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クローズアップ2009:ソマリア沖海賊 神出鬼没、高速艇を駆使
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20090120ddm003010091000c.html
東アフリカ・ソマリア沖で頻発する海賊事件。昨年8月に船を乗っ取られ、50日間拘束されたフィリピン人船員2人が毎日新聞の取材に応じ、その手口を詳しく証言した。日本政府は海賊事件防止のため海上自衛隊の護衛艦を現地に派遣する方針を固めた。だが、高速の小型ボートで音もなく近づき船舶を乗っ取る神出鬼没の海賊に、海自艦艇がどこまで対応できるのか疑問視する見方も根強い。【マニラ矢野純一、外信部・佐藤賢二郎】
◇ハシゴかけ、音もなく乗船/全員が自動小銃…威嚇射撃/身代金、当初は10億円要求
◇被害の比船員が証言
中国からオランダへ鉄鉱石などを運ぶため、アデン湾を10ノット(時速約19キロ)で航行中の貨物船「イラン・ディナヤット」号(イラン船籍、4万4468重量トン)が乗っ取られたのは、昨年8月21日午前6時ごろ。同船に乗り組んでいたフィリピン人船員、レイナルド・ウィさん(30)とセリオ・パロマさん(46)は、警報音で船室から甲板に駆け上がった。霧の中、日本製の強力な船外機を積んだ粗末な木造のボートから、海賊がアルミのハシゴをかけて音もなく乗船してきた。
海賊は自動小銃「AK47」を空に向かって威嚇射撃した。計40人ほどで、全員が自動小銃で武装。貨物船には船長以下31人が乗り組んでいたが、武装しておらず、あっという間に制圧された。
現場はソマリア沿岸から北へ約200キロの海上。片言の英語を話す1人から「10日近く海上で獲物を探していた」と聞いた。南へ向かうよう命じられ、ソマリア領海内の海岸から5キロほどの地点で停泊。砂漠の中に建つ町並みが見えた。海賊対策で派遣された各国の艦船の姿を見ることは一度もなかった。
「15日以内に身代金を支払わないと1人ずつ殺す」と言われたが、誰も殺害されず、暴力も振るわれなかった。海賊は無線を使ってイランの船会社と交渉。当初1200万ドル(約10億9000万円)の身代金が200万ドルまで下げられた。
解放は10月10日。海賊は身代金を持参したイラン船が領海内に入るのを嫌い、自らボートで現金を受け取りに出かけた。大きな袋をいくつも抱えて戻った海賊は、4時間かけて金を数え、「シー・ユー(さよなら)」と言い残して笑顔で船をあとにした。
× × ×
世界の海上航行の安全を監視している国際機関「国際海事局」(IMB)によると、ソマリア近海では昨年1年間で計111件の海賊による襲撃事件が発生、前年に比べ倍増した。今年も計13件発生し、うち2件は船が乗っ取られ乗組員計43人が人質になっている。
アデン湾での事件の多くは、ソマリアとは対岸のイエメン沿岸で起きている。多くの船舶が海賊を警戒してイエメン寄りを航行しているが、海賊はこの海域で襲撃対象の船を待ち伏せしているとみられる。「積み荷を満載しており、喫水線から甲板までの高さは2メートルしかなかった。スピードも遅かったので、標的になったのだろう」と、フィリピン人船員2人は話す。
海賊が船をソマリア領海内へ移動させたのは、各国派遣艦船による救出作戦を困難にする狙いとみられる。
海賊問題に詳しい東海大学海洋学部の山田吉彦准教授によると、現在、欧米や中国など計15カ国がこの海域に艦船を派遣。米中露などは数千トン級の大型艦艇で、沿岸のパキスタンやイエメンなどは数百トン級の小型艇だ。
人質となった2人は「商船が武装しても限界がある。大型の武装艦船では、逃げ足の速い海賊船を追いかけることはできないが、それでも海賊を防ぐことができる」と話す。
◇海自「見切り」派遣、疑問も
ソマリア沖では現在、各国派遣の艦艇が船舶と並んで航行する「エスコート形式」の護衛を行っている。東海大の山田准教授は「これが功を奏し始めており、日本もすぐに動かなければ流れに乗り遅れるが、武器使用を正当防衛などに限った海上警備行動での海上自衛隊派遣では、有効な活動は難しい」と、現行の自衛隊法に基づく海自護衛艦の派遣に疑問を投げかける。
山田准教授は(1)海賊に攻撃されない限り自衛隊からは手出しができない(2)他国の船舶が襲撃されても救助できない−−などの問題点を指摘。「新法が成立すれば、他国の船舶も守ることができ、大きな国際貢献につながる。海外に与える脅威についてルールを超えない配慮は必要だが、海洋大国として責任を持って警備していくべきだ」と訴える。
同じく海賊問題に詳しい竹田いさみ独協大教授(国際政治)は、艦船派遣以外にも平和的な貢献策があると指摘する。「遠方の国が長期的に艦艇を派遣することはできず、イエメンなど周辺国の沿岸警備隊を充実させる必要がある。これに一番貢献できるのが、沿岸警備のノウハウもある日本だ」と語る。
毎日新聞 2009年1月20日 東京朝刊