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★09年1月25日に注目した世界情勢
2009年1月25日 田中 宇
http://tanakanews.com/090125daily.htm
◆911やロンドンのテロで大儲けしていた金融機関
ちょうど1年前、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルのディーラーだったジェローム・カービエルが、金融先物取引で49億ユーロという史上最大の巨額損失を出し、不正の疑い(文書偽造など)で訴追される事件があった。(その後、史上最大の巨額損失事件は、昨年末に破綻した米国のバーナード・マードフのファンドに取って代わられた)
カービエルは最近、初公判を前に、フランスの新聞の取材に対して爆弾発言を発した。それは、ソシエテ・ジェネラルが2001年の911テロ事件や05年7月7日のロンドンの77テロ事件の際、直前にテロで株価が急落しそうな保険会社などの株を空売りしておき、大儲けした話である。(SocGen rogue trader Jerome Kerviel 'hit the jackpot' on 7/7)
カービエルによると、911で会社が大儲けした話は、上司から「わが社が最も儲かったのは911の日だった」と聞いただけだが、77テロ事件の時は、事件の数日前、テロが起きたら急落が予測されるドイツの保険会社アリアンツの株を空売りしておき、テロの発生とともに、数分間で50万ユーロを儲けたという。
911に際しては、事件の少し前、アメリカンやユナイテッドといった米航空会社の株に大量の先物売りの注文があり、航空株の急落につながる大規模テロの発生を事前に教えられていた金融機関があったのではないかと、以前から指摘されていた。その後、米英間を飛ぶ飛行機内で液体爆弾を爆破しようとしたとされる未遂のテロ事件があった06年8月などには、欧州平均株価のインデックス・オプションが大量に売られており、これもテロ発生の情報を事前に得た金融家が大儲けを狙ったものの、テロ発生は当局に摘発・阻止されて実現しなかったのではないかと推測されている。("Rogue" Trader Highlights possible 9/11 and 77 Insider Tradeing)
これらの先物売りは、ソシエテ・ジェネラルだけがやったのではないだろう。一般的に、フランスよりも米英の方が国際情勢の裏事情に精通しており、米英の金融機関はテロで儲けたことを巧妙に隠しているが、当事者群の端の方にいるフランスでは断片が暴露されたと見る方がむしろ自然だ。これまでも仏諜報機関からは、ビンラディンの動向などの情報がマスコミに流れている。爆弾発言が大騒ぎになった後、発言者のカービエルは「私の私的なおしゃべりを、発言の文脈を無視して記事にしただけだ」と、事態の沈静化を図っている。
911や77のテロ事件は、米英当局が発生を黙認したかと考えざるを得ない点がいくつもある。少なくとも、米英当局の発表は鵜呑みにできないと考えるのが妥当だ。昨年6月、神奈川県藤沢市の中学校で、911事件の謀略性を教師が生徒に示唆しただけで親たちが大騒ぎし、教師が謝罪する事件があった。世界情勢の激動は今後何年も続きそうだが、このような、子供が世界情勢の深層に知的関心を持つことを阻止する教育をしている限り、日本人の世界理解は深まらず、日本の未来は暗い・・・と書きかけた後、改めて調べてみると、この藤沢の件については、毎日新聞による記事誇張の疑いが指摘されていた。911をめぐるプロパガンダは、奥が深い。(毎日新聞が捏造記事??〜911テロ自作自演騒ぎ)
◆オバマ政治の犠牲にされる日本・中国・サウジアラビア
米国のオバマ新大統領は、選挙前から就任時までの数々の演説で、自己犠牲のボランティア精神を持って米国の再建に当たろうと米国民に呼びかけてきたが、1月23日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は「オバマは自国民だけでなく、中国や日本、サウジアラビアといった世界の債権国に対し、どんどん巨額になる米国の財政赤字を埋めるための米国債の購入という、自己犠牲を行わねばならないと宣言すべきだった」と皮肉る記事を載せた。(The World Won't Buy Unlimited U.S. Debt)
米国の金融経済難は今後何年か続き、毎年1兆ドル以上の財政赤字が出る状態になりそうだが、財政赤字の多くは米国内で消化できず、世界各地の債権国、中でも黒字額が大きい中国、日本、サウジアラビアなどが、巨額の米国債を買わざるを得ない。さもないと、米国債は債務不履行に陥り、債権国がすでに持っている米国債の価値が急落し、ドル崩壊(a run on the dollar)が起きて、債権国自身が困窮する。しかし債権国の方も、世界不況や原油安の影響で、以前のような経済的な余裕はない。しかし債権国が米国債を買わないと、世界は破綻する。債権国は、国内経済を立て直すための資金を減らしても米国債を買うという自己犠牲を行わねばならないと、オバマは宣言すべきだと、WSJは書いている。
永遠の対米従属以外に生きる道がないとあきらめている日本の人は、こうした事態を「しかたがない」と思うのかもしれない。だがWSJはもっと現実的で「世界不況がひどくなるにつれ、外国政府が米国債を買い続けるのは、経済的・政治的に難しくなる」と書き、外国に無限に国債を買ってもらうのは無理だと言っている。中国はすでに米国債を買わない姿勢を打ち出しており、サウジアラビアでも米国から距離を置く発言を皇太子が発している。(Saudi Prince Says US Ties at Risk Over Mideast)
記事は「債権国は、米国債は(すでに事実上)元本保証がないことを容認せねばならない」とも書いている。最近、WSJやFTといった経済専門紙が、今回のようにはっきりと米国債の破綻を予測する記事をたびたび載せるようになっている。米財政やドルの破綻は、やはり近いと思わざるを得ない。「世界最強の米国が財政破綻するはずがない」と考えるのは、もはや以前のイメージにとらわれた、非現実的な思い込みである。