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超左翼おじさんの挑戦
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田母神さんへの同情
いま、田母神さんの本を読みつつ、関連の本にも目を通しつつある。いつか、全面的な検討ができるだろうか。
その過程で読んだ本が面白かった。だから途中だけど、少し紹介する。
『ハル・ノートを書いた男』(文春新書)である。著者は須藤真志という京都産業大学の教授。
ハル・ノートと言えば、アメリカと戦争するきっかけとなった米国務長官の覚え書きとして、日本では悪名高い。これが無茶なことを日本に求めたものだったので、日本側がもう交渉の続行には意味がないとして、真珠湾攻撃に踏み切らざるを得なかったという構図ができあがっている。
私自身は、ハル・ノートのどこが強硬なのか理解できないので、その構図自体に違和感があるわけだが、それはきょうの記事の主題ではない。ここで書きたいのは、田母神さんのかかわりだ。
最初に田母神さんを有名にした論文も、その後、あまた出されている本も、基本的な主張は同じである。同じことを書いた本が、なぜ何種類も出版されるのか、それがすべて売れるのか不思議でならないが(まあ、弱小出版社の遠吠えと思ってください)、その主張の一つが、このハル・ノートである。
昔から、日本がアメリカに戦争をしかけたのは、コミンテルンに踊らされたルーズベルトの陰謀によるものなのだという説があった。ハルが率いる国務省のなかにコミンテルンのスパイがいて、日本との交渉がまとまらないよう働きかけ、戦争に持っていこうとしたというものだ。
90年代になって、ソ連が崩壊し、いろいろな文書があかるみにでた。昔のことを証言する人もでてきた。そのなかに、ハル・ノートの原案を書いたスノーという人物に働きかけたという、ロシア(当時はソ連)情報部の人(名前はパブロフ)がいたわけだ。
その人物がスノーに接触し、スノーが原案を書いた。それをもとにハル・ノートができあがり、日本がそれを渡されて開戦を決断せざるを得なくなった。まさにコミンテルンの陰謀だというわけ。
田母神さんが何回もそれを強調する。学者たちがそれを支援する。そのなかで、だんだん、この説も信憑性があるかのようにとられていくのだろう。
さて、この本である。ロシア情報部のパブロフに接触し、膨大なメモをとり、それのほぼ全文が、この本のなかにある。なかなか面白い。
事実の表面的な経過は、田母神さんの言う通りなのである。だから、田母神さんは、堂々と主張できるのだろう。
けれども、実際にこの事実を発掘したこの本の筆者は、別の結論を出している。
「結論的に言えば、ソ連の工作によって日米戦争が起こされたとするソ連陰謀説は、パブロフの証言を見る限り、まったく当たっていない」
「(ハル・ノートの原案となった)ホワイト=モーゲンソー案がパブロフたちの影響下に書かれたと断定しての話だが、巷間伝えられる『ソ連の陰謀説』は、まったく逆の、はなはだしい誤解をしたものである。というのも、『陰謀説』とは逆に、ソ連の謀略が成功していれば、あるいは日米開戦は回避できたかもしれない、という歴史のイフが、そこにある程度の現実味を帯びて浮かび上がるからである」
そう。ソ連のねらいは、日本に戦争させないようにすることだったのだ。だって、そうなったら、ソ連に侵攻してくるかもしれない。だから、コミンテルンがアメリカをけしかけて戦争にもっていったなんていう構図は、そもそも成り立たないのだ。具体的なところは、本を読んでほしい。
だから、田母神さんの主張は、根本のところがずれている。田母神さんのまわりには、たくさんの学者もいるわけだけど、せめて基本的な事実を教えてあげるべきだ。そうじゃないと、田母神さん、頂点に立ったところで、突然、奈落の底に落とされちゃうかもしれない。同情しちゃう。
(おわり)