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http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0527&f=business_0527_068.shtml
11日、英国は南大西洋のフォークランド周辺海域における自らの領海を100平方キロメートルほど拡大する旨を国連の場で主張を行った。こうした英国の動きに対し、アルゼンチンは「受け入れられない」として猛烈に抗議したとの情報がある。それもそのはず、この海域内の大陸棚には、石油や天然ガスなどが大量に埋蔵されている可能性が指摘されているからだ。同海域における天然資源の開発権を有するアルゼンチンが黙っているはずもない。 国連海洋法条約によれば、沿岸国は海岸から200マイルまでの大陸棚に存在する天然資源の開発権を有するとされている(同条約57条)。しかし実は、国連の「大陸棚の限界に関する委員会」に認められれば350マイルまでその領域を拡張できるという例外規定があるのだ。そして同委員会は今回の動きを踏まえ、この“ダブル・スタンダード”の解釈を巡り、英・アルゼンチン間で争われている同海域について、両国政府から提出されるデータに基づき大陸棚の帰属について決定するとの声明を出すという、極めて曖昧なスタンスを採ったのである。 それにしても、なぜアルゼンチンの猛烈な反対があらかじめ予想される中で、英国はフォークランド諸島周辺海域の領有権拡張を主張したのだろうか。−その背景には、英国経済が極めて悪化しているという事実がある。2007年の初頭には欧州でも経済的な成功例として持ち上げられた英国であるが、2008年の金融危機以降、その成功は見る影もない。 英国政府によれば、 2009年の第1四半期におけるGDP成長率は前期比で−1.9%となっていた。2008年の第4四半期の−1.6%と比較しても一段と悪化していることがわかる。また、産業別に第1四半期における前期比を見ても、製造業で−5.5%、建設業で−2.4%、サービス業で−1.2%と落ち込んでしまっている。 また、英国債務管理庁(DMO)による09/10年度国債発行額は2200億ポンドと過去最高額となる見通しだ。これを受けて、英国中央銀行(BoE)は、当初発表していた750億ポンドの資産買い取り計画を、1250億ポンドへ増額することを決定した。このことからわかるように、経済危機克服のために財政支出を容認する姿勢が、結果として2010年には財政赤字の削減という新たな、そして深刻な課題をもたらすことになるのである。 金融セクターの収益が吹き飛んだ結果として、財政支出が拡大するなど国家財政は大きな痛手を被ることとなってしまった。次期選挙でも財政問題や英国経済の行く末が問題視されることは当然で、ブラウン政権にとっても頭の痛い問題となっている。 他方、アルゼンチンの国内経済について見てみると、2008年までは順調に推移してきたが、世界的な経済危機の影響を受けて成長が頓挫してしまっていることが判る。これに加えて、2008年に発生した旱魃により農牧業が甚大な被害をうけてしまっており、フェルナンデス大統領が「農牧緊急事態宣言」を発令するという非常に厳しい状況となっている。 最近ではあまり語られなくなったフォークランド紛争(1982年)であるが、同地域を巡る争いの中で、英国は米国や西欧諸国の支持を受け、アルゼンチンは旧ソ連・東欧諸国の支持を受けた。この紛争の結果、アルゼンチンは敗北し、責任を取る形で軍政を敷いていたガルチェリ大統領(当時)が辞任して民政移管を果たしたという経緯がある。 つまり、アルゼンチンにとってはフォークランドを巡る権益争いでの譲歩は国内政権の崩壊につながりかねないリスクを孕んでいる。そのため、今回の英国の主張は、フェルナンデス現政権には到底受け入れられるものではないのである。 こうして、いわば「“経済版”フォークランド紛争」とでもいうべき事態が両国間に到来しているわけだが、このほかにも注目すべき事実がある。英国とアルゼンチンが領有権を主張しているのは、実はこの領域ばかりではないのだ。南極半島とその周辺に位置するグーディエ島を巡っても、海底資源の利権をめぐる争いが繰り広げられている。つまり、「火種」は複数ばら撒かれているのだ。そう考えれば、この時期に英国がわざわざ“発火源”になりかねないフォークランド諸島周辺海域の領有権を主張した裏に、意図的に軍事的な衝突を喚起するというあり得べきシナリオが用意されている可能性は否定できないだろう。今回の英国の行動によって、南大西洋地域における両国の軍事衝突リスクは高まったとみるべきである。事は「“経済版”フォークランド紛争」ではすまなくなるかもしれないのだ。 金融メルトダウンへの対処として、米国勢を中心に大量のマネーがマーケットに投入されてきている。そのため、今後の景気底打ちが確定された段階で、このマネーが市中に流出する可能性がある。このような資金は、最初に金融セクターに流れ込むが、その後はそれ以外の産業セクターに急激に回り始めることで、世界的な供給過剰の状態が生じることが予想される。したがって、それに応じるだけの急激な需要の増加が必要となるのである。 このような時、米国勢は、ITバブル崩壊後のイラク戦争などに見られるように、このような急激な供給増に応じるための需要創出に向けた“仕掛け”として“戦争”を繰り返し使ってきた。 今回の動きから判断すると、同様の“仕掛け”を英国が演出する可能性も出てきたといえよう。このように考えると、英国にとってアルゼンチンとのフォークランド諸島周辺海域における天然資源開発権を巡る争いはいわば、そのものとしては「決着」しなくても良いわけで、国連委員会の決定はあいまいなままでもかまわないのである。 あからさまな地政学リスクの演出とそれに伴うあり得べき軍事衝突を通じた「需要創造」へと英国勢が舵を切ることになるのか。地球の裏側で見え始めた「潮目」の予兆から目が離せない。(執筆者:原田武夫<原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA) CEO>) |