを嫌う傾向が強い途上諸国が国連などで力を持ちそうなので、英国は途上諸国に擦り寄る意味で、ゴールドストーン報告書を支持する側に回る必要があった。イスラエルの力もまだ強いので、英国は報告書を支持し、人権理事会での決議は欠席した後、イスラエルを宥和する書簡を出してバランスをとったのだろう。
東欧のハンガリーでは、かつてハンガリーに住んでいてイスラエルに移住したユダヤ人が、再び戻ってきて不動産などの資産を買い漁っている。国家的存亡の危機が強まるイスラエルに見切りをつけ、イスラエル建国前に住んでいた場所に戻るユダヤ人の流れが途切れなく続いている。ハンガリーのナショナリストの国会議員(Oszkar Molnar)は「ユダヤ資本家がハンガリーを乗っ取ろうとしている」とテレビで発言し、問題になった。 (Israel plans to devour the world: Hungarian MP)
イスラエルのネタニヤフ政権は、米国にそそのかされてイラン空爆をやらされることを何とか抑止している。だが、隣国レバノンのヒズボラとの一触即発の状況は続いている。イスラエルとヒズボラが再び戦争になれば、イスラエルとイラン、シリアとの大戦争に発展する可能性が大きい。ヒズボラとの06年夏の戦争では、事態がその一歩手前まで行ったところで、イスラエルによる停戦が行われた。 (大戦争になる中東)
その後ヒズボラは、軍事・政治的にレバノンを主導する立場にまで台頭し、イスラエルとの次の戦いの準備をしている。オバマのノーベル平和賞は最終的に、中東大戦争につながるものなのかもしれない(イスラエルがなくなれば、長期的には中東は平和になるが)。