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http://mainichi.jp/select/world/news/20090117ddm007070010000c.html
グローバル・アイ:ユダヤ系知識人の手紙 ガザ攻撃、勇気ある批判=西川恵
大分前のことだが、パリ特派員時代にイスラエルの人権活動家ナタン・シャランスキー氏(後に通産相)にインタビューした。
ソ連(当時)生まれ。ソ連国内で人権活動をして祖国反逆罪で逮捕され、86年に東西スパイ交換で釈放されイスラエルに移住するまで、9年間を獄中で過ごした。パリを訪れたのは釈放後半年ほどたった時だった。
ソ連での体験を機嫌良く話してくれていた顔色が変わったのは、こう質問した時だった。「迫害され、虐げられた人間の苦しみを知るユダヤ人が、なぜパレスチナ人の苦しみに無理解なのか」
同氏はまくしたてた。「イスラエルの抹殺を公言しているパレスチナ人と妥協はできない。彼らは自らの選択で、自分たちをああいう立場に追い込んだ。ユダヤ人と同一視するのがおかしい」
今月上旬、イスラエル軍のガザ攻撃に抗議し、フランスのユダヤ系知識人アンドレ・ヌッシ氏(86)が、駐仏イスラエル大使に手紙を送った。同氏はアルジェリア生まれ。大戦中はドゴール率いる亡命政権「自由フランス」に加わり、ナチと戦った。フランス近現代史の研究で知られ、多くの著作がある。
「大使閣下、フランス人として、ユダヤ人に生まれた者として、ニース、ハイファ両大学提携に携わった者として書きます」と手紙は始まる。
「貴国はヒトラーが欧州でやったことと全く同様のことをやっているのです。国連決議を無視し、女性と子供を殺している……。土地を奪い、ユダヤ人の道徳に背を向けている。恥を知るべきです」「貴国はパレスチナ人とアラブの国々と共に生きるように運命付けられているのです。この理解が欠けるなら、あなた方は政治をやる資格はない」
そしてこうも問いかける。「耐え難い苦しみを体験したユダヤ人が、なぜヒトラーの虐殺をまねた行動がとれるのでしょうか」
この手紙はいまインターネットで世界を回っている。そういう私も、友人のレバノン人から受け取ったという日本の知人を通じて知った。
ヌッシ(Nouschi)氏の名前で検索すると、さまざまなサイトに手紙全文が載り、書き込みがある。「ユダヤ人にも良識ある人がいることを知った」「勇気ある行動に敬意を表したい」「なぜ米国のユダヤ人はもっと声を上げないのか」等々。
「虐げられた体験をもつ民が、なぜ他の民族の苦しみに無理解なのか」。これはイスラエルの人々、世界のユダヤ人に突きつけられた根源的な問いである。(専門編集委員)
毎日新聞 2009年1月17日 東京朝刊
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