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http://mainichi.jp/select/world/news/20090113ddm007030005000c.html
潮流:「勝てない」イスラエル=ロンドン・町田幸彦
パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエル軍による攻撃は、先月27日に始まった大規模空爆、今月3日からの地上侵攻で死者数は900人を超えた。ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスに対して、イスラエル軍は圧倒的優位の軍事力を備えているのに、米誌タイム最新号は皮肉たっぷりの見出しを表紙に掲げた。
「イスラエルはなぜ勝てないのか」
この疑問は、どんなにイスラエル軍が優勢であろうと、誰もが内心思っていることだ。タイム誌の特集記事は明快な答えを示していないが、ハマスを簡単に屈服させられないとみている。
イスラエルはガザ地区攻撃の理由を「ハマスからのロケット弾攻撃=テロに対する自衛である」と主張している。それでは、ロケット弾を発射するガザ地区の中はイスラエル軍空爆開始の直前にどうなっていたのか。
ハーバード大学中東研究所のセーラ・ロイ教授は英書評誌寄稿文でガザ地区の窮状を次のように報告した。
<イスラエル政府は08年11月5日、ガザ地区への道路を全面封鎖した。同地区の住民約75万人に食糧を配給する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)も輸送を大幅制限された。11月5〜30日の間にガザ入りできた食糧トラックは23台だけで本来の輸送車両数の6%。同月中に延べ3日、2万人に食糧を配給できなかった。ガザ地区のパン屋47店のうち30店が燃料不足で休業に追いやられた。国連食糧農業機関(FAO)によれば、住民のたんぱく質摂取源である鶏肉は4月までにガザ地区から姿を消す。地区内の銀行は12月4日、すべて閉鎖した。
11月最後の週にディーゼル油39万4000リットルの搬入が認められたが、同地区で1週間に必要な量の18%にすぎない。地区の病院は、エジプトからの地下トンネルで密輸されるディーゼル油、ガスで運営されている>
国連人権理事会のリチャード・フォーク・パレスチナ人権問題特別報告官は12月9日、「イスラエルのガザ地区封鎖が飢餓と伝染病を広げた」と指摘し、深刻な人権侵害だと批判した。このような仕打ちを受けた住民にイスラエルへの怨念(おんねん)が渦巻くのは当然だ。
英BBC特派員のポール・ウッド記者は「たとえハマスを撃退できても、新たな急進組織が代わって前線に登場するだろう」と予想している。
イスラエルが勝てない相手とはハマスではない。非人間的環境に追い込まれ過激派に共感する住民の意思をイスラエルはつぶせないのだ。
毎日新聞 2009年1月13日 東京朝刊