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【ワシントン=山田哲朗】米カリフォルニア州に5月末、世界最大のレーザー実験装置「国立点火施設(NIF)」が完成した。
太陽で起きている核融合を地上で再現することを目指す施設で、天文学やクリーンエネルギー研究の進展に期待がかかるが、核爆発の研究にも有用だ。オバマ米大統領は「核のない世界」構想を打ち出したが、NIFには先端科学を駆使して核管理を進める米国のしたたかな姿勢がうかがえる。
NIFは、サンフランシスコの東方約80キロ・メートル、エネルギー省(DOE)のローレンス・リバモア国立研究所にある。野球場より大きい10階建ての施設内に、レンズや光の増幅器などが張り巡らされ、192本のレーザー光線を、ごく短時間にマッチの先ほどの小さな標的に集中させ、太陽の中心部より高温・高圧の状態を生み出す。極低温で凍らせた水素を標的とし、水素がヘリウムにかわる核融合反応を人工的に起こそうというものだ。実験は2010年から本格化する。
1997年に建設が始まり、12億ドル(約1200億円)の当初予算を大幅に超過する35億ドル(約3500億円)が費やされた。財政難の中、2005年には、建設費の膨張を憂慮する議会で建設中止を求める声が強まったが、「核弾頭の管理に役立つ」という説得が功を奏し、建設計画は命脈を保った。
冷戦後、米国は大量の核弾頭の「在庫」を抱えることになった。1992年を最後に核実験を行っていないため、古い核弾頭が正常に機能するか確かめるのが難しくなった。スーパーコンピューターによる模擬実験(シミュレーション)で、核弾頭の性能や安全性を評価しているが、核実験抜きでは、信頼性が確保できないという主張もある。
NIFではミクロの核爆発を実現できるため、実際の核実験に匹敵する情報が得られるという。
北朝鮮など核開発の野望を持つ国が核兵器を完成させるには、核実験を避けて通れない。核実験全面禁止条約(CTBT)が、核拡散を阻止する有効手段となるのはこのためだ。
オバマ大統領は、米国によるCTBT批准と、その早期発効を目標に掲げるが、その陰では、巨大科学の力で、核実験抜きでも自国の核の優位を維持できるという自信も見え隠れする。
(2009年6月8日00時46分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090608-OYT1T00112.htm