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http://mainichi.jp/select/world/news/20090506ddm007030207000c.html
剣が峰のアフガン:問われるオバマ新戦略/下 軍民両面での支援拡充
◇「攻撃の口実」懸念
アフガニスタン南部カンダハル市内にあるカナダ軍駐屯地。国際治安支援部隊(ISAF)がカンダハル州の開発を推進する「地方復興チーム」(PRT)の拠点だ。「手首のひねり方が逆だ」。カナダ人教官がアフガン人看守に容疑者移送法を教える。
オバマ米政権のアフガン戦略は、軍増派と民生支援拡充が両輪だ。PRTは民生支援団体と軍が一体になった組織だ。同州では、治安部隊の訓練に加え、かんがい用ダム建設などに取り組む。同州住民の80%は農業に依存しており「ダムは経済開発の要。農業用水が確保できれば、農民は麻薬原料のケシから代替作物の果物などに移行しやすくなる」。ウォーカーPRT開発部長(カナダ)がテロ対策の効果も強調する。
しかし、軍民両面の支援はタリバンに文民攻撃の口実を与えかねない。アフガン政府の支配が及ばない南部に浸透、教育支援などを続ける非政府組織(NGO)「ワダン」のグルザイ計画副部長は「攻撃激化を懸念している」と打ち明ける。
「タリバンは登録を妨害せず、むしろ支援した」。カブール東郊の独立選挙委員会でナジャフィ主任担当官が明かす。8月の大統領選に向け既に450万人が新規に有権者登録を済ませた。その陰にタリバンの協力があった。
選挙委がアフガン南部の部族・宗教指導者に協力を求め、彼らの意向を受けたタリバンが登録作業を進めた。「政治参加には選挙しか方法がない」。主任担当官はタリバンに選挙参加を呼びかける。
カルザイ政権は、国民和解の一環としてタリバン側と接触を続ける。「タリバンには穏健派などいないのに、カルザイ政権も米国も対話を呼びかけている」。ムバレス全国ジャーナリスト連合会長(76)は批判する。
独立地方統治庁のポパル長官は「敵と和解するには、強い立場から話をする必要がある。タリバンの影響力が増している時は適さない」と懸念する。
一方、「タリバンは切羽詰まった状況にない」と地元ジャーナリスト、モフタール氏(27)は、タリバンの精神的優位を見て取る。タリバンは現在、国土の7割以上を掌握したとされる。「オバマ政権は出口戦略を迫られるが、タリバンは出て行く米軍と真剣に戦う必要もない」
米軍が攻撃を強めれば、市民の犠牲者は増えタリバン支持は高まる。タリバンには願ってもない状況だ。
「米国は現実を知らない。戦略が機能しないことが分かり、2カ月もたてば軌道修正する」。ムバレス会長はそう予言する。【カンダハルで福島良典、ニューデリー栗田慎一】
★関連記事「毎日新聞」
http://mainichi.jp/select/world/news/20090505ddm007030051000c.html
剣が峰のアフガン:問われるオバマ新戦略/上 「この給料で命張れぬ」
◇狙われる警察官 装備、人手足りず−−治安改善進まず
国土の7割を支配するとされる旧支配勢力タリバンの“牙城”、アフガニスタン南部カンダハル。北方の高台に建つカンダハル警察第9分署の眼下に土壁造りの民家が広がる。「武装勢力の仕掛け爆弾が最大の問題だ。昨年は6件の攻撃で、各5〜6人が死亡した」。ムラグル分署長(37)の表情は厳しい。
旧支配勢力タリバンなど武装勢力は、装備の手薄なアフガン警察への攻撃を強めている。約8万2000人の警官のうち昨年の殉職者は923人。その55%は、激戦地の南部の警察署に所属していた。「死者数は軍の3倍」(マクドナルド米軍准将)という。
分署長は「国際部隊から支給された銃は古く、弾丸も足りない」と嘆く。要員不足も深刻で、署員は70人だが管区掌握には100〜150人が必要だ。
「異動願や辞職者が増えている。今の給料の水準では、だれも命を張ろうとしない」。カブール首都警察の犯罪捜査幹部は先月上旬、内務省での治安会議で訴えた。30歳代の警官の平均給料は月60〜百数十ドルだが、カブールにある国連機関の警備職は月200〜300ドル。自爆テロが増える中、国連機関は給料を増額するが、予算のない政府は据え置き、未払いも起こす。
アフガンでの武装解除に参加した外交筋は、慌てた米国が警官の“促成栽培”に乗り出したことが治安悪化の要因と指摘する。「米国から武器を渡された未熟な警官は、逆にタリバンに参加したり、犯罪に手を染めた」
「もっと頭を下げて」。土ぼこりの中、ほふく前進する新兵に指示が飛ぶ。カブール東郊の「軍事訓練センター」。アフガン軍の訓練拠点だ。
新兵約6000人の指導にあたるのは約470人のアフガン人教官だ。センター長のモハメド・サディク大佐は「十分な予算があれば訓練は自力でこなせる」と語る。
新兵の給料は月約120ドル程度。東部ナンガルハル州の農家出身のシャリフ・ラムホールさん(22)は入隊前、無職だった。「水不足のため農業だけで大家族の生計は立てられない」と給料の大半を実家に仕送りする。「タリバンの方が払いはいいが、皆がテロリストの正体を知っている」(サディク大佐)
オバマ米大統領が3月に発表した新包括戦略では、米軍を3万数千人から6万規模に増派。約8万6000人のアフガン軍は11年末までに13万4000人に増強する。アフガンの自立を促し、駐留米軍削減や撤退という「出口戦略」に向けて環境を整備する。
荒涼としたカンダハルの土漠。周囲約25キロの広大な国際治安支援部隊(ISAF)南部方面司令部基地では、米軍部隊を受け入れるための拡張工事が進む。司令部指揮下のISAF要員はカナダ、英米豪オランダなどを中心に約2万5000人。約2万1000人の米軍が増派される。クライフ司令官は「指揮系統の乱れはない」とするが、今後、司令部の「米国化」が進む。これまで英、カナダ、オランダが交代で務めてきた司令官ポストには来年、初めて米国人が就任する。
「米軍が体質を変えなければ、増派はアフガン兵の自尊心をなえさせる」。アフガン軍西部地区の前参謀長(52)は警告する。
08年に西部で起きた米軍の空爆で市民90人以上が死亡した。その「責任」を取らされ前参謀長は罷免された。だが、前参謀長は「アフガン軍は米軍に従うしかない。空爆当時も米軍が仕切り、何もできなかった」と憤る。
「米軍はアフガン軍や警察を信用していない」。南部担当の国防省高官は言う。「軍事情報の1割もアフガン側に開示されない。それが市民の誤爆につながり、治安回復を妨げている」
◇ ◇ ◇
武装勢力とISAFが衝突するアフガン。オバマ政権は命運をかけ治安回復に臨むが前途は厳しい。現地から実情を探った。【カンダハルで福島良典、ニューデリー栗田慎一】